更新日 2025.10.15

S&OP(販売事業計画)とは?SCMとの違い、メリット、仕組みを紹介

S&OP(販売事業計画)とは?SCMとの違い、メリット、仕組みを紹介

在庫の最適化や需給バランスの調整は、多くの企業にとって継続的な課題です。とくに日本の製造・流通業では、営業・生産・物流の分断や“属人的な調整”が残り、在庫滞留や緊急輸送の増加、倉庫逼迫といった現場負荷につながるケースが少なくありません。

S&OPは、部門横断の共通KPIとデータに基づいて需給計画を全社で合意形成するための仕組みです。本記事では、S&OPの基本から導入メリット、構築ステップ、そして現場への定着ポイントまでを日本企業の実態に即して、物流DXパートナーのHacobuが解説します。

なお、物流部門から始めるS&OP実践なら、物流DXコンサルティングのHacobu Strategyがご支援できます。Hacobu Strategyの概要は以下ページをご覧ください。

S&OP(販売事業計画)とは

S&OP(販売事業計画:Sales and Operations Planning)とは、企業の販売計画(Sales)と業務計画(Operations)を統合的に調整し、全社最適な意思決定を支援するプロセスです。営業・生産・調達・物流・財務などの各部門が連携し、需給バランスを整えることで在庫の最適化や欠品抑制、収益改善を目指します。通常は月次で会議を行い、実績と計画のギャップを分析しながら継続的に改善する点が特徴です。

多くの日本企業では「需要予測は営業やマーケティング」「在庫は物流」「生産計画は工場」といったように、データや責任が部門ごとに分断されています。S&OPはこうした“境界”を越える共通言語(定義・指標・カレンダー)を整え、意思決定のタイムラグや属人化を減らすことで、現場オペレーションの安定につなげます。

S&OPが重視されている理由

近年、S&OPが注目される背景には、ビジネス環境の急激な変化があります。顧客ニーズの多様化、短納期化、グローバル調達の拡大により、サプライチェーンは複雑さを増しています。 特に日本では、営業主導の「売れる分を先取りする」調整が倉庫逼迫や滞留在庫を生み、現場が緊急輸送や人員増で対応するという“需給のねじれ”が起きやすい状況です。 こうした問題を抑制するには、部門横断で共通のKPI(在庫回転率・充足率・需要予測精度など)をもとに意思決定を行うS&OPの導入が有効です。これにより、過剰在庫や販売機会損失の回避に加え、意思決定のスピードと精度の向上、さらには物流コストや庫内生産性の改善も期待できます。

SCMとの違いとは

S&OPとSCMはいずれも需給最適化を目指しますが、役割の範囲が異なります。 SCM(Supply Chain Management)は「モノの流れ」を最適化する包括的なマネジメントであるのに対し、S&OPは「意思決定の流れ」を整える中期的な合意形成プロセスです。 実務的には、SCMという“道路”がいくら整備されていても、S&OPという“信号”が機能しなければ渋滞は解消しにくくなります。つまり、S&OPはSCMを円滑に動かす“司令塔”としての役割を担い、信号のない交通網のように混乱しがちなサプライチェーンに秩序をもたらします。

また、SCMが「モノの流れの最適化」であるのに対し、S&OPは「モノとお金の流れの整合性」をつくる仕組みでもあります。とくに物流データが連携することで、SCMでは見落とされがちな“利益構造”まで検討の射程に入れられるようになります。

SCMについては、以下の記事で詳細に解説しています。

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S&OPの5つのメリット

S&OPの導入は、需給最適化だけでなく、組織連携・意思決定・財務健全性など多面的な効果をもたらします。とくに物流領域に直結する成果が大きく、在庫・輸送・倉庫を横断した効率改善につながります。

在庫の最適化と欠品防止

需要予測と供給計画を統合することで、過剰在庫や欠品の発生を抑制しやすくなります。保管コストや機会損失のリスクを低減しつつ、拠点ごとの在庫配置や補充頻度を最適化することで、庫内作業効率や配送積載率の向上にも寄与します。

部門間の連携強化

営業・生産・物流・調達・財務が共通の目標に基づいて意思決定する枠組みを整えます。S&OPでは販促カレンダー、工場稼働計画、3PLキャパシティなどを同一タイムライン上で可視化し、全社最適の判断を下せるようにします。これにより、従来のサイロ化を抑え、部門横断的な協働が促進されます。

経営判断のスピードアップ

S&OPでは、販売計画(需要予測・販促計画)、生産計画(稼働率・製造能力)、供給計画(調達リードタイム・在庫水準)、物流計画(輸送能力・倉庫キャパシティ)を同一ダッシュボードで可視化します。経営層は全体像を一望しやすくなり、追加販促や生産増強、価格調整などの意思決定を、収益性と現場実行性の両面から迅速に行いやすくなります。

変化への柔軟な対応力向上

市場変動や突発的なトラブルにも、多部門連携によって柔軟に対応できます。たとえば原材料遅延や輸送網の寸断が発生しても、SKU削減や在庫移送の優先順位をルール化しておけば、緊急対応の乱発を防ぎながら機動的な運用が可能です。

利益・キャッシュフロー改善

在庫回転率の改善は保管コスト削減につながり、積載率の向上は輸送単価低減を促します。こうした改善が販促の平準化や売上機会確保と組み合わさることで、企業全体の利益率・キャッシュフローの健全化に寄与します。

S&OPのプロセスの5つのステップ

S&OPは「会議」ではなく、「データに基づく意思決定のサイクル」です。以下の5つのステップで構築・運用されます。

ステップ1:データ収集

販売実績、受注、在庫、生産能力、財務指標に加え、WMS(倉庫管理)、TMS(輸配送管理)、3PLキャパシティなどの物流データを一元化します。システム間の分断を防ぐため、品目定義・拠点コード・日付粒度を標準化し、“単一の真実の数字”を整備することが出発点です。

ステップ2:需要計画の作成

統計モデルと現場知見を組み合わせ、販促・季節性・天候・競合動向を加味した需要予測を立案します。SKUごとの重点度をABC分析で区分し、誤差を“想定幅”として供給計画に引き渡す設計が効果的です。

ステップ3:供給計画の作成

生産・調達・物流が協働し、生産タクト・リードタイム・輸送能力・拠点キャパシティを考慮して供給計画を策定します。増産・在庫移送・SKU停止などの代替案を事前に用意しておくと調整がスムーズです。

ステップ4:需給調整と合意形成

需要と供給の差異をギャップ一覧で可視化し、収益インパクトと物流実行性を同時に比較します。販促実施に伴う追加コスト(緊急輸送・残業など)を明示し、販促時期変更やSKU集約案と照らし合わせながら全社最適を目指します。

ステップ5:経営会議による承認

最終的な合意は「数値」と「実行条件」をセットで承認します。許容欠品率、在庫上限、臨時便条件、代替SKUルールを明文化し、翌月の差異検証で改善につなげることで、S&OPの形骸化を防げます。

S&OPの導入を成功させるコツ

S&OPは仕組みを整えただけでは成果が出ません。成功には全社的な体制づくりと、現場が納得できる運用サイクルが必要です。

経営層のリーダーシップと関与

S&OPは戦略的な意思決定と直結しているため、経営層の積極的な関与が不可欠です。導入初期からトップが旗振り役となり、S&OPの重要性を発信し続けることで、各部門の参加意識が高まります。また、経営層が月次レビューに参加し、意思決定の場で具体的な方針を示すことで、全社が同じ方向に向かいやすくなります。トップダウンとボトムアップの両輪で動く仕組みが必要です。

部門横断チームと共通KPIの設定

営業、生産、物流、調達、財務などが一体となる部門横断チームを組成し、役割分担や会議体を明確化します。同時に、在庫回転率やサービスレベル、需要予測精度など共通KPIを設定することが効果的です。部門ごとに異なる目標を追うのではなく、全社最適を指標化することで、利害の衝突を超えた協働が可能になります。共通の成果指標が連携を強める潤滑油となります。

データ整備とシステム活用

S&OPの根幹は「正確で一貫したデータ」にあります。まずはマスターデータの統一・標準化を徹底し、品目定義や拠点コード、日付粒度といった基盤を整備することが欠かせません。次に、ERP基幹システム)、WMS、TMS、受注システムを連携させ、BIツールで一元的に可視化することで、販売・生産・供給・物流を横断した情報共有が可能になります。さらに、こうして集約したデータを前提に議論を進めれば、会議は数値ベースで一本化され、個人依存や属人的な判断から脱却できます。標準化されたデータと仕組みを土台にすることで、S&OPは継続的に機能するプロセスとなります。

PDCAサイクルの徹底運用

S&OPは一度構築して終わりではなく、継続的に改善することが求められます。計画(Plan)、実行(Do)、検証(Check)、改善(Act)を毎月のサイクルとして回すことで、計画と実績のギャップを埋め続けることができます。レビュー会議での分析を形式的な確認で終わらせず、改善に反映することが重要です。PDCAを回し続ける仕組みが、S&OPを形骸化させず成果につなげます。

小さな成功体験の積み上げ

S&OPの効果はすぐに現れるものではなく、中長期的に成果を出すプロセスです。そのため初期フェーズでは、重要SKU群を対象に試行導入し、在庫金額10%削減、緊急輸送30%削減、積載率5ポイント向上といった数値目標を掲げます。改善結果をファクトベースで見える化し、現場に「やれば成果が出る」という実感を浸透させることが、全社展開の推進力になります。

物流部門から始めるS&OP実践 ― データでつなぐオペレーションと経営

S&OPは経営企画や営業部門だけの仕組みではなく、需給の“最後の現場”である物流部門の関与が実効性を左右します。Chief Logistics Officer(CLO)や物流マネジメント部門がデータを整備・可視化することで、S&OPは“数字で動く組織”へと進化します。

まずは人力でS&OPを回す

多くの企業では、S&OPをシステムで自動化する前に、まず「人力で回す」ことから始めるのが現実的です。販売目標と利益目標を決め、それを実現するために各工場や物流拠点がどの程度のスループットを処理すべきか、どの時間帯に作業を平準化すべきかを可視化します。庫内作業員のシフトや貼り付き人数を日別・時間別で計画し、PDCAで改善することが、S&OPを現場レベルに根づかせる第一歩です。

ただし、庫内だけでは限界があります。適切なタイミングで製品が入荷しなければ、スループット計画も崩壊します。入荷量や輸送スケジュールを制御できる仕組みを持つことが、物流起点のS&OPを機能させる前提条件です。

輸配送・庫内データの見える化

庫内効率化を追求するだけでは、全体最適にはつながりません。たとえば、入荷の波動が大きければ、倉庫のスループットも安定せず、結果的に人員を余剰に確保する必要が生じます。MOVO Berthのようなトラック予約受付システムを導入すれば、入荷のタイミング・荷姿・個数などのデータを蓄積できます。そこから見えてくるのは、生産計画や出荷指示の“揺らぎ”です。入荷データを分析し、日別・時間帯別のばらつきを特定すれば、生産工程側と対話し、入荷の平準化=庫内波動の平準化を実現できます。これは単なる作業効率化ではなく、人件費削減と輸送費の安定化という経営インパクトを生み出します。

調達・生産・販売部門との連携

物流のデータを分析すると、問題の根は前工程(調達・生産・販売)にあるケースが少なくありません。たとえば、入荷のばらつきが大きいとき、それは生産計画や発注ルールの硬直性が原因かもしれません。

発注データを確認すると、「後工程の不安」から必要以上に早く仕入れていることもあります。実際には「明後日必要なものが今日届く」という現象が、倉庫逼迫や人員増の温床になります。

S&OPの目的は「誰が悪いか」を突き止めることではなく、ノックアウトファクター(変えられない制約)と改善可能領域を切り分けることです。データで原因を特定し、優先順位をつけて改善を回すことで、サプライチェーン全体の安定性を高めます。

物流コストを「利益設計」に組み込む

S&OPの成熟度が上がると、物流部門は単なる“コストセンター”ではなく、“利益を設計する部門”になります。

物流コストを売上とつなぐ視点が欠けると、最適な販売価格や販促戦略の判断が曖昧になります。

たとえば、MOVO Vistaのような輸送依頼の受発注システムで運賃の実績データを蓄積すれば、SKU別の物流コスト構造を明らかにできます。そのデータを在庫コスト・庫内人件費などと統合すると、ユニットエコノミクス(1商品あたり・1出荷あたりの利益構造)が見える化されていくでしょう。

この構造をセールス部門と共有すれば、「どの販路・どのSKUを優先して出荷すべきか」「価格設定やキャンペーンの費用対効果はどうか」といった経営判断に直結します。S&OPが本来目指す“全社最適”は、まさにこのレベルの統合です。

まとめ ― 物流起点で広がるS&OPの可能性

S&OPは、単なる需給調整のフレームではなく、企業のオペレーションと経営をつなぐ「言語」です。とくに物流部門がデータを整備し、現場の動きを見える化することで、計画と実行のギャップが初めて定量的に把握できます。これは、営業や生産が「勘と経験」で行ってきた調整を、数字と因果で語る仕組みに変える取り組みでもあります。

一方で、現実には多くの企業で、拠点や部門ごとに異なるデータ設計やシステム構成が存在し、情報の粒度や定義がそろっていません。こうした“バラバラな仕組み”を統合し、全体像を描くことがS&OP定着の最大の壁となっています。

Hacobu Strategyは、MOVOをはじめとする各種物流データを基盤に、部門を超えた需給計画の整流化を支援します。データをつなぎ、現場のリアルを経営に反映させる――その第一歩が、物流部門から始まるS&OP実践です。Hacobu Strategyの概要は以下ページをご覧ください。

著者プロフィール / 菅原 利康
株式会社Hacobuが運営するハコブログの編集長。マーケティング支援会社にて従事していた際、自身の長時間労働と妊娠中の実姉の過労死を経験。非生産的で不毛な働き方を撲滅すべく、とあるフレキシブルオフィスに転職し、ワークプレイスやハイブリッドワークがもたらす労働生産性の向上を啓蒙。一部の業種・職種で労働生産性の向上に貢献するも、物流領域においてトラックドライバーの荷待ち問題や庫内作業者の生産性向上に課題があることを痛感し、物流領域における生産性向上に貢献すべく株式会社Hacobuに参画。 >>プロフィールを見る

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