更新日 2025.10.02

過剰在庫とは?原因やリスク、対策を徹底解説

過剰在庫とは?原因やリスク、対策を徹底解説

適切な在庫管理は、企業の収益性やキャッシュフローに大きな影響を与える重要な業務のひとつです。しかし、現場では「気づけば倉庫に在庫が溢れていた」「販売予測が外れて在庫を抱えてしまった」といった課題が起こりがちです。

本記事では、過剰在庫とは何か、よく混同されがちな不良在庫・不動在庫との違いを含めて、企業が抱えるリスクやその原因、解消のヒントについて、物流DXパートナーのHacobuが解説します。

なお、Hacobuでは物流化を支援する物流DXコンサルティング Hacobu Strategy を提供しています。物流業務の改善にお悩みがありましたら、以下をクリックしてご覧ください。

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目次

過剰在庫とは

過剰在庫とは、実際の需要に対して過剰に保有してしまっている在庫のことを指します。販売計画や調達計画とのズレによって発生することが多く、倉庫スペースを圧迫するだけでなく、在庫維持にかかるコストやキャッシュフローの悪化といった経営上のリスクを伴います。

一時的に在庫が多くなることは、セールやキャンペーンなどのイベントに備えた戦略的な判断である場合もありますが、需要の見込み違いや発注ミスによって意図せず在庫が積み上がってしまうケースも少なくありません。このような状態が続くと、在庫の劣化や陳腐化につながり、販売機会の損失や廃棄ロスに発展する恐れがあります。

特に成長段階の企業や、複数のチャネルで販売しているビジネスでは、在庫の最適化が難しく、結果として過剰在庫を抱えてしまうこともあります。売れ残った商品をどう処理するか、在庫資産の価値をどのように評価するかは、財務面でも重要な課題です。

不良在庫・不動在庫・過剰在庫の違い

過剰在庫と混同されやすい言葉に「不良在庫」や「不動在庫」がありますが、それぞれ意味や状態が異なります。

不良在庫とは、破損や劣化などによって販売不可能になった在庫を指します。例えば、賞味期限を過ぎた食品や型落ちしてしまった電子機器などが該当します。これらは在庫として保有していても売上には結びつかず、廃棄の対象となるケースが多いです。

一方、不動在庫は一定期間まったく動きがない、つまり販売・出荷されていない在庫を意味します。在庫としては健全な状態であっても、顧客ニーズに合わない、または陳列されることなく眠っている商品がこれに当たります。

過剰在庫は必ずしも販売不可能ではなく、適切なタイミングや販促施策によって売り切ることが可能な状態である点が特徴です。とはいえ、放置すれば不動在庫を経て不良在庫へと移行してしまうため、早期の対応が求められます。

過剰在庫の判断基準と指標

過剰在庫を定量的に把握するためには、客観的な指標を用いてモニタリングすることが重要です。

在庫回転率

代表的な指標のひとつが在庫回転率です。これは「年間売上原価 ÷ 平均在庫金額」で算出され、在庫がどれだけ効率的に消化されているかを示します。例えば年間の売上原価が1,200万円、平均在庫金額が200万円であれば、在庫回転率は6回転となります。

在庫月数

在庫回転率と対になるのが在庫月数です。「12か月 ÷ 在庫回転率」で求められ、現在の在庫が販売量に換算して何か月分に相当するかを表します。先ほどの例では12÷6=2か月分となります。一般的には小売業で2〜3か月、製造業で3〜4か月が目安とされますが、食品やアパレル、自動車部品など業界や商品特性によって大きく異なります。あくまで参考値として扱い、自社の特性と照らし合わせることが大切です。

適正在庫率

さらに適正在庫率も過剰在庫を見極めるうえで有効です。これは「理想的な在庫金額に対する実在庫金額の比率」で算出されます。この比率が100%を大きく上回る場合は過剰在庫の兆候と考えられ、120%を超えると注意が必要とされるケースもあります。ただし、この基準も業界や商材によって変わるため、自社に合ったレンジを設定することが重要です。

これらの指標を単独で見るのではなく、業界平均値や競合データと比較し、さらに季節変動や需要予測とあわせて評価することで、初めて有効な在庫マネジメントにつながります。定期的にモニタリングし、数値の変化に応じて調達・販売計画を見直すことが、過剰在庫の予防と改善に直結します。

業界別の過剰在庫の特徴

小売業(アパレル・雑貨・家電など)

需要はトレンド・販促・価格の影響を強く受け、SKUの色・サイズ展開や返品率の高さが過剰在庫を増幅します。アパレルはシーズンごとの“売り切り期限”が短く、期末の値引きで消化できなければ翌期の陳腐化が急速に進みます。家電は新モデル移行時に旧型が滞留しやすく、価格下落リスクを伴います。

製造業(自動車・電機などの組立)

長い調達リードタイムと多部品BOM(部品点数の多さ)が特徴。需要変動に備えて一部部材を積み増すと、他方の部材が欠品し在庫の偏在が発生しがちです。生産は欠品で止まり、過剰側は資金・倉庫・陳腐化を招くため、EPEI(全品目を一定間隔で作る設計)やロット最適化、共通部品の標準化が鍵になります。

食品・飲食(生鮮・惣菜・外食)

賞味・消費期限の制約により、過剰在庫は即ロスに直結します。天候・曜日・イベントの感応度が高く、日次(場合により時間帯)での需要追従とFEFO運用が必須。外食は中央厨房の仕込みロットや人員シフトとも連動するため、原材料の在庫過多は廃棄だけでなくオペ負荷も増やします。

季節性・イベント商材(年末商戦、バレンタイン、花粉・日焼け止め、冬物衣料 など)

売上のピークが短期集中し、売り切り期限(デッドライン在庫)が明確です。想定を外すと値下げ・販促費での“痛みを伴う消化”か、来期持ち越し(キャリーオーバー可否の見極め次第)になります。気温・降雪と連動する需要(冬物、飲料、ビール類)は天候データ連動の安全在庫設定が有効です。

過剰在庫がもたらすリスク

過剰在庫は単に「売れ残り」ではなく、企業の経営に対して複数の側面から悪影響を与えます。ここでは、特に注意すべき4つのリスクについて解説します。

保管コストの増加

在庫が増えれば、それに伴って保管にかかるコストも上昇します。倉庫の賃料や在庫管理システムの利用料、棚卸しに必要な人件費、さらには温度や湿度などの管理が必要な商品の場合には設備維持費もかかってきます。これらのコストは目に見えにくいながらも、利益をじわじわと圧迫していくため、注意が必要です。

また、在庫が増えることで棚の入れ替えや動線の悪化が発生し、作業効率が落ちるケースもあります。結果的に、配送のリードタイムが長くなり、顧客満足度の低下にもつながりかねません。

キャッシュフローの悪化

商品が売れるまでの間、在庫は「現金がモノの形で眠っている」状態です。在庫として抱える資金が多ければ多いほど、他の事業投資や運転資金に回せるキャッシュが不足し、企業の資金繰りに影響を及ぼします。

特に中小企業やスタートアップにとっては、資金の流動性が経営の安定に直結するため、過剰在庫は見過ごせないリスクです。過去の販売実績や需要予測に基づかない発注は、キャッシュフローの滞りを招く要因となります。

商品価値の低下と廃棄リスク

過剰在庫を長期間保有すると、商品の鮮度や市場価値が徐々に低下していきます。アパレルや食品、ガジェットのように流行や賞味期限に左右されやすい商品では、この影響が顕著です。

市場ニーズから外れた商品は値引きや在庫処分セールで売り切る必要があり、粗利の圧縮を招きます。それでも売れ残った場合には、最終的に廃棄するしかなくなります。こうしたロスは、企業イメージの低下にもつながるため、環境面やサステナビリティの観点からも課題です。

倉庫スペースの圧迫

物理的に在庫が増えることで、倉庫内のスペースが圧迫され、本来必要な在庫を保管できなくなったり、物流作業の効率が落ちたりするケースがあります。スペースが不足すれば、追加で倉庫を借りる必要が出てきたり、一時的に別の場所に保管したりと、さらなるコストや業務負担を招くことになります。

また、スペースに余裕がない状況では、緊急の仕入れや新商品の取り扱いが難しくなり、ビジネスの柔軟性が損なわれる可能性もあります。販売機会を逃さないためにも、在庫量と倉庫キャパシティのバランス管理は欠かせません。

経営判断への悪影響

過剰在庫は経営陣の意思決定にも深刻な影響を及ぼします。帳簿上は在庫が資産として計上されるため利益が維持されているように見えても、実際には売上に結びつかない在庫が資金を拘束し、キャッシュフローを悪化させます。この乖離が、健全な投資判断を鈍らせる要因となります。

さらに経営資源の配分にも歪みが生じます。資金や人材が在庫の管理・処分に縛られることで、本来は新商品開発や研究開発に回せるはずのリソースが圧縮されます。その結果、新規事業の立ち上げや商品ラインアップの強化が遅れ、中長期的な競争力を損なうリスクが高まります。

加えて、資金繰りの悪化は設備投資や人材採用にも波及します。老朽設備の更新や自動化への投資が先送りされれば生産性の向上は停滞し、優秀な人材確保を見送れば事業拡大のチャンスを逃すことになります。過剰在庫は単なる在庫コストの問題にとどまらず、企業の成長機会そのものを奪い、競合他社との格差を広げる要因となるのです。

過剰在庫が発生する主な原因

過剰在庫は偶然起きるものではなく、業務プロセスのどこかに課題が潜んでいることがほとんどです。ここでは、企業がよく直面する過剰在庫の主な原因について解説します。

需要予測の誤り

最も一般的な原因のひとつが、需要予測の誤りです。過去の販売実績や季節性、キャンペーンの影響などをもとに予測を立てるのが一般的ですが、実際の需要が予測を下回った場合、仕入れた在庫が余ってしまいます。

特に新商品や過去に類似データがない商品の場合、予測精度が低下しやすく、過剰在庫のリスクが高まります。また、複数の販売チャネルを展開している企業では、チャネルごとの販売傾向を正確に把握できていないことで予測がずれ、結果として在庫が積み上がるケースも見られます。

発注・仕入れのミス

需要予測が正しくても、発注数の設定ミスや仕入れタイミングのズレによって過剰在庫が発生することがあります。たとえば、本来必要な数量よりも多く発注してしまったり、販売ペースに対して仕入れの頻度が多すぎたりといったケースです。

在庫管理システムや発注ワークフローが整備されていないと、人為的なミスが起こりやすくなります。特に成長期の企業では、業務が属人化していることで確認漏れや重複発注が発生し、気づかないうちに在庫が膨らんでいることも少なくありません。

販売戦略の失敗

値付けやプロモーション施策が市場ニーズに合っていない場合、商品が想定どおりに売れず、過剰在庫を生む要因となります。たとえば、高すぎる価格設定、訴求ポイントのずれ、顧客ターゲットとのミスマッチなどが挙げられます。

また、セールやキャンペーンを見越して多めに仕入れたものの、販促が思ったほどの効果を発揮しなかった場合も、結果として在庫が残ることになります。販売計画と在庫計画が連動していないと、こうしたズレが起こりやすくなります。

市場環境の変化(トレンドの変化、競合の影響)

消費者のニーズやトレンドは常に変化しています。その変化を捉えきれずに旧来の商品を多く抱えてしまうと、需要のない在庫が残ってしまうことになります。特にアパレルや家電、化粧品といった流行に敏感な業界では、こうした変化への対応力が重要です。

また、競合他社の新商品投入や価格戦略が影響して、想定していた自社商品の販売数が伸びず、結果として在庫が余ってしまうこともあります。市場の動向を定期的にモニタリングし、柔軟に対応していく姿勢が求められます。

製造・仕入れリードタイムの問題

製造や仕入れに時間がかかる場合、それに備えて多めに在庫を確保しておくことがあります。しかし、リードタイムに余裕を見すぎたり、調達のタイミングを誤ったりすると、その間に需要が変動し、結果的に在庫が過剰になるケースがあります。

特に海外からの輸入やOEM生産を行っている企業では、輸送期間や天候、為替の影響など、リードタイムに不確定要素が多く、柔軟な在庫調整が難しい場合もあるでしょう。このような場合には、リードタイムと需要予測のバランスをどう取るかが大きな課題となります。

在庫管理体制の不備

在庫管理システムの欠如や老朽化は、過剰在庫を招く代表的な要因のひとつです。手作業や古いシステムに依存していると、在庫情報がリアルタイムで更新されず、現場と経営の認識にずれが生じます。その結果、二重発注や欠品と過剰在庫が同時に発生するなど、判断の誤りを誘発しやすくなります。

特に古いシステムでは、需要予測や自動発注の機能が不十分なうえ、販売や生産管理システムとの連携が弱く、データが部門ごとに分断されがちです。このような状況では、市場の変化や需要の急変に迅速に対応することが困難になります。

改善策としては、クラウド型の在庫管理システムを導入し、在庫データをリアルタイムで可視化するとともに、販売・調達・生産の各部門で共有することが有効です。さらにAIを活用した需要予測システムを組み合わせることで、発注数量の精度を高め、過剰在庫のリスクを抑制できます。

過剰在庫が生じやすい商品特性

過剰在庫は、商品特性によって発生しやすさが異なります。代表的なタイプと対策を整理すると以下のとおりです。

1. 季節性商品

需要期間が限られるため、シーズンを過ぎると需要が激減します。冬物アウターやクリスマス関連商品は典型的です。売れ残りは翌年まで持ち越せる商品と持ち越せない商品に分かれるため、商品特性ごとの見極めが必要です。

対策ポイント

  • 過去数年の販売データを基にした慎重な需要予測
  • シーズン中の売れ行きに応じた柔軟な追加発注(ステージング調達)
  • キャリーオーバー可否(翌年持ち越し可能か)の明確化

2. 流行商品・ファッション性の高い商品

トレンドの変化が速く、需要が急減するリスクがあります。アパレル、化粧品、スマートフォンアクセサリーなどが該当します。

対策ポイント

  • 小ロットでのテスト販売から始め、需要に応じて拡大
  • SNSやインフルエンサー反応をモニタリングし、仕入れ判断を短いサイクルで実施
  • 競合商品の動向を常時把握し、方向転換や値引き判断を迅速化

3. 賞味期限のある商品

食品、化粧品、医薬品などは期限切れが即廃棄につながります。在庫の陳腐化スピードが速いため、特に精緻な管理が求められます。

対策ポイント

  • 小ロット・高頻度仕入れで在庫日数を短縮
  • FEFO(First Expired, First Out:期限の早い商品から出荷)を徹底
  • 期限が近づいた商品の早期値引き・販促を計画的に実施

過剰在庫を防ぐための対策

過剰在庫は、発生してから対処するよりも、日頃から予防策を講じておくことが重要です。在庫管理の精度を高め、経営におけるリスクを最小限に抑えるための具体的な対策を見ていきましょう。

需要予測の精度向上(データ活用・AIの活用)

まず第一に取り組むべきは、需要予測の精度を高めることです。従来のように勘や経験に頼った予測ではなく、販売実績や顧客の購買行動、季節性、外部要因などのデータをもとに分析することが求められます。

近年では、AIや機械学習を活用して需要予測を自動化・高度化するソリューションも登場しています。特に複数チャネルで販売を行っている企業では、リアルタイムでデータを連携し、変化に応じた柔軟な在庫対応が可能になります。SaaS型の需要予測ツールを導入することで、属人的な判断を減らし、仕入れや生産の精度向上につなげることができます。

適正在庫管理の徹底(在庫回転率の見直し)

在庫を「どれくらい、どのくらいの期間で売り切るか」を定量的に把握することも重要です。特に在庫回転率は、在庫管理の健全性を示す代表的な指標であり、定期的に確認・見直しを行うことで、過剰在庫の兆候を早期に察知できます。

商品ごとの売れ行きやライフサイクルに応じて、保有すべき在庫量を最適化していくことが理想です。例えば、販売頻度が高く回転率の良い商品には積極的に在庫を持ち、それ以外は最小限に抑えるといったメリハリのある管理が求められます。

在庫分析ツールやBIツールを活用すれば、日次・週次単位でのモニタリングも容易になります。

発注プロセスの最適化(JIT方式の導入など)

仕入れや発注のプロセスそのものを見直すことも、過剰在庫を未然に防ぐ上で有効です。たとえば、JIT(Just In Time)方式のように「必要な時に、必要な分だけ」を仕入れる仕組みを取り入れることで、在庫のムダを減らすことが可能になります。

JIT方式の導入には、サプライヤーとの連携強化や社内プロセスの整備が不可欠ですが、安定的な供給体制が築ければ大きな効果を発揮します。また、発注基準を明確にし、在庫状況や需要動向に応じて柔軟に対応できるフローを構築することも重要です。

クラウド型の在庫管理システムを活用することで、リアルタイムの在庫状況を把握しながら、過不足のない発注がしやすくなります。

販促施策の強化(セールやセット販売の活用)

一度発生した在庫を効率的に売り切るためには、販売戦略の工夫も不可欠です。特にセールやタイムセール、セット販売といった販促施策は、在庫を短期間で回収する有効な手段となります。

たとえば、売れ残りがちな商品を人気商品と組み合わせたセット商品にしたり、まとめ買い割引を提供したりすることで、購買意欲を刺激することが可能です。SNSやメールマーケティングを通じた情報発信と組み合わせることで、販促効果を最大化することができます。

在庫処分=値引きという印象を持たれがちですが、顧客にとって「お得感」を演出できれば、ブランド価値を損なわずに在庫を消化することも可能です。

アウトレット・B品販売の活用

過剰在庫やわずかなキズがある商品(B品)は、正規の販売チャネルとは異なる形で販売するという選択肢もあります。たとえば、自社サイト内にアウトレットコーナーを設けたり、専用のECモールやフリマアプリを活用したりすることで、在庫を収益化しやすくなります。

こうした施策は単なる在庫処分ではなく、価格に敏感な新たな顧客層へのアプローチとしても機能します。また、環境への配慮が求められる昨今、廃棄せずに販売するという姿勢が、企業のサステナビリティにもつながります。

ただし、ブランドイメージとのバランスを考慮し、販売チャネルや価格設定には十分な配慮が必要です。

過剰在庫の解消方法

過剰在庫は放置すればするほどコストやリスクが積み重なっていきます。できるだけ早い段階で在庫の適正化を進めることが重要です。ここでは、実際に企業が取り組める過剰在庫の具体的な解消方法についてご紹介します。

値引き・セールの実施

もっとも即効性のある手段が、値引きやセールによる販売促進です。期間限定で価格を下げることで、購買意欲を喚起し、在庫の回転を早めることができます。特に、シーズン品や流行性の高い商品は、鮮度が落ちる前に売り切ることが求められます。

ただし、頻繁な値引きは「このブランドはすぐ安くなる」という印象を与え、価格の信頼性を損ねる可能性があります。あくまで計画的に実施し、正規価格とのバランスを見極めることが重要です。

プロモーション施策と組み合わせて、期間限定感や数量限定感を演出することで、より効果的に在庫を動かすことができます。

BtoB販売・卸売の活用

過剰在庫を一括で処分したい場合、法人向けのBtoB販売や卸売を活用するのも有効な方法です。小売店やアウトレット業者、業務用市場などに向けて在庫をまとめて販売することで、在庫圧縮と資金回収を同時に実現できます。

通常の販売チャネルとは異なるため、価格調整や条件交渉が必要になる場合もありますが、販売リスクの低減や倉庫スペースの確保につながるというメリットがあります。中には、過剰在庫専門の仲介サービスを利用する企業も増えています。

販路を広げることで、これまで接点のなかった市場や顧客との新たな関係が生まれる可能性もあります。

寄付・リサイクルによる処分

販売が難しくなった在庫については、寄付やリサイクルによる社会貢献的な処分方法を検討するのもひとつの選択肢です。たとえば、食品や日用品を福祉施設やNPOに寄付することで、社会貢献と廃棄コストの削減を両立することができます。

また、製品の素材やパーツを再利用できるように分解・回収することで、リサイクル資源としての活用も可能です。環境配慮への関心が高まる中、こうした取り組みは企業のブランドイメージ向上にもつながります。

CSRやESG経営の観点からも、単なる在庫処分ではなく、持続可能な経営活動の一環として積極的に活用する企業が増えています。

デジタル販路を活用した在庫処分法

在庫処分の手段として、デジタル販路の活用は非常に有効です。 ECサイトでは、自社の既存顧客に向けてアウトレット販売やタイムセールを実施できるため成約率が高く、特にアパレルや雑貨、家電製品などは写真による訴求効果が大きいのが特徴です。

フリマアプリは個人購入者が中心で、掘り出し物を求めるユーザー層に向いています。衣料品や日用品、アクセサリーといった少量単位の商品処分に適しており、ユーザーとの直接コミュニケーションで商品の魅力を伝えられる点も強みです。

オークションサイトはレアアイテムや限定品、コレクター向け商材に効果的です。競り形式により予想以上の価格で売れることもあり、在庫価値を最大化できる可能性があります。

出品時の工夫としては、自然光を使った鮮明な商品撮影、傷や汚れを隠さない誠実な画像掲載、検索に強いキーワードを盛り込んだ商品説明、適切な開始価格の設定が重要です。また、レビュー獲得や限定感の演出も販売促進に直結します。

在庫の転用・リメイクの可能性

過剰在庫を別用途に転用・リメイクすることで、廃棄コストを抑えつつ新しい価値を生み出せます。

  • アパレル業界:売れ残った衣料品を工場の作業着やユニフォームに転用。機能性を重視する用途では元の品質を活かしながら安定した消化が可能です。
  • 食品業界:規格外の野菜や果物をジュース・スープ・冷凍食品など加工品の原料に活用。食品ロスを減らしつつ収益確保につなげられます。
  • 建材業界:余剰の木材や金属部材をDIY用品や小物製品の材料に再利用。原材料費を削減しながら環境負荷も低減できます。
  • アップサイクル事例:廃材をデザイン性の高い家具や雑貨に加工し、新たなブランド価値を創出する取り組みも広がっています。

こうした転用・リメイクは、廃棄コスト削減だけでなく、環境配慮型の取り組みとしてCSRやESG経営の一環にもなり、ブランドイメージ向上や新規売上機会の創出につながります。結果として企業収益の改善に直結する実効性の高い方法です。

過剰在庫削減の成功事例

実際の企業が過剰在庫問題をどのように解決したのか、具体例と共に見ていきましょう。様々な業種の成功事例から、自社状況に応用できるポイントを探りましょう。

ディルテックス・ブランズ:在庫83%削減の事例

アパレル小売のディルテックス・ブランズは、TOC(制約理論)を活用した在庫改革により、在庫を83%削減したとされています。数値的には在庫回転率が大幅に改善し、キャッシュフローも健全化したようです。学べる点は「仕入れ基準の見直しと売れ筋集中」であり、データ分析と需要変動への柔軟対応が鍵となります。

参考:https://note.com/goldratt/n/n17c54a9c87a7

マクドナルド:廃棄ロス削減による収益改善

マクドナルドは、需要予測システムとリアルタイム在庫管理を組み合わせることで、フードロスを約30%削減したと紹介されています。注文から提供までのリードタイム短縮が在庫削減と廃棄抑制につながったようです。この事例からは「予測精度向上とオペレーション連携の重要性」が学べます。

参考:https://docs.nanco.io/n/nf394eb25a63f

キリンビバレッジ・アサヒ飲料:在庫日数削減の成果

両社は物流DXコンサルティング Hacobu Strategyと共同でAI発注・輸送最適化サービス「MOVO PSI」を活用した在庫・輸送平準化プロジェクトを実施し、在庫日数の削減に成功しました。具体的な数値として、検証段階で在庫日数が短縮され、欠品率も低減しています。ここから学べるのは「サプライチェーン全体を対象とした情報共有と平準化」の有効性です。

参考:https://hacobu.jp/news/12099/

過剰在庫対策チェックリスト

過剰在庫を防ぐには、問題が顕在化する前に兆候をつかみ、早期に手を打つことが欠かせません。そのためには、定期的に確認すべき指標を明確にし、日常の経営判断に組み込むことが重要です。以下は、経営者が実務で活用できるシンプルなチェックリストです。

毎日確認

  • 販売速度(在庫消化日数)の監視:売れ行きが鈍化したSKUは即販促対象
  • 賞味期限が迫る商品リストの更新と販促対応

毎週確認

  • 倉庫稼働率の監視:自社の適正稼働ライン(例80〜85%)を超えたら処分計画前倒し
  • 発注残高と売上予測の乖離チェック:乖離10%超で計画修正
  • 滞留在庫リストの更新と部門共有

毎月確認

  • 在庫回転率の前年同月比・業界平均との比較
  • 在庫日数(在庫月数)の推移チェック
  • 売れ筋/死に筋商品の売上比率:死に筋が20%超なら商品見直し

四半期確認

  • 需要予測精度の検証と差異分析:許容水準を下回れば手法見直し
  • 不良在庫率の算出:5%超なら処分・リサイクル方針策定
  • 発注リードタイム遵守率:遅延が続く場合は仕入先見直し

専門家に相談すべきケースとは?

過剰在庫が自社の努力だけでは改善できない段階に達した場合、外部の専門家に相談することが有効です。たとえば、在庫金額が売上高の3割前後に達し数ヶ月以上改善しない場合、在庫回転率が業界平均を大きく下回る場合、またはキャッシュフローの悪化が顕著に表れている場合などは、早期の相談が望ましい目安となります。

相談先を選ぶ際のポイントは以下の通りです。

  1. 業界経験の豊富さ:同業種での在庫・物流改善実績があること。
  2. 専門性の広さ:在庫だけでなく物流・SCM全体を俯瞰できる知見を持つこと。
  3. 資格や信頼性:公認会計士、JILSロジスティクス経営士など公的資格や認定を有すること。
  4. 成果連動の報酬体系:改善効果と費用対効果が明確であること。

相談に臨む際には、過去3年分の在庫推移表や商品別売上・在庫データ、倉庫コスト、発注フロー資料、財務諸表などを整理しておくと効果的です。加えて、主要取引先との契約条件や社内の意思決定プロセスも明示できると、より実務的な改善提案につながります。

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Hacobu Strategyは、物流効率化を専門とする物流DXコンサルティングサービスです。経営戦略策定からテクノロジーを活用した実装まで一気通貫でサポートする物流DX専門のプロフェッショナル集団として、企業の物流・SCM領域における包括的な改革を支援します。

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まとめ

過剰在庫は、多くの企業にとって身近でありながら、見落とされがちな経営課題です。放置すればコストの増加やキャッシュフローの悪化、ブランド価値の低下など、さまざまなリスクにつながります。

本記事でご紹介したように、過剰在庫の発生には「需要予測の誤り」や「発注ミス」など複数の原因が存在し、企業の成長段階や業種によっても状況は異なります。重要なのは、問題が発生してから対応するのではなく、日頃からデータを活用した在庫管理や予測精度の向上に取り組み、柔軟に対策を講じる体制を整えておくことです。

また、万が一過剰在庫が発生した場合でも、値引き販売やBtoB販路の開拓、寄付・リサイクルなど多様な解消方法があります。自社に合った選択肢を見極め、戦略的に対応することが、持続可能な成長につながります。

在庫管理は経営の「見えないコスト」を左右する重要なテーマです。これを機に、自社の在庫運用を見直してみてはいかがでしょうか。

著者プロフィール / 菅原 利康
株式会社Hacobuが運営するハコブログの編集長。マーケティング支援会社にて従事していた際、自身の長時間労働と妊娠中の実姉の過労死を経験。非生産的で不毛な働き方を撲滅すべく、とあるフレキシブルオフィスに転職し、ワークプレイスやハイブリッドワークがもたらす労働生産性の向上を啓蒙。一部の業種・職種で労働生産性の向上に貢献するも、物流領域においてトラックドライバーの荷待ち問題や庫内作業者の生産性向上に課題があることを痛感し、物流領域における生産性向上に貢献すべく株式会社Hacobuに参画。 >>プロフィールを見る

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