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更新日:
執筆者:菅原 利康

モーダルシフトとは|注目される背景や難所、導入のメリットを解説

「モーダルシフト」とは、幹線貨物輸送をトラック輸送から異なる輸送モードに代替し、環境負荷の軽減や効率向上を目指すことです。この記事ではモーダルシフトについて、注目される背景や難所、導入のメリット、企業の取組み事例などについて物流DXパートナーのHacobuが解説します。

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2023.05.25

この記事でわかること

  • モーダルシフトは、CO2排出量の削減・労働力不足・働き方改革といった社会的背景から求められている
  • モーダルシフトは、特に長距離輸送で効果があり、導入が少しずつ進んでいる
  • モーダルシフトのさらなる推進には、発着荷主間で輸送条件などを再検討する必要がある

目次

モーダルシフトとは

モーダルシフトとは、幹線貨物輸送をトラックから大量輸送機関である船舶・鉄道へ転換し、船舶・鉄道輸送とその末端のトラック輸送を機動的に組み合わせた輸送(=複合一貫輸送)を推進することを指します。トラックの持つ戸口までの輸送機能と船舶・鉄道輸送の持つ大量性、低廉性という特性を組み合わせ、ドア・ツー・ドアの輸送を完結するものであり、輸送の効率化、低廉化を図ることができます。それぞれ「モーダル」は輸送モード、「シフト」は移行することを意味する和製英語です。

モータリゼーションとは逆の動き

かつて高度経済成長期にはモータリゼーションという輸送モードのシフトがありました。これは高速道路網や一般道路網の整備が図られたことやドア・ツー・ドア輸送ができること、時刻表の制約がないことなど、鉄道や船舶からトラックへ輸送モードがシフトしたことを指します。

今求められているモーダルシフトはモータリゼーションとは逆の動きであり、社会的な背景による要請の要素が強いのがモーダルシフトです。社会的背景については後述します。

輸送モードとは

輸送モードは一般的に4つに分けられます。

トラック輸送

トラック輸送は、国内貨物総輸送量「トンベース」で輸送分担率約9割を占める、物流の主役的な位置付けです。利便性が高く、幅広く対応できる高い柔軟性が特長です。一方でCO2排出量が多く、長距離輸送や輸送量には限界があります。また、道路の混雑状況で到着時間が左右されたり、ドライバー不足問題が年々深刻化しています。

船舶輸送

船舶輸送は、大量の貨物を長距離、低コストで運ぶことができます。1万トン級のRORO船の場合は、トレーラー150台分の輸送能力を持ちます。一方で速度が遅い、港湾で貨物積み降しに大きな設備が必要になる、港間の輸送に限られる点も特徴です。

RORO船:トラックやトレーラーが貨物ごと上船(Roll-on)、下船(Roll-off)できる貨物船

鉄道輸送

鉄道輸送は、船舶輸送ほどではありませんが、大量の貨物を低コストで運ぶことができます。26両連結の鉄道の場合、大型トラック65台分の貨物を運転士1人で輸送できます。ダイヤで定時に運行するために発着時間が正確ですが、ダイヤが制約になるとも考えられます。また、駅間の輸送に限られます。

航空輸送

航空輸送は、少量で付加価値の高い貨物を速く運ぶことができます。ライフサイクルが短い商品やスピードが求められる貨物に最適で、輸送中の揺れが少ないために貨物の破損が低減します。しかし、コストが高く、大量輸送には不向きです。また、空港間の輸送に限られます。

(本記事は、トラック輸送の代替手段を解説する趣旨であり、航空輸送は趣旨とは異なる手段であるため、本記事では解説を割愛します。)

モーダルシフトの始まり

モーダルシフトは、1981年の運輸政策審議会の答申で、「省エネルギー対策」として初めて登場しました。それから、1990年の運輸政策審議会物流部会による物流業の労働力不足問題に対する答申のなかで「労働力不足対策」としてモーダルシフトの推進が提言されました。この答申を受け、1991年、運輸省(現国土交通省)がモーダルシフトの推進を表明しました。

また、1997年に地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議において、2010年までにモーダルシフト化率※ を40%から50%に引き上げる方針を決定しました。

このような流れから、省エネルギー対策、労働力不足、地球温暖化対策と、時代とともにモーダルシフトを行う目的は変化しています。

※500km 以上の船舶・鉄道による雑貨輸送の比率

モーダルシフトが注目される社会的背景

モーダルシフトが注目されるに至った社会的背景を解説します。

CO2排出量の削減が求められている

日本政府は2021年の地球温暖化対策計画で、2030年度に温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明しています。

産業分野でもCO2排出量削減の取り組みが求められています。

2022年度における日本の二酸化炭素排出量のうち、「運輸部門:貨物自動車」からの排出量は7.0%を占めており、物流領域にとってCO2排出量削減は急務といえます。

輸送モードごとのCO2排出量

1トンの貨物を1km運ぶ(=1トンキロ)ときに排出されるCO2の量は、以下のようになっています。

参考:運輸部門における二酸化炭素排出量

トラックと比べると、船舶は約5分の1、鉄道は約10分の1のCO2排出量であることがわかります。よってモーダルシフトは、CO2排出量の削減に有効な手段といえます。

労働力不足・働き方改革への対応を迫られている

昨今の物流領域では、ドライバーの高齢化と深刻な人手不足が問題視されています。

2024年1月の運送業全体の有効求人倍率は3.39倍であり、全産業の求人倍率が1.21倍に比べ2.18倍も高いことがわかりました。従来のトラック輸送に依存した物流では、倉庫間や集配拠点間の輸送など、数百kmの距離の運転が必要で、出発した拠点に戻ってくるまで数日かかることもあります。

モーダルシフトを導入すれば、最寄りの転換拠点まで、または最寄りの転換拠点からの運転だけで済むため、業務の効率化が可能となり、労働力不足の解消・働き方改革の対策に有効といえます。

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2023.05.25

モーダルシフトの現状

輸送距離別のシェア

短距離の輸送ほどトラック輸送の割合が高く、長距離ほど船舶・鉄道輸送の占める割合が増える傾向です。以下は輸送距離別の船舶・鉄道輸送シェアです。

参考:物流を取り巻く動向について(令和2年7月)|国土交通省

政府の目標と実績

鉄道輸送は、2025年度に209億トンキロの目標に対し、2022年度の実績は165億トンキロでした。また、船舶輸送は、2025年度に389億トンキロの目標に対し、2021年度の実績は387億トンキロでした。

参考:国土交通省 施策の進捗状況(KPI)

モーダルシフトが進まないといわれる理由

政府の目標と実績で示したように、モーダルシフトは実際には緩やかに進展しています。

鉄道輸送の目標と現状

目標策定時:184億(2019年度)

現状値:165億(2022年度)

目標値:209億(2025年度)

船舶輸送の目標と現状

目標策定時:358億(2019年度)

現状値:387億(2022年度)

目標値:389億(2025年度)

しかし、「モーダルシフトが進まない」といわれていることがあります。この背景にはどのような理由があるのでしょうか?

まず、鉄道輸送の現状値が目標策定時を下回っている点があげられます。これは、鉄道輸送の拡大が思うように進んでいないことを示しています。また、船舶輸送においては目標値に近づいているものの、輸送距離を総じてみると依然としてトラック輸送が主力となっているというのが現状です。このように、急速な変化が見られないために「モーダルシフトが進まない」といわれている、ということがあるのではないでしょうか。著しく普及しない理由としては、モーダルシフト自体にいくつかの難所が存在するということがあげられます。

モーダルシフトの難所

モーダルシフトの難所について、それぞれ解説していきます。

船舶・鉄道輸送は悪天候や自然災害の影響が大きい傾向にある

船舶・鉄道輸送は、トラック輸送に比べて悪天候や自然災害の影響をより大きく受けます。この理由には、以下の要因が関係しています。

悪天候や自然災害の直接的な影響

船舶は海上を航行するため、台風や大波、強風などの気象条件の直接的な影響を受けます。また、港の機能が天候によって制限されることもあります。

鉄道は山間部を通過するルートや河川の近くを通るルートが多く、土砂崩れ、洪水、地震などの自然災害が線路に影響を与えます。

このような悪天候や自然災害の影響により、運行の遅延や中止が生じます。

限定された代替ルート

船舶は特定の海路を航行し、鉄道は特定の線路を利用します。これらは代替ルートの選択が限られており、上記のような天候や自然災害が発生した際に、迂回することが容易ではありません。

多くの着荷主への影響

多くの貨物を輸送するため、悪天候や自然災害により運行の遅延や中止が生じると、多くの着荷主への影響をもたらします。

トラック輸送は、多少の天候の悪化や小規模な災害であれば迂回ルートを取るなどして対応できるため、相対的に自然災害の影響は少ないといえます。

船舶・鉄道輸送は短距離ではコストが割高になる

船舶・鉄道輸送は設備の固定費や輸送形態により、短距離ではコストが割高になります。

固定費の影響

船舶・鉄道輸送では、使用する設備(船舶、鉄道車両、線路、ターミナルなど)に関わる固定費が大きいです。短距離輸送では、これらの固定費を十分に分散させることができず、1単位あたりのコストが高くなります。

大型のコンテナを使用

船舶・鉄道輸送は大型のコンテナを使用して大量の貨物を効率的に運ぶ設計です。このため、コンテナ一つ分の大きな容量を満たさない小口輸送には向いておらず、短距離ではコンテナ全体を有効活用できず、コスト効率が悪くなります。

積み降ろしコスト

船舶や鉄道での積み降ろし作業は、比較的時間がかかり、特殊な設備や作業が必要です。短距離輸送では、このような作業にかかるコストが全体のコストに占める割合が大きくなります。

柔軟な要求に対応できない

コンテナは密閉された箱形の構造であり、一旦積み込まれてしまうと、目的地に到着するまでその中身を取り出したり、途中で部分的に荷物を出し入れしたりすることが非常に困難です。また、船舶・鉄道輸送は運行スケジュールが固定されており、運行途中の計画変更は多くの貨物の輸送にも影響をもたらします。臨機応変な対応が難しいです。このため、急な貨物の増減や目的地の変更に対して柔軟に対応することが困難となります。

コンテナ輸送の利用ルートが限られる

コンテナの積み下ろしには、クレーンや特殊なリフトトラックが必要で、これらの設備が整ったターミナルや港での作業が必須です。また、トラックのまま乗船できるフェリーなどを就航している港や航路は限定されているのが現状です。トラック輸送の主流である10トントラックと同等のサイズで、スムーズにモーダルシフトが可能なサイズである「31フィートコンテナ」を利用できる鉄道貨物駅は、全国に50カ所程度しかありません。

輸送時間がかかる

船舶・鉄道輸送は、トラック輸送に比べて一般的に輸送時間が長くなります。これは、運行スケジュールの制約や、駅や港での貨物の積み替え作業に時間がかかるためです。

ラストワンマイルに対応できない

ラストワンマイルとは、配達店などの最終物流拠点から、お客様に荷物をお届けするまでの区間を指します。トラック輸送であれば、長距離輸送とラストワンマイル輸送の両方をカバーできますが、船舶・鉄道輸送は、臨機応変に対応できません。

企業の投資意欲

企業にとって、新しい輸送手段への投資はリスクを伴います。特に、既存のトラック輸送システムに依存している企業にとっては、モーダルシフトへの投資は慎重に検討する必要があります。

これらの難所を克服するためには、政府と企業が連携してインフラ整備や制度改革を進めることが求められます。モーダルシフトのさらなる推進に向けて、現状の課題を認識し、具体的な対策を講じることが重要です。

モーダルシフトを推進するメリット

これまではモーダルシフトが普及しない理由について述べてきましたが、ここからはそれを考慮した上でもモーダルシフトを推進するメリットについて解説します。

地球温暖化対策として有効である

地球温暖化対策は、社会全体で取り組むべき大きな課題です。

前述のとおり、モーダルシフトは大幅なCO2排出量の削減が可能なため、地球温暖化対策として有効な策であるといえます。

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2023.10.11

ドライバー不足の解消に繋がる

2024年4月からドライバーの労働時間に上限が設けられました。ドライバー1人当たりの走行距離が短くなり、長距離での輸送が困難になることが懸念されています。これは物流の2024年問題と呼ばれており、早急な対策が必要です。モーダルシフトが導入されれば、大量輸送が可能になるため、輸送効率を高め、労働力不足の対策になるといえるでしょう。

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2023.05.25

長距離輸送ではコストを削減できる

モーダルシフトは経済的な効果も期待できます。船舶・鉄道輸送において、輸送距離が長いほどコストは下がり、長距離輸送ではトラック輸送よりも割安になります。

鉄道輸送とトラック輸送それぞれのコストを、東京発博多行の便で比較すると、西浜松でほぼ同じコスト・名古屋では鉄道輸送の方が割安になるという調査結果もありました。実勢運賃による比較でないことを考慮しても、500km以上の長距離輸送の場合はモーダルシフトによるコスト削減も期待できるでしょう。

参考:今後の物流ビジネスにおけるモーダルシフトへの動き

SDGsの目標達成に貢献できる

モーダルシフトと関係のあるSDGsの目標は、次の2つがあげられます。

SDGs目標8「働きがいも経済成長も」

この目標の中には、「不当に長時間働かされることのない」「正当な賃金が支払われる」なども含まれています。モーダルシフトによってトラックドライバーの労働環境が改善され、拘束時間が減ることは、目標8の達成に大きく貢献するといえます。

SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」

こちらでは、気候変動及びその影響を軽減するための対策を施すことを目指しています。モーダルシフトによってCO2排出量を抑えられると地球温暖化対策になり、モーダルシフトの実現が、目標13の達成に貢献するといえるでしょう。

モーダルシフト推進のために荷主企業がすべきこと

モーダルシフトを推進するために、荷主企業がすべきこと多数ありますが、例を解説します。

現状のトラック輸送における実態把握

そもそも自社の荷物がどれくらいの時間をかけて輸送をしているか、そしてどれくらいのCO2を排出して輸送をしているか、把握している発荷主は少ないのではないでしょうか。

モーダルシフトに取り組むことで成果を示すために、まずは現状のトラック輸送における実態を把握することも重要です。

動態管理サービスの MOVO Fleet は協力会社のトラックの走行ルートや時間、CO2排出量が可視化できるので、実態把握に最適です。

MOVO Fleetの資料は以下からダウンロードいただけます。

\資料のダウンロードはこちらから/

輸送条件の再検討

前述したように、輸送時間がかかるのがモーダルシフトが進まない理由の1つです。

距離により変わりますが、例えば船舶輸送なら、通常プラス1日程度の余裕が必要となります。現状、消費財の物流は、受注翌日の納品が一般的であり、翌々日納品へと輸送条件を変更しなければ船舶輸送へのシフトは難しいでしょう。

発荷主が着荷主と協議し、翌々日納品へと輸送条件を再検討する必要があります。

集荷と幹線輸送のドライバー分離

いきなりモーダルシフトを推進するのは難しいとしても、集荷と幹線輸送でドライバーを分離させるトラック輸送体制を構築することはできるのではないでしょうか。

1人のドライバーが集荷と長距離の幹線輸送を行うことで、ドライバーの拘束時間は長くなっています。集荷担当と長距離幹線輸送、配送担当を分けることで、ドライバー1人あたりの拘束時間を大幅に短縮できます。このように幹線輸送を分離させる体制を構築できるようになれば、トラックによる幹線輸送を船舶・鉄道輸送に切り替えることも推進しやすくなるかもしれません。

物流DXコンサルティング Hacobu Strategyは、国土交通省・秋田県トラック協会のコンサルティングパートナーとして2021年から「首都圏向け青果物の物流効率化 実証実験」に参画しています。その中で、集荷・幹線の完全分離およびハブ拠点の運営強化により、積み地側の移動・積み込み作業を大幅に短縮できた事例もあります。

参考:Hacobu、「首都圏向け青果物の物流効率化 実証実験」成果を公開! 持続可能な農産物輸送に向けた打ち手が明らかに

行政が進めているモーダルシフトのための取組み

行政がモーダルシフトを進めていくにあたって、どのような施策に取り組んでいるか解説します。

総合物流施策大綱(2021 年度~2025 年度)

こちらは2021年3月に閣議決定されました。日本の物流政策を示しており、その中でモーダルシフトは、物流政策の柱のひとつとして位置づけられており、今後の物流施策の方向性として以下の3つの観点が示されています。

「簡素で滑らかな物流」の実現

物流DX や物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化を次の観点から図ります。

  • 物流デジタル化の強力な推進
  • 労働力不足や非接触・非対面型の物流に資する自動化・機械化の取組の推進(倉庫等の物流施設へのロボット等の導入支援等)
  • 物流標準化の取組みの加速
  • 物流・商流データ基盤等
  • 高度物流人材の育成・確保

「担い手にやさしい物流」の実現

労働力不足対策と物流構造改革の推進を次の観点から図ります。

  • トラックドライバーの時間外労働の上限規制を遵守するために必要な労働環境の整備
  • 内航海運の安定的輸送の確保に向けた取組みの推進
  • 労働生産性の改善に向けた革新的な取組みの推進
  • 農林水産物・食品等の流通合理化
  • 過疎地域におけるラストワンマイル配送の持続可能性の確保
  • 新たな労働力の確保に向けた対策
  • 物流に関する広報の強化

「強くてしなやかな物流」の実現

これらを進めることで、強靱で持続可能な物流ネットワークの構築を図ります。

  • 感染症や大規模災害等有事においても機能する、強靱で持続可能な物流ネットワークの構築
  • 我が国産業の国際競争力や持続可能な成長に資する物流ネットワークの構築
  • 地球環境の持続可能性を確保するための物流ネットワークの構築(カーボンニュートラルの実現等)

参考:総合物流施策大綱(2021年度~2025年度) 概要|国土交通省

2030年度に向けた政府の中長期計画

2024年2月に公表された「2030年度に向けた政府の中長期計画」では、「多様な輸送モードの活用推進」を主要施策として言及されています。

モーダルシフトに必要となるハード整備を始めとした各種施策について解説します。

大型コンテナの導入支援等を通じたモーダルシフトの推進強化

鉄道(コンテナ貨物)や内航海運(フェリー・RORO船等)の輸送量・輸送分担率を今後10年程度で倍増させることを目指し、31フィートコンテナの利用拡大を優先的に促進しつつ、中長期的に40フィートコンテナの利用拡大も促進する方向性が示されています。具体的な取り組みとしては次のようなものがあります。

・【鉄道局】トラックから鉄道へのモーダルシフト促進 31フィートコンテナの取扱いを拡大、貨物駅の施設を整備

・【海事局】シャーシなど輸送機器の導入促進 貨物の受入増に伴い、荷物が格納されたシャーシなどを陸上から船舶に移動させるためのトラクターヘッドや、荷物を格納するためのシャーシなどの導入を支援

・【港湾局】内航フェリー・RORO船ターミナルの機能強化 長距離輸送等を担う内航フェリー・RORO船のターミナルにおけるシャーシ・ コンテナ置場などの整備に対する支援制度を令和6年度より創設予定

参考:「物流革新に向けた政策パッケージ」の取組状況について|国土交通省

モーダルシフト以外の2030年度に向けた政府の中長期計画については、以下の記事でも詳細を解説しています。

物流関連2法改正・政府の中長期計画を解説。荷主・ 物流事業者は今何をするべきか。

2024年5月15日、…

2024.04.12

自動物流道路の構築

自動物流道路とは「道路空間を活用した人手によらない新たな物流システム」のことです。自動物流道路の構築に向け、必要な機能や技術、課題等を検討するため、2023年度内に有識者や関係団体等から成る検討会を設置したのち、2024年夏頃に、想定ルート選定を含め中間取りまとめを行います。その上で10年での実現を目指し、具体化に向けて検討しています。こちらの海外での事例としては、スイスの地下物流システムであるCSTシステム、イギリスのリニアモーターカーを利用するMagwayシステムなどがあります。

参考:WISENET2050・政策集|国土交通省道路局

自動運航船の本格的な商用運航

自動航行船とは、「船上の高度なセンサーや情報処理機能、セキュリティの確保された衛星通信、陸上からの遠隔サポート機能等を備えた船舶とその運航システム」のことを指します。日本が主導して自動運航技術の進展に対応した国際ルールの策定を進め、2026年までに国際合意形成をすることで、2030年頃までの本格的な商用運航を実現を目指します。

参考:自動運航船に関する現状等|国土交通省海事局

モーダルシフト等推進事業

モーダルシフトへ取り組む企業への補助金の交付もあります。代表的なものが「モーダルシフト等推進事業」という制度であり、これは、荷主や物流事業者が「協議会」を開催し、モーダルシフトなど総合効率化計画を策定・実施する場合、 諸経費や運航経費の一部を補助する支援を行うというものです。

補助制度の適用には各自治体ごとにさまざまな条件があるためご注意ください。

参考:モーダルシフト等推進事業|国土交通省

モーダルシフト大賞

モーダルシフト大賞は、国土交通省が主催する賞で、特に革新的な取り組みにより陸上輸送から海上輸送や鉄道輸送などへのモーダルシフトを推進し、環境負荷の低減に顕著に貢献した事業者を表彰するものです。

2023年度は海上輸送へのモーダルシフトを推進し環境負荷の低減に貢献した優良事業22件46社に対して海事局長表彰を実施し、その中で特に革新的な取り組みを行ったダイキン工業・下関三井化学・活材ケミカルの3社が海運モーダルシフト大賞に選定されました。

ダイキン工業、下関三井化学、活材ケミカルは3社で協力し、産業廃棄物を再利用した鉱物を運ぶための専用大型コンテナを開発しました。その結果、1回で大量に運ぶことで輸送回数を減らし、陸上輸送と比べてCO2排出量を69.2%削減し、輸送距離の大部分を船舶輸送にすることでドライバーの労働時間も短縮することに成功しました。

参考:海運モーダルシフト大賞 3社 – 国土交通省

モーダルシフトを進めている企業の事例

モーダルシフト大賞に選ばれた企業以外でもモーダルシフトを進めている企業はあります。ここでは一部の事例を解説します。

トヨタ輸送

トヨタ輸送株式会社が運行する「TOYOTA LONGPASS EXPRESS」は、愛知県の工場で生産された部品を、東北・岩手県の完成車工場に大量に輸送するトヨタ輸送専用の貨物列車です。貨物列車を自社で仕立てて鉄道に転換しており、こちらでは31フィートコンテナが利用され、既存の大型車の輸送をスムーズに置き換えています。さらに「TOYOTA LONGPASS EXPRESS」の空きスペースを、宅配便の輸送をトラックで行っていた佐川急便株式会社が活用することによって、輸送効率の向上、積載率の向上、ドライバーの省力化を同時に実現することを可能にしています。

参考:モーダルシフト取り組み優良事業者賞を受賞しました|トヨタ輸送株式会社

ヤマト運輸

ヤマトホールディングスでは「ネコロジー」を合言葉に環境を意識した事業活動に取り組んでいます。具体的には九州関東間の運行ラインを、福岡をベースに集約して鉄道でまとめて関東に輸送し、羽田クロノゲートと呼ばれる関東拠点で、荷物の仕分け作業を行い、ここから1都7県に輸送することで、年間約2,300台のトラックの削減、約1,800トンのCO2排出量の削減に成功しています。

参考:ヤマト運輸がモーダルシフト最優良事業者賞(大賞)を受賞 | ヤマトホールディングス

味の素

味の素グループでは、SDGsの意識が浸透する前の1995年から、製品などの輸送方法をトラック輸送から船舶・鉄道輸送など、環境負荷が少ない方法へ転換するモーダルシフトの活動を進めています。現在行っている取組みとしては、三重エリアから東北エリアへの輸送を、すべてトラック輸送からフェリーによる直送型の船舶輸送に変更し、CO2排出量の削減による環境負荷低減、トラックドライバーの労働時間削減による人材不足対策、コストダウンを実現しました。

参考:モーダルシフトってなに?環境負荷を減らしドライバー不足も解消する物流ソリューションとは | ストーリー | 味の素グループ

まとめ

本記事では、モーダルシフトについて解説しました。モーダルシフトのさらなる普及には多くの壁がありますが、それぞれの輸送手段の特性を理解し、効率的かつ効果的な物流戦略を立てることが求められます。モーダルシフトを活用し、地球にも人間にも優しい物流の未来が形成されることを望んでいます。

著者プロフィール / 菅原 利康

株式会社Hacobuのマーケティング担当

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