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物流業界の脱炭素に向けて取り組むべきこと

物流業界の二酸化炭素排出量

2020年12月、経済産業省は関係省庁と連携し、脱炭素社会の実現のために「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定した。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出と吸収の合計をプラスマイナスゼロにすることであり、政府はCO2排出量を2030年時点で25%削減、2050年で吸収分も加味して100%削減する目標を掲げている。

2018年度における日本全体のCO2排出量11.4億トンのうち、運輸部門からの排出量は2.1億トンであり、18.5%を占める。このうち、貨物自動車(トラック)は運輸部門の36.6%を占めており、これは日本全体のCO2排出量の約7%に相当する。

運輸部門における二酸化炭素排出量

トラックによるCO2排出量は1996年の1億200万トンをピークに2018年までの約30年間で2500万トン(25%)減少している。この改善はトラックの大型化や燃費改善によるトラックメーカー側の努力改善によるものが大きいと考えられる。一方で、2030年までの目標である、運輸部門でのCO2排出量5000万トンの減少や2050年でのカーボンニュートラルに向けては、トラックメーカー側の改善(燃費向上・EV化)のみでは達成が困難であるため、トラック利用者側の取り組みとして、物流の効率化や現状40%程度に留まっている積載効率を改善していく等の取り組みが必要不可欠である。

脱炭素の今後の動き

CO2排出量を削減するための取り組みとして、カーボンプライシング(炭素への価格付け、炭素税や排出量取引制度)は重要な仕組みの1つである。これは、企業にとって脱炭素への取り組みが、CSR的な位置付けから財務的なメリットを生み出す位置付けに変わることを意味する。

世界銀行の報告によれば、46カ国がカーボンプライシングを導入(もしくは導入を決定)しており、EUが輸入品を対象とする炭素国境調整措置(国際炭素税)を導入する方針を打ち出すなど、国際的にも関心が高い政策である。日本でもエネルギー起源CO2の原因をもたらす全化石燃料に対して広く課税する「地球温暖化対策税」や、先進的な対策によって実現したCO2排出量をクレジットとして売買できる制度の「Jクレジット」などが導入されている。

菅総理は、2021年2月5日の衆議院予算委員会で、地球温暖化対策税の22年度税収見込みが2600億円であるとの指摘に対し、「数千億円ではなくどんどん増やしていかないといけない」と脱炭素関連の税制強化に前向きな意見を述べた。また、環境省は2021年2月1日に第12回 カーボンプライシングの活用に関する小委員会を実施し、経済産業省も2月17日にカーボンプライシングの制度設計の方向性を議論する研究会を開始するなど、国内でも関心が高まっている。

①炭素税

現在、日本の炭素税に該当する地球温暖化対策税の税率が289円/t-CO2であるのに対し、EU内で最も高い炭素税率のスウェーデンでは約14,400円/t-CO2と税率に大きな差がある。
今後、日本においても炭素税(地球温暖化対策税)が強化される方向であることは間違いない流れと考えられるが、仮にEU最低水準の3000円/t-CO2程度が物流業界にも適用された場合、トラック輸送(自家用、営業用あわせ)にかかる炭素税は総額2300億円程度となり、1台当たり1.6万円の年間炭素税がかかることになる(営業用トラックのみが対象とされた場合にかかる炭素税は総額1270億円程度、1台当たり10.5万円の計算になる)。

②排出量取引制度

日本には現在、先進的な対策によって実現したCO2排出削減量をクレジットとして売買できる「Jクレジット制度」がある。この制度は、排出権を購入する企業が環境貢献企業としてのPRや企業評価向上等をメリットとする企業努力を推進する制度として実施されている。JクレジットにおけるCO2排出量の落札価格の平均値は1887円/t-CO2(再エネ発電由来、2020年6月入札結果)であり、落札者数は25者程度に留まっている。一方で、EUで導入されているEU-ETS(欧州連合域内排出量取引制度)では、2020年までの対象施設がエネルギー・産業系等で計11,000の固定施設と強制力を持ったCO2排出量削減施策となっており、企業は割り当てられた排出量に対し超過した有償の排出量に対し、4810円/t-CO2(2月26日時点37ユーロ/t-CO2、1ユーロ130円換算)で取引されており、財政面から企業にCO2排出量を削減することを促している。前述の炭素税やEU-ETSによって、多くの国でCO2排出量の削減達成が実現していることを踏まえると、日本でも排出割当量決定方式等による強制力を持った排出権取引の導入もしくはJクレジットの拡充が実施される可能性がある。

EUにおいても現時点でETSの対象となっているのは運輸部門の中でも航空業界のみであり、今後航空業界以外の物流業界も対象に含める検討がなされている。日本において、物流業界に排出量取引が適用されるかは現時点では定かではないものの、仮にCO2排出量取引が開始されることによってどの程度の利益を得ることができるかは以下の式を用いて簡易に推算できる。

1日500kmを年間250日間運行する10tトラック1台の運行を取りやめると1年間で約36万円分のCO2排出クレジットを得ることができる。

排出量クレジット(円)=運行距離(km)×運行日数()×2.89(a)

※燃費4.3km/l、軽油1ℓ当たりのCO2排出量を2.58kg、EUベース4810円/t-CO2と設定
※2tトラックの場合、係数(a)を1.12と算定できる。
(参考)排出量クレジット計算式 =(N/4.3)*2.58*M*4810/1000
・1日あたり運行距離 Nkm
・年間運行日数 M日
・10tトラック 燃費4.3 km/l
・CO排出量(kg)=燃料使用量(L)×2.58(kg/リッター軽油)
・t-CO2 37EUR=4810円

物流企業が脱炭素に向けて取り組むべきこと

現時点においては、日本におけるカーボンプライシングの方向性は見えていない状況ではあるものの、物流企業が取り組むべきことは以下の3点である。

①脱炭素プランの策定

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESGに重きを置いた投資を行うと宣言するなど、投資家からも脱炭素プランの提示圧力が強まっている。特に上場企業各社は2030年、2050年に向けて、どのようなアクションを取るのかを経営計画として策定し提示することが、まず求められる。

②脱炭素施策の実行

策定したプランに基づき、各物流企業は、モーダルシフト、EVトラックの導入、燃費向上、積載効率向上、トラック待機時間削減、共同配送、等の具体的な施策の実行が求められる。これらは、人手不足問題に起因したこれまでの取り組みと同じ流れであり、それを脱炭素の文脈でも実行していくことに他ならない。

③炭素排出量のモニタリング

実行した施策の効果が出ているのかを測定し、それを金額換算する仕組みが必要となる。特に中小企業にとってネックになると考えられるのが、第三者による検証やモニタリングにかかるコスト負担の問題である。これらが安価に実現可能となる仕組みの登場が求められる。

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