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執筆者:菅原 利康

ROICとは | ROEなどとの違いやメリット、CLOや物流リーダーがROICを重要視すべき理由を解説

ROIC(Return On Invested Capital)は、企業が投下した資本に対してどれだけの利益を生み出しているかを測る重要な経営指標です。日本語では「投下資本利益率」と呼ばれるこの指標は、近年、多くの企業で経営判断に用いられる場面が増えています。

荷主企業においても、ROICはCEOや財務部門だけでなく、CLO(Chief Logistics Officer)や物流部門にとって、重要な意思決定を支える指標となります。本記事では、ROICの概要や計算式、ROEなどとの違いやメリット、CLOや物流リーダーが重要視すべき理由などについて物流DXパートナーのHacobuが解説します。

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目次

ROICとは

まず、ROICの概要を解説します。

ROICの基本的な考え方

ROICは、「企業が使っているお金(投下資本)に対して、どれだけ効率よく利益を生み出しているか」を示す指標です。

ROICの計算方法

ROICは以下のように、実質的な事業の利益である税引後営業利益(NOPAT)を、事業に充てているお金である投下資本で割って算出します。

ROIC = 税引後営業利益(NOPAT) ÷ 投下資本

税引後営業利益(NOPAT)

営業利益から税金を差し引いた金額で、企業の主要な事業活動から生み出された純粋な利益を示します。

投下資本

事業に投資するために、金融機関からの借入(有利子負債)や株主からの出資(株主資本)によって調達した資金のことです。負債のうち、買掛金などの事業負債は含みません。

ROIC経営とは

ROIC経営とは、企業が投下資本の効率性を重視し、限られた経営資源を最適に配分することで利益を最大化する経営手法です。資本コストを上回る利益創出を目指し、戦略的な意思決定や事業評価に活用されます。

資本コストとは

資本コストとは、企業が資金調達のために負担するコストで、株主や債権者が求める最低限のリターンを指します。このコストを上回る利益を創出できるかが、企業の経済的価値向上の鍵となります。

ROEやROA、ROIとの違い

ROICと似た指標にROEやROAがあります。それぞれの違いを解説します。

ROEとROICの違い

ROE(Return On Equity)は株主資本利益率を意味し、以下の計算式で求められます。

ROE = 当期純利益 ÷ 純資産

ROEは株主の投資に対するリターンを測る指標であり、株主に配当可能な金額である純資産と当期純利益が利用されます。 しかし、自社株買いなどにより純資産を変えることで簡単にROEを操作できてしまいます。

ROAとROICの違い

ROA(Return On Assets)は総資産利益率を意味し、以下の計算式で求められます。

ROA = 当期純利益 ÷ 総資産

ROAは、企業の総資産に対する利益率を測る指標です。事業負債を含めた総資産を計算に使うため、発言権が強い企業ほど買掛金の支払いを留保して、ROAを操作できてしまいます。

ROEやROAの問題を解決できる

ROICは、ROEやROAの問題点である「企業の意図による数値の操作」ができません。

小手先の数値操作ではなく、株主と債権者からの調達コストに対応した収益力を測定できる点がROICの特徴です。

ROIとROICの違い

ROI(Return On Investment)、日本語で投資利益率と呼ばれる指標もROIC同様、投下資本利益率と呼ばれることがあります。しかし、ROICが全社的視点から企業価値向上に関連して使われるのに対し、ROIは個別投資案件に使用されることが多く、また、「システムのROI」といったように、さらに狭い範囲で用いられることもあります。

ただし、ROIをROICの意味で用いるケースもあり、また、分子として用いる利益もまちまちであり、前提や文脈を正しく把握することが重要です。

ROICのメリット

ROICを経営指標として活用すると、以下のようなメリットがあります。

正確な経営効率の評価が可能

ROICは前述のとおり、数値の操作がしにくく、投下資本に対する実際の利益率を正確に評価できます。

さらに言えば、ROICは営業利益を基に算出されるため、本業の収益力を直接的に測定できます。これにより、企業の主力事業がどれだけ効率的に資本を活用しているかを明確に把握できます。

事業別にROICを算出して活用できる

ROICは企業全体だけでなく、事業や部門ごとに算出することも可能です。 例えば、A事業とB事業を行う企業の場合、それぞれの事業ごとの投資額でROICを計算すれば、事業ごとの投下資本に対する利益率を可視化できます。

事業別のROICは、その企業において価値の高い事業を判断する指標になります。また、ROICを踏まえた事業ごとのKPIも立てやすくなり、適切な投資配分も可能になります。

資金調達の際に説明しやすくなる

ROICが高いということは、資本を効率的に活用して高いリターンを生み出している企業と評価されるため、投資家や金融機関からの信頼性が向上します。この結果、資金調達が容易になり、より有利な条件での借入や増資が可能になる場合があります。

特に、ROICは投下資本全体に対する利益率を示すため、債権者と株主の双方にとって重要な指標です。高いROICを維持する企業は、資本コスト以上のリターンを生み出していると見なされ、長期的な投資先として魅力的になります。

ROIC経営のデメリット

理解・計算が難しい

ROICはROEやROAと比べて計算が複雑で、直感的に理解しづらい点があります。特に「投下資本」などの専門用語やROICの概念に不慣れな場合、活用が困難です。従業員全体でROICの計算方法や意義を理解するため、研修やセミナーの実施が重要となります。

すべての業種・成長段階で有効とは限らない

ROICは、業種や企業の成長ステージによっては適切でない場合があります。たとえば、サービス業では投下資本が少ないため評価が難しく、成長期や創業期の企業では投資負担が大きくROICが低くなる傾向があります。一方で、安定期の企業では有効に活用できる可能性が高いです。このため、企業の状況に応じて適切な指標を選択する必要があります。

ROIC経営が求められる背景

なぜ、今ROIC経営が求められているのかを解説します。

投資家の利益率への要求

投資家は「利益額」ではなく「利益率」を重視するようになり、ROICが注目されるようになりました。ROICは、企業が投下資本をどれだけ効率的に利益へつなげているかを示す指標であり、持続的な成長や収益性を判断する材料として多くの投資家が活用しています。その結果、企業もROIC経営を重要視するようになっています。

伊藤レポートの発表

2014年8月に経済産業省が発表した「伊藤レポート」で、企業は最低8%以上のROE達成を目指すべきと指摘され、多くの企業がROIC経営を意識するようになりました。これにより、企業はROE改善に注力しつつ、事業ごとの利益率を管理しやすいROICにも注目するようになりました。

PBRへの関心の高まり

2023年3月、東京証券取引所はPBR(Price Book-value Ratio)が1倍割れしている企業に改善を要請し、PBRへの関心が高まるとともに、資本コストを意識したROIC経営も注目されました。さらに、PBRの高い企業はROICを基準に事業ポートフォリオを再構築し、適切なKPI設定で収益能力を向上させており、これがROIC経営注目の要因となっています。

CLOや物流リーダーがROICを重要視すべき理由

従来、物流部門は「コストを下げる」ことだけが求められがちでした。しかし今や、物流はスピード・柔軟性・安定供給などを通じて付加価値を提供する存在となっています。つまり、物流は「価値創造の源泉」に変わりつつあり、単にコストを削るだけでなく、投じた資本がどれだけ利益につながったか(ROIC)で、部門の貢献度を示すことが重要です。

中長期的な意思決定に有効

損益計算書(PL)は、短期的な「収益-コスト」の差を示しますが、そこには資本をどの程度効率よく使っているかという視点が欠けています。たとえば、以下のようなケースは考えられないでしょうか。

過剰在庫と追加投資による資本効率の低下

売上は上がっているものの、在庫が異常に積み上がり、倉庫拡張や追加要員に多額の資本が眠っているケースです。この場合、長期的に見て効率が悪くなる可能性があります。

ROICを見れば、どれくらい資本を活用できているかが一目でわかるため、「もう少し在庫を減らせないか」「倉庫効率を上げる投資は正しいか」を考え直すきっかけとなります。

設備投資の過剰と遊休資産の発生

市場拡大を見越して高額な自動化設備を導入したものの、需要予測が外れて活用率が低下し、倉庫の一部や新型マテハン機器が遊休状態になっているケースです。短期的な売上は維持できても、使われない設備という資本を抱え続けることで、ROICが下がり、長期的な資本効率の悪化を招きます。

過剰な輸配送キャパシティと投下資本の塩漬け

新規顧客獲得や流通チャンネル拡大を視野に、輸配送ネットワークを大幅に増強したものの、想定した物流量に届かず、トラックやセンターが余剰稼働状態に陥るケースが挙げられます。こうした余剰インフラは、売上が一定水準でも無駄な固定費と“寝かせた資本”を生み出し、結果的にROICを下げ、長期的な資本効率の観点からは非効率な経営状態を生んでしまいます。

部門間連携の武器になる

ROICは企業全体の資本効率に関わるため、営業や生産、財務など他部門と議論する際にも有用です。

「この在庫戦略でROICはどう変わるか?」「新規設備投資で本当にROICは改善するか?」という共通言語を持つことで、サプライチェーン全体での最適化が進みます。

資本コストを意識した投資判断

ROICを参照することで、企業が投下する資本が資本コストを上回るリターンを生み出しているかを明確化できます。これにより、物流に関する投資判断において「割に合う」案件を選別し、非効率な取り組みを見直すことが可能となります。

資本コスト超過への早期対応と軌道修正

たとえば、特定の物流拠点への投資が予想したリターンを生まず、ROICが資本コストを下回る状態が続くとしましょう。早期にこの問題を察知できれば、増設計画を凍結したり、余剰設備を売却したりといった戦略的な軌道修正が可能になります。こうした対応により、必要以上に資本を寝かせることなく、長期的な収益性と効率を維持できます。

持続的な競争力の確保

ROICを改善し続ける取り組みは、長期的な競争力確保にも直結します。同業他社が売上拡大やコスト削減を目指す中、資本効率という観点で優位に立てば、ただ「規模が大きい」だけではない、本質的な差別化が図れるようになります。

長期的視点での資本効率改善による競合優位

たとえば、継続的に在庫回転率を改善し、設備投資のROIを高めている物流組織は、景気変動や市場環境の変化に柔軟に対応できます。これにより、価格競争や供給制約が発生しても、他社よりも効率よく資源を活用し、安定的な供給と利益確保を実現できるのです。結果的に、ROIC重視の姿勢が、持続的な競合優位性の源泉となります。

物流領域でROICを改善するためにできること

物流領域でROICを改善するためには、以下のように多岐にわたる施策が求められます。

在庫管理の最適化

在庫は投下資本の代表的存在です。過剰在庫は資本を眠らせ、欠品は販売機会を逃し、結果として利益機会を減少させます。適正な在庫水準を保ち、在庫を「必要なモノを、必要な時、必要な量だけ」保有することで、資金を効率的に活用できます。

需要予測の強化

データ分析やAI予測を活用し、精度の高い需要計画を策定して過剰在庫・欠品を抑制します。

在庫の持ち方の改善

在庫を資本として捉え、過剰在庫による資金ロスや欠品による売上機会損失を最小化します。

在庫回転率アップ

動きの鈍い商品は仕入れ抑制、回転の速い商品を重点管理することで限られた資本でより効率的な販売を実現し、結果的にROICを高めます。

倉庫・設備の効率アップ

倉庫や設備への投資は大きな資本投入となるため、その成果がROICに直結します。最適なレイアウトや設備投資は、生産性向上とコスト削減を同時に実現でき、結果的に投下資本当たりの利益率を改善します。

倉庫レイアウトの見直し

作業動線を短縮し、作業効率と出荷スピードを上げることで、同じスペースと資本でより多くの商品を扱えるようにします。

自動化・IT投資の厳選

物流システムや自動化ラインなど、大きな投資となる設備導入前に費用対効果を徹底検証します。より少ない在庫やスペースで同等以上の出荷能力を確保できれば、その設備投資は資本効率を高め、ROIC改善につながります。

輸配送コストの改善

輸送費は物流コストの大半を占めるケースも多く、その削減はROIC改善に直結します。

ルート最適化

効率的な配車や積載率向上により輸送費を削減すれば、同じ資本でより多くの商品を動かせます。

モーダルシフト・共同輸配送

環境やコスト面で有利な輸送手段への切り替えや、他社との共同配送でコストを下げ、資本効率を底上げします。

サプライチェーン全体での連携強化

部分最適ではなく、サプライチェーン全体を見渡した連携強化が重要です。

S&OP(販売・生産・在庫計画統合)の徹底

営業・生産・物流が連携し、需要と供給を調和させることで無駄な在庫を減らし、資本を有効活用します。

サプライヤーとの協業強化

納期短縮や仕入れロットの最適化、VMI(ベンダー管理在庫)の活用など、外部パートナーと協力してサプライチェーン全体の資本効率を向上させます。

人材育成・組織文化の変革

最後に、ROICを理解し実践するための人的基盤づくりが欠かせません。

財務指標教育の実施

物流担当者にもROICの概念を共有し、日々のオペレーションが資本効率改善にどうつながるかを理解させます。

KPIの設定と評価

在庫回転率、倉庫稼働率、輸送コスト削減率などROIC改善に直結する指標をKPIとして設定し、その達成度を評価・報酬に反映することで、組織全体が資本効率向上に取り組む文化を醸成します。

物流領域のROIC改善には物流DXコンサルティングが有効

物流領域でROICを改善するためには、上記のように多岐にわたる施策が求められます。しかし、それぞれに専門性が必要なため、自社だけで取り組むのは難しいこともあるでしょう。その際には、物流DXコンサルティングの活用が有効です。専門家の支援を受けることで、課題を明確化し、効率的に成果を上げるアプローチを構築できます。

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著者プロフィール / 菅原 利康

株式会社Hacobuのマーケティング担当

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