更新日 2025.06.03

エントロピー増大の法則とは?物流にも関係する法則の概念や混乱を防ぐ仕組みづくりのヒントを解説

エントロピー増大の法則とは?物流にも関係する法則の概念や混乱を防ぐ仕組みづくりのヒントを解説

物流の現場では、日々の業務の中で作業効率の向上や正確性の維持に努めていても、どうしても混乱や非効率が発生してしまうと感じられることはないでしょうか。実は、そのような現象は、自然界にも共通する法則と深く関係しています。

たとえば、整然と整理された倉庫も、時間の経過とともに乱れが生じていきます。情報のやりとりも、仕組みがなければ次第に煩雑になり、ミスや無駄を生む原因となります。このように、放っておけば物事が「秩序ある状態」から「無秩序な状態」に向かう傾向があるというのが、エントロピーという概念です。

本記事では、「エントロピー増大の法則」という物理学の基本法則をベースに、物流現場で起きる混乱や非効率がなぜ生じるのか、そしてどう防げるのかについて、物流DXパートナーのHacobuが解説します。

エントロピー増大の法則とは?物流部門にも影響する自然の原則

エントロピーとは何か

エントロピーとは、「仕組みの中がどれだけ散らかっているか」を表す概念です。

ここでいう「仕組み(=システム)」とは、たとえば「倉庫内の在庫管理」や「配送ルートの運用」といった、物流現場での一連の流れや枠組みのことを指します。つまり、現場のルールや情報が徐々に混乱していく傾向の度合いを表すものと理解すると良いでしょう。

熱力学第二法則=放っておくと物事は乱れる

ここで少し、エントロピーに深く関わる「熱力学第二法則」についてご紹介します。

これは物理学における基本的な法則のひとつで、「外部とやり取りのない閉ざされた状態では、エントロピー(無秩序さ)が常に増大していく」という原則です。

つまり、何の手も加えなければ、物事は自然と秩序を失い、混乱に向かうという性質を持っているということです。

参考:熱力学講義ノート

物流現場におけるエントロピーの例

倉庫や配送現場に自然発生する「乱れ」

物流現場では、以下のような形でエントロピーが日々増大しています。

  • 棚入れルールを守らないことで生じる在庫の乱れ(例:同じ商品が異なる棚に置かれていたり、在庫数が帳簿と一致しない)
  • 手書きの伝票が増えることで発生するミス(例:品番や数量の記入ミス、文字の読み違えによる誤出荷、入力漏れによる在庫数不一致)
  • 誰でも使えるシステムが、更新ルール不在で混乱する(例:誰かが商品名を独自の表記で入力したり、在庫数を手動で変更しても履歴が残らず、どの情報が正しいのかわからなくなるなど)
  • 生産計画や納入計画に対して、車両の入場計画が適切に立てられておらず、搬入が集中することで工場や倉庫内に製品が滞留し、混雑や仕分けの遅延が発生する

情報のエントロピーも重要

物理的な在庫だけでなく、情報のエントロピー(乱雑さ)も無視できません。メール、Excel、紙帳票、口頭伝達などバラバラの情報管理が、業務ミスや遅延を招く原因になります。

エントロピーの法則から学ぶ物流改善のヒント

秩序は放っておくと維持できない

現場を整えたとしても、維持するにはエネルギー(時間・労力・管理)が必要です。倉庫のレイアウト変更や、棚番ルールの徹底も、継続的な運用なしには意味がありません。

混乱を防ぐには「エントロピーへの抵抗」が必要

エントロピーに抵抗するには、シンプルで徹底した運用ルールや標準化された手順が効果的です。たとえば以下のような取り組みが挙げられます。

  • 定期的な棚卸しとルール見直し
  • 物流システム導入による業務の自動化、情報共有の効率化
  • 教育と習慣化による運用レベルの平準化

情報も「整理整頓」が必要

デジタル化が進んだ現場においても、情報の管理が適切に行われなければ、業務の効率は大きく損なわれる可能性があります。クラウド管理、マスターデータ統合、システム間のAPI連携といった取り組みにより、情報の秩序を維持することが重要です。

エントロピーに抵抗する物流改善アイデア

ケース①:自動仕分け導入でヒューマンエラー削減

仕分け作業を手作業から自動化に切り替えることで、人的ミスの発生頻度が大幅に低下し、作業手順の標準化と品質の安定を実現します。

ケース②:5S活動で“低エントロピー”な職場づくり

整理・整頓・清掃・清潔・しつけの5S活動を徹底することにより、業務におけるミスや無駄の発生が抑制されます。エントロピー(無秩序さ)を抑える職場文化の定着が、持続的な改善を支える重要な要素となります。

ケース③:物流システム導入で情報の一元管理を実現

複数の業務が紙やExcelベースで個別に運用されている現場に、物流システムを導入することで、情報の散逸や伝達ミスが大幅に減少します。各種情報がリアルタイムで同期されることで、判断の迅速化と業務の整合性向上につながり、情報エントロピーの抑制に大きく寄与します。

たとえば、トラック予約受付システムMOVO Berth(ムーボ・バース)を活用することで、生産計画や納入計画と車両の入場計画を連携させ、搬入の集中による構内の混雑や現場の混乱を未然に防ぐことが可能になります。

まとめ:エントロピーを意識すれば、物流の持続的改善が見えてくる

物流現場で自然に起きる「乱れ」や「非効率」は、エントロピー増大の法則によって説明できます。しかし、この法則を理解すればこそ、意図的に秩序を維持する仕組みづくりが可能になります。

  • 整理整頓は一時ではなく、維持が重要
  • 情報も物流資源のひとつ。見える化と統一管理がカギ
  • エントロピーと戦うには、ルール・仕組み・継続の三位一体が必要

物理の法則そのものを変えることはできませんが、現場の運用や仕組みは工夫次第で改善可能です。

その第一歩は、「なぜ混乱が起こるのか?」を理解することから始まります。

著者プロフィール / 菅原 利康
株式会社Hacobuが運営するハコブログの編集長。マーケティング支援会社にて従事していた際、自身の長時間労働と妊娠中の実姉の過労死を経験。非生産的で不毛な働き方を撲滅すべく、とあるフレキシブルオフィスに転職し、ワークプレイスやハイブリッドワークがもたらす労働生産性の向上を啓蒙。一部の業種・職種で労働生産性の向上に貢献するも、物流領域においてトラックドライバーの荷待ち問題や庫内作業者の生産性向上に課題があることを痛感し、物流領域における生産性向上に貢献すべく株式会社Hacobuに参画。 >>プロフィールを見る

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