更新日 2025.06.16

需要予測とは?概要や具体的な手法、成功事例をわかりやすく解説

需要予測とは?概要や具体的な手法、成功事例をわかりやすく解説

需要予測は、今後どれだけの商品やサービスが求められるかを見積もる取り組みです。販売計画や在庫管理、サプライチェーンの効率化など、幅広い業務に活用され、企業の意思決定を支える重要な要素となっています。

最近では、AIや機械学習の技術が進化し、より精度の高い予測が可能になってきました。勘や経験だけに頼らず、データに基づいた判断が重視される時代において、需要予測の役割はますます大きくなっています。

本記事では、物流DXパートナーのHacobuが需要予測の基本から種類、活用の考え方までをわかりやすく解説します。

需要予測とは

需要予測とは、今後ある一定期間に、どれだけの商品やサービスが求められるのかを予測する取り組みのことを指します。企業が在庫を最適化したり、生産計画を立てたり、販売戦略を策定する上で欠かせない要素であり、事業の根幹を支える重要なプロセスです。

従来は過去の販売実績や市場動向をもとにした人の勘や経験に頼るケースも多く見られましたが、近年ではAIや機械学習などの技術の進展により、より高精度かつスピーディーに予測を行うことが可能になってきました。

需要予測の役割

需要予測の最大の役割は、意思決定の精度を高めることにあります。たとえば、予測に基づいて過不足のない在庫を準備することができれば、欠品による機会損失や過剰在庫によるコストの増加を防ぐことができます。また、販売促進のタイミングや価格戦略の設計にも需要予測が活用されることで、より効率的な施策を実現できます。

さらに、需要予測は企業内だけでなく、サプライチェーン全体の最適化にも寄与します。たとえば、製造業では原材料の調達計画や生産ラインの稼働調整に、流通業では物流の計画に活かされるなど、部門を超えて組織全体のパフォーマンスを高める鍵となっています。

需要予測の種類(短期・中期・長期)

需要予測には、目的や対象期間に応じて大きく3つの種類があります。それが「短期予測」「中期予測」「長期予測」です。

短期予測

短期予測は、数日から数週間、あるいは1〜3ヶ月程度の期間を対象とし、主に在庫管理や人員配置などのオペレーションレベルで活用されます。たとえば、飲食業や小売業では天候やイベントの影響を受けやすいため、直近の需要をきめ細かく把握するために短期予測が欠かせません。

中期予測

中期予測は、半年から1年程度を視野に入れた予測で、主に販促計画や生産体制の構築などに利用されます。製品のライフサイクルや市場の季節性を考慮しながら、中長期的な売上の見通しを立てることが目的です。

長期予測

長期予測は、1年以上先を見据えた戦略的な予測であり、新商品の開発、設備投資、海外展開といった経営レベルの判断に用いられます。特に近年のように社会・経済環境が変化しやすい状況では、長期予測においても柔軟性とリアルタイム性が求められています。

需要予測の具体的な手法

需要予測には大きく分けて「定性的手法」と「定量的手法」の2つのアプローチがあります。それぞれに特徴や活用シーンがあり、目的や状況に応じて使い分けることが重要です。ここでは、代表的な手法について具体的にご紹介します。

定性的手法(経験や専門家の知見を活用)

定性的手法は、数値データではなく、人の知見や判断をもとに将来の需要を予測する方法です。新商品の需要予測や市場が大きく変動する状況など、過去のデータが活かしにくい場面で効果を発揮します。

市場調査

市場調査は、消費者へのアンケートやインタビューを通じてニーズや購買意欲を把握し、それをもとに需要を見積もる方法です。新商品やサービスのリリース前など、市場の反応が読みにくいタイミングで有効です。調査結果から得られる定性的な情報は、商品開発やプロモーション戦略の検討にも役立ちます。

デルファイ法

デルファイ法は、複数の専門家に対して匿名で意見を求め、それを数回にわたって集約・フィードバックしながら合意を形成していく手法です。各分野の知見を活かしながら、客観性と説得力のある予測を導き出せる点が特徴です。新規事業の市場規模予測や長期的なトレンド分析などに向いています。

定量的手法(データを活用した分析)

定量的手法は、過去の販売実績や外部データをもとに数値的な分析を行い、需要を予測する方法です。再現性や客観性に優れており、データの蓄積がある企業にとっては非常に有効なアプローチとなります。

移動平均法

移動平均法は、過去の売上データの平均を一定期間ごとに計算し、需要の傾向を滑らかに捉える手法です。季節性や突発的な変動の影響をならすことで、安定した予測が可能になります。比較的シンプルな計算で導入しやすいため、多くの企業で広く活用されています。

回帰分析

回帰分析は、売上に影響を与えると考えられる要因(価格、広告費、気温など)との相関関係を数式で表し、今後の需要を予測する方法です。複数の変数を扱える多変量回帰分析を活用すれば、より複雑なビジネス環境にも対応可能です。因果関係の把握と予測の両立を目指す場合に適しています。

時系列分析(ARIMA、SARIMA など)

時系列分析は、時間の経過に沿ったデータの変動パターンを分析し、将来の値を予測する方法です。ARIMAやSARIMAといったモデルは、トレンドや季節性、ランダムな変動要素を加味して高精度な予測を実現します。売上やアクセス数のように、時間とともに蓄積されるデータに対して効果的です。

AI・機械学習を活用した予測

近年注目を集めているのが、AIや機械学習を活用した需要予測です。膨大なデータをもとに複雑なパターンを自動で学習し、従来の統計モデルでは捉えきれなかった変動にも対応可能です。ディープラーニングや勾配ブースティングといった技術を用いることで、高精度かつリアルタイム性のある予測が実現できます。変化の激しい市場環境や、多様な要素が絡む需要の見極めにおいて、今後ますます欠かせない手法となっていくでしょう。

需要予測の課題と対策

需要予測は多くのメリットをもたらす一方で、実務で活用する中ではいくつかの課題にも直面します。ここでは、代表的な課題とその対策について紹介します。

データの偏りや不足

予測の精度を左右する最大の要因は、やはりデータの質です。特に、データが過去の一部の期間や特定の商品に偏っていたり、記録が欠損している場合、予測結果も現実と乖離するリスクが高くなります。また、新商品のように過去データがそもそも存在しないケースでは、定量的な予測が難しくなります。

このような課題に対しては、まず社内のデータ収集・管理体制を見直し、必要な情報を網羅的かつ継続的に蓄積できる仕組みを整えることが重要です。また、新商品の予測には市場調査や類似商品のデータ、外部データの活用など、複数の手段を組み合わせることで補完が可能です。

予測モデルの精度向上

モデルを使った予測がうまくいかない場合、その原因は必ずしも手法にあるとは限りません。予測対象に適した手法を選べていない、変数の選定が不適切、もしくはモデルが過学習を起こしているなど、さまざまな要因が考えられます。

予測精度を高めるには、モデル構築後も定期的に精度を検証し、必要に応じて再学習や変数の見直しを行うことが不可欠です。また、複数の手法を比較検証することで、より実務に適したモデルを見つけやすくなります。経験の浅いチームであれば、まずはシンプルなモデルから始め、徐々に高度な分析へと段階的に進めることも効果的です。

突発的な市場変化への対応

予測モデルは基本的に「過去の傾向」に基づいて未来を見通すものです。そのため、自然災害やパンデミック、急激な需要変動といった突発的なイベントが起きると、予測とのズレが生じやすくなります。

このようなリスクに対応するには、単一の予測に依存せず、複数のシナリオを用意して柔軟に対応できる体制を整えることが大切です。たとえば、最良・最悪・標準の3パターンを想定し、それぞれに応じた計画を事前にシミュレーションしておくことで、不確実性に備えることができます。また、リアルタイムデータを活用し、状況の変化に応じてモデルを即時に更新できる仕組みも、将来的には大きな武器となります。

需要予測を成功させるポイント

需要予測を効果的に活用するためには、単に手法を導入するだけでは不十分です。予測の精度を高め、実際の業務に役立てていくためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。ここでは、需要予測を成功させるために特に重要とされる4つの視点を紹介します。

高品質なデータの収集と管理

需要予測の土台となるのは、信頼性の高いデータです。過去の販売実績はもちろん、在庫データ、顧客情報、販促履歴など、多様なデータを正確に収集・蓄積することが求められます。特に、データの粒度が粗すぎたり、記録に抜け漏れがあったりすると、分析の精度に大きな影響を及ぼします。

また、データがバラバラのシステムに分散していたり、更新頻度が不十分だったりすると、リアルタイムな判断が難しくなります。そのため、統一された基準でデータを整理・整備し、常に最新の状態を保てるようなデータ基盤の構築が重要です。

適切な分析手法の選定

どれだけデータを整えても、分析手法が適切でなければ、期待する精度の予測は得られません。商品やサービスの特性、予測の目的、対象期間などによって、最適な手法は異なります。たとえば、短期的な売上の予測には時系列分析が効果的ですが、長期的な市場動向の見極めには、回帰分析やAIによるアプローチが有効な場合もあります。

現場の課題に対して「どのような視点で予測を立てたいのか」を明確にした上で、目的に合った分析手法を選定することが重要です。また、初期の段階では複雑なモデルよりも、シンプルで運用しやすい手法から始めるのも一つの有効なアプローチです。

外部要因(経済動向・天候・イベントなど)の考慮

需要は内部のデータだけでは読み切れない外的要因にも大きく左右されます。たとえば、季節や天候、祝日・大型イベント、さらには為替や金利などの経済動向も需要変動に影響を与える要素です。

そのため、これらの外部要因を予測モデルに組み込むことで、より実態に即した需要予測が可能になります。たとえば、小売業であれば気温や天候が売れ行きに直結する商品が多く、イベントやセール時期の影響を加味した予測を行うことで精度を高めることができます。

継続的なモデルの改善とアップデート

需要予測は、一度モデルを作って終わりではありません。市場環境や消費者の行動は日々変化しており、それに応じて予測モデルも見直しと改善を繰り返す必要があります。

定期的に予測結果と実績値を比較し、ズレの要因を分析することで、モデルの精度は徐々に向上します。また、ビジネスの成長に伴って扱うデータの種類や量が変わることもあるため、柔軟に対応できる運用体制を整えることも重要です。

予測を「使い続ける仕組み」として育てていく姿勢が、継続的な業務改善や意思決定の質の向上につながっていきます。

需要予測ならMOVO PSI

需要予測は、現代のビジネスにおいて競争力を高めるための重要な武器です。適切なデータの整備と手法の選定、外部要因の考慮、そして継続的な改善を通じて、予測の精度を高めていくことが可能です。

一方で、データの偏りや突発的な変化といった課題にも常に向き合う必要があります。そうした不確実性に対しては、柔軟で持続可能な予測運用体制を築くことが重要です。

需要予測は一度導入して終わりではなく、育てていくプロセスそのものがビジネスの成長に直結します。今後の意思決定の質を高めるためにも、自社に合った予測の仕組みを見直してみてはいかがでしょうか。

なお、Hacobuでは生産・販売・在庫情報管理サービス MOVO PSIを提供しています。MOVO PSIは、企業の枠を超えて、生産・販売・在庫情報を管理し、「発送に着目した発注量の平準化」を実現します。

MOVO PSIには2つのAI(機械学習)モデルが搭載されています。1つ目は卸売業や小売業からの受注を予測することで、在庫の変動を正確に把握し、必要なタイミングで必要な量を手当てできるようにします。2つ目は膨大な補充パターンを分析し、必要最低限の補充数量を毎日一定に保つための最適な方法を割り出し、現場の実務を強力に支援します。

MOVO PSIで出来ること

トラック台数の抑制

AIを活用し、輸送コストを抑制する最適な納品タイミングとなる発注数を自動計算します。

在庫・荷役の適正化

無駄な在庫=無駄な発送を減らすことで、荷役作業を効率化しつつ、キャッシュフローを改善します。

業界全体の輸配送効率化のためのデータを蓄積

社会全体の輸送効率向上を推進し、共同輸配送やBCP対応など社会課題に貢献します。

キリンビバレッジとアサヒ飲料の「輸送量平準化」の実証実験と成果

Hacobu、キリンビバレッジ、アサヒ飲料は、MOVO PSIのβ版を活用した発注数量の平準化を目的としたVMI拠点での実証実験を実施してきました。キリンビバレッジは、2023年10~11月の2か月のデータを用いて実験を実施。結果として、輸送コストを約9.1%削減することに成功し、在庫日数も約13.2%削減しました。実験に当たっては、例えば最低発注ロットなど実際のオペレーションと同じ条件を適用することで、導入時でも同等以上の効果が出せることを確認しています。アサヒ飲料は2024年3月~4月に実証実験を実施。より発注条件が厳しく、年始の需要変動が大きく難易度の高い2024年1月~2月の期間のデータを対象に実験しましたが、こちらも輸送コストを約6.2%削減、在庫日数を約6.5%削減することに成功しました。

著者プロフィール / 菅原 利康
株式会社Hacobuが運営するハコブログの編集長。マーケティング支援会社にて従事していた際、自身の長時間労働と妊娠中の実姉の過労死を経験。非生産的で不毛な働き方を撲滅すべく、とあるフレキシブルオフィスに転職し、ワークプレイスやハイブリッドワークがもたらす労働生産性の向上を啓蒙。一部の業種・職種で労働生産性の向上に貢献するも、物流領域においてトラックドライバーの荷待ち問題や庫内作業者の生産性向上に課題があることを痛感し、物流領域における生産性向上に貢献すべく株式会社Hacobuに参画。 >>プロフィールを見る

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