更新日 2025.06.24

エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの違いとは?役割と連携について解説

エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの違いとは?役割と連携について解説

製品を世に送り出すまでには、企画から設計、製造、物流、販売といった多くのプロセスが関わります。その中でも、「エンジニアリングチェーン」と「サプライチェーン」は、企業の競争力を左右する重要な要素です。似たような言葉ですが、役割や対象範囲には明確な違いがあります。本記事では、この2つの違いや、エンジニアリングチェーンの構成、注目される背景などについて物流DXパートナーのHacobuが解説します。

エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの違い

エンジニアリングチェーンとサプライチェーンは、製品のライフサイクルにおける異なるフェーズを担っています。

エンジニアリングチェーンは、製品の企画・設計から製造準備までのプロセスを指します。設計図や部品表、製造手順など、モノづくりの出発点となる情報を整理・連携する役割を担います。

サプライチェーンは、部品の調達から製造、在庫管理物流、販売まで、製品を顧客に届けるまでの流れ全体を指します。モノと情報の動きを管理し、コスト・納期・品質の最適化を目指す仕組みです。

エンジニアリングチェーンが「どんな製品をどうつくるか」を決めるプロセスであるのに対し、サプライチェーンは「決まった製品をどう届けるか」にフォーカスしています。この2つがうまく連携することで、製品の品質・コスト・納期が最適化され、企業の競争力につながります。

エンジニアリングチェーンとは

設計から製造準備までの「前工程」を支える流れ

エンジニアリングチェーンは、製品のライフサイクルにおける「企画」「設計」「試作」「工程設計」など、モノづくりの出発点を担うプロセスを網羅します。これは「設計情報の流れ」とも呼ばれ、製品構想から製造に引き渡すまでに必要な技術情報や業務が連携する仕組みです。

製品設計の精度や情報伝達の効率が、後続の生産・供給プロセスの成否に直結するため、非常に重要な役割を果たします。

主な構成要素と関係部門

エンジニアリングチェーンを構成する主な要素には、以下のような業務やシステムが含まれます。

  • 製品企画・仕様決定(マーケティング、開発)
  • CADによる設計(設計部門)
  • BOM(Bill of Materials:部品表)管理
  • 工程設計・設備設計(生産技術部門)
  • 技術文書・図面の管理(技術文書管理部門)

また、これらの情報を一元管理・共有するために、PLM(Product Lifecycle Management)やPDM(Product Data Management)といったシステムの導入が進んでいます。

近年注目される背景

エンジニアリングチェーンが近年注目されている背景には、製品の多様化や短納期化といった市場の変化があります。顧客ニーズにスピーディーに応えるには、設計から生産準備までのリードタイムをいかに短縮できるかが鍵となるためです。

また、グローバルに拠点を展開する企業が増えたことで、複数の拠点間での共同設計・開発が一般化し、部門や地域をまたぐ情報共有の仕組み整備も欠かせなくなっています。さらに、デジタルツインスマートファクトリーといった最新技術との連携も進んでおり、設計データをIoTやAIとリアルタイムに連動させることで、製造プロセスの高度化が求められています。

こうした流れを受けて、エンジニアリングチェーンの効率化と高度化は、DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の中でも重要なテーマとして位置づけられています。

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サプライチェーンとは

調達〜生産〜物流までの“後工程”を支える仕組み

サプライチェーンは、製品を最終的に顧客のもとへ届けるまでの一連のモノの流れを指します。具体的には、原材料の調達、部品の製造、組立、在庫管理、物流、販売といった「後工程」が対象となります。

この流れの中で「いかにムダなく、スピーディーに、品質を保って届けるか」がサプライチェーンの役割であり、コスト削減や納期短縮、在庫最適化など、企業経営に直結する指標にも大きく影響を与えます。

近年では、環境負荷の低減やトレーサビリティ(追跡可能性)の確保といった視点も加わり、持続可能なサプライチェーンの構築が重視されています。

SCMとの関係と役割

SCM(サプライチェーンマネジメント)は、このサプライチェーン全体を最適に管理・統合するための考え方や手法を指します。従来は部門ごとに最適化されていた調達、生産、物流などを、全体の視点で管理することで、企業の競争力を高めることが目的です。

SCMでは、需要予測や在庫管理、生産計画の調整、取引先との連携などをリアルタイムに行うため、ITシステムやAI・IoTの活用が進んでいます。また、エンドツーエンド(End to End)での見える化や、異常発生時の迅速な対応なども重要な役割となっています。

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エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの関係性

エンジニアリングチェーンとサプライチェーンは、製品開発から市場への供給までを担う「モノづくりの両輪」です。それぞれが異なるフェーズを担当しながらも、密接に連携することで初めて、企業としての競争力を発揮できます。

エンジニアリングチェーンは、製品の企画や設計、試作、製造準備といった「どんな製品をどう作るか」を決める工程です。この段階で作成された設計情報や部品構成表(BOM)、製造手順は、サプライチェーンの起点となる非常に重要なインプットになります。

一方、サプライチェーンは、その決まった設計に基づいて原材料を調達し、生産・物流・在庫管理・販売までを担う「製品をどう届けるか」の工程です。ここでは、納期やコスト、在庫の最適化といった実行力が問われます。

この2つのチェーンがうまく連携していないと、設計変更が現場に伝わらず、旧仕様のまま部品が手配されたり、生産スケジュールにズレが生じたりするなど、現場でのトラブルやロスの原因になります。特に多品種少量生産が主流となっている今、設計と供給の連携スピードがビジネスの成否を左右します。

そのため、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの情報をリアルタイムかつ正確に連携させる仕組みづくりが、製造業においてはますます重要になっています。PLM(製品ライフサイクル管理)やERP(基幹業務システム)、MES(製造実行システム)、SCM(サプライチェーンマネジメント)などの業務システムを連携させ、「設計~製造~供給」を一体的に運用する動きが広がっており、それがDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の重要な一歩にもなっています。

エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの連携における課題

エンジニアリングチェーン(設計〜製造準備)とサプライチェーン(調達〜製造〜出荷)の連携がうまくいかないと、製品化のスピードや品質に大きな影響が出ます。しかし、実際の現場では両者の間に多くの課題が存在しています。

情報の分断と属人化

設計データや部品情報、製造条件などが部門ごとに異なるフォーマットやツールで管理されているケースは少なくありません。その結果、情報の整合性が取れず、確認作業や再入力などのムダな工数が発生してしまいます。また、特定の担当者しか把握していない「属人化」も、情報のブラックボックス化を招く原因です。

部門間のサイロ化(縦割り構造)

設計、生産技術、購買、製造などの各部門が独自の目標やKPIに基づいて動いていると、全体最適よりも部分最適が優先されてしまいます。結果として「設計変更が現場に伝わらない」「部品手配のタイミングがズレる」といったすれ違いが頻発し、コストや納期のロスに繋がります。

システム連携の不備

PLM・PDM・ERP・SCMなど、各フェーズで使われるシステムが連携されていない、あるいは連携の仕組みが複雑すぎる場合、必要な情報がリアルタイムで共有できません。たとえば、PLMで変更された部品情報がERP側に自動反映されないと、誤った発注や生産計画の遅延が発生します。

部品調達・在庫管理のズレ

エンジニアリングチェーン側の設計変更や試作の進行が遅れることで、サプライチェーン側での部品手配や在庫管理が先行してしまうことがあります。結果として「使われない部品の過剰在庫」「必要な部品が手配できない」などの需給ミスマッチが生じ、余計なコストや遅延を招きます。

計画変更への柔軟性がない

市場の変化や顧客ニーズに対応するためには、設計や生産計画の変更に柔軟に対応できる体制が必要です。しかし、チェーン間の情報連携が不十分だと、変更内容が正しく伝わらない、反映に時間がかかる、現場が混乱するといった問題が発生します。これが結果的に、リードタイムの延長や製品不良の原因になることもあります。

エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの連携における課題

エンジニアリングチェーンとサプライチェーンは本来連携して動くべきですが、実際の現場ではこの連携に課題を抱えている企業も少なくありません。以下では、代表的な課題を5つ紹介します。

情報の分断と属人化

設計・製造準備に関する情報が、部門ごとに異なるフォーマットやシステムで管理されていると、必要な情報が関係部門に正確・迅速に共有されないという問題が生じます。たとえば、設計変更があった際にその情報が製造部門に伝わらなければ、不良や手戻りの原因になります。

また、情報管理が特定の担当者に依存している場合、引き継ぎや共有がうまくいかず、業務が停滞したりミスが起きたりするリスクが高まります。

部門間のサイロ化(縦割り構造)

設計、調達、生産などの各部門が独立して動いている(サイロ化)と、全体の最適化が難しくなります。たとえば、設計部門は製品仕様の最適化を追求する一方で、調達部門はコストや納期を重視する傾向があり、目的の違いから意見がすれ違うことも多くあります。

結果として、設計変更が調達に伝わるのが遅れたり、最適でない部品が手配されたりといった連携ミスが発生します。

システム連携の不備

PLMやPDM、ERP、SCMなどの業務システムが部門ごとに分断されていると、システム間で情報がスムーズにやり取りできず、データの二重管理や手入力作業が発生します。

こうした状況では、設計変更や工程更新が即座に反映されず、旧情報に基づいた調達・生産が進んでしまうといったリスクも。システム連携の仕組みづくりが不十分だと、連携のスピードと正確性に支障をきたします。

部品調達・在庫管理のズレ

設計変更や工程変更が調達部門に正しく共有されていないと、不要な部品を発注してしまったり、必要な部品が不足するといったズレが生じます。これは在庫の過剰・不足を招き、無駄なコストや納期遅延の原因になります。

特に多品種少量生産を行っている現場では、このような情報の行き違いが生産性に大きな影響を与えるため、連携ミスのリスクは無視できません。

計画変更への柔軟性がない

市場や顧客のニーズ変化、サプライヤー側の事情などにより、設計や生産計画は日々変わりうるものです。しかし、部門間連携が不十分な場合、変更の伝達に時間がかかり、現場が柔軟に対応できないという問題が生じます。

たとえば、設計変更を反映した製造手順が現場に届くのが遅れた結果、旧仕様で製造が進行してしまい、大量の手戻りや廃棄が発生するといった事態にもなりかねません。

エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの連携に向けておこなうべきこと

エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの連携を強化するには、単にツールを導入するだけでなく、情報・体制・プロセスの各面から見直しを行う必要があります。ここでは、具体的に取り組むべき4つのポイントを紹介します。

情報の共通化と構造化

まずは、設計〜調達〜製造に関わる情報を共通の形式・ルールで管理する仕組みを整えることが重要です。部門ごとに異なる表現や管理方法を使っていては、情報の連携がスムーズにいきません。

たとえば、BOM(部品表)や図面、製造指示などのデータを構造化し、誰が見ても同じ意味で理解できる状態にすることで、情報の再解釈や手戻りを防ぐことができます。共通辞書や命名ルールの整備も有効です。

基幹システムの連携強化

PLM、PDM、ERP、MESなどの各種システム間でのデータ連携は、情報のリアルタイム共有と更新を実現するための基盤となります。サイロ化したシステムでは、どこか一部が変わっても他に反映されず、全体最適が困難になります。

たとえば、設計変更がPLMで更新された際に、それがERPやSCMに即座に反映されるようなAPI連携やデータ連動の仕組みを整えることで、業務全体のスピードと精度が大きく向上します。

部門横断の連携体制をつくる

ツールやシステムを整備するだけでなく、それを運用する人や組織のあり方も見直す必要があります。設計・生産技術・調達・生産などの部門を横断した連携会議や専任プロジェクトチームの設置は、情報の伝達ロスや優先順位のズレを防ぐのに有効です。

また、全社的なKPIやOKRを設定することで、部門間での共通目標意識を育てることも、サイロ化の解消に役立ちます。

プロセスと役割分担の明確化

最後に、各プロセスにおける責任範囲やタスクの役割分担を明確にすることも欠かせません。設計変更が発生した場合に、誰が、いつ、どこまでの範囲で情報を更新・共有すべきかが曖昧だと、手戻りや見落としの原因になります。

業務フロー図やRACIチャート(責任・説明・相談・実行の役割分担表)などを用いて、現場レベルでの具体的な連携ルールを可視化することが重要です。

まとめ

エンジニアリングチェーンとサプライチェーンは、製品開発から市場投入までを一貫して支える両輪の存在です。両者がうまく連携することで、製品の品質や納期、コストの最適化が実現でき、企業全体の競争力にも直結します。

しかし現実には、情報の分断やシステム連携の不備、組織のサイロ化といった課題が存在し、連携が妨げられているケースが多くあります。そうした課題を解消するには、情報の標準化、システム連携、体制構築、プロセス設計といった多角的な取り組みが求められます。

製造業のDXやスマートファクトリー化が進む中、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの統合はますます重要なテーマとなっていくでしょう。今後は両者のシームレスな連携を前提とした業務設計・システム構築が、製造業の成長を左右するポイントになるといえます。

著者プロフィール / 菅原 利康
株式会社Hacobuが運営するハコブログの編集長。マーケティング支援会社にて従事していた際、自身の長時間労働と妊娠中の実姉の過労死を経験。非生産的で不毛な働き方を撲滅すべく、とあるフレキシブルオフィスに転職し、ワークプレイスやハイブリッドワークがもたらす労働生産性の向上を啓蒙。一部の業種・職種で労働生産性の向上に貢献するも、物流領域においてトラックドライバーの荷待ち問題や庫内作業者の生産性向上に課題があることを痛感し、物流領域における生産性向上に貢献すべく株式会社Hacobuに参画。 >>プロフィールを見る

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