MRP(Material Requirements Planning )とは?意味や仕組み、導入メリットから運用時の注意点について解説

製造業の現場では、「部品が足りずに生産が止まった」「在庫を抱えすぎてコストがかさんでいる」といった課題がつきものです。こうした問題の根本解決につながる仕組みが「MRP(Material Requirements Planning:資材所要量計画)」です。
MRPは、必要な資材を「いつ・どれだけ」用意すべきかを計算し、無駄のない生産と在庫管理を支援するシステムです。本記事では、MRPの意味や仕組み、導入メリットから運用時の注意点について、物流DXパートナーのHacobuが解説します。
MRP(資材所要量計画)とは
Material Requirements Planning の略
MRPとは「Material Requirements Planning」の略で、日本語では「資材所要量計画」と訳されます。
その名の通り、「製品を作るために、どの資材が、いつ、どれだけ必要になるのか」を計画するための管理手法です。
もともとは1960年代にアメリカで開発され、製造業の生産管理を効率化するために広く普及しました。現在ではERP(統合基幹業務システム)などの中にもMRPの仕組みが組み込まれており、多くの製造業で活用されています。
「いつ・どれだけ・何を」生産するかを計画する仕組み
MRPの中核にあるのは、「必要な資材を、必要なタイミングで、必要な分だけ手配する」という考え方です。これは製造業において、生産効率の最大化と在庫コストの最適化を両立させるために欠かせないアプローチです。
MRPの計算は、主に以下の3つの情報をもとに行われます。
生産計画(いつ・何を・どれだけ作るか)
MRPにおける出発点は、生産計画です。たとえば「製品Aを月末までに100台生産する」といった計画をベースに、そこから逆算して必要な資材の種類と数量を導き出します。
この計画が曖昧なままだと、その後の資材手配や在庫計算も不安定になり、調達ミスや生産遅延の原因となります。そのため、正確かつ現実的な生産計画の立案が非常に重要です。
在庫情報(今どれだけの資材があるか)
次に参照されるのが、在庫情報です。これは現在庫だけでなく、すでに発注済みで納品待ちの数量、他の生産で引き当てられている在庫も含めて把握する必要があります。
「必要な資材の総量」から「使える在庫」を差し引き、追加で調達すべき数量(純所要量)を正確に算出することで、過剰在庫や欠品といったリスクを最小限に抑えることができます。
部品構成表(製品を作るのに何が必要か:BOM)
部品構成表(BOM:Bill of Materials)は、製品を構成する部品や材料を階層的に記載したリストです。製品Aを1台製造するのに部品Bが2個、部品Cが3個必要というように、必要資材の関係性を定義します。
MRPではこのBOMをもとに、製品単位の生産計画を部品単位へと展開し、「どの部品が、いつ、何個必要か」を正確に算出します。
MRPの活用イメージ
たとえば、製品Aを10台製造する場合に、部品Bが1台あたり2個必要であるとします。
このとき、部品Bの必要量は20個です。
在庫として5個保有している場合、MRPは「不足している15個を調達すべき」と判断し、そのための発注スケジュールを自動で計画します。
さらに、調達に5日かかるというリードタイムが設定されていれば、納期に間に合うよう逆算して発注タイミングを提示するなど、実務レベルでの具体的なアクションにつなげることが可能です。
製造業でなぜ重要視されるのか
MRPが製造業で重要な役割を果たす理由は、主に「在庫管理」「生産スケジュールの最適化」「業務の標準化」という3つの観点にあります。
まず、MRPを導入することで、在庫の過不足を防ぐことができます。必要なときに必要な分だけの資材を手配できる仕組みが整うことで、過剰在庫による保管コストの増加や、欠品による生産遅延といったリスクを抑えることが可能になります。これにより、在庫水準の最適化が実現し、資材コストのコントロールにもつながります。
また、MRPは生産スケジュールと資材手配を連動させることができるため、「この日までにこの製品を完成させるには、どの資材をいつまでに準備すべきか」といった視点で計画を立てることができます。こうした逆算型の計画立案により、現場の混乱を防ぎながら、安定した生産体制の構築が可能になります。
さらに、従来は熟練の担当者による経験則や勘に頼っていた資材管理業務も、MRPを活用することでシステム上に落とし込むことができ、属人化を防ぐことができます。業務の標準化が進むことで、誰が担当しても一定の品質で計画が立てられるようになり、人員の入れ替えや業務引き継ぎの際のリスクも軽減されます。
このようにMRPは、生産計画・在庫・部品構成表(BOM)といった複数の情報を統合的に管理し、資材調達の最適化を支援する仕組みです。属人的な判断に依存せず、客観性と再現性のある生産体制を築くための基盤として、多くの製造業において導入が進められています。
MRPの仕組みと流れ
MRPは、「必要なときに必要なモノを、必要なだけ用意する」ことを目的に設計されています。
実際に、どのようなステップで資材手配が行われるのか、MRPの基本的な流れを3つのステップに分けてご紹介します。
① 需要予測にもとづく生産計画の立案
まず最初に行うのが、生産計画の立案です。これは、販売予測や受注情報などから「どの製品を、いつ、どれだけ作るか」を決めるステップです。
製造業では、製品を作るために多くの部品や資材が必要になります。そのため、生産計画が明確でなければ、後工程の調達計画もズレてしまう可能性が高くなります。MRPではこの生産計画が“起点”となり、すべての資材手配がここから逆算されていきます。
② 必要な部品・資材の算出
次に行われるのが、製品を構成する部品や資材の洗い出しです。ここで活用されるのが「部品表(BOM: Bill of Materials)」と呼ばれる情報です。
たとえば、製品Aを10個作る場合、部品Bが1個あたり2つ必要なら、合計で20個の部品Bが必要になるというように、BOMをもとに必要量を展開していきます。この計算を、一次部品だけでなく、部品を構成する部品(=多階層のBOM)にまで展開していくのがMRPの特徴です。
③ 所要量・在庫・リードタイムをもとに調達時期を決定
必要な部品の総数がわかったら、現在の在庫量や、すでに発注している数量を差し引き、実際に調達が必要な「純所要量」を算出します。そのうえで、資材の調達や製造にかかるリードタイム(納期までの時間)を考慮し、「いつまでに、どれだけ発注・手配すればいいか」を逆算して計画を立てます。
このプロセスによって、部品不足による生産遅れや、過剰な在庫を防ぐことができるのです。
MRPの導入で期待できる効果
MRPは単なる“資材手配のツール”ではなく、製造現場全体の効率と安定性を高めるための仕組みです。ここでは、実際にMRPを導入することで企業にもたらされる代表的な効果を3つご紹介します。
在庫の適正化(過剰・欠品の防止)
MRPの導入によって得られる最も大きな効果のひとつが、在庫の最適化です。
必要な資材を、必要なタイミングで、必要な分だけ調達できる仕組みが整うことで、在庫にまつわるさまざまな課題を解消することができます。
たとえば、過剰在庫を抱えてしまうと、その分の保管スペースが必要になり、倉庫コストが増加します。また、保管期間が長くなることで資材の劣化や廃棄リスクも高まります。一方で、在庫が不足してしまえば、生産ラインが停止したり、納期に間に合わなかったりと、顧客対応に大きな影響を及ぼします。
在庫は「多すぎても少なすぎても損失につながる」という非常にデリケートな領域です。MRPを活用することで、そうした在庫の過不足を防ぎ、必要なものを必要なときに供給できる体制が整います。結果として、無駄のない在庫管理が実現し、資材コストの圧縮や業務効率の向上にもつながります。
生産スケジュールの最適化
MRPを活用することで、生産計画と資材手配をシステム上で連動させることができ、現実的で実行可能なスケジュールを構築することが可能になります。
たとえば、「製品Aを○日までに完成させるには、必要な部品Bを×日までに調達しておく必要がある」といった具合に、納期を起点にした逆算でのスケジューリングが可能になります。
このような計画にもとづいて調達・生産を進めることで、突発的な遅延や急な調整対応といった現場の混乱を大幅に減らすことができます。
結果として、納期遵守率の向上や、生産現場における作業負荷の平準化につながり、全体としての生産性向上が期待できます。
属人性の排除と業務の標準化
従来の資材手配や生産スケジューリングは、経験豊富な担当者による判断に大きく依存しており、属人的な運用になりがちでした。こうした状態では、担当者の退職や異動によってノウハウが失われたり、業務の引き継ぎに時間がかかったりするリスクが常につきまといます。
MRPを導入することで、業務をシステム上にルール化・標準化することができ、誰が担当しても同じ品質で計画・手配が行えるようになります。
この仕組みは、新任者や異動者への教育時間を大幅に短縮する効果も期待でき、ミスの防止や再現性のある業務プロセスの確立にもつながります。属人的なノウハウに頼るのではなく、それを仕組みとして組織全体に展開していくことで、業務の安定性とスケーラビリティが飛躍的に高まります。
MRPを導入する際のポイント・注意点
MRPは非常に強力な仕組みですが、導入すれば即すべてがうまくいくというものではありません。
適切に機能させるためには、いくつかの前提条件や体制づくりが必要です。ここでは、MRP導入を成功させるために押さえておきたいポイントを解説します。
データ精度がカギ(BOM・在庫・リードタイム)
MRPは、「正確なデータをもとに計算を行う」仕組みであるため、入力情報の信頼性がそのまま計画精度に直結します。
もしデータが古かったり不正確だったりすれば、システムが導き出す資材の手配量やタイミングにもズレが生じ、結果的に生産計画全体の乱れを引き起こしかねません。
中でも特に重要なのが、部品構成表(BOM)、在庫情報、そしてリードタイムの3点です。
BOMについては、製品構成に変更が生じた際に、その情報が反映されていないと必要資材の算出に誤差が生じてしまいます。
在庫情報についても、システム上のデータと実際の在庫量に差異があると、不要な調達や資材不足といったトラブルの原因になります。
また、リードタイムが実態よりも短く設定されている場合には納期遅延のリスクが高まり、逆に長すぎる場合は不必要な早期手配で在庫を抱えることになります。
これらのデータ精度を維持するためには、定期的な見直しの運用を組み込むとともに、現場との密な情報共有体制を整えることが不可欠です。
MRPを効果的に機能させるには、「システムに入力されるデータは常に最新で正しい」という前提をいかに維持できるかが鍵となります。
計画通りに現場が動ける仕組みがあるか?
MRPは、理論上きわめて精度の高い資材計画を立てることが可能です。しかし、どれだけ計算結果が正しくても、実際の現場がその通りに動けなければ、その効果は限定的です。
たとえば、「必要な部品が予定通りに入荷しなかった」「加工工程の一部でトラブルが発生し、作業が遅れた」といったように、現場では常にイレギュラーが発生し得ます。
こうした現場のズレを前提とした運用ができていなければ、MRPは“計画倒れ”になってしまいます。そこで重要になるのが、実績情報を継続的に計画へ反映する「フィードバックループ」の構築です。
具体的には、資材の納入実績、生産の進捗状況、設備の稼働情報などをリアルタイムまたは定期的に取得し、それをもとに再度所要量やスケジュールを再計算する運用が必要です。
MRPは一度計画を立てて終わりではなく、「実行に即した見直し」ができる体制があってこそ、本来のパフォーマンスを発揮します。このようなPDCAサイクルの前提が整ってはじめて、MRPは単なるスケジューラーではなく、現場変化に対応できる柔軟な生産管理ツールとして機能します。
現場との連携・教育も重要
MRPはオフィスの中だけで完結するシステムではありません。実際に手を動かすのは現場であり、MRPの成果は現場オペレーションと密接に結びついています。
したがって、MRPを導入・運用する際には、システム上の計画と現場の実行力が乖離しないよう、現場との連携を丁寧に築いていくことが欠かせません。
まず導入時点で重要なのが、現場スタッフへの丁寧な説明です。
「なぜこのシステムを導入するのか」「自分たちの業務にどう関わるのか」「どのようなメリットがあるのか」を、業務レベルに落とし込んだ言葉で共有することで、納得感を持って運用に協力してもらえる土壌が生まれます。
さらに、実運用フェーズでは、MRPが出力する調達計画や生産スケジュールを正しく読み解き、必要に応じて判断・調整ができる人材が必要です。
そのためには、システム部門だけでなく、生産管理部門や現場リーダー層にも一定のITリテラシーや運用スキルを身につけてもらう必要があります。
トレーニングは単発で終わらせるのではなく、業務の中に根づくよう継続的に行い、社内での活用レベルを段階的に引き上げていくことが理想です。
MRPは「入れること」以上に、「使いこなせること」が重要であり、その鍵を握るのが現場との連携と教育体制です。
まとめ
MRP(資材所要量計画)は、製造業における「在庫の最適化」と「計画的な生産管理」を実現するための中核的な仕組みです。
「いつ・どれだけ・何を生産するか」という情報をもとに、必要な資材を無駄なく、タイミングよく手配できることから、在庫コストの削減や納期遵守率の向上、業務の標準化など、さまざまな経営メリットが期待できます。
一方で、MRPを有効に機能させるためには、部品構成表(BOM)や在庫情報、リードタイムといった基礎データの整備・精度管理が不可欠です。また、計画通りに現場が動ける体制や、継続的に運用レベルを高めていくための現場教育・連携も重要な要素となります。
MRPは単なるシステムではなく、「全社の計画と現場オペレーションをつなぐインフラ」です。
正しく設計し、現場に根づかせ、継続的に改善を加えることで、はじめて真の効果を発揮します。製造業DXを推進し、安定的かつ持続可能な生産体制を築くうえで、MRPは欠かせない存在となるでしょう。
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