標準的な運賃とは?概要や目的、対象範囲、改正のポイントなどを解説

標準的な運賃とは、実運送事業者が持続的に事業を行っていくための参考となる運賃のことです。
本記事では標準的な運賃について、物流DXパートナーのHacobuが解説します。
目次
標準的な運賃の基本概要
標準的な運賃とは
標準的な運賃とは、実運送事業者が持続的に事業を行っていくための参考となる運賃のことです。
2018年の貨物自動車運送事業法の改正により、2020年4月に標準的な運賃は2024年3月末までの時限措置として告示されていました。そして2023年6月の貨物自動車運送事業法の改正により、「当面の間」延長されました。
国土交通省による標準的な運賃の導入背景
国土交通省は、実運送事業者の持続可能性を高めるためにさまざまな施策を行っており、その一つが標準的な運賃の告示です。行政が運賃水準の目安を示すことで、実運送事業者の持続可能性に効果的であるとの趣旨により設けられたものです。
標準的な運賃が導入された3つの目的
標準的な運賃は以下の3つを目的として導入されました。
実運送事業者の適切な利益の収受
運送業は、燃料価格や人件費の高騰などによって採算が悪化しやすく、また過当な価格競争が起きやすい構造を持っています。そこで、必要な費用をカバーできる水準を明確に示し、適正な取引を促すために設定されました。
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ドライバーの労働条件の改善
ドライバーは長時間の運転や荷待ち、荷積み・荷降ろしなどの負担が大きく、低運賃で過剰なコスト削減が進むと、過酷な労働環境に陥りがちです。標準的な運賃が示す適正水準をベースに運賃を設定することで、ドライバーの賃金や勤務形態を改善する余地が生まれます。たとえば、無理なスケジュールを組まなくても採算が合うため、休憩時間の確保や有給休暇の取得を奨励しやすくなります。結果的に、ドライバーが長期的に働き続けられる環境を整えやすくなり、運送業界全体の人材確保や安全運行の確保にもつながります。
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社会全体における物流の安定
ドライバーが不足すると、最終的には荷物が予定どおりに届かなくなるリスクが高まります。社会全体で物流を安定させるためには、実運送業者が適切に利益を得られ、ドライバーが安心して働ける環境を整えることが不可欠です。標準的な運賃はその「最低ライン」を示すことで、物流領域全体の健全化を目指しています。
標準的な運賃の対象範囲と適用条件
標準的な運賃の対象となるのは、主にトラック運送事業者です。具体的には、一般貨物自動車運送事業者や特定貨物自動車運送事業者などが含まれます。小型トラックから大型トレーラーまで車種を問わず、実運送を担う事業者が運用できます。
また、距離制運賃・時間制運賃の運賃表を基に計算されます。この運賃表の金額には、変動費(人件費や車両費など)や固定費、利潤が含まれています。さらに、燃料費や有料道路利用料、走行距離などの割増要素や、待機時間料、積込料・取卸料・附帯業務料を追加して計算する仕組みです。
対象となる運送契約
- 国内の一般貨物自動車運送事業者などにおいて、積載量に関わらず車両を貸し切って貨物を運送する場合
- 元請け事業者から運送委託を受ける場合も適用可能
- 元請け事業者の傭車費用・管理料は含まず、実運送を行う場合に要する原価について計算
対象となる車種
- 小型車 (2tクラス)
- 中型車 (4tクラス)
- 大型車 (10tクラス)
- トレーラー (20tクラス)
地域差
人件費や物価の地域差を考慮し、地方運輸局などのブロック単位で運賃表は設定されています。
運賃割増率
特殊車両を使用する場合や休日や深夜・早朝の運行、速達を求める場合については別途割増率を設定しています。
標準的な運賃 運賃表(令和6年告示)
実際の運賃は以下の全日本トラック協会が案内している運賃表をご覧ください。
全国一括距離制運賃表
https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/hyoujun_unchin202403/kyori.pdf
時間制運賃表
https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/hyoujun_unchin202403/jikan.pdf
標準的な運賃の活用状況
2022年度時点では、実際に標準的な運賃を活用し、運賃交渉を行った実運送事業者は約69%でした。このうち荷主から一定の理解を得られた実運送事業者は約63%となり、実運送事業者全体のうち運賃交渉について荷主から一定の理解を得られた事業者は約43%と、過半数には至りませんでした。
また、回答した実運送事業者の約76%が、標準的な運賃の延長を希望しました。

実勢運賃とは
実勢運賃とは、市場で実際に取引されている運賃のことです。標準的な運賃がある一方、実運送事業者と荷主・元請け事業者の間では値引き交渉が発生し、実勢運賃と標準的な運賃の間に大きな差が生まれていることも少なくありません。
標準的な運賃・標準運送約款の見直しに向けた検討会
前述のように実運送事業者が適切な運賃を収受できない状態がなかなか解決せず、2023年6月に取りまとめられた「物流革新に向けた政策パッケージ」において、待機料はもちろん、燃料費の高騰分、下請け事業者に発注する際の手数料も含めて、荷主に適正に転嫁できるよう、標準的な運賃の告示の見直しが図られました。
そして2023年8月〜12月の間に複数回の検討会を行い、2024年1月に国土交通大臣から運輸審議会に対する諮問、2024年2月に最終答申、2024年3月に標準的な運賃の改正告示・施行されました。
並行して2024年2月に閣議決定、2024年5月に公布された物流関連2法の改正と合わせ、荷待ち時間削減と多重下請け構造にメスを入れる取り組みが行われました。
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標準的な運賃・標準運送約款の見直しのポイント
上記改正のポイントを解説します。
荷主への適正な転嫁
本改正により、荷主への適正な転嫁を促進する狙いがあります。
運賃表の改定
運賃表は改定され、運賃は平均約8%引き上げられました。
待機時間料の値上げ
荷待ち・荷役が合計2時間を超える場合には、割増率5割が新たに設定されました。
積込料、取卸料の設定
積込み作業・取卸し作業に対する標準的な料金水準が新たに設定されました。さらに、車種別であったり、フォーク・手積みの荷役別で料金が異なるなど細かい規定も定められています。
多重下請構造の是正
運送事業者における多重下請構造は、実運送事業者に適正な対価が支払われないことも多く、ドライバーの過酷な労働環境の一因とされています。
本改正により、多重下請構造の是正、取引の透明性向上を促進する狙いです。
下請け手数料の明確化
下請け事業者へ発注する際は、運賃と別立てで10%を上限として「下請け手数料」を依頼元へ請求することが規定されました。

実運送事業者の通知義務化
元請け事業者に対し、実運送事業者の名称や商号を荷主に通知する義務を課しました。(標準運送約款)
電子書面での契約条件の明確化
これまで明確な規定がなかった運送の申込みと引受けについて、運送申込書・運送引受書の電子書面での交付が規定されました。契約の書面化・電子化は、運送業務のみならず、付帯業務やその料金、燃料サーチャージなども含まれます。(標準運送約款)
多様な運賃・料金設定
個建運賃の設定
共同輸配送の推進を見据え、以下の図のような貨物1個ずつの運賃を設定しました。

引用:「標準的運賃」 及び「標準運送約款」の見直しのポイント
割増・割引料金の導入
リードタイムが短い場合の「速達割増」や、余裕のある配達スケジュールの場合の割引、有料道路を使用しないことで発生するドライバーの長時間運転を考慮した割増料金を設定しました。
特殊車両割増の車種を追加
冷蔵・冷凍車に加え、海上コンテナ輸送車やダンプ車など5車種の特殊車両割増を追加しました。
標準的な運賃の改正から分かること
上記のポイントから、以下のことが言えるのではないでしょうか。
荷役はドライバーの仕事ではない
積込料、取卸料の割増料金は、最低でも30分で2,000円、最高水準で時給換算すると5,500円にもなります。基本的に荷役はドライバーにやらせることではない、という国からの示唆だと考えられます。さらにいえば、できるだけ荷役時間を効率化していくべきということでしょう。
待機時間料においても30分以内であれば料金がかかっていないため、バース予約システムのようにデジタル技術を活用して、ゼロでなくとも荷待ち時間を削減していくことが求められているといえるのではないでしょうか。

下請け構造は「ツリー型」から「文鎮型」へ
下請け手数料の別立て請求により、実運送事業者に一定の運賃水準が確保される一方、下請次数が多いほど荷主の運賃負担は重くなります。そのため、多階層にわたる下請けを抱える元請け事業者ほど荷主に敬遠される事態が起こり得ます。
結果として、階層型の「ツリー型」だった下請け構造は今後、元請け事業者の直下に多数の実運送事業者がぶら下がる「文鎮型」へ移行する流れになると思われます。元請け事業者はこうした多数の実運送事業者に対する配車業務などを一手に担わなければならない事態になるのではないでしょうか。

各事業者が標準的な運賃の改正を踏まえてすべきこと
本改正を踏まえ、各事業者は何をすべきでしょうか。
実運送事業者がすべきこと
配送先での荷待ちやドライバー荷役があった場合、待機料や積込料、取卸料などを正当な対価として請求しましょう。
ドライバーの労働時間や休憩時間、拘束時間などを正しく管理しなければ、そもそもの運賃計算が曖昧になってしまいます。デジタルタコグラフや動態管理サービス MOVO Fleet(ムーボ・フリート)を活用し、ドライバー自らに記録いただくことで最も確実に把握できます。

注意点として、標準的運賃を根拠にした請求を、すべての荷主がすぐに受け入れてくれるとは限りません。特に、長年の慣習で安価な運賃を維持してきた取引先には丁寧な説明が欠かせません。
元請け事業者がすべきこと
前述の通り、運送事業者の構造はツリー型から文鎮型になっていくでしょう。その時、元請けとして管理する下請け事業者の数は膨大になります。配送案件の管理や請求業務が煩雑になります。また、適正な請負階層で配送がされているか(一次請けが二次請けに再依頼しているかなど)の管理も求められます。
配車業務はデジタル化していかないと、業務がさらに回らなくなることが予想されます。配車受発注・管理サービス MOVO Vista(ムーボ・ヴィスタ)を活用し、事務工数を削減していきましょう。MOVO Vistaは実運送体制管理簿を容易に作成することも可能で、請負階層の把握にも対応できます。

荷主がすべきこと
実運送事業者が適正な運賃を収受するための運賃値上げ交渉が発生することが考えられます。実際に輸送費は値上げ傾向にあり、各荷主は運賃の値上げを了承していく流れになっています。
一方、荷主として、何次請けが実運送をしているか把握し、過剰な下請け構造になっている場合、元請け事業者に対して改善を依頼することが重要です。前述の実運送体制管理簿を元請け事業者から提出させることで請負階層の把握ができます。
自社の物流拠点で荷待ちやドライバー荷役が発生している場合、その対価を支払わなくてはなりません。しかし、その料金は本来払う必要がない費用ではないでしょうか。トラック予約受付サービス MOVO Berthを活用し、荷待ち・荷役時間を把握・削減することで、このような無駄な支出も抑えられます。

標準的な運賃を実勢運賃へ
標準的な運賃は物流領域の働き方改革や収益構造の健全化を推進する重要な仕組みです。実運送事業者・元請け事業者・荷主が一体になって、実勢運賃の改善と多重下請け構造の是正に取り組みましょう。それが最終的に、持続的な物流につながるでしょう。
なお、Hacobuでは「運ぶを最適化する」をミッションとして掲げ、物流DXツールMOVO(ムーボ)と、物流DXコンサルティングサービスHacobu Strategy(ハコブ・ストラテジー)を提供しています。
物流現場の課題を解決する物流DXツール「MOVO」の各サービス資料では、導入効果や費用について詳しくご紹介しています。
トラック予約受付サービス(バース予約システム) MOVO Berth
MOVO Berth(ムーボ・バース)は、荷待ち・荷役時間の把握・削減、物流拠点の生産性向上を支援します。
動態管理サービス MOVO Fleet
MOVO Fleet(ムーボ・フリート)は、協力会社も含めて位置情報を一元管理し、取得データの活用で輸配送の課題解決を支援します。
配車受発注・管理サービス MOVO Vista
MOVO Vista(ムーボ・ヴィスタ)は、電話・FAXによるアナログな配車業務をデジタル化し、業務効率化と属人化解消を支援します。
物流DXコンサルティング Hacobu Strategy
Hacobu Strategyは、物流DXの戦略、導入、実行まで一気通貫で支援します。
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