現状維持バイアスとは?要因や脱却すべき理由、ステップなどを物流における例を交えて解説

「現状維持バイアス」とは、変革の重要性や価値を理解していても「今のままでいたい」という心理が働いてしまうことを指します。近年の物流領域は環境変化のスピードが加速しており、企業にも変革が求められています。
しかし、現状維持バイアスが強く作用すると、業務改善や効率化の阻害要因になる場合もあります。本記事では現状維持バイアスについて、物流DXパートナーのHacobuが解説します。
なお、Hacobuでは物流DXの戦略、導入、実行まで一気通貫で支援する物流DXコンサルティング「Hacobu Strategy」を提供しています。物流業務の改善にお悩みがありましたら、以下をクリックしてご覧ください。
目次
現状維持バイアスとは何か
まずは、現状維持バイアスの基礎について解説します。
現状維持バイアスの基本的な仕組み
現状維持バイアスとは、現状のやり方や慣習を変えずにそのまま維持しようとする心理学や行動経済学における認知バイアスのひとつです。変化やリスクを敬遠することで、機会損失にもつながります。
現状維持バイアスは、日常生活やビジネスシーンで発生します。
日常生活における現状維持バイアスの例
たとえば、「健康のために新しい運動習慣を取り入れなければ」と頭ではわかっていても、「今のままでもそこまで困っていないし…」と結局は何も変えずに過ごしてしまうことはないでしょうか。
ビジネスにおける現状維持バイアスの例
たとえば、多くの従業員が昔から慣れているアナログな作業を「とりあえず継続しておこう」と思うような場面はないでしょうか。このような傾向は日々のタスクから経営的な意思決定まで幅広く見られ、特に組織や部門全体のルーティンワークが確立されている現場ほど、いつまでも同じやり方が続けられがちです。
現状維持バイアスがもたらす心理的影響
人は「失敗のリスクを避けたい」という気持ちから、新たな試みに対して慎重になる傾向を持つと考えられています。そのため、現状維持を選択することが安全策に見えてしまい、結果として改善のタイミングを逃してしまうケースがあります。
たとえば、新たなシステム導入によって生産性が劇的に上がるかもしれない場面で、「従来からの方法で作業していれば大きな問題は起きないはずだ」と考え、導入を先延ばしにしてしまうことがあります。こうした意思決定が積み重なると、企業として変革のチャンスを逃し、競合他社に後れを取るリスクが高まります。

物流領域と現状維持バイアスの深い関係
製造業や小売業、運送業の物流領域において、現状維持バイアスはよく発生しています。
製造業の工場における例
製造業の工場では、長年にわたって定着してきた組立ラインや検品工程が存在している場合が多いでしょう。大量生産向けに組まれたライン設計そのものに問題はないとしても、生産数が伸び悩んだり、一部製品だけに過剰な工数がかかっていたりする状況が見受けられます。それでも、「これまでこのやり方で利益が出ていたから、今すぐ変える必要はない」と判断してしまうことがあります。たとえば、ロボットを活用した自動化を検討する際、導入コストや教育コストばかりに目がいってしまい、結果として導入が後回しになることがあります。これこそが典型的な現状維持バイアスのあらわれだと言えます。
小売業の物流センターにおける例
小売業の物流センターでは、大量の商品が日々入荷・保管・出荷されています。作業マニュアルが細かく定められているため、一見すると問題がないように思えますが、実は入庫・出庫が非効率であったり、オペレーションが旧式のままであったりするケースもあります。たとえば、バース予約システムを導入すれば事前に入庫・出庫する荷物の情報を把握できることは分かっていても、「とりあえず今のやり方でも遅延なく作業できているから」といった理由で導入を先送りにしてしまいがちです。これも現状維持バイアスの典型例と言えます。
運送業の運行管理や配車における例
運送業においては、日々膨大な数の配車や運行管理を行っています。近年では、これらの業務を効率化する配車システムや動態管理システムが存在します。しかし、それにもかかわらず、「従来の配車担当の経験と勘に頼ったほうがミスが少ない」「電話やFAXによる伝達で、現場は十分よく回っており、特に不便は感じていない」といった意見が根強く、システム刷新や自動化技術の導入が進まないケースも珍しくありません。
このように現状維持バイアスにとらわれて、必要な変化を先延ばしにしてしまうと、企業として変革のチャンスを逃し、企業全体の競争力を落とすリスクにつながりかねない点が、現状維持バイアスの大きな問題といえます。

現状維持バイアスから脱却すべき理由
現状維持バイアスから脱却すべき理由を解説します。
競合との競争環境
競合他社が新しい技術や運用手法を取り入れて効率化を進めていく状況で、自社だけがいつまでも同じ方法に固執してしまうと競争に取り残される可能性が高いでしょう。競合他社と対等あるいはそれ以上の成果を出すために、現状維持バイアスから抜け出す姿勢が求められます。
コスト削減・効率化のための変革
物流領域では、人材不足や燃料費の高騰などROIは悪化しています。抜本的な効率化を狙うには、設備やシステムといったインフラ、そしてオペレーションそのものを再構築する必要がある場合も多いでしょう。
古い手法を続けている間に、競合他社は自動倉庫や高度な管理システムを導入して、作業時間や人件費を削減していくかもしれません。その差が大きくなればなるほど、後から追いつくための投資コストはかさみ、追い付くのが難しくなります。
組織のモチベーション停滞
変化やチャレンジが少ない環境にいると、従業員は新たなスキルを身につける機会を得にくくなり、仕事に対する意欲も徐々に失われていく可能性があります。特に、若手社員や新しい技術に興味を持つ人材ほど、変革の機会がない組織に留まることに疑問を感じやすいかもしれません。結果として有能な人材が流出し、社内には「どうせ何も変わらない」という停滞感が漂うことにつながってしまいます。

現状維持バイアスの要因
そもそも、なぜ私たちは現状のままでいたいと思うのでしょうか。その裏には、いくつかの心理的要素が存在します。
選択の麻痺(Choice Paralysis)
選択肢が多すぎると、脳が情報を処理しきれなくなり、結果的にどれも選べなくなる現象です。現代社会では、商品やサービスなどの選択肢があふれており、どれを選ぶべきか迷ってしまうがゆえに、最適な選択を先送りにしてしまうケースが増えています。
損をしたくない(Loss Aversion)
人間は何かを得る喜びよりも、何かを失う不安のほうが大きく働きがちです。これは「損失回避」と呼ばれる心理で、現状を変えることで生じる可能性のあるデメリットに過度に目を向けてしまうため、結果として変化しない選択を取りやすくなります。
過去の経験に囚われる(Mere Exposure Effect)
一度経験したことのある選択肢には安心感を覚え、未経験のものに対しては抵抗を感じやすい傾向があります。いわゆる「新しいものへの不安」が強く働くため、現状のやり方を変えずに同じ方法をとり続けがちです。
未知のものには不確実な要素が伴いますが、既に慣れ親しんだ選択肢はリスクが少ないと感じられます。そのため、自然とリスク回避を優先し、現状維持に固執してしまうのです。
サンクコスト(Sunk Cost Fallacy)
過去に投じた時間や資金、労力などを惜しむあまり、「せっかくここまでやってきたのに、変えるのはもったいない」と考えてしまう心理です。実際には、これまでの投資分が未来の意思決定には直接関係ない場合でも、「損をしたくない」という気持ちが先立ち、非効率な選択肢を続ける原因となります。
認識の不一致(Cognitive Dissonance)
自分の思考や行動と矛盾する情報に触れると、人は強い違和感やストレスを感じます。そのストレスをやわらげるために、都合の良い情報ばかり集めたり、解釈を変えたりして、自分の考えを補強しようとするのです。これにより、本来なら必要な方向転換が避けられてしまうことも珍しくありません。

現状維持バイアスを乗り越えるためのポイント
現状維持バイアスから脱却するために、行うべきポイントを解説します。
勉強会やワークショップの開催
勉強会やワークショップを開催し、同僚や他部門から客観的な視点を得る機会を設けることも有効です。日頃は関わりの薄いメンバーからの意見が得られるため、新たな発見や気づきを得られやすく、自分やチームが固執していたやり方や考え方を客観的に見直すきっかけとなります。
外部からアドバイスをもらう
コンサルタントのような社外の専門家に意見を仰ぎながらプロジェクトを進めることも、現状維持バイアスから抜け出す手段として有効です。第三者、かつ専門的なの視点を取り入れることで、自社内では気づきにくい課題や改善のヒントが得られ、これまで当たり前と思っていたやり方を根本から見直すきっかけを作りやすくなります。
なお、Hacobuでは物流DXの戦略、導入、実行まで一気通貫で支援する物流DXコンサルティング「Hacobu Strategy」を提供しています。物流領域における課題の可視化や改善方法の立案にお悩みがありましたら、以下をクリックしてご覧ください。
現状維持バイアスを乗り越えるためのステップ
現状維持バイアスから脱却する上で重要なステップを解説します。
ステップ1:データ分析による現状の可視化
まずは、現状の無駄や遅れ、課題がどこに潜んでいるのかを客観的に把握することが重要です。
工場や物流センターであれば設備稼働率や在庫回転率、入出荷の効率など、運送業であれば積載効率や配送先における荷待ち時間、月間のFAXに使用する紙の枚数など、実は想定以上のロスが発生していることがわかるかもしれません。
数字として裏付けがあると、組織内の意思決定者も変化の必要性を認識しやすいでしょう。物流領域においては、物流DXツールのMOVOなどを活用することでデータ分析が容易になります。MOVOの資料は以下からダウンロードいただけます。
ステップ2:小さな成功体験の積み重ね
大がかりな改革はリスクが大きく、現状維持バイアスを強めてしまう要因にもなります。そこで、まずは部分的かつ小規模なプロジェクトから手をつけ、改善を実現することが有効です。たとえば、作業手順書を一部見直して効率が上がったり、ピッキング方式を少し変えてミスが減ったりすると、その成果を社員全員に共有します。そうすることで、改革に対する抵抗感が和らぎ、より大きなプロジェクトにも挑戦しやすくなるでしょう。
ステップ3:社員全員が変革の必要性を理解する場づくり
現場の最前線で働く作業者やドライバー、管理者など、多様な立場の従業員が「なぜ変革をしなければならないのか」を理解し、納得することが大切です。そのためには、経営層や管理職がトップダウンで説明するだけでなく、現場の声を吸い上げる形で問題点を共有し、解決策を共に考える場を設けることが望ましいと考えます。話し合いのなかで、小規模な改善案を提案・実行するサイクルを回すことにより、組織全体が「現状維持ではなく変革を前向きにとらえる」雰囲気を醸成していくことができます。

現状維持バイアスを乗り越えよう
現状維持バイアスは、多くの企業や組織にとって身近な問題です。外部環境が変わったり、競合との競争が激化するなかでは、「何もしない」という選択が、企業にとっては最も危険な道となりかねません。だからこそ、現状維持バイアスを認識したうえで、データ分析による可視化や小さな成功体験の積み重ね、社内コミュニケーションの強化によって一歩ずつ変革を進めることが重要になります。
現状を維持し続ける安全策よりも、現状維持バイアスから脱却してイノベーションを推進する企業こそが、これからの物流領域で新たな価値を創出し続けられる存在となるのではないでしょうか。
なお、Hacobuでは上記のポイントやステップで紹介しましたとおり、「運ぶを最適化する」をミッションとして掲げ、物流DXツールMOVO(ムーボ)と、物流DXコンサルティングサービスHacobu Strategy(ハコブ・ストラテジー)を提供しています。
物流現場の課題を解決する物流DXツール「MOVO」の各サービス資料では、導入効果や費用について詳しくご紹介しています。
トラック予約受付サービス(バース予約システム) MOVO Berth
MOVO Berth(ムーボ・バース)は、荷待ち・荷役時間の把握・削減、物流拠点の生産性向上を支援します。
動態管理サービス MOVO Fleet
MOVO Fleet(ムーボ・フリート)は、協力会社も含めて位置情報を一元管理し、取得データの活用で輸配送の課題解決を支援します。
配車受発注・管理サービス MOVO Vista
MOVO Vista(ムーボ・ヴィスタ)は、電話・FAXによるアナログな配車業務をデジタル化し、業務効率化と属人化解消を支援します。
物流DXコンサルティング Hacobu Strategy
Hacobu Strategyは、物流DXの戦略、導入、実行まで一気通貫で支援します。
関連記事
-
COLUMNGHGプロトコルとは?Scope1~3の算定方法やビジネスにもたらす影響を解説
公開日 2025.02.14
更新日 2025.02.14
-
COLUMN生産管理システムとは?ERP・MESとの違いや主な機能、選び方を詳しく解説
公開日 2025.02.07
更新日 2025.02.07
-
COLUMN荷主や物流事業者は努力義務にどう向き合うか
公開日 2025.02.04
更新日 2025.02.09
-
COLUMNECRSとは?概要や注目される理由、4ステップの改善手法、メリット、物流領域に求められる理由、導入のポイントなどを解説
公開日 2025.01.29
更新日 2025.02.09
お役立ち資料/ホワイトペーパー
記事検索
-
物流関連2法
-
3省合同会議