物流革新に向けた政策パッケージのポイント|物流の2024年問題への対応策
2024年4月にトラックドライバーに時間外労働の上限規制が適用された物流の「2024年問題」により、国民生活や経済を支える重要な社会インフラである物流の危機が懸念されています。物流の課題の解決に向けて、政府は2023年6月2日に「物流革新に向けた政策パッケージ」を公表しました。また、同日に関係省庁が政策パッケージに基づいた「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を策定し、荷主・事業者に対し速やかに物流改善に取り組むことを要請したことは、物流領域において大きな話題となりました。
物流革新に向けた政策パッケージの発表によって、「2024年問題」をはじめとした物流危機への対応に向けて、具体的な対策を検討するフェーズへと移行しました。
本記事では、政策パッケージとガイドラインの概要、そして荷主企業・物流事業者が取り組むべきことについて、解説します。
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目次
物流革新に向けた政策パッケージとは
2023年6月2日、我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議(第2回)が開催され、物流の2024年問題への対応に向け、荷主、物流事業者、一般消費者が協力して、我が国の物流を支えるための環境整備に向け、抜本的・総合的な対策として「物流革新に向けた政策パッケージ」が策定されました。
政策パッケージが生まれた背景と物流の2024年問題
政策パッケージが生まれた背景には、深刻化する物流業界の構造的課題があります。試算では、2030年には約25万人のトラックドライバーが不足すると予測されており、輸送力の維持が危機に直面しています。
加えて、燃料費の高騰やドライバーの労働時間規制(働き方改革関連法による残業上限)、人手不足の加速が重なり、安定した物流網を保つことが困難になりつつあります。こうした複合的な要因が、業界全体で持続可能な仕組みを構築する必要性を浮き彫りにし、政策パッケージ策定の直接的な契機となりました。
政策パッケージの具体的な施策として、以下が明記されました。
商慣行の見直し
- 物流負荷の軽減(荷待ち・荷役時間の削減など)に向けた規制的措置の導入
- 納品期限、物流コスト込みの取引価格の見直し
- 多重下請構造の是正に向けた規制的措置の導入
- 荷主・元請けの監視の強化、結果の公表、継続的なフォロー及びそのための体制強化(トラックGメンの設立)
- 物流の担い手の賃金水準向上等に向けた適正運賃収受・価格転嫁円滑化の取組み
- トラックの「標準的な運賃」制度の拡充・徹底
荷待ち・荷待ち時間とは|概要や現状、発生する9つの原因、影響、行政の取り組み、改善・削減方法などを解説
荷待ち時間…
2025.06.11
物流の効率化と生産性向上
- 即効性のある設備投資の促進(バース予約システムなど)
- 物流GXの推進
- 物流DXの推進
- 物流標準化の推進
- 物流拠点の機能強化・土地利用最適化や物流ネットワークの形成支援
- 高速道路のトラック速度規制の引上げ
- 労働生産性向上に向けた利用しやすい高速道路料金の実現
- 特殊車両通行制度に関する見直し・利便性向上
- ダブル連結トラックの導入促進
- 貨物集配中の車両に係る駐車規制の見直し
- 共同輸配送の促進
- 軽トラック事業の適正運営や輸送の安全確保に向けた荷主・元請事業者等を通じた取組強化
- 女性や若者等の多様な人材の活用・育成
物流DXを活用した効率化の具体例として、AIやIoTを駆使したスマート物流が注目されています。例えば、センサーとAIを組み合わせた需要予測システムにより、季節変動や特定イベントによる需要の波を事前に把握し、最適な在庫・配送計画を立案することが可能になります。また、車両動態管理システムによるリアルタイムな位置情報の把握と配送ルート最適化によって、燃料消費の削減や配送効率の向上が実現されています。
荷主・消費者の行動変容
荷主・消費者の行動変容では、物流課題の解決に向けて、荷主企業の経営者層の意識改革と行動変容を促す規制的措置が導入されています。荷主の経営者層の意識改革・行動変容を促す規制的措置の導入により、従来のコスト重視の発注パターンから、持続可能な物流を重視する取引へのシフトが求められています。荷主・物流事業者の物流改善を評価・公表する仕組みの創設により、優良な取り組みを行う企業の可視化と業界全体の改善意欲の向上が図られています。消費者の意識改革・行動変容を促す取組みでは、配送の集約化や配送時間の柔軟化に対する理解の促進が重要とされています。再配達削減に向けた取組みでは、宅配ボックスの設置促進や受取方法の多様化により、配送効率の向上と消費者の利便性向上が同時に実現されています。物流に係る広報の推進により、社会全体での物流課題への理解と協力体制の構築が進められており、持続可能な物流システムの実現に向けた社会的合意の形成が目指されています。これらの取り組みにより、物流を支える全てのステークホルダーが一体となった改革の推進が期待されています。
法制化と規制措置の動向
上記に記載のとおり、中長期的に継続して取り組むための枠組みとして規制的措置の導入が言及されており、次期通常国会での法制化を目指すことになります。
実際にこの後、政府としては、各業界に対し2023年末までに自主行動計画の作成を求めたとともに、2024年2月に物流関連2法(物流効率化法・貨物自動車運送事業法)の改正を閣議決定、2030年に向けた中長期計画の発表を行いました。
物流効率化法
その名の通り、物流の効率化を目的とした法律であり、今回の改正によりすべての荷主・物流事業者に以下の取り組みが義務化されました。
- 荷待ち・荷役時間の短縮に向けた努力
- 積載効率の向上に向けた努力
さらに、一定規模以上の事業者は「特定事業者」に指定され、行政に対してこれらの取り組みに関する中長期計画の提出と、定期的な報告が求められます。
貨物自動車運送事業法
トラック輸送における下請取引の健全化を目的とした法律であり、今回の改正により次の2点がさらに強化・推進されることになりました。
- 適正な運賃の支払い
- 多重下請け構造の是正
物流の適正化・生産性向上に向けた荷主・物流事業者向けガイドラインとは
政策パッケージの策定と同日の2023年6月2日、経済産業省・農林水産省・国土交通省の3省より「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」が策定されました。
前述のとおり、政府は法制化を進めることになりますが、法が効力を持つのは2025年4月以降になります。一方で、物流の2024年問題への対応は早急に取り組まねばならないものです。そのため、法改正が行われるまでに荷主などが取り組むべき事項を具体化したものとして、本ガイドラインが策定されました。
ガイドラインの概要として、荷主企業と物流事業者が協力して取り組むべき具体的な改善項目を明示し、特に荷待ち・荷役時間の削減、適正な運賃・料金の収受、物流の効率化に向けた設備投資などが重点的に取り上げられています。
策定背景には、従来の自主的な取り組みだけでは物流危機への対応が不十分であるとの認識があり、より具体的で実効性のある指針の必要性が高まったことがあります。
主要ポイントとしては、発荷主・着荷主・物流事業者それぞれの役割を明確化し、荷待ち・荷役時間を2時間以内とする数値目標の設定、物流コストの適正化と価格転嫁の促進、デジタル技術を活用した効率化の推進などが盛り込まれています。
3省連名による物流ガイドライン発表
経済産業省・国土交通省・農林水産省の3省が連名で策定した物流ガイドラインは、従来の「ホワイト物流」推進運動を一歩進めた取り組みです。

第一に、主体が国交省単独から3省へ拡大したことで、物流を産業政策や農産品流通とも結び付けた幅広い視点が導入されました。
第二に、荷主企業も対象に含めることで、物流事業者だけでなく発注側の行動変革を促す包括的アプローチが打ち出されています。
第三に、2023年末までの対策にとどまらず、継続的な運用と改善を求める姿勢が明確に示され、一過性ではない長期的な改革の道筋が描かれています。これにより、縦割り行政の限界を超え、サプライチェーン全体の最適化を進める体制が整いつつあります。
法改正の要点はガイドラインでも明記されている
特定事業者(特定荷主)の選定や物流統括管理者の選任といった物流関連2法改正の要点は、ガイドラインでも発表されている内容です。詳細は以降で解説します。
特定荷主や物流統括管理者については、以下記事もご覧ください。
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ガイドライン遵守による企業メリット
物流の適正化・生産性向上に向けたガイドラインを遵守することは、単に法令順守の観点で安心を得られるだけではありません。荷主企業にとっては、荷待ち時間や積載効率改善への取り組みが輸送コスト削減や納期の安定につながります。物流事業者にとっては、長時間労働の是正や効率的な運行計画の推進によって、ドライバーの離職防止や人材確保に直結し、結果として持続可能な経営基盤を築くことが可能となります。さらに、両者が協調してガイドラインに沿った施策を進めることで、サプライチェーン全体の安定性と競争力向上が期待できます。つまり遵守は義務対応にとどまらず、企業成長に直結する投資なのです。
ガイドライン無視のリスクと対応策
ガイドラインを無視すれば、法令違反による行政指導や罰則の対象となる恐れに加え、社会的評価の低下や取引停止など企業イメージ・機会損失のリスクが高まります。これを避けるためには、まず現状の業務を点検し、短期的には荷待ち削減や積載効率向上に取り組み、中長期的には人材確保やシステム投資など段階的な改善を進めることが重要です。
荷主企業・物流事業者が取り組むべき具体的対応
荷主企業では、発荷主として適時に届ける責任が注目されてきましたが、実際には着荷主側の発注方法や在庫の持ち方、配送の受け方にまで意識改革が及ばなければ、モノが届かず「物流倒産」が起こる可能性も否定できません。特に、物流業務の効率化に関しては「荷待ち・荷役時間を2時間以内に抑える」という具体的目標がガイドラインに明記されています。
そのため荷主企業においては、社内で関係部署を巻き込み、全社的に改革を進める体制づくりが不可欠です。予算や人材を確保し、ITシステム導入による発注精度の向上、在庫の適正配置、共同配送の活用など、2024年問題を見据えた施策を段階的に進める必要があります。さらに効果測定としては、荷待ち時間の平均値や積載率の推移、配送遅延件数の削減などをKPI(重要業績評価指標)として設定し、定期的に進捗を検証することが有効です。

以降では、発荷主・着荷主・物流事業者それぞれが果たすべき役割を整理し、実務に直結する具体的な取り組み内容を解説します。
発荷主がすべきこと
発荷主としてすべきことは以下のように記載されました。

着荷主がすべきこと
着荷主としてすべきことは以下のように記載されました。

物流事業者がすべきこと
物流事業者としてすべきことは以下のように記載されました。

荷主・物流事業者におかれましては、上記を参考に物流効率化への取り組みを進めてはいかがでしょうか。
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