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執筆者:菅原 利康

トラックGメンは、物流の「2024年問題」対応の一手になりうるか。荷主に求められる対策を解説

今、話題となっている「トラックGメン」についてご存知でしょうか。物流の「2024年問題」を解決するために、国土交通省が2023年7月21日に創設しました。

本記事では、トラックGメンの発足の背景や具体的な取り組み内容に加えて、荷主に求められる対策について、物流DXパートナーの株式会社Hacobu が解説します。

トラックGメンを詳細に解説した資料は以下のリンクからダウンロードいただけます。

目次

トラックGメンとは?

トラックGメンは、国土交通省がトラック運送における不適正な取引の監視を強化するために創設したチームです。荷主や元請け事業者への監視体制を強化していくことを目的に、全国の地方運輸局や運輸支局などに計162人のトラックGメンを配置しました。

トラック事業者に対して不適切な取引を強いる荷主や元請け事業者の情報を収集し、悪質な荷主や元請け事業者には改善を促し、改善が見られない場合には勧告を出し、社名の公表も行います。

発足時の体制

2023年7月の発足当時、トラックGメン162人のうち、80人は専従で担当し、82人は既存のトラック担当者が併任していました。専従者の内訳は本省2人、地方運輸局19人、運輸支局59人であり、併任者は本省13人、地方運輸局16人、運輸支局53人となっていました。

さらに、トラックGメンを統括する「トラック荷主特別対策室」(トラックGメン室)を本省内に設置し、自動車局貨物課長の小熊弘明氏が室長を兼任していました。

適正化事業調査員がさらに新設

2024年8月、国土交通省はトラックGメンとは別に、「適正化事業調査員」(略称=Gメン調査員)を新たに設置しました。

Gメン調査員は都道府県トラック協会の「適正化事業指導員」から選任されます。適正化事業指導員は、地域の事業者の事情や荷主との関係などについて一定の理解を有していることが多いです。その知見を活かし、巡回指導などを通じて得た情報を定期的にトラックGメンと共有し、さらに監視体制を強化する狙いです。

調査員は47都道府県で2人ずつ選任され、合計94人が情報収集に従事する予定です。これにより荷主や元請け事業者への監視体制は、トラックGメン、Gメン調査員を合わせて256人体制に拡充されました。

トラックGメン発足の背景

トラックGメン発足の背景には、物流の2024年問題があります。しかし、その根底には、トラックドライバーの長時間労働と低賃金という課題が存在しており、これらは「荷主に対するトラックドライバーの立場の弱さ」が原因とされています。

荷主起因の違反原因行為の最多は「長時間の荷待ち」

国土交通省は、「トラックドライバーと荷主との関係」の改善を目指し、ウェブサイト上に「目安箱」を設置し、情報収集を行い、悪質な荷主に対して是正を働きかけてきました。

目安箱に寄せられる情報の中で、最も多かったものは「長時間の荷待ち」で、4割強を占めています。

荷待ち時間の解消は、物流の2024年問題に向けた対応策として重要なテーマです。Hacobuが提供するトラック予約受付サービス「MOVO Berth(ムーボ・バース)」は、物流拠点における荷物の積み降ろしの予約や受付をクラウド化することで、荷待ち時間の解消やバース運営の効率化を実現するサービスです。

次に多かったのは、「依頼になかった付帯業務が発生した」と「運賃・料金の不当な据え置き」という意見で、約12.2%という結果でした。以下のような声が寄せられました。

  • 積荷の手卸し後、積荷の仕分けとラベル貼りまで、2~3時間かけてやらされるところもある。
  • 仕分け作業料、積込料の負担をお願いしているが、支払ってもらえない。

その他に、以下のようなトラックドライバーの切実な声が目安箱には寄せられています。

  • 過積載運行の要求
  • 運賃・料金の不当な据置
  • 無理な配送依頼
  • 異常気象時の運行指示
  • 拘束時間超過

国土交通省は上記のような課題を解決するために、トラックGメンを創設しました。

荷主勧告制度とトラックGメン

国土交通省はトラックGメン創設以前から、貨物自動車運送事業法における荷主勧告制度に基づく荷主への是正措置を講じてきました。前述の目安箱が設置され、地方運輸局には相談窓口が置かれているものの、情報提供を行ったことを荷主に知られる可能性を危惧し、躊躇するトラック事業者が一定数いることから、情報が十分に寄せられているとは言いにくい面もありました。そのため、トラックGメンは、荷主勧告制度の実行力を高める実働部隊として創設されたとも言えるでしょう。

トラックGメンの取り組み

不正な取引への情報収集

トラックGメンは、荷主や元請け事業者による不正な取引を監視する役割を担っています。

各担当は一人あたり数千から数万単位の荷主や元請け事業者に1件ずつ電話をかけ、長時間の荷待ちや運賃・料金の不当な据え置きがないかなど、情報収集を行っています。

高速道路のサービスエリアでトラックドライバーに対する聞き取り調査を行うなど、プッシュ型の情報収集も行っています。荷主や元請け事業者に対し、アポなしで訪問してヒアリングを行うこともあるそうです。

働きかけ・要請・勧告・公表

情報収集の結果、法令違反の原因となる疑いがある荷主や元請け事業者に対しては、「働きかけ」を行います。そのうち、法令違反の原因として疑うことに相当の理由がある荷主や元請け事業者に対しては、「要請」を行います。そして要請をしても改善されない荷主や元請け事業者に対して「勧告」を行い、社名と事案の詳細を公表します。

要請を受けた荷主や元請け事業者の対応策として、以下のような事例が紹介されています。

  • 早朝時間帯以外への車両の分散化として一部時間指定を導入する対策を実施
  • ドライバーの入構時間を正確に管理するためのシステム導入に向けた検討をスタート
  • 一部運用にとどまっていた「トラック予約システム」を全車両に拡大
  • 入庫作業バースの拡張と荷卸し時間の拡大(荷卸し開始時間を1時間前倒し)

監視の対象

トラックGメンの監視対象は、発荷主はもちろん、着荷主や元請け事業者を含みます。(以降では、これらをまとめて「荷主」と呼びます。)

行政による荷主への執行力を強化

トラックGメンは組織単体で活動するだけでなく、各行政機関と連携しながら活動をしています。トラックGメンの活躍と並行して、各行政機関も対応を強化しています。

荷主対策の深度化と標準的な運賃の期限を「当分の間」に延長

前述のとおり、国土交通省はこれまでも荷主勧告制度に基づく荷主への是正措置を講じてきました。

2024年4月からの時間外労働の上限規制を見据えて、2018年の議員立法において2024年3月までの時限措置として創設された「荷主対策の深度化」と「標準的な運賃」の制度について、2023年6月16日に法改正されました。本改正で、2024年3月までの期限付きではなく、「当面の間」の措置へと変更しました。

つまり、2024年4月以降もトラックGメンによる取り締まりを継続し、執行力を強化していくことが見て取れます。

出典:国土交通省 貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律(令和5年法律第62号)について

集中監視月間

国土交通省は2023年11月、12月を「集中監視月間」と位置付け、「悪質な荷主などの監視強化」「関係行政機関との連携強化」「情報収集の強化」の3つについて、重点取り組みを行いました。11月から年末にかけて、「ブラックフライデー」と呼ばれるセールを皮切りに、クリスマス、ボーナス商戦が年末にかけて行われるため、物流の取引量が増加するためです。こうした時期に集中監視を行うことで、繁忙期でも適正な取引が行われるよう促しています。

厚生労働省による荷主対策強化

荷主への対策を講じているのは、国土交通省だけではありません。厚生労働省 都道府県労働局は2022年12月に「荷主対策特別チーム」を発足しました。

体制

荷主特別対策チームは、都道府県労働局に新たに任命する「荷主特別対策担当官」を中心に、トラックドライバーの労働条件の確保・改善に知見を有する都道府県労働局・労働基準監督署のメンバーにより編成されています。

目的・活動

厚生労働大臣告示である改善基準告示を遵守し、トラックドライバーの長時間労働の是正を目的とし、荷主に対して改善基準告示の周知や長時間の荷待ち改善のために働きかけや要請、国土交通省への荷主情報提供を行ってきました。

トラックGメンとの連携強化

2023年10月以降、さらに現行の活動に加え、以下の活動を開始しました。

  • 厚生労働省ホームページに「長時間の荷待ちに関する情報メール窓口」新設し、情報収集を強化
  • 荷主対策特別チームとして「要請を実施した荷主の情報」を、トラックGメンによる働きかけ等の対象選定に活用できるように連携を強化
  • 貨物自動車運送事業法に基づく、トラックGメンによる働きかけ等に参加
  • 貨物自動車運送事業法に基づく、標準的な運賃の周知

つまり、厚生労働大臣告示である改善基準告示の遵守(過労運転)だけでなく、国土交通省が所管である貨物自動車運送事業法における取締事項である、過積載や速度超過といった違反行為、不当な取引の是正についても活動範囲を広げたことになります。

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荷主所管省庁との情報連携

国土交通省はその他にも、公正取引委員会や中小企業庁、荷主を所管している経済産業省や農林水産省など関係省庁とも連携して活動を行っています。荷主を直接所管している関係省庁と一緒に対応することで、荷主に対する執行力を強化する狙いがあります。

(本記事は以下のリンクから資料として入手いただけます。)

トラックGメンの活動実績

ここでは、トラックGメンの活動実績を解説します。

トラックGメン発足から約3カ月の活動実績

トラックGメン発足から約3カ月の活動実績は、働きかけが166件、要請が6件でした。

2022年度の1年間の実績は、要請が3件、働きかけが26件であり、トラックGメン発足からわずか3カ月で昨年度の4倍を超え、荷主に対する取り締まりが大幅に強化されていることが明らかです。

2023年11月7日に国土交通省が発表したトラックGメンの要請事例によると、違反原因行為は重複を含めて全10件であり、その内訳は「長時間の荷待ち(7件)」「契約にない附帯業務(1件)」「無理な配送依頼(1件)」「過積載の指示(1件)」でした。

長時間の荷待ちについては、10時間に及ぶ事例もあり、業態や発生場所も多岐に渡ります。

2023年の集中監視月間の活動実績

2023年の集中監視月間の活動実績は、働きかけが47件、要請が164件、そして勧告が2件でした。

要請等の月当たりの平均実施件数は106.5 件となり、トラックGメン発足前の1.8 件から大幅に増加しています。

違反原因行為として確認されたのは、「長時間の荷待ち」が圧倒的に多く、全体の62%でした。そのほか、「運賃・料金の不当な据え置き」(14%)、「契約になかった付帯業務」(13%)、「無理な運送依頼」(7%)、「過積載運行の要求」(3%)、「異常気象時の運行指示」(1%)となっています。

初めての「勧告」

要請を過去に受けたにもかかわらず、改善が見られない場合に行う勧告・公表として、初めて2件の勧告・公表を実施しました。これまで要請・働きかけを受けた荷主はいよいよ本格的に下請け事業者に寄り添った待遇改善に取り組む段階になったと言えるでしょう。

2024年6月までの活動実績

トラックGメン発足後から1年間の活動実績は、働きかけが550件、要請が170件、勧告が2件でした。

省庁や関係機関から調査が入った事例

実際に荷主に調査が入った際の内容を紹介します。

某製紙メーカーの物流子会社

  • 労働基準監督署の担当者が抜き打ちで来訪
  • 荷待ちのプロセスを細かくヒアリングされ、改善要請を受ける
  • 改善案として、バース予約受付システムを入れるように親会社から働きかけ

某飼料メーカー

  • 工場へ入場しているドライバーよりトラックGメンへ荷待ち発生の連絡があり、該当月の実績報告を求められる
  • 早朝や夜間の対応も始めたが荷待ち削減ができず、バース予約受付システムを導入

某建築・建材メーカー

  • 2拠点でトラックGメンからの指摘を受ける
  • 全拠点の荷待ち状況の報告を求められる

某海運系輸送会社

  • 国交省から荷待ち改善要請の文書を送付する旨の通知があった
  • 同社に運送依頼をしている荷主に対し、ドライバーより荷待ちが多いとタレコミがあり

勧告の事例

前述のとおり、勧告・公表は2社に発動されました。内訳は荷主1件・元請け事業者1件で、いずれも長時間の荷待ち等が違反原因行為として要請を受けていましたが、依然として違反原因行為に係る情報が相当数寄せられ、要請後もなお違反原因行為をしていることを疑うに足りる相当な理由があると認められ、勧告・公表に至ったようです。

荷主への勧告事例

某荷主は、全国の複数拠点において長時間の荷待ちが発生し、過積載運行を指示していた疑いが浮上しました。この違反行為が確認され、国土交通省から是正を要請されました。しかし、是正後も違反の可能性が高いと判断されたため、最終的に違反行為の中止を勧告され、事例が公表されました。

元請け事業者への勧告事例

国土交通省は、某元請け事業者に対し、全国複数拠点での長時間荷待ちや契約外業務の強要、運賃・料金の不当据置き、過積載運行の指示などが疑われる事例を確認しました。特に過積載運行については、安全上の問題があるため、同社に違反原因の是正を要請しましたが、改善が見られなかったため、最終的に違反行為の中止を勧告し、公表しました。

荷主に求められる対応

トラックGメンの取り組みは既に大きな成果を上げています。長時間の荷待ちや契約外の業務など、これまで解消されなかった問題について、荷主は迅速に対処する必要があります。

具体的には、2023年6月に公表された「我が国の物流の革新に関する政策パッケージ」に合わせて策定された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(国土交通省が経済産業省・農林水産省と3省で発表)を参考に対処するのがおすすめです。

なお、ガイドライン発表以降、2024年5月に改正物流関連2法が公布されました。改正法や政省令などにて規制的措置は詳細に定められていますが、取り組むべき内容として大きく変更はないため、ガイドラインの要点を以下に抜粋します。

物流関連2法改正・政府の中長期計画を解説。荷主・ 物流事業者は今何をするべきか。

2024年5月15日、…

2024.04.12

発荷主が取り組むべき事項

物流業務の効率化・合理化

  • 荷待ち時間・荷役作業等にかかる時間の把提
  • 荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール/1時間以内努力目標
  • 物流統括管理者の選定
  • 物流の改善提案と協力

(発荷主のみ)

  • 出荷に合わせた生産・荷造り等
  • 運送を考慮した出荷予定時刻の設定

運送契約の適正化

  • 運送契約の書面化*
  • 荷役作業などに係る対価*
  • 運賃と料金の別建て契約*
  • 燃油サーチャージの導入・燃料費などの上昇分の価格
    への反映*
  • 下請取引の適正化(下請に出す場合、*の項目について対応することを求める)

輸送・荷役作業等の安全の確保

  • 異常気象時等の運行の中止・中断等

着荷主が取り組むべき事項

物流業務の効率化・合理化

  • 荷待ち時間・荷役作業等にかかる時間の把提
  • 荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール/1時間以内努力目標
  • 物流統括管理者の選定
  • 物流の改善提案と協力

(着荷主のみ)
・ 納品リードタイムの確保

運送契約の適正化

  • 運送契約の書面化*
  • 荷役作業などに係る対価*
  • 運賃と料金の別建て契約*
  • 燃油サーチャージの導入・燃料費などの上昇分の価格への反映*
  • 下請取引の適正化(下請に出す場合、*の項目について対応することを求める)

輸送・荷役作業等の安全の確保

  • 異常気象等の運行の中止・中断等

荷主の対応をHacobuが支援

Hacobuでは、上記のような荷主が対応すべき取り組みを支援しています。

トラック予約受付サービス「MOVO Berth」

動態管理サービス「MOVO Fleet」

配車受発注・管理サービス「MOVO Vista」

物流DXコンサルティング「Hacobu Strategy」

今まさに、荷主企業の意識、行動の変化が求められているのです。トラックGメンの取り組みへの協力、物流効率化への対応にお困り事があれば、お気軽にお問い合わせください。

著者プロフィール / 菅原 利康

株式会社Hacobuのマーケティング担当

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