貨物自動車運送事業法とは?目的や改正点を解説

2024年度・2025年度と立て続けに大きな改正が成立し、荷主や物流事業者の注目を集めている貨物自動車運送事業法。貨物自動車運送事業法の基本的な考え方や目的、そして最新の改正内容について理解を深めておくことは重要でしょう。
本記事では、貨物自動車運送事業法について物流DXパートナーのHacobuが解説します。
なお、2025年に成立・公布された改正内容をお知りになりたい方は、以下をクリックしてフォーム入力することで資料をダウンロードいただけます。

目次
貨物自動車運送事業法とは
貨物自動車運送事業法とは、 トラック(貨物自動車)を使った運送事業に関する基本的なルールを定めた法律です。輸送の安全を確保し、取引の適正化と物流全体の効率化を実現するために制定されています。ドライバーの労働環境改善や過労運転防止、荷主企業の適正な取引慣行の確立など、社会的責任を果たすうえで非常に重要な役割を担っています。
制定された目的
貨物自動車運送事業法が制定された最大の目的は、貨物輸送の安全を確保することです。トラック輸送は、生活物資や産業製品など私たちの暮らしを支える重要な役割を果たしていますが、同時に重大事故や過労運転といったリスクも伴います。この法律は、それらのリスクを未然に防ぎ、ドライバーの健康と安全を守るための枠組みを示しています。
さらに、公正な競争を促し、取引の適正化を図ることも大きな目的です。過度な価格競争や無理な納期要求は、結果として現場の安全性を脅かす可能性があります。貨物自動車運送事業法は、運送事業者と荷主企業が適切な取引関係を築き、持続可能な物流体制を支えることを求めています。
加えて、物流全体の効率化を推進することも重要な狙いです。効率的かつ持続可能な物流は、社会基盤を守るうえで欠かせない要素であり、日本経済全体の競争力向上にも寄与します。
物流三法にも含まれている
物流三法とは、競争の促進と輸送の安全確保を目的として制定された「物流二法」(貨物自動車運送事業法、貨物利用運送事業法)に、鉄道事業法を加えた3つの法律を指します。これらは、物流業界における安全性や効率性、取引の適正化を包括的に支える重要な法体系です。
貨物自動車運送事業法は、主にトラック輸送を対象とし、輸送の安全確保やドライバーの労働環境改善、公正な競争の促進を目的としています。陸上輸送の中心となる法律で、多くの運送事業者や荷主企業にとって最も関わりが深い基盤法です。
次に、貨物利用運送事業法は、他の運送事業者の輸送手段を利用して貨物を運ぶ「利用運送事業者」に適用される法律です。物流の多様化が進む中で、複数の輸送モードを組み合わせた最適な輸送計画を実現する際に重要な役割を果たしています。
そして、鉄道事業法は、鉄道を利用した貨物輸送に関する法律です。鉄道輸送は大量輸送が可能で、環境負荷の低減にも貢献します。法的な枠組みを通じて、安全性の確保や輸送品質の向上が求められています。
貨物自動車運送事業の種類
貨物自動車運送事業には、主に「一般貨物自動車運送事業」、「特定貨物自動車運送事業」、「貨物軽自動車運送事業」の3種類があります。それぞれの事業形態には特徴があり、取扱内容や許可要件も異なります。以下では、各事業の概要とポイントを解説します。
1. 一般貨物自動車運送事業
一般貨物自動車運送事業とは、他人から依頼を受け、運賃を収受して貨物を運ぶ事業です。最も一般的な形態であり、宅配便やチャーター便などが代表例です。多様な荷主からの要望に応じた柔軟な運送サービスを提供できる点が特徴です。また、軽自動車および二輪自動車以外の自動車を利用する必要があります。
2. 特定貨物自動車運送事業
特定貨物自動車運送事業は、特定の荷主からのみ依頼を受けて貨物を運ぶ事業です。たとえば、グループ会社間や特定企業向けの物流業務に活用されるケースが多く、一定の取引先との専属的な契約に基づいて行われます。
3. 貨物軽自動車運送事業
貨物軽自動車運送事業は、軽自動車および排気量125cc超の二輪自動車を使った運送事業です。小回りの利く配送が可能で、地域密着型の小規模配送に向いています。個人事業者や小規模事業者が多く参入しており、柔軟なサービス提供が求められます。
一般貨物自動車運送事業と特定貨物自動車運送事業は許可が必要
一般貨物自動車運送事業と特定貨物自動車運送事業を営むには、国土交通大臣の許可が必要です。許可を取得するためには、厳格な基準や審査項目をクリアする必要があり、許可後も法令遵守が徹底的に求められます。
許可の基準
許可が与えられる基準は以下の通りです。
- 事業の計画が輸送の安全確保のために適切であるか
- その他、事業の遂行上適切な計画があるか
- 事業を自ら適確に遂行できる能力があるか
8つの審査項目
- 営業所の確保
- 車庫の確保
- 車両の保有計画
- 運行管理体制
- 整備管理体制
- 財務基盤
- 適法性の誓約
- 安全対策計画
参考:https://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/youshiki/unnsoujigyou/trk/trk.html
法令試験の概要
法令試験は、運送事業者が法律や安全管理に関する知識を有しているかを確認するために実施されます。試験に合格することで、事業者としての適格性が認められ、許可が付与されます。事業開始後も定期的な監査や報告義務が課せられ、違反があれば厳しい行政処分が科されます。
貨物軽自動車運送事業は届出が必要
貨物軽自動車運送事業を営む場合は、一般貨物や特定貨物と異なり、国土交通省への届出で事業開始が可能です。この事業形態は、軽自動車および排気量125cc超の二輪自動車など、比較的小規模で柔軟な配送ニーズに応えるモデルであり、個人事業者にも広く利用されています。
届出に際しては、以下の情報を届出書に記入する必要があります。
- 営業所名、住所
- 事業用自動車の種別ごとの台数
- 車庫・駐車場の住所や営業所からの距離、面積
- 休憩・睡眠施設の住所や面積
- 運行管理体制(運行管理の責任者氏名)
- 法令遵守や損害賠償に関する同意
参考:https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001519102.pdf
一般貨物自動車運送事業と比べて手続きは簡便ですが、それでも安全輸送と法令遵守が強く求められます。
貨物自動車運送事業法に違反する行為
運送の安全と適正運営を損なう行為は、貨物自動車運送事業法の違反となり得ます。以下は代表的な例です(なお、道路交通法違反など他法令の違反自体は各法の違反ですが、都道府県公安委員会の通知などがある場合、処分判断の要素として取り扱われることがあります。)。
勤務・乗務時間基準の不遵守
拘束・休息・連続運転などの基準に反する勤務や運行をさせる、安全と健康を損なう行為。
点呼の未実施
出庫・帰庫時の点呼をドライバーに実施せず、酒気帯びや体調、運行計画の確認を怠る行為。
定期点検整備の未実施
事業用自動車の法定の定期点検整備を行わない、またはその体制を整えていない行為。
整備管理者の未選任
整備管理者を配置せず、点検・整備計画や記録管理などの整備体制を欠く行為。
運行管理者の未選任
必要な運行管理者を選任せず、運行計画、点呼、指導監督の仕組みを持たない行為。
名義貸し
自社の許可名義を第三者に利用させ、実態のない事業主体で運送を行わせる行為。
事業の貸渡し等
許可事業を他者に貸し付けるなど、実際の運営主体が許可の内容に適合しない状態。
行政検査の拒否・妨害・忌避/虚偽陳述
立入検査を拒み・妨げ・忌避したり、質問に虚偽の陳述を行うなど、監督に応じない行為。
参考:https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03punishment/data/transmittal_k107.pdf
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2025.02.27
貨物自動車運送事業法における行政処分の種類と仕組み
措置は一般に、軽いものから「勧告・警告」→「自動車等の使用停止」→「事業停止」→「許可取消」へ段階化されています。違反点数や処分日車数、関係機関からの通知等を踏まえ総合的に判断され、個別事案により取り扱いは異なり得ます。
参考:https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03punishment/data/transmittal_k107.pdf
貨物自動車運送事業法に関係する制度や機能
貨物自動車運送事業法を遵守するには、周辺の制度や仕組みも合わせて理解しておくことが重要です。ここでは、荷主勧告制度やトラック・物流Gメン、標準的な運賃など、実務に直結するポイントを簡潔に解説します。
荷主勧告制度
貨物自動車運送事業法に盛り込まれている制度のひとつが「荷主勧告制度」です。貨物自動車運送事業法では、運送事業者が法令違反をした際、その原因が荷主の行為に起因すると認められる場合に、国土交通大臣が当該荷主に対し是正を勧告できると定めています。さらに、勧告を行った場合には、その内容や荷主の名称、違反概要を公表できることも規定されています。
荷主勧告制度は、荷主が運送事業者に対して、過剰な値引き要求や法令違反を招くような過大な運送条件を押しつけている場合に発動されます。たとえば、極端な短納期指示や著しい運賃引き下げが原因で、運送会社が過積載や長時間労働をせざるを得ない状況になると、安全性や労働環境が悪化し、法の目的に反します。
このため国土交通省は、調査や行政指導を通じて荷主の行為を是正します。勧告が出され、公表されれば、荷主は社会的な信頼低下や取引先からの評価悪化という強い是正圧力を受けることになります。つまり、貨物自動車運送事業法と荷主勧告制度は、運送事業者だけでなく荷主側の行動も規律し、業界全体の安全・公正・持続可能性を守るために、法律と行政措置が連動して機能しているのです。
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2024.10.30
トラック・物流Gメン
貨物自動車運送事業法の適正運用を補完し、違反行為や取引慣行の是正を加速させる役割を担っているのが「トラック・物流Gメン」です。トラック・物流Gメンは、国土交通省が設置した専門チームで、法令違反や過度な取引慣行によって運送事業者の安全運行や労働環境が損なわれる事案を重点的に調査します。
貨物自動車運送事業法には、安全確保や労働環境改善、健全な競争条件の確保といった基本理念が定められており、その中には前述の荷主勧告制度や「荷主の責務」など、荷主や元請け事業者にも責任を課す規定があります。トラック・物流Gメンは、これらの規定を実効的に機能させるため、現場での聞き取り、運賃・契約条件の確認、荷主・元請け事業者の関与実態調査を行い、違反が確認されれば行政処分(働きかけや要請、勧告)へとつなげます。
つまり、貨物自動車運送事業法が「ルールブック」だとすれば、トラック・物流Gメンはそのルールが現場で守られているかを監視・調査し、必要に応じて是正のための行政措置に結びつける「執行部隊」です。この体制によって、法律上の制度(例:荷主勧告制度)が単なる理念や規定に留まらず、現場レベルで実効性を発揮できる仕組みとなっています。
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2023.12.25
標準的な運賃
貨物自動車運送事業法に基づき導入された制度のひとつが「標準的な運賃」です。標準的な運賃は、国土交通大臣が告示によって運送事業の適正な取引と安全運行の確保のために定める運賃の目安のことです。
制度の背景には、長年にわたる過当競争や荷主からの過剰な値下げ要求によって、運送事業者の利益や労働条件が圧迫され、安全対策や人材確保が困難になるという構造的課題があります。標準的な運賃は法的拘束力を持つ上限・下限運賃ではなく、あくまで国が提示する基準値です。しかし、貨物自動車運送事業法の枠組みの中で、運賃交渉における合理的な根拠として活用され、荷主や元請け事業者に対しても「この水準を下回る契約は不当な条件となり得る」というメッセージを発します。また、トラック・物流Gメンや地方運輸局の監視・指導と組み合わせることで、標準的な運賃を下回る取引慣行の是正にもつなげられます。
つまり、貨物自動車運送事業法が業界全体の安全・公正な取引条件を守るためのルールを定め、その中で「標準的な運賃」は健全な収益確保と適正運賃収受のための「物差し」として機能しています。この仕組みにより、法律上の理念(安全確保・労働環境改善)が経済的基盤からも支えられるようになっているのです。
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2025.01.15
貨物自動車運送事業法の度重なる改正の背景
貨物自動車運送事業法は2024年・2025年それぞれで改正が成立し、公布されました。まずは、その背景を解説します。
物流の2024年問題に対する危機感
2024年4月から、トラックドライバーにも時間外労働の上限規制(年間960時間)が適用され、過重労働に対する法的制約が具体化しました。これにより、輸送能力の低下や人手不足など、「運べなくなるリスク」が高まりました。この状況を放置すれば、国内の物流インフラの維持・安全確保に重大な支障が出るとの認識が広まり、構造的改革の必要性が急浮上しました。
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2023.05.25
長年の構造的課題への対応
長時間労働・低賃金といったトラックドライバーの労働環境の課題、そして透明性のない多重下請構造により運賃の低廉化や品質低下、適切な対価がドライバーに渡らない不公正な取引慣行により、安全性や事業者の健全性が揺らぐ状況が常態化していました。これらの課題を背景に、業界全体の持続可能性、透明性、公平性の確保を目指した大胆な改革が必要とされ、法改正へと至りました。
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2025.03.04
【2025年8月最新】改正貨物自動車運送事業法の動き
貨物自動車運送事業法の改正内容の要点を解説します。
2024年度に公布、2025年度に施行済みの改正内容の要点
書面交付義務の強化
まず、契約時の書面交付が義務化されました。運送契約では、役務の内容や運賃・料金、燃料サーチャージ、附帯業務の有無と対価などを記載した書面を、真荷主と元請け事業者間、また元請けと以降の事業者間で交わし、それぞれが1年間保存します。交付方法は紙だけでなく、メールなどの電子手段も認められています。
実運送体制管理簿の作成
また、元請け事業者は1.5トン以上の貨物について、実運送事業者の名称、運送区間、請負階層を記した管理簿(実運送体制管理簿)を作成し1年間保存する義務が課せられました。下請け事業者も必要情報を元請け事業者へ通知し、委託関係の全体像を明確化します。
健全化措置と管理体制
そして、利用運送の発注では、必要コストの概算を把握した上で発注すること、また、荷主への提示額がそれを下回る場合は荷主に対して運賃交渉を行う努力義務が課せられました。さらに年間利用運送量100万トン以上の事業者は、運送利用管理規程の作成と管理者選任、国土交通大臣への届出が必要です。
その他、貨物軽自動車運送事業者に対する義務
ちなみに、貨物軽自動車運送事業者に対し、管理者の選任と講習受講、事故報告が義務付けられました。
参考:https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001878514.pdf
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2024.08.20
2025年度に公布、2026年度以降に施行予定の改正内容の要点
利用運送事業者への義務拡大
2025年4月に施行された実運送体制管理簿の作成義務ですが、2026年度からは、これまで対象外だった貨物利用運送事業者にも作成義務が課される場合があります。そして、多重下請けを原則2次請け以内にとどめる努力義務が法律上明文化されることで、多重下請け構造のさらなる是正が期待されています。こうした義務の拡大により、請負階層の透明性がさらに増すことになります。
適正原価と運賃下限ルールの導入
実運送事業者に対して適正原価を告示し、それを下回る運賃・料金での契約を禁止する規定が設けられます。結果として、不当な低運賃による実運送事業者の圧迫を防ぎつつ、適正な収益構造の確立とドライバー処遇の改善につながる狙いです。
許可更新制と白トラ対策の強化
事業許可制度も大きく変わり、従来の終身許可制から5年ごとの更新制へと移行します。これに伴って、安全管理や財務健全性、法令遵守体制の維持が求められ、長期的な適格性が問われるようになります。同時に、「白トラ」と呼ばれる無許可業者への委託は禁止され、違反した荷主には罰則が科される方向です。こうした対策は、業界全体の健全化を促進するものとなるでしょう。
労働者(ドライバー)の処遇向上措置
ドライバーをはじめとする労働者のために、運送事業者は能力に応じた公正な評価に基づく賃金支払いや処遇の確保が法的に義務付けられます。そのため、労働条件の改善が進み、離職率の低下や業界の魅力向上に寄与する可能性が高まります。
施行スケジュールと対応の必要性
改正の施行は段階的に行われ、2026年度からは利用運送事業者への管理簿の作成義務化や再委託制限、そして2028年度までに適正原価ルールと労働処遇義務、5年ごとの許可更新、白トラ禁止などが整備されていきます。事業者や荷主企業は、これらを見据えて現行の契約・管理体制を早急に見直し、将来の対応に備えることが重要です。
詳細は以下の記事をご覧ください。
【2025年6月成立】貨物自動車運送事業法の改正内容の要点を解説
2025年6月、貨…
2025.06.13
貨物自動車運送事業法対応ならHacobu
効率的で持続可能な物流は社会と産業を支える基盤です。法改正の趣旨を踏まえ、最新ルールに適した管理体制の構築や日々の業務を行っていきましょう。
なお、Hacobuでは貨物自動車運送事業法の法令遵守に最適なソリューションを提供しています。
書面交付・実運送体制管理簿の作成:MOVO Vista
配車受発注・管理サービスのMOVO Vistaは荷主・元請け事業者間、元請け事業者・実運送事業者間の書面交付や実運送体制管理簿の作成を効率化します。
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