物流版「合成の誤謬」と、物流効率化の「国の責務」

合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)とは、個々のレベルでは正しい対応をしても、経済全体で見ると悪い結果をもたらしてしまう事象を示した用語です。
物流領域においても合成の誤謬は存在すること、そしてそれを克服するための政府の動向を、物流DXパートナーのHacobuが解説します。
目次
合成の誤謬とは
合成の誤謬とは、ミクロの視点では合理的な行動であっても、それが合成されたマクロの世界では、必ずしも好ましくない結果が生じてしまうことを示す経済学の用語です。英語では、fallacy of compositionと表します。
例えば、景気悪化に対応して企業が一斉に費用削減を行った場合、経済全般がさらに悪化して、ますます企業業績が落ち込むようなケースが該当します。
節約の罠
合成の誤謬の典型例として、「節約の罠(paradox of thrift)」があります。
個々人が貯金を増やすことは、個人にとっては将来の安心やリスク回避のために賢明な選択です。しかし、もし全員が一斉に貯蓄を増やすと、消費が減り、商品やサービスへの需要が低下します。需要が減ると企業の売上が落ち、企業は生産を抑え、最終的に雇用が減少します。これにより所得も減少し、貯蓄するどころか切り崩すという悪循環が生まれ、結果的に経済全体の成長が停滞する可能性があります。
物流領域における合成の誤謬
物流領域において、この節約の罠が問題になっています。
例えば、荷主にとって物流コストの削減は経済合理的な行動です。そのため荷主は毎年目標を定めて物流コストの削減を推進しています。物流コストの削減が達成できれば、短期的に荷主の利益は向上します。
しかし、適正な運賃水準を割ってまで値下げ要求をすれば、運送事業者は適正な運賃を収受できません。適正な運賃を収受できなければ、運送事業者の利益は圧迫され、ドライバーの給料が減少します。この結果、運送事業者の倒産、ドライバー不足が深刻化します。
運送事業者の減少・ドライバー不足により、国内全体の輸送力が低下し、限られた輸送力を荷主が奪い合うことになります。その結果、逆に物流コストが上昇するという状況が生まれるのです。個々の企業がコスト削減を目指すことが、結果として全体に悪影響を及ぼし、物流コスト全体の上昇を招く現象が、物流領域における合成の誤謬です。
物流効率化の「国の責務」
2030年問題と政府の中長期計画
物流領域における合成の誤謬が克服されなければ、2030年には全国で荷物全体の3割超を運べなくなる恐れがあると考えられています。
一方、政府は2024年2月16日、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を行い、「2030年度に向けた政府の中長期計画」を策定・公表しました。中長期計画には5つのポイントがありますが、筆頭に「適正運賃収受や物流生産性向上のための法改正等」があげられています。
政府としては物流危機を回避するため、中長期的な取り組みが必要と考え、その取り組みの1つとして法改正を推進しました。
合成の誤謬を克服するには、政治の力が必要
2024年4月5日に行われた、衆議院国土交通委員会の「物流法・トラック法改正 参考人質疑」にて立教大学の首藤若菜教授が、合成の誤謬について言及されたことは、物流領域において重要と言えるでしょう。以下は原文です。
「合成の誤謬を克服していくためには、私は政治の力が必要だというふうに考えています。持続可能な物流という意味でのマクロな合理性を担保するために、政府による規制的な措置が必要だと考えておりまして、今回の法案の意義は、まさにそこにあるというふうに思っております。」
国の責務を明確化
上記言及における「規制的な措置」および「今回の法案」とは、2024年5月15日に公布された改正流通業務総合効率化法(「物資の流通の効率化に関する法律」に名称変更)、または関連する政省令などのことを指します。
同法改正では、荷主企業などへの義務化を中心に新しい条文が数多く出ていますが、いの一番の第3条に「物流効率化は国の責務である」という一文があります。政府が物流効率化を責任を持って行うという意思が、改めて明確化されたと言えます。
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政府の動向に注目しよう
政府は、物流領域における合成の誤謬を克服することに本腰を入れています。
物流関連2法の改正や、トラックGメンによる取り締まり強化、下請法や物流特殊指定、独占禁止法の管轄である公正取引委員会の動向など、政府の取り組みには引き続き要注目です。
ハコブログでは、政府の動きに対する発信や、荷主・物流事業者が何をすべきかを、引き続き情報発信してまいります。
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