2024年度「骨太の方針」と下請法改正による物流領域への影響と対策方法

2024年6月、第8回経済財政諮問会議が行われ、2024年度「骨太の方針」(原案)が公開されました。本記事では、物流領域のおける要点を物流DXパートナーのHacobuが解説します。
目次
下請法とは?
下請法は、大企業と中小企業の間の公平な取引を守るためのルールです。正式名は「下請代金支払遅延等防止法」で、支払いの遅れや不当な値引き、買いたたきなどを禁止しています。現在は製造・修理・情報作成・役務提供が対象ですが、荷主・物流事業者間の運送委託にも適用されます。これにより、物流事業者が適正な運賃を得られるようにする狙いがあります。
下請法と物流特殊指定との違い
下請法は、資本金規模の大きい親事業者と小さい下請事業者間の取引が対象です。書面の交付や支払期日の設定といった手続きの公正化と、不当な減額などを禁じます。
一方、物流特殊指定は荷主と物流事業者の関係に特化し、資本金によらず適用されます。荷待ち時間の対価不払いや契約外作業の強制など、物流現場で起こりがちな優越的地位の濫用をより具体的に禁止している点が大きな違いです。
関連リンク:https://hacobu.jp/blog/archives/5100
骨太の方針2024のポイントと下請法改正への言及
骨太の方針とは、政権の重要課題や翌年度予算編成の方向性を示すものです。正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」で、小泉政権時の2001年度に始まりました。各省庁の利害を超えて官邸主導で改革を進めるため、首相が議長を務める経済財政諮問会議で毎年6月頃に策定します。かつて宮沢喜一財務相が同会議の議論を「骨太」と表現したことから、骨太の方針と呼ばれるようになりました。
骨太の方針について解説した資料はこちらからダウンロードいただけます。
賃上げの促進
まず【1.豊かさを実感できる「所得増加」及び「賃上げ定着」】で賃上げの促進について言及があります。 トラック運送業の持続的・構造的賃上げに向け、物流関連2法の改正に基づき、ガイドラインなどを早期に示し、業界外も含めた周知の徹底、価格転嫁の円滑化を図るとともに、国及び地方自治体に加えて民間同士の取引についても、労務費の基準及び標準的な運賃の活用を徹底することが示されています。
また、トラックGメンの機能強化などにより、処遇改善や取引適正化の取組を進めることも明記されています。
トラック・物流Gメンとは?創設の背景や体制、活動実績、勧告・社名公表の実例まで解説
今、話題と…
2023.12.25
なお、物流に閉じた話ではないですが、価格転嫁対策についても言及があります。
新たな商慣習として、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」を実現するため、独占禁止法の執行強化、下請Gメンなどを活用しつつ、事業所管省庁と連携した下請法の執行強化、下請法改正の検討などを行うことが示されています。
また、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を周知徹底するとし、価格転嫁円滑化の取組について実態調査を行い、転嫁率が低いなどの課題がある業界については、自主行動計画の策定や改定、改善策の検討を求めるようです。
物流DX
【3.投資の拡大及び革新技術の社会実装による社会課題への対応】では、物流DXついて言及されています。 物流の効率化に向け、ダブル連結トラック対象路線拡充や自動運転トラック、自動配送ロボット、自動倉庫などの実装、手続電子化などを推進することが示されています。
また、物流危機の抜本的解決に資する自動物流道路について、東京-大阪間を念頭に具体的な想定ルートの選定を含め基本枠組みを2024年夏頃に取りまとめ、早期に社会実験に向けた準備に着手し、 10年後を目途に先行ルートでの実現を目指すことも明記されています。
政府は、モーダルシフトの推進や幹線輸送の効率化を企業に一任するのではなく、政府主導でインフラ投資を積極化していくでしょう。また、手続きの電子化も同時に推進されるため、企業間の業務プロセスがデジタル上で効率化されることが見込まれます。物流DXツールのさらなる普及が考えられ、物流領域のDXが加速することが期待されます。
物流課題を解決するために、政府は積極的にさまざまな仕組みを改革しようとしています。荷主・物流事業者においては、これをチャンスと捉え、共に物流課題を解決していきましょう。
物流DXとは?メリットや推進する上での課題、解決策、事例について解説
近年、さま…
2021.11.29
下請法の改正
2025年に下請法が改正される方針が示されました。そして、2025年に改正は成立・公布され、改正下請法は2026年1月に施行されます。
下請法改正のポイント
荷主への取り締まりの強化
現在では、荷主と物流事業者における物品の輸送や保管を委託する取引は、下請法の対象ではありません。荷主と物流事業者との取引における優越的地位の濫用を効果的に規制するために指定された、独占禁止法上の告示である「物流特殊指定」に基づいています。
しかし、荷主が物流事業者に支払う運賃を不当に低く設定する「買いたたき」をさらに取り締まるため、荷主・物流事業者間の物品の運送委託が新たに下請法の対象取引に追加されます。これにより、物流事業者が人件費などの増加分を取引価格に転嫁しやすくする狙いがあると考えられています。荷主企業はこれまで以上に法令順守と適正な契約・対応が求められることになるでしょう。
不当取引疑いの573荷主に注意喚起
公正取引委員会は2024年6月、荷主による物流事業者に対する優越的地位の濫用を規制するために行った調査の結果を受け、独占禁止法上の問題につながる恐れがあるとして、573の荷主に対して具体的な懸念事項を明示した注意喚起文書を送付したと発表しました。
参考:令和5年度における荷主と物流事業者との取引に関する調査結果及び優越的地位の濫用事案の処理状況について
注意喚起を行った荷主の内訳は、製造業や卸売業・小売業が多く、注意喚起の理由としては買いたたきや代金の減額が多い傾向です。
買いたたき行為では、荷主側が物流事業者から労務費上昇に伴うコスト上昇分の運賃引上げを求められたにもかかわらず、理由なしに応じなかった例や、「物流事業者が自助努力で解決すべき」と拒否するなどの例があります。代金の減額では、「協力値引き」と称して運賃を一方的に5%差し引いたり、運賃の支払い方法を手形払いから現金振り込みにした際に運賃を一律5%差し引いて支払ったりなど、悪質な事例もあったとのことです。

公正取引委員会は今回の調査結果を受け、関係省庁や関係団体を通じて周知徹底を図り、違反行為の未然防止に向けた取り組みを進めていくとしていることから、下請法改正にもつながっていくでしょう。
適用対象(規模の基準)に「従業員基準」を追加
従来、下請法の対象は親事業者と下請事業者の資本金規模で決まっていました。しかし、これでは実態と合わないケースや、法の適用逃れの問題がありました。
このため、新たに「従業員数」も基準に加えられます。これにより、製造・運送委託では従業員300人以下、役務提供委託では100人以下の事業者も、新たに保護の対象となります。
MOVOで下請法改正に対応しよう
下請法改正は、単なる法令対応にとどまらず、サプライチェーン全体における取引の透明性と持続可能性を高める契機となります。発注者・受注者という関係性の中で、特に立場の弱い側にしわ寄せが生じやすい構造を見直すことが、企業としての社会的信頼や、長期的な取引関係の安定にもつながります。
荷主・物流事業者ともに、法改正の背景を正しく理解し、必要な対応を早期に進めることで、健全で公正な物流取引の実現が期待されます。
なお、下請法対応なら物流DXツールのMOVO(ムーボ)の導入がおすすめです。
配送依頼の適法化:MOVO Vista
MOVO Vista(ムーボ・ヴィスタ)は、「物品の運送を委託する取引」に特化した発注システム(配車システム)です。
受注後の出荷指示をかける貨物情報を基幹システムなどからMOVO Vistaに取り込み、画面上で配車組を行なった後、配送依頼書(発注書)を自動で作成できます。
役務内容や対価等(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む)について記載した書面を交付できるため、3条書面の要件を満たす発注書の交付、運送と役務の区分・価格明示を実現できます。金額や支払期日、方法を依頼時に明記することも可能です。(協力会社ごとに指定可能)
さらに、システム上で「承諾する」ボタン押下ログを記録し、合意の履歴をシステムに保持することも可能です。
下請け手数料(利用運送手数料)を運賃と切り分けて管理・請求が可能なため、荷主だけでなく物流事業者にもおすすめです。
さらに、発注履歴はMOVO Vista上に蓄積されるため、価格決定プロセスの記録(協議履歴や理由の文書化)も可能です。従来、電話にて条件交渉していた場合では履歴が残りにくいですが、MOVO Vista上に履歴が残ることで、運送委託のブラックボックスを解消します。
MOVO Vistaの概要資料は以下からダウンロードいただけます。
まとめ
下請法改正は、物流領域の課題解決に向けた重要な政策転換です。中小物流事業者の法的保護も強化され、荷待ち時間や荷役作業の無償化といった不公平な慣行が是正される見込みです。これらの取り組みにより、荷主企業の法令遵守と適正な取引構築が促進され、持続可能な物流体制の実現につながることが期待されています。
関連記事
お役立ち資料/ホワイトペーパー
記事検索
-
物流関連2法
-
特定荷主