更新日 2025.05.19

カーボンニュートラルとは?物流業界が知っておくべき基礎知識と対応ポイント

カーボンニュートラルとは?物流業界が知っておくべき基礎知識と対応ポイント

気候変動対策として「カーボンニュートラル」が注目されるなか、物流業界もその対応が強く求められるようになっています。国際的な規制強化や企業間取引における脱炭素要件の拡大により、環境負荷の可視化と削減は業界共通の課題となりつつあります。

本記事では、カーボンニュートラルの基本的な考え方から、物流業界における役割や具体的な対応策、実現に向けた課題と支援制度などについて、物流DXパートナーのHacobuが解説します。

カーボンニュートラルの基礎知識

企業や自治体の取り組みの中で「カーボンニュートラル」という言葉が使われる場面が増えています。ここでは、その基本的な考え方や、似た概念であるゼロカーボンとの違いについて整理しておきましょう。

カーボンニュートラルとは何か?ゼロカーボンとの違い

カーボンニュートラルとは、ある活動によって排出される温室効果ガス(GHG)を、吸収・除去する取り組みによって差し引きゼロにすることを指します。たとえば、製品の製造や輸送過程でCO2が排出されたとしても、再生可能エネルギーの利用やカーボンクレジットの購入により、相殺されていれば「カーボンニュートラル」となります。

一方で、「ゼロカーボン」は、そもそも温室効果ガスの排出を極力行わない(またはゼロにする)ことを目指す考え方です。カーボンニュートラルが「排出と吸収のバランス」を取ることに重きを置くのに対し、ゼロカーボンは「排出そのものの削減」を重視している点で異なります。

製造業や小売業、物流業などでは、完全なゼロカーボンを実現するのは技術的に難しい場面も多いため、まずはカーボンニュートラルの実現を足がかりに、段階的な排出削減が求められています。

なぜ今、脱炭素が重要視されている?国内・国外の動向

気候変動の深刻化を背景に、脱炭素社会の実現は世界的な優先課題となっています。2015年のパリ協定以降、多くの国が「2050年カーボンニュートラル」実現を掲げ、政策や規制を強化しています。

日本でも、2020年に政府が「2050年カーボンニュートラル宣言」を表明し、産業界や物流業界にも具体的な脱炭素対応が求められるようになりました。大手企業では、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量の可視化と削減が取引要件となるケースも増加しています。海外の取引先とのビジネス継続にも、脱炭素への取り組みが不可欠となりつつあります。

物流業界では、EVトラックや再生可能エネルギーの活用、輸送の効率化など、実現可能な対策から段階的に進めていくことが求められています。

GHG(温室効果ガス)とScope1〜3の関係性

GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)は、地球温暖化の主な原因とされるガスの総称で、代表的なものにCO2(二酸化炭素)、CH4(メタン)、N2O(亜酸化窒素)などがあります。これらの排出量は「スコープ」という枠組みで分類され、企業や組織のGHG排出量を可視化する際に用いられます。

  • Scope1:自社で直接排出するGHG(例:社用車や自家発電設備の燃料使用)
  • Scope2:購入した電力・熱の使用に伴って間接的に排出されるGHG
  • Scope3:原材料の調達、輸送、廃棄、顧客使用など、バリューチェーン全体で間接的に発生するGHG

物流業界にとって特に重要なのがScope3です。自社の活動だけでなく、取引先や顧客のGHG排出にも影響を与えるため、全体のサプライチェーンを通じた排出量の可視化と削減がカギになります。

物流業界におけるカーボンニュートラルの重要性

物流が果たす脱炭素のキープレイヤー的役割

物流業界は、単なる「物の移動」にとどまらず、サプライチェーン全体の脱炭素化に大きな影響を与える存在です。輸送時に使用するトラックや倉庫設備からは多くの温室効果ガスが排出されており、特に道路貨物輸送は日本全体のCO2排出量の約4〜5%を占めるとされています。

そのため、物流業界は脱炭素社会の実現に向けて「キープレイヤー」とされ、国の温暖化対策においても重点分野として位置づけられています。モーダルシフト共同輸配送、EV・FCV(燃料電池車)の導入など、物流業界発の取り組みが社会全体の排出削減を加速させるカギとなります。

荷主・取引先からの脱炭素要請の高まり

近年では、サプライチェーン全体での温室効果ガス削減が企業の責任として求められており、荷主企業から物流事業者に対しても脱炭素への対応が強く要請されています。たとえば、Scope3の削減目標を設定するメーカーや小売企業が増加し、輸送・配送における排出量報告を求められるケースも一般的になってきました。

また、グローバル企業との取引においては、温室効果ガス排出量の可視化と削減が条件となることもあり、対応が遅れるとビジネス機会を失うリスクもあります。物流事業者としても、こうした潮流に合わせた環境対応が競争力の一部となりつつあります。

コスト・ブランド・人材確保にも影響する環境対応

環境対応は単なる社会的責任にとどまらず、経営のさまざまな面に影響を与える要素となっています。たとえば、燃料消費の最適化や配送ルートの効率化は、CO2削減と同時にコスト削減にも直結します。加えて、環境配慮型の取り組みを積極的に発信することで、企業イメージやブランド価値の向上も期待できます。

さらに、環境意識の高い若年層からは、企業の環境姿勢が就職先選びの基準になる傾向も強まっています。脱炭素への取り組みを明確に示すことは、優秀な人材の確保や定着にもつながりうるのです。

排出量の可視化と算出方法

物流におけるScope1・2・3の具体例

カーボンニュートラルの実現に向けては、まず自社がどれだけの温室効果ガスを排出しているのかを把握する必要があります。その際に用いられるのが、Scope1〜3という分類です。物流業界における各Scopeの具体例は以下の通りです。

  • Scope1(直接排出):自社が保有・運用する車両の燃料燃焼によるCO2排出(例:自社トラックの軽油使用)
  • Scope2(間接排出):購入した電力や熱の使用に伴う排出(例:自社倉庫で使用する電気や冷暖房)
  • Scope3(その他の間接排出):外部委託した運送、従業員の通勤、備品の使用・廃棄に関わる排出など

自社のScope1は荷主目線ではScope3になるという関係性でもあります。

走行距離・燃料使用量からの算出モデル

排出量の基本的な算出方法は、「活動量 × 排出係数」というシンプルなモデルに基づきます。たとえばトラックの燃料使用によるCO2排出量は、以下のように計算されます:

CO2排出量(kg)= 燃料使用量(L) × 排出係数(kg-CO2/L)

または、

CO2排出量(kg)= 走行距離(km) × 燃費(km/L) × 排出係数(kg-CO2/L)

走行距離や燃料の使用実績が正確に把握できていれば、これらを用いて比較的簡単に排出量の算出が可能です。最近では、デジタルタコグラフなどを活用してデータ取得・可視化を行うケースも増えています。

算定・報告に使えるツールや支援制度

排出量の算出や報告をサポートするためのツール・制度も数多く提供されています。代表的なものとして以下が挙げられます。

  • 温室効果ガス排出量算定ツール(環境省) エクセル形式の無料ツールで、Scope1〜3の排出量算定が可能。中小企業にも対応。
  • サプライチェーン排出量算定ガイドライン(環境省) 物流を含む15カテゴリのScope3算定方法を網羅的に解説。
  • エコロジー・ポイント制度/グリーン物流パートナーシップ会議 環境配慮型の物流取り組みに対する表彰や補助金交付の制度もあり、取り組みを後押し。
  • ISO14064 / GHGプロトコル 国際的な排出量報告の枠組み。輸出入やグローバル展開を行う企業にとっては準拠が推奨されるケースもあります。

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これらのツールを活用することで、信頼性の高い排出量データを効率的に算出・報告でき、脱炭素経営への第一歩を踏み出しやすくなります。

カーボンニュートラル実現のための取り組み

EV・FCVトラック導入とインフラ整備

カーボンニュートラル実現において、温室効果ガスの排出源となる車両の電動化は極めて重要です。とくに、商用車におけるEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)の導入は、直接的なCO2排出を大幅に削減できる有効な手段です。

近年では、国内外のメーカーから大型・中型のEVトラックも登場しており、長距離対応や積載量の課題も徐々に改善されつつあります。ただし、充電設備や水素ステーションといったインフラの整備は地域差が大きく、自治体や関連業者との連携も不可欠です。

補助金や税制優遇などの支援制度も活用しながら、計画的に導入を進めていくことが求められます。

モーダルシフト・共同輸配送による効率化

トラック輸送から鉄道や船舶などの環境負荷が低い輸送手段へ切り替えるモーダルシフトや、複数の荷主が共同で配送する取り組みも、物流業界におけるカーボンニュートラルの鍵となります。

例えば、東京〜大阪間の長距離輸送を鉄道コンテナに切り替えることで、CO2排出量をトラック輸送と比べて1/10以下に抑えることが可能と言われています。さらに、同じ配送ルートや地域内での納品先を共有することで、配送効率の向上と走行距離の短縮が実現できます。

ただし、こうした取り組みは荷主間の調整や業務の見直しが必要になるため、発着荷主を巻き込んだ運用改善が成功のカギになります。

カーボンオフセットの活用とクレジット購入

どうしても排出を避けられないCO2については、カーボンオフセットによる対応が現実的な選択肢です。これは、他の場所で同量の温室効果ガス削減・吸収プロジェクトに投資することで、実質的に排出量を「相殺」する仕組みです。

具体的には、森林保全プロジェクトや再生可能エネルギー事業への資金提供を通じて得られるカーボンクレジットを購入することで、排出量の一部を帳消しにできます。

特に中小の物流事業者にとっては、EV導入や構造改革がすぐに難しい場合の「つなぎ策」として、オフセットの活用が現実的な選択肢になります。

社内の意識改革とサプライチェーン全体の協力体制

技術や制度だけでなく、人の意識と協力体制もカーボンニュートラル実現には欠かせません。現場レベルでのアイドリングストップの徹底や、燃費運転の促進、不要な配送の見直しなど、日々の業務改善の積み重ねが排出量削減につながります。

また、1社単独での取り組みでは限界があるため、荷主・協力会社・自治体との連携による「面での脱炭素」が重要です。サプライチェーン全体で目標を共有し、情報開示や報告の仕組みを整えることで、信頼性の高い取り組みとして外部にアピールすることもできます。

取り組みにあたっての課題と解決策

コスト増への懸念と中長期の投資回収計画

カーボンニュートラルへの取り組みは、EVトラックの導入や設備更新、管理体制の構築などに初期費用がかかるため、「コストがかさむのではないか」との懸念が根強くあります。

しかし、これらの投資は中長期的にはコスト削減にもつながる可能性があります。たとえば、燃料費の削減、メンテナンスコストの低減、税制優遇の活用などを踏まえることで、5〜10年単位の回収計画が描けるケースも増えています。

また、環境対応への評価は取引拡大や企業価値向上、人材採用にも好影響をもたらし、経済的リターンは単なるコスト比較にとどまらない点も意識しておく必要があります。

脱炭素対応の属人化・運用負荷の軽減策

脱炭素への取り組みが一部の担当者に偏り、ノウハウが属人化してしまうことは、持続的な運用の妨げになります。また、排出量の集計・報告・社内調整などが煩雑で、現場の運用負荷が高まることも課題です。

これに対しては、デジタルツールや業務フローの標準化が有効です。具体的には、排出量算定ツールや可視化ダッシュボードの導入、社内マニュアルの整備、定例的な報告体制の構築などにより、属人化を防ぎつつ効率的な運用が可能になります。

また、社内横断のプロジェクトチームを組成し、経営層も巻き込んだ意思決定体制を作ることが、実効性の高い取り組みを支える鍵となります。

制度・補助金を活用した導入支援

国や自治体は、脱炭素の取り組みに対してさまざまな支援制度を用意しています。たとえば以下のような制度が代表的です。

  • EV・FCV導入に対する購入補助金
  • 再生可能エネルギー設備の導入補助
  • グリーン物流パートナーシップ会議による表彰制度や共同配送支援
  • 中小企業向けの省エネ・脱炭素経営支援補助金

これらの制度を積極的に活用することで、導入時の費用負担を大幅に軽減できます。特に中小の物流企業にとっては、公的支援をうまく使うことが持続的な対応の鍵となります。

制度情報は頻繁に更新されるため、環境省や経済産業省、地方自治体の最新情報を定期的に確認し、タイミングを逃さず申請できる体制づくりも重要です。

まとめ

物流業界におけるカーボンニュートラルの取り組みは、気候変動対策の一環であると同時に、企業の競争力や信頼性を左右する重要な経営課題です。

EV導入やモーダルシフトといった技術的対応に加え、サプライチェーン全体の連携や社内意識の変革、制度活用によるコスト最適化など、多面的なアプローチが求められます。

「脱炭素はコストではなく投資」と捉え、長期的な視点で戦略的に取り組むことが、今後のビジネスの持続性と成長に直結します。今こそ、物流業界の未来に向けた一歩を踏み出すタイミングです。

なお、Hacobuでは「運ぶを最適化する」をミッションとして掲げ、物流DXツールMOVO(ムーボ)と、物流DXコンサルティングサービスHacobu Strategy(ハコブ・ストラテジー)を提供しています。

MOVOは燃費法を用いて、Scope3のカテゴリー4(上流の輸配送)・カテゴリー9(下流の輸配送)の可視化が可能です。

トラック予約受付サービス(バース予約システム) MOVO Berth

MOVO Berth(ムーボ・バース)は、物流拠点におけるトラックの入退場を管理するシステムです。

入退場の予約時に出荷元住所を入力することで、出荷元→納品先(自拠点)までのトラックの走行距離を把握できます。入荷車両は出荷元が手配することが多いため、一般的にカテゴリー4の可視化は難しいですが、MOVO Berthの活用によって走行距離の実績からCO2排出量を計算いただけます。

動態管理サービス MOVO Fleet

MOVO Fleet(ムーボ・フリート)は、運送を委託している会社の位置情報や走行ルートを可視化・分析できるシステムです。

「走行履歴」画面の下部に実際に走行したルートのCO2排出量が表示されます。日報機能にて、一日分の走行距離から算出されるCO2排出量をダウンロードすることも可能です。店舗配送などのカテゴリー9可視化におすすめです。

配車受発注・管理サービス MOVO Vista

MOVO Vista(ムーボ・ヴィスタ)は、運送を委託している会社への配送依頼をデジタル上で行うシステムです。

配送依頼時に出荷元→納品先の住所を入力することにより、走行距離とCO2排出量が算出されます。幹線輸送などのカテゴリー9可視化におすすめです。

また、CO2排出量の削減には、Hacobu Strategyがお力添えできます。

物流DXコンサルティング Hacobu Strategy

共同輸配送やバックホールの活用など、トラックのシェアリングを行うことで、カテゴリー4・9の削減が可能です。共同輸配送やバックホールを実行するには、データの分析や戦略の立案など、物流における専門知識が必要になります。Hacobu Strategyは、物流DXの戦略、導入、実行まで一気通貫で支援します。

著者プロフィール / 菅原 利康
株式会社Hacobuが運営するハコブログの編集長。マーケティング支援会社にて従事していた際、自身の長時間労働と妊娠中の実姉の過労死を経験。非生産的で不毛な働き方を撲滅すべく、とあるフレキシブルオフィスに転職し、ワークプレイスやハイブリッドワークがもたらす労働生産性の向上を啓蒙。一部の業種・職種で労働生産性の向上に貢献するも、物流領域においてトラックドライバーの荷待ち問題や庫内作業者の生産性向上に課題があることを痛感し、物流領域における生産性向上に貢献すべく株式会社Hacobuに参画。 >>プロフィールを見る

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