GHGプロトコルとは?目的や背景、算定方法、報告の手順、Scope1~3の算定方法、影響を解説

GHGとは「Greenhouse Gas」の略で、日本語では温室効果ガスのことです。また、GHGプロトコルとはGHG排出量の国際基準です。
本記事では、物流DXパートナーのHacobuがGHGプロトコルの基礎知識や基準となるScope1、2、3の算定方法、ビジネスにもたらす影響について詳しく解説します。
GHG排出量の算定と報告は、企業の持続可能な経営において重要な役割を果たします。GHGプロトコルを理解し、実践することで、環境への影響を最小限に抑える取り組みが可能となります。
目次
GHGプロトコルとは
GHGプロトコルとは、GHG排出量を算定し、報告するための国際的な基準です。企業や組織が自らの排出量を正確に把握し、環境への影響を評価するための指針として広く採用されています。
GHGプロトコルの目的
GHGプロトコルの主な目的は、GHG排出量の透明性と一貫性を確保することです。統一された基準を用いることで、企業間や業界間での比較が容易になり、GHGの削減が期待されます。
また、GHGプロトコルは企業が持続可能な経営戦略を策定する際の基盤となります。具体的な排出削減目標の設定や、目標の達成に向けた具体的な行動計画の策定を支援します。
GHGプロトコルの国際的背景と創設の経緯
GHGプロトコルの策定には、各国や企業で異なっていた排出量算定方法を統一し、国際的な比較や報告を可能にする必要性が背景にありました。
まず1998年にWBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)とWRI(世界資源研究所)が招集した企業や団体、政府、研究者らによって、 「GHGプロトコルイニシアチブ」が創設されました。GHGプロトコルイニシアチブが2000年11月に発表したガイドラインの素案を各国の企業が実際に使用してフィードバックを行い、改善を重ねたのち2001年10月に「GHGプロトコル」として発表されました。
その後、GHGプロトコルは国際的な気候変動条約や各国の環境政策とも連携し、企業の環境報告の標準として広く採用されています。これにより、グローバルな気候目標の達成に向けた企業の貢献が促進されています。
気候変動対策における企業の重要性
気候変動対策において、企業は主要な役割を果たしています。産業活動やエネルギー使用によるGHGの排出は、地球温暖化の主要な原因の一つとされています。そのため、企業がGHGの排出削減努力を行うことは地球規模の気候目標達成に直結します。
GHGプロトコルを導入することで、企業は自社の環境負荷を把握し、具体的な削減目標を設定することができるようになります。これにより、持続可能なビジネスモデルへの転換が促進され、長期的な競争力の向上にも繋がります。
さらに、消費者や投資家の間で環境意識が高まる中、GHGプロトコルに基づく透明な報告は企業の信頼性を高め、市場での評価向上にも寄与します。このように、企業の気候変動対策はビジネスの持続可能性と直結しています。

GHGプロトコルによるサプライチェーン排出量の算定
GHGプロトコルでは、サプライチェーン排出量を把握することを重視しており、サプライチェーン排出量をScope1、Scope2、Scope3の3つに分類します。これにより、直接的および間接的な排出源を包括的に把握することが可能となります。
Scope1:直接排出
Scope1は、企業が直接管理およびコントロールする活動から生じる温室効果ガスの排出を指します。具体例としては、工場の燃焼設備からのCO2排出や、社用車からの排出などが挙げられます。
これらの直接排出は、企業の運営そのものに直結しており、排出量の削減に向けた第一のステップとなります。エネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの導入など、具体的な対策が有効です。
Scope2:間接排出(購入したエネルギー)
Scope2は、企業が購入する電力や熱、蒸気などのエネルギー消費に伴う間接的なGHGの排出を指します。これらの排出は、購入先のエネルギー供給源に依存します。
たとえば、再生可能エネルギーを多く利用する電力会社から電力を購入することで、Scope2の排出量を削減することが可能です。一方、化石燃料由来の電力を多く使用する場合、Scope2の排出量は増加します。
Scope2の排出量を削減するためには、エネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの導入が効果的です。また、グリーン電力証書の購入などを通じて、間接的な排出削減を図ることも一つの方法です。
Scope3:サプライチェーン全体
Scope3は、企業のサプライチェーン全体にわたるその他の間接的なGHGの排出を指します。これには、製品の製造、輸配送、廃棄に関連する排出が含まれます。
Scope3の排出源は多岐にわたり、購入した原材料の生産過程から、製品の使用後の廃棄まで幅広くカバーします。これにより、企業の環境影響を包括的に評価することが可能となります。
Scope3の排出量を削減するためには、サプライチェーン全体での協力が不可欠です。具体的には、サプライヤーとの連携や、持続可能な物流システムの構築、製品のライフサイクル全体を考慮した設計などが有効です。
各カテゴリごとの排出量を詳細に把握し、排出活動の影響を正確に評価することで、企業は環境影響の大きい部分に対して優先的に対策を講じることができ、全体としての排出削減効果を最大化することができます。
GHGプロトコルに基づく算定方法と報告の手順
GHGプロトコルに準拠したGHGの算定方法と報告の手順について解説します。
排出量算定の目的と対象範囲の設定
まず、GHG排出量算定の目的を明確にし、対象範囲を設定します。これにはGHGの種類や組織的・地理的範囲、活動の種類、時間的範囲が含まれます。
Scopeごとのデータ収集と排出量の算出
排出量算定に必要なデータ収集は、企業の各部門やサプライチェーン全体から行われます。これにはエネルギー消費量や原材料の使用量、輸送距離などの詳細なデータが含まれます。
その際は、Scope1、Scope2、Scope3に分類してデータを収集します。基本的な算定式は「排出量 = 活動量 × 排出係数」です。各Scopeの排出量を合計してサプライチェーン全体の排出量を算出します。
また、データの透明性を高めるためには、データ管理システムの導入や、定期的なデータ更新が重要です。データ収集プロセスにおける標準化を図ることで、データの一貫性と比較可能性を確保します。
さらに、ステークホルダーとのコミュニケーションを通じて、データ収集の方法や基準についての理解を深めることも重要です。これにより、報告の透明性と信頼性が向上し、企業の環境パフォーマンスに対する信頼が高まります。
報告書の作成とGHG削減目標の設定
排出量を算定したあとは、GHGプロトコル5つの原則(妥当性、完全性、一貫性、透明性、正確性)に基づいて報告書を作成します。必要に応じて第三者検証を受けたのち、サステナビリティ報告書や環境報告書などで情報を開示します。これにより、企業は自社の環境への取り組をステークホルダーに対して報告し、信頼性を高めることができます。
また、報告においては、算定結果だけでなく、排出量の削減に向けた具体的な取り組みや戦略も併せて示すことが求められます。企業の環境責任と持続可能な経営へのコミットメントを明確にすることが重要です。
さらに、GHGの削減目標を設定することで、企業は具体的な達成基準を持ち、計画的な排出削減を進めることが可能となります。目標設定においては、科学的根拠に基づいた目標や、業界標準に合わせた目標を検討しましょう。

GHGプロトコルがビジネスにもたらす影響
GHGプロトコルの導入が企業のビジネスに与える影響について解説します。
GHGプロトコルの導入は、環境負荷の削減に加え、企業のブランド価値や投資家からの評価にも影響を及ぼします。
近年では、持続可能な経営を実現するための重要なステップとして、GHGプロトコルが企業戦略の中心に位置付けられるケースも増加しています。これにより、長期的なビジネスの安定性と成長が期待されます。
さらに、GHGプロトコルに基づく報告は、企業の透明性を高め、ステークホルダーとの信頼関係を強化する役割も果たします。これは、競争力の向上や市場での優位性獲得にも繋がります。
サステナビリティ報告書におけるGHGプロトコルの重要性
サステナビリティ報告書とは、企業の環境、社会、ガバナンス(ESG)パフォーマンスを総合的に評価・報告する文書です。GHGプロトコルに基づく排出量の算定と報告は、この報告書の中核を成します。
具体的には、GHGプロトコルを通じて得られた排出データは、企業の環境戦略の効果を定量的に示す指標として利用されます。これにより、企業は透明性を持ってステークホルダーに対して自身の環境パフォーマンスを報告することができます。
また、サステナビリティ報告書におけるGHGプロトコルの活用は、企業の信頼性を高め、投資家や顧客からの評価向上に繋がります。これは、企業の長期的な成長と市場での競争力を強化する要因となります。
企業ブランドや投資家への影響
GHGプロトコルを導入し、排出量を適切に管理・報告することは、企業ブランドの向上に寄与します。環境への取り組みが明確に示されることで、消費者からの信頼と支持を得ることができます。
また、投資家にとってもGHGプロトコルに基づく報告は重要な評価基準となっています。環境リスクを適切に管理している企業は、長期的な視点での投資に対して魅力的な対象となります。
さらに、環境に配慮した企業活動は、企業の社会的責任(CSR)の一環としても評価されます。これにより、企業は社会的な評価を高め、ブランド価値を向上させることが可能となります。
GHGプロトコルの課題
GHGプロトコルの導入には多くのメリットがある一方で、導入に際してはデータ収集の複雑さやコストの増加などの課題も存在します。これらの課題を克服するためには、内部の組織体制の整備や、ITシステムの導入・改善、専門知識を持つ人材の育成などが必要です。さらに、サプライチェーン全体での協力体制を構築することで、より効果的な排出削減が可能となります。
GHGプロトコルの国際的動向と事例
国際的な気候変動対策の推進に伴い、GHGプロトコルの重要性はますます高まっています。
カーボンニュートラルの達成に向けた国際的な動きは、企業に対しても積極的な排出削減を求めています。GHGプロトコルは、その基盤として各国の政策や国際基準と連携し、効果的な排出管理を支援しています。
気候変動対応とカーボンニュートラル
カーボンニュートラルは、GHGの排出量を実質ゼロにすることを目指す取り組みです。多くの国や企業がこの目標を掲げ、積極的な排出削減策を実施しています。
GHGプロトコルは、カーボンニュートラルの達成に向けた具体的な排出計算と削減戦略の策定に不可欠です。
さらに、カーボンオフセットの活用や再生可能エネルギーの導入など、GHGプロトコルに基づいた具体的な対策を講じることで、カーボンニュートラルの実現に向けた進展が期待されます。
国際基準やパリ協定との連携
パリ協定は、地球温暖化を産業革命以前の水準よりも2℃未満に抑えることを目指す国際的な取り組みです。GHGプロトコルは、この協定の目標達成に向けた具体的な手段として位置付けられています。
パリ協定との連携により、GHGプロトコルはグローバルな標準として機能し、企業間の比較可能性と透明性を確保します。
日本における取り組み
日本においても、環境省がGHGプロトコルに基づく排出量算定のガイドラインを公表し、企業における排出管理の標準化を図っています。
さらに、日本政府は企業の排出削減を支援するための補助金や税制優遇措置を設けており、企業が積極的に環境対策を講じるインセンティブを提供しています。ほかにも、環境省は技術支援やコンサルティングサービスを通じて、GHGプロトコルの実践を支援しています。これにより、国内企業の排出削減の取り組みが一層促進されています。

今後のGHGプロトコルとサステナビリティ
テクノロジーの進化により、より精密な排出量の算定や効率的なデータ管理が可能となり、GHGプロトコルの実践はさらに効果的になります。これにより、企業は環境パフォーマンスをリアルタイムで把握し、迅速な対応が可能となります。
また、再生可能エネルギーの普及やエネルギー転換の推進により、企業の排出量削減が一層加速され、持続可能な社会の実現に向けた大きな一歩となります。これらの取り組みは、GHGプロトコルと連携して、包括的な環境戦略の構築を支援します。
テクノロジー革新による改善
最新のテクノロジーは、GHGプロトコルの算定および報告プロセスを大幅に改善する可能性を持っています。たとえば、ビッグデータ解析やAI技術の活用により、より正確な排出量の予測と管理が可能となります。
また、センサー技術やIoTデバイスの導入により、リアルタイムでの排出データ収集が実現することで、企業は迅速な排出削減措置を講じることができ、環境パフォーマンスの向上が期待されます。
また、ブロックチェーン技術の導入により、排出データの透明性と信頼性が向上し、第三者による検証が容易になります。これにより、報告の信頼性が高まり、ステークホルダーからの信頼を獲得しやすくなります。
再生可能エネルギーとエネルギー転換の推進
再生可能エネルギーの普及は、GHG排出削減の鍵となります。将来的に、企業は再生可能エネルギーへの投資を拡大し、太陽光や風力などの再生可能エネルギー源を活用することで、化石燃料依存から脱却し、Scope2およびScope3の排出削減に貢献します。
さらに、エネルギー効率の向上やスマートグリッドの導入など、包括的なエネルギー転換戦略を策定することで、企業は持続可能なエネルギー利用のモデルケースとなり、他の企業や業界への波及効果が期待されます。
温室効果ガス削減のさらなる展望
温室効果ガス削減に向けた取り組みは、今後ますます重要性を増していきます。企業は持続可能な成長を実現するために、GHGプロトコルを中心とした包括的な排出削減戦略を展開する必要があります。
将来的には、カーボンネガティブ技術の導入や炭素捕捉・利用・貯留(CCUS)技術の活用など、より先進的な削減技術が普及することが期待されます。これにより、企業はさらに高いレベルでの排出削減を達成することが可能となります。
また、国際的な協力と連携を強化することで、グローバルな環境目標の達成に向けた一体的な取り組みが進むことが期待されます。これにより、企業は国際社会の一員として、持続可能な未来の実現に貢献することができます。
まとめ
GHGプロトコルは、企業が自身のGHG排出量を正確に算定し、効果的な削減策を講じるための国際的な基準です。Scope1からScope3までの包括的な枠組みにより、企業は全体的な環境パフォーマンスを評価し、持続可能な経営を実現することが可能となります。
GHGプロトコルの導入により、企業は透明性の高い環境報告を行うことができ、ステークホルダーの信頼を獲得します。また、国際的な気候変動対策とも連携し、グローバルな環境目標の達成に貢献することができます。
未来に向けて、テクノロジー革新や再生可能エネルギーの普及を通じて、GHGプロトコルはさらに進化し続けるでしょう。企業はこのプロトコルを活用し、持続可能な未来の実現に向けた取り組みを継続的に推進していくことが求められます。
なお、Hacobuでは「運ぶを最適化する」をミッションとして掲げ、物流DXツールMOVO(ムーボ)と、物流DXコンサルティングサービスHacobu Strategy(ハコブ・ストラテジー)を提供しています。
MOVOは燃費法を用いて、Scope3のカテゴリー4(上流の輸配送)・カテゴリー9(下流の輸配送)の可視化が可能です。
トラック予約受付サービス(バース予約システム) MOVO Berth
MOVO Berth(ムーボ・バース)は、物流拠点におけるトラックの入退場を管理するシステムです。
入退場の予約時に出荷元住所を入力することで、出荷元→納品先(自拠点)までのトラックの走行距離を把握できます。入荷車両は出荷元が手配することが多いため、一般的にカテゴリー4の可視化は難しいですが、MOVO Berthの活用によって走行距離の実績からCO2排出量を計算いただけます。
動態管理サービス MOVO Fleet
MOVO Fleet(ムーボ・フリート)は、運送を委託している会社の位置情報や走行ルートを可視化・分析できるシステムです。
「走行履歴」画面の下部に実際に走行したルートのCO2排出量が表示されます。日報機能にて、一日分の走行距離から算出されるCO2排出量をダウンロードすることも可能です。店舗配送などのカテゴリー9可視化におすすめです。
配車受発注・管理サービス MOVO Vista
MOVO Vista(ムーボ・ヴィスタ)は、運送を委託している会社への配送依頼をデジタル上で行うシステムです。
配送依頼時に出荷元→納品先の住所を入力することにより、走行距離とCO2排出量が算出されます。幹線輸送などのカテゴリー9可視化におすすめです。
また、CO2排出量の削減には、Hacobu Strategyがお力添えできます。
物流DXコンサルティング Hacobu Strategy
共同輸配送やバックホールの活用など、トラックのシェアリングを行うことで、カテゴリー4・9の削減が可能です。共同輸配送やバックホールを実行するには、データの分析や戦略の立案など、物流における専門知識が必要になります。Hacobu Strategyは、物流DXの戦略、導入、実行まで一気通貫で支援します。
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