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執筆者:菅原 利康

コアコンピタンスとは | ケイパビリティとの違いや重要性、ロジスティクスがコアコンピタンスとなり得る理由、荷主と3PLの関わり方などについて解説

コアコンピタンスとは、競合他社が真似することのできない核となる能力のことを指します。現代の荷主において、ロジスティクスをコアコンピタンスと捉える企業が増えています。

本記事では、コアコンピタンスの概要や重要性、ロジスティクスがコアコンピタンスになり得る理由、そして荷主がロジスティクスをコアコンピタンスと捉える上で3PLとどう関わっていくべきかについて、物流DXパートナーのHacobuが解説します。

なお、ロジスティクスを企業のコアコンピタンスにする上で、外部専門家の活用による客観的な戦略支援が重要です。Hacobuは、物流DXコンサルティングのHacobu Strategyを提供し、経営戦略策定からテクノロジーを活用した実装まで、一気通貫で荷主を支援しています。

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目次

コアコンピタンスの概要

コアコンピタンス(Core Competence)とは、「競合他社が真似することのできない核となる能力」のことを指す経営戦略における重要な考え方です。

コンピタンスには「能力」「力量」「適正」などの意味があり、企業が持つさまざまなコンピタンスの中でもコアとなるものがコアコンピタンスです。

コアコンピタンスは、単なる技術や資源のことではなく、組織が長年にわたって蓄積してきた独自の能力と知識の総体を意味します。

コアコンピタンスの歴史的背景

コアコンピタンスの概念は、1990年代初頭に経営学者のゲイリー・ハメルとC・K・プラハラードによって提唱されました。彼らは、企業の競争優位性は特定の中核的能力から生まれると主張し、従来の事業戦略に革新的な視点をもたらしました。

コアコンピタンスの特徴

コアコンピタンスは、以下のような特徴があります。

  1. 模倣困難性:他社には真似しにくい独自性
  2. 顧客価値の創造:顧客に持続的な価値を提供する源泉
  3. 拡張可能性:他のビジネス領域へ応用できる柔軟性
  4. 継続的な学習と進化:学習を重ねて深まる組織的能力

ケイパビリティとの違い

コアコンピタンスと似た言葉にケイパビリティがありますが、両者は別物です。

ケイパビリティの定義

ケイパビリティは、特定の業務プロセスを遂行する組織の能力を指します。

物流においては、在庫管理、輸送、倉庫運営などの具体的な業務遂行能力がこれに該当します。

コアコンピタンスとケイパビリティの決定的な違い

ケイパビリティが個別の業務遂行能力であるのに対し、コアコンピタンスはより包括的で戦略的な概念です。

  • 組織全体の競争力を生み出す根本的な能力
  • 複数のケイパビリティを統合し、新たな価値を創造する能力
  • 企業の長期的な戦略的方向性を決定する能力

物流においては、単に荷物を効率的に運ぶ能力(ケイパビリティ)を超えて、顧客価値を最大化し、ビジネスモデル全体を革新できる能力(コアコンピタンス)が重要となります。

コアコンピタンス経営の重要性

コアコンピタンスを意識した経営戦略は、競争優位性の構築の観点で極めて重要です。

コアコンピタンス経営の意義

コアコンピタンス経営とは、企業が競争市場で生き残り、成長するための戦略的な経営手法です。

アップルは「デザインと使いやすさ」をコアコンピタンスとして、競合にはない顧客体験を提供しています。同様に、トヨタは「生産システム」、ユニクロは「高品質低価格の大量生産」を強みに、独自のビジネスモデルを確立しています。

こうしたコアコンピタンス経営により、企業は変化する市場環境でも生き残り、成長し続ける力を得るのです。

競争環境における戦略的価値

コアコンピタンスは企業に以下のような具体的な戦略的価値をもたらします。

企業が持続的な成長を遂げるためには、単に既存の市場で競争するだけではなく、独自の戦略的価値を創造することが不可欠です。その意味で、コアコンピタンスは企業の競争力を根本から支える重要な経営資源です。

差別化戦略の基盤

たとえば、ナイキは単なるスポーツウェアメーカーではなく、スポーツ科学と最先端のブランディング戦略を融合させることで、競合他社とは根本的に異なる価値を創造しています。アスリートとの緊密な共同研究による革新的な素材開発や、感動的なマーケティングキャンペーンは、単なる製品販売を超えた独自の価値提案を可能にしています。

持続的な競争優位性

スウォッチは、かつて伝統的な機械式時計産業が衰退の危機に瀕していた時代に、斬新なデザインと大衆価格戦略によって、高級時計市場と大衆市場の間に全く新しいポジションを創り出しました。独自の製造技術と大胆なデザイン戦略は、長年にわたって模倣困難な競争優位性を確立しています。

新規事業開発の触媒

もともと半導体受託生産から始まったサムスンは、自社の技術的蓄積を巧みに活用し、電子機器製造へと事業領域を大胆に拡大しました。半導体技術の深い知見が、スマートフォンという全く異なる市場での成功を可能にしたのです。

組織学習とイノベーションの推進力

グーグルは、従業員に20%の自由研究時間を与えるなど、組織全体の学習能力を制度的に担保しています。この仕組みにより、検索エンジン以外にも、Gmail、Google Maps、Chromeなど、次々と革新的なサービスを生み出してきたのです。

これらの事例が示すように、コアコンピタンスは単なる経営用語ではなく、企業の持続的な成長と競争力を根本から支える戦略的な能力なのです。競争が激化し、技術革新のスピードが加速する現代において、独自の強みを明確にし、継続的に強化していくことが、企業存続の鍵となっています。

ロジスティクスがコアコンピタンスとなり得る理由

現代では、物流を単なるコスト要因と捉えるのではなく、原材料の調達から顧客に届くまでの流れを全体最適する「ロジスティクス」として管理する企業も増えています。そのような企業は、ロジスティクスをコアコンピタンスと捉えていると考えられます。

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ロジスティクスがコアコンピタンスである例

アマゾンは短納期配送やAIによる在庫最適化で、物流を強みに顧客満足度を高めています。ユニクロは世界的な在庫最適化体制を整え、スピーディな商品供給を実現しています。そして、トヨタはジャストインタイム方式で生産効率を高め、競争優位を築いています。

これらの企業はロジスティクスをコアコンピタンスとして位置付け、持続的な競争力を得ています。

ロジスティクスが企業にもたらす価値

ロジスティクス戦略は、企業に多面的な価値をもたらします。以下に、例とともに解説します。

顧客体験の向上

ザラのオムニチャネル戦略は卓越した例と言えるでしょう。リアルタイムの在庫情報提供と迅速で正確な配送システムにより、顧客の期待を常に上回るサービスを実現しています。

サプライチェーンの柔軟性とレジリエンスの強化

ナイキは、複数の生産拠点を確保し、リスク分散型の物流ネットワークを構築することで、パンデミックや自然災害などの予期せぬ事態にも迅速に対応できる体制を整えています。

データ駆動型の意思決定基盤

アリババのロジスティクスプラットフォームは、リアルタイムの物流データ分析を通じて、予測的メンテナンスや需要変動への迅速な対応を可能にしています。

イノベーションの触媒

テスラは垂直統合型の物流モデルを通じて、自動運転技術や電気自動車物流の開発に継続的に投資し、ロボティクスと物流の融合を追求しています。

このように、現代のロジスティクス戦略は「物を運ぶ」という従来の機能をはるかに超越し、企業の競争力と成長を直接的に支える戦略的な経営資源となっています。

CLOの設置

近年、Chief Logistics Officer(CLO)を役員クラスで配置する企業が増えています。これによりロジスティクスは経営アジェンダに格上げされ、経営資源の再配分や戦略的サプライチェーン改革が円滑化すると同時に、部門間連携も強まります。CLOを設ける企業は物流をコアコンピタンスと位置づけ、競争力強化に繋げようと考えているといえるでしょう。こうした企業は、ロジスティクス領域を自社ビジネスの基盤として継続的な革新を図っています。

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物流を3PLに任せきりにするリスク

現代の物流領域では、多くの荷主が3PLと提携し、複雑な供給網を効率的に管理しています。3PLの専門性や効率性は確かに魅力的であり、適切なパートナーシップを築くことでコスト削減や運営負荷の軽減を図ることが可能です。しかし、一方で物流を完全に3PLに任せきりにしてしまうことは、企業が自社のコアコンピタンスを損なう以下のようなリスクをはらんでいる点にも目を向ける必要があります。

  • 戦略面:市場変化への迅速な対応や差別化による競合優位確立が難しくなる。
  • オペレーション面:問題発生時の原因究明や改善スピードが低下する。
  • 能力蓄積面:イノベーション創出力や緊急時の対応能力が乏しい脆弱な組織構造に陥る。

詳細を以下で解説します。

戦略面のリスク

戦略的判断力の欠如

ロジスティクスは、単なる輸送や保管の領域にとどまらず、需要予測、在庫水準のコントロール、サプライヤーとの交渉、最終顧客ニーズへの即応など、戦略的な意思決定が求められる重要なビジネス機能です。ところが、物流を3PLに任せきりにしてしまうと、企業内部で物流にまつわる判断基準や戦略眼が育たず、情勢変化に合わせた迅速な意思決定が難しくなります。

たとえば、新商品の発売スケジュールに合わせて在庫配置を最適化したり、季節ごとの需要変動に対応した輸送計画を立てたりする際も、自社で培った経験値や判断基準がなければ、常に外部へ依頼し調整する必要が出てきます。その結果、他社との差別化やスピードでの競合優位を失い、市場での存在感を弱めてしまう可能性が高まります。

サプライチェーン全体最適化の困難

サプライチェーンは、原材料調達から生産・加工、保管・輸送、そして販売に至るまで、一連のプロセスが密接に結びついています。自社でロジスティクスの舵取りができれば、需要予測に基づき生産計画や在庫配置を戦略的に決め、コストやリードタイムを全体的に最適化することが可能です。ところが、3PLに依存すると、それぞれの局面で発生する問題や改善機会を自社でコントロールしづらくなり、運賃だけ、在庫だけ、倉庫だけといった部分的な最適化にとどまりやすくなります。その結果、たとえば仕入れ先の生産性向上や在庫リスクの低減など、サプライチェーン全体を視野に入れた包括的な戦略立案が難しくなり、最終的には全体コストや顧客サービスレベル、組織全体の柔軟性低下につながってしまいます。

オペレーション面のリスク

現場状況の不透明化

物流の現場では、日々突発的な問題や改善のヒントが生まれています。たとえば、出荷作業での小さな遅れが特定顧客への配送品質を下げる、あるいは倉庫内で特定のアイテムが取り出しにくくなるなど、一見地味な課題が積み重なると、やがて顧客満足度やコスト構造に影響を及ぼします。しかし、3PL任せでいると、こうした細やかな現場情報がタイムリーかつ十分な深さでフィードバックされにくくなる可能性があります。その結果、顧客からのクレームや納期遅延が起きたとしても、原因究明や対策検討に時間がかかり、改善サイクルが回らない状態に陥るかもしれません。つまり、現場のリアルタイムな洞察を活かせず、機敏な対応能力を発揮できない組織になってしまうリスクがあります。

委託先ごとのオペレーションのばらつき

複数の3PLを利用する場合、委託先ごとに運用ルールや管理手法が異なり、結果的に業務プロセスが統一されない問題が生じます。たとえば、ある3PLでは倉庫内のロケーション管理が厳密で、在庫照合が簡単に行える一方、別の3PLでは管理手法が異なり、同じ指示を出しても成果物や報告様式がまちまちになることがあります。このようなばらつきは、社内で標準化した手順や報告体系を確立しづらくし、トラブルが起きた際に迅速な原因究明を困難にします。その結果、社内の管理コストや教育コストが増大したり、顧客へのサービス品質が一定でなくなったりするリスクが高まるのです。

能力蓄積面のリスク

ノウハウ蓄積不足による脆弱性

ロジスティクス領域では、ITツールのアップデートや新たな配送手法の導入、顧客ごとの特殊対応など、学習し続けることで得られるノウハウが競争力の源泉となります。ところが、外部依存型のモデルでは、改善策や対応経験が3PL側に集まる一方、自社内ではそのプロセスが「ブラックボックス化」しがちです。結果として、たとえば最新の需要予測ツールや、自動化機器を導入する際も、適切な判断基準や評価スキルが社内に蓄積されず、「3PL任せだからどうにかしてくれるだろう」という受け身の姿勢になりがちです。こうした状況は、いざ3PLの条件変更や市場環境の急転換が起きた時に、自社で打開策を立案できず、脆弱なビジネス構造に陥るリスクを高めます。

人材育成機会の損失

ロジスティクスに深く関わることで、社員は現場改善力、問題解決力、戦略的思考力といった貴重なスキルを身につけることができます。しかし、すべてを外注してしまうと、社内に「挑戦と学習の場」が存在しなくなり、有能な人材がロジスティクス領域で成長する機会を失います。結果的に、将来のリーダー候補となる人材が育たず、イノベーション創出や緊急事態への対応力に欠ける組織へと陥りがちです。特にサプライチェーン改革や新市場参入など、企業が新たなビジネスモデルを模索する際には、内部に豊富な知見とスキルを持つ人材が必要不可欠です。人材育成という長期的視点から見ても、外部依存型のロジスティクスは大きな機会損失をもたらすと言えます。

3PLとの効果的な協働に向けて

前章では物流を3PLに任せきりにするリスクを解説しましたが、委託そのものにリスクがあるわけではありません。荷主は3PLと適切に協働することが重要だと考えます。以下では、3PLとの効果的な協働に向けて何をすべきかを解説します。

継続的なモニタリングと改善サイクル

KPIやSLAを明確化し、3PLとの定期的なパフォーマンスレビューを実施することで、達成状況を客観的に評価し、課題を抽出します。改善点を基にプロセスを見直し、必要に応じて運用手法やツールをアップデートする「改善サイクル」を回すことで、単なる契約関係を越え、常に進化し続ける価値創造型のパートナーシップを実現します。

戦略的パートナーシップの深化

3PLを戦略的パートナーとして位置づけ、透明性と信頼を重視した関係を構築します。双方向の情報共有や迅速な意思決定、相互理解に基づく変化対応を行うことで、3PLは荷主のビジョンを理解し、変動する市場ニーズや顧客要請へ協調して対応可能になります。こうした関係は、単なる外部委託を超えた強固な結束力をもたらします。

データ共有と共通基盤による信頼構築

荷主と3PLがともに同一のデータソースを用いて議論を行うことは、透明性と客観性を高める上で極めて重要です。在庫水準、輸送リードタイム、コスト構造、顧客満足度といった主要指標を共通のプラットフォームで可視化・分析することで、議論は特定の立場に偏らず、公平な判断が可能になります。両者が同じ事実基盤を共有すれば、原因究明や改善策立案がスムーズに進み、相互不信や責任のなすり合いを避けつつ、建設的な改善へとつなげられます。

外部専門家の活用による客観的な戦略支援

3PLと荷主間の協働をより効果的にするため、場合によっては第三者のコンサルティング企業を活用することも有効です。専門的な知見を持つコンサルタントが中立的な立場からサプライチェーン戦略や業務改善の示唆を与えることで、荷主企業と3PLのパートナーシップはより戦略的な方向へと導かれます。こうした外部の視点は、組織内部や既存の取引関係では見落としがちな問題点を浮き彫りにし、新たな改善の糸口や先進的な手法の採用を促します。

内部能力強化と主体的関与

最後に、荷主自らがロジスティクスに深く関わり、内部人材の育成やノウハウ蓄積を推進する必要があります。自社で戦略意図や判断基準を理解し、改善アイデアを提案・実行できる人材が増えれば、3PLに委託しつつも自社主導型のイノベーションや緊急対応が可能になります。これが、3PLとの協働をより対等かつ持続的な成長へと導く重要な礎となるのです。

ロジスティクスを企業のコアコンピタンスにするならHacobu Strategy

本記事では、荷主にとってロジスティクスはコアコンピタンスになり得ることとその重要性を解説しました。また、ロジスティクスをコアコンピタンスにするには3PLと適切な協働体制を取ることが重要です。一方、外部専門家の活用による客観的な戦略支援や社内の物流人材の育成も有効な打ち手です。

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著者プロフィール / 菅原 利康

株式会社Hacobuのマーケティング担当

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