更新日 2025.09.09

不良在庫とは?処分方法と過剰在庫との違いを徹底解説

不良在庫とは?処分方法と過剰在庫との違いを徹底解説

在庫管理は、ビジネスを安定して運営するうえで欠かせない業務のひとつです。しかし、在庫の過不足を正確に見極めるのは容易ではなく、気づかないうちに「不良在庫」が増えてしまっているケースも少なくありません。

不良在庫は、ただの“売れ残り”ではありません。それが倉庫に眠り続けることで、保管コストや廃棄リスク、キャッシュフローの圧迫といった、さまざまな経営上の問題を引き起こします。小売業や製造業はもちろん、在庫を扱うすべてのビジネスにとって、不良在庫の管理は避けて通れない課題です。

本記事では、不良在庫の基本的な定義から、発生する原因、具体的な解消方法、さらには注意すべきポイントについて、物流DXパートナーのHacobuが解説します。

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不良在庫とは

不良在庫とは、販売の見込みが立たなくなった在庫のことを指します。長期間倉庫に眠ってしまっていたり、市場のニーズに合わなくなったりした商品は、たとえ物理的に損傷がなくても、企業にとっては「資産」ではなく「負債」となり得ます。

在庫は通常、将来的な販売を見越して仕入れるものですが、需要の変化や予測の誤りなどによって、販売が滞ってしまうことがあります。こうした在庫は、保管コストや減価リスクを伴い、キャッシュフローの悪化を招く要因になります。特に小売業や製造業では、在庫管理の巧拙が経営に直結するため、不良在庫の発生をいかに防ぐかが重要な課題となっています。

不良在庫の定義と特徴

不良在庫とは、経済的価値が著しく低下した在庫のことです。具体的には、長期間売れ残った商品や、保管コストが利益を上回る商品、市場価値が原価を下回る商品などが該当します。主な特徴は3つあります。

滞留期間の長期化

業界によって異なりますが、食品では3ヶ月、アパレルでは約6ヶ月、電子機器では1年以上売れ残ると不良在庫と判断されることが多いです。

経済的価値の低下

特にトレンド性の強い商品は時間経過で価値が急落し、損失が発生します。

保管コストの増大

スペース占有、温度管理、人件費などのコストが累積し、1年間の保管で商品価値の20〜30%のコストが発生するとされています。

不良在庫の種類

不良在庫にはその背景や要因によっていくつかの種類があり、主には以下のように分類されます。

  • 過剰生産・仕入れによる在庫:需要予測を誤り、供給過多となった商品
  • 流行遅れの商品:トレンドの変化により、消費者の需要が減少した商品
  • 型落ち商品:新モデルの登場により、旧モデルの需要が減少した商品
  • 賞味期限切れの商品:食品や飲料など、期限切れにより販売できなくなった商品
  • 品質劣化した商品:長期保管により品質が低下し、販売が困難になった商品

このように、不良在庫にはさまざまな形態があり、それぞれ異なるリスクとコストが伴います。種類ごとの特徴を正しく理解することが、適切な在庫管理の第一歩といえるでしょう。

不良在庫の具体例

小売業:冬物衣料やクリスマス商品など、シーズン後に売れ残る季節商品

製造業:旧モデル切替で余剰となる部材や半製品

飲食業:食材や惣菜の賞味・消費期限切れによる全損失

流行商品:キャラクターグッズや一時的ブーム品の需要低下

消費期限商品:コンビニ弁当・飲料など短期間で価値を失う商品

過剰在庫と不動在庫との違い

在庫管理において、「過剰在庫」「不動在庫」「不良在庫」という言葉はしばしば混同されますが、それぞれ異なる概念を表しています。これらの違いを理解することで、適切な対応策を講じることができます。

在庫タイプ定義特徴対処法
過剰在庫適正在庫量を超えて保有している状態・需要に対して明らかに過剰な量・短期的には販売可能性あり・まだ市場価値は維持・販売促進キャンペーン・価格調整で早期販売・発注量の見直し
不動在庫一定期間動きのない(売れていない)在庫・販売停滞が継続している・徐々に価値が低下中・不良在庫への移行リスクあり・セールやバンドル販売・別チャネルでの販売・商品リニューアル検討
不良在庫販売見込みがほぼなく、経済的価値が大幅に低下した在庫・長期間売れ残り・市場価値が大幅に下落・保管コストが利益を上回る・大幅値引き・在庫買取サービス活用・廃棄・償却を検討

不良在庫が発生する主な原因

不良在庫が発生する背景には、業務プロセスや市場環境に起因するさまざまな原因が存在します。ここでは、不良在庫が発生しやすくなる主な要因を4つの観点から解説します。

需要予測のミス

需要予測は在庫管理の根幹ですが、完全に的中させるのは非常に難しいものです。販売データやトレンド分析をもとに予測を立てたとしても、予期せぬ天候の変化、社会情勢の影響、競合他社の動きなどによって、実際の需要が大きく変動することがあります。

たとえば、イベントやキャンペーンに合わせて大量に仕入れた商品が、思ったほど反響を得られなかった場合、結果的に在庫が滞留してしまうリスクがあります。予測のズレが生じると、すぐに在庫過多となり、不良在庫へとつながってしまうのです。

過剰発注・仕入れの失敗

需要予測だけでなく、仕入れや発注の判断ミスも不良在庫の原因になります。特に「欠品リスクを避けたい」という思いから、やや多めに発注する企業は少なくありません。しかし、それが行き過ぎると、結果として過剰在庫を生み出すことになります。

また、仕入れ単価を抑えるために「まとめ買い」を選択することも、不良在庫を招く原因となることがあります。コストは下がる一方で、売り切るまでに時間がかかり、保管コストや品質劣化のリスクが増してしまうからです。

商品の品質問題や保管環境の影響

商品そのものに問題がある場合も、不良在庫につながる可能性があります。製造段階での不具合や、パッケージミス、欠品などが発覚すると、販売が困難になるだけでなく、返品や廃棄の対応が必要となります。

さらに、保管環境が不適切であると、品質の劣化や破損を引き起こし、まだ販売可能だった商品が不良在庫になってしまうこともあります。温度や湿度の管理が求められる商品を扱う業種では、特に注意が必要です。

流行や市場の変化による影響

市場のニーズやトレンドは常に変化しています。ファッション、家電、化粧品など、流行の影響を受けやすい商材を扱う場合、ほんの数ヶ月の間に商品の価値が大きく変わることもあります。

また、競合商品や新モデルの登場によって、従来の商品が「選ばれにくくなる」こともあります。こうした市場変化に迅速に対応できないと、販売機会を逃し、在庫が売れ残ってしまうのです。

不良在庫処分のメリットと税務上の影響

不良在庫を処分すると、主に3つの大きなメリットがあります。まず、倉庫代や人件費などの保管コスト(一般的には原価の15〜40%程度が目安であり、業種や倉庫条件によって変動します)が削減できます。次に、滞留していた資金が解放されてキャッシュフローが改善します。さらに、在庫回転率や総資産回転率などの経営指標が向上し、金融機関からの評価が高まります。

税務上は「評価減」と「廃棄」の2つの処理方法があります。評価減は商品価値が著しく低下した場合に時価まで帳簿価額を引き下げる処理であり、単なる値引き販売だけでは損金算入が認められないケースもあります。廃棄処理は処分した全額を損失として計上できますが、「いつ・どこで・何を・どのように」廃棄したかを証明する写真、廃棄証明書、産廃業者のマニフェストなどの証憑が必要です。いずれの方法も、恣意的な処理や決算直前だけの一時的な対応は税務調査で否認されるリスクがあるため、適正な評価基準に基づき、実態に即した処理を行うことが重要です。

キャッシュフロー改善効果

不良在庫処分によるキャッシュフロー改善は、固定化された資金を解放して企業経営を改善します。例えば、原価100万円の不良在庫を50万円で売却すると、帳簿上は50万円の損失が発生しますが、新たに50万円の現金が手元に入ります。

この資金で利益率の高い新商品を仕入れれば、より効率的な資金運用が可能になり、さらに保管コストも削減でき、月次のキャッシュアウトも減少します。

保管コスト削減の具体的数値

不良在庫の保管コストは多くの要素から構成されています。主な内訳は「倉庫代」「人件費」「光熱費」「保険料」「在庫管理システム費用」「機会損失」であり、これらを合計すると一般的には商品原価の15〜40%程度のコストが年間で発生します。

具体例として、都市部の物流倉庫では1坪あたり月額6,000〜15,000円の賃料がかかると想定し、100坪の倉庫の20%が不良在庫である場合、年間144〜360万円の倉庫コストが発生します。

業種別の削減事例では、アパレル業界は不良在庫削減により年間コストの25〜30%削減、食品メーカーは温度管理が必要な冷蔵・冷凍倉庫のため35%程度の削減、電子部品メーカーは精密な温湿度管理や静電対策が必要なため20〜25%程度の削減に成功したケースがあります。

節税効果と会計処理のポイント

不良在庫処分は「評価減」と「廃棄」の2つの会計処理で節税効果を生み出します。評価減は在庫価値が著しく低下した場合、時価まで帳簿価額を引き下げる処理です。例えば原価1,000万円の商品が500万円にしか売れなくなった場合、500万円の評価損を損金計上でき、課税所得が減少します。ただし、通常の値引き販売だけでは認められないため、陳腐化や価格下落の合理的な根拠が必要です。

一方、廃棄処理では商品を実際に処分し全額を損失計上しますが、「いつ・どこで・何を・どのように」廃棄したかを証明するために、写真や廃棄証明書、産廃業者のマニフェストなどの書類が必要です。注意点として、恣意的な評価減や架空の廃棄処理は税務調査で否認されるリスクがあります。決算直前だけの一時的な評価減や、帳簿上だけの廃棄処理は認められません。適正な評価基準に基づき、実態に即した処理を行うことが重要です。

経営指標改善への貢献

不良在庫を処分すると、在庫回転率や総資産回転率などの経営指標が改善します。在庫回転率は仕入から販売までの効率を示し、滞留在庫が減ることで数値が上昇します。総資産回転率も固定化資産が圧縮され改善し、資本効率の高さを示せます。これにより、金融機関や投資家から「資金運用の健全性が高い企業」と評価され、資金調達や信用力の向上につながります。

不良在庫を解消する方法

不良在庫が発生してしまった場合、重要なのは早期に対応し、企業にとっての負担を最小限に抑えることです。長く放置すればするほど、保管コストや廃棄リスクが高まり、経営への悪影響が大きくなります。ここでは、不良在庫の解消方法をいくつかご紹介します。

早期対応による在庫回転の促進

不良在庫が本格的に価値を失う前に、早めに売り切る工夫が求められます。売れ残りそうな在庫も、適切なチャネルや価格戦略を用いることで再び動かすことが可能です。

値引き販売やアウトレット販売

最も一般的な方法が、値引き販売による在庫の早期消化です。セールやキャンペーンを活用し、「お得感」を訴求することで需要を喚起し、売れ残っていた商品を動かせる可能性があります。また、自社ECや実店舗以外に、アウトレットモールやフリマアプリ、在庫処分専門のECサイトなどを活用することで、販路を広げながら在庫回転を促すことができます。

在庫買取サービスの活用

社内での販売が難しい場合には、在庫買取サービスを活用するのも一つの手です。商品カテゴリによっては、専門の業者が在庫を一括で買い取ってくれるため、即時現金化が可能になり、倉庫スペースの確保や管理工数の削減にもつながります。ブランド価値への影響を懸念する場合は、匿名販売や特定地域のみでの流通に対応してくれる業者を選ぶとよいでしょう。

在庫の再利用・リサイクル

販売が難しい商品でも、用途や視点を変えることで再活用の道が見える場合があります。たとえば、製品の一部を部品や素材として再利用する、社内向けの備品やノベルティとして使うなど、商品を別の形で有効活用することが可能です。

食品や化粧品などの場合は、一定の基準を満たせば寄付活動に回すといった社会的価値のある取り組みにもつなげられます。これにより、単なる廃棄ではなく、ブランドイメージ向上やCSR(企業の社会的責任)にも寄与する形での在庫処理が実現します。

取引先やサプライヤーとの調整

在庫の発生原因によっては、取引先や仕入れ元との関係性を見直すことも有効です。たとえば、売れ行きが思わしくない商品の返品交渉や、次回以降の仕入れ数量の調整、共同での販促企画の実施などを通じて、在庫リスクの分散を図ることができます。

特に長期的な取引関係があるパートナーとは、在庫状況や販売動向を共有することで、双方にとって無理のない供給体制を構築することが可能になります。

IoT・AIを活用した在庫管理の最適化

根本的な解決を目指すには、在庫が「不良化」する前に動きを予測し、コントロールする仕組みが必要です。近年では、IoTやAIを活用した在庫管理システムの導入が進んでおり、より精度の高い需要予測や在庫状況の可視化が実現しています。

たとえば、センサーによって倉庫内の在庫量をリアルタイムで把握したり、過去の販売データや天候・イベント情報をもとにAIが販売傾向を分析したりと、属人的な判断に頼らず在庫を管理できるようになります。これにより、不良在庫の発生を未然に防ぎつつ、企業全体の在庫効率を改善することが期待できます。

不良在庫を防ぐための注意点と対策

不良在庫は一度発生すると、コストやリスクの面で大きな負担になります。だからこそ、発生を未然に防ぐための仕組みづくりが重要です。ここでは、日々の業務に取り入れやすい実践的な対策を紹介します。

需要予測の精度向上

不良在庫を防ぐ第一歩は、やはり需要予測の精度を高めることです。過去の販売データや季節性、トレンド情報、外部要因(天候・イベント・経済動向など)をもとに、できるだけリアルな需要を見極めることが求められます。

また、社内で属人的な予測に頼るのではなく、複数のデータを掛け合わせて分析する仕組みを持つことで、精度を安定させることができます。予測の定期的な見直しも重要なポイントです。

発注・仕入れルールの最適化

仕入れや発注の判断基準が曖昧なままだと、無意識のうちに過剰在庫を抱えてしまうリスクが高まります。適正在庫数や最小発注単位、安全在庫の基準など、社内で明確なルールを定め、全員が共通認識を持てる状態を作ることが大切です。

加えて、仕入れ先との柔軟な連携体制を築いておくことで、急な需要変動にも対応しやすくなります。たとえば、受注生産型の取引や、小ロットでの仕入れ対応なども選択肢の一つです。

適切な在庫管理システムの導入

手作業や表計算ソフトによる在庫管理には限界があります。現場の状況をリアルタイムで把握し、迅速な判断を可能にするには、在庫管理に特化したシステムの導入が効果的です。

たとえば、販売データや在庫回転率を自動で分析してくれるSaaS型のツールを活用することで、データに基づいた発注判断がしやすくなります。複数拠点の在庫を一元管理できる仕組みがあれば、全体最適な在庫調整も実現できます。

保管環境の見直しと品質管理の強化

在庫があっても、品質が劣化して販売できなくなっては意味がありません。特に食品・化粧品・電子機器など、品質に影響を受けやすい商品を扱う場合は、保管環境の整備が重要です。

温度・湿度管理の徹底、棚卸しの頻度や方法の見直し、パッケージ破損のチェック体制など、日常的な管理体制を見直すことで、不良在庫化を未然に防ぐことができます。また、定期的なスタッフ教育も品質維持の観点では欠かせません。

Hacobu Strategyで不良在庫の対策を

不良在庫の発生を防ぎ、効率的な在庫管理を実現するためには、正確なデータに基づいた業務改善が欠かせません。Hacobu Strategyは、物流業務の可視化・最適化を支援する物流DXコンサルティングサービスとして、不良在庫の課題解決に貢献します。

Hacobu Strategyでは、まず実際の物流現場から得られる豊富なデータを活用した現状分析を行い、倉庫内の在庫状況や入出荷データ、商品ごとの回転率などを詳細に分析し、どの商品がどのタイミングで滞留しやすいかを可視化します。この分析結果をもとに、在庫管理の改善ポイントを特定し、具体的な対策を提案します。

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まとめ

不良在庫は、単なる“在庫の残り”ではなく、経営リスクを内包した課題です。しかし、その発生には明確な原因があり、日々の業務や仕組みの改善によって十分にコントロールすることが可能です。

重要なのは、発生後の対処だけでなく、「発生させない」ための視点を持つこと。需要予測の見直し、仕入れルールの整備、在庫管理システムの導入、品質管理の徹底など、企業全体で一貫した在庫戦略を持つことが、不良在庫削減の鍵となります。

在庫は、利益を生む“資産”にもなり、コストを生む“負債”にもなります。在庫を的確にコントロールし、健全な経営体制を築くための取り組みを、今日から一歩ずつ進めていきましょう。

著者プロフィール / 菅原 利康
株式会社Hacobuが運営するハコブログの編集長。マーケティング支援会社にて従事していた際、自身の長時間労働と妊娠中の実姉の過労死を経験。非生産的で不毛な働き方を撲滅すべく、とあるフレキシブルオフィスに転職し、ワークプレイスやハイブリッドワークがもたらす労働生産性の向上を啓蒙。一部の業種・職種で労働生産性の向上に貢献するも、物流領域においてトラックドライバーの荷待ち問題や庫内作業者の生産性向上に課題があることを痛感し、物流領域における生産性向上に貢献すべく株式会社Hacobuに参画。 >>プロフィールを見る

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