ESGとは?定義やSDGsとの違い、物流における課題や事例を解説

サステナビリティへの関心が高まるなか、企業活動において「ESG」が重要なキーワードとして注目されています。特に、環境負荷の高い業種や人手不足が深刻な業界では、ESGへの対応が競争力を左右する要素となりつつあります。
本記事では、ESGの定義やSDGsとの違いをわかりやすく解説しながら、物流領域における課題や取り組み事例について、物流DXパートナーのHacobuが解説します。ESG対応に取り組みたいと考えている方や、情報収集を進めている方にとって、実践のヒントとなる内容をお届けします。
目次
ESGとは
ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を取った言葉で、企業が持続可能な成長を目指す上で重視すべき3つの要素を指します。かつては企業の評価基準といえば財務情報が中心でしたが、近年ではESGの観点が企業の価値を測る上で欠かせない指標となっています。特に、投資家や取引先がESGに積極的な企業を選ぶ傾向が強まっており、業種や規模を問わずその重要性は増しています。
ESGが注目される背景とその意義
ESGが注目されるようになった背景には、気候変動や人権問題、企業不祥事といった社会的課題の深刻化があります。環境に配慮せずに成長を追求する企業活動は、長期的には地球環境や社会に大きな悪影響を及ぼし、結果として企業自身のリスクにもなり得るという認識が広がっています。
また、機関投資家をはじめとするステークホルダーの間でも、ESGに配慮した企業への投資や取引を重視する動きが加速しました。これにより、企業は自社の社会的責任を果たすだけでなく、経営戦略の一環としてESGへの対応を強化する必要に迫られています。ESGは単なる社会貢献ではなく、企業の持続的な競争力を高めるための重要な要素になりました。
ESGと似た言葉との違い
ESGとSDGsの違い
ESGとSDGsは、いずれも持続可能な社会の実現を目指す点で共通していますが、性質や目的には違いがあります。SDGs(持続可能な開発目標)は、国連が定めた2030年までの国際的な目標であり、17のゴールと169のターゲットから構成されています。これは政府や市民社会、企業などあらゆる主体に行動を促すグローバルな指針です。
一方、ESGは主に企業の経営や投資において注目される評価基準であり、企業活動が環境・社会・ガバナンスにどう影響しているか、またそれにどう取り組んでいるかを示します。つまり、SDGsは社会全体の目標であり、ESGは企業にとっての実践的な指針と言えるでしょう。
ESGとCSRの違い
CSR(企業の社会的責任)は、企業が本業を通じて社会に対して果たすべき責任を意味します。寄付やボランティア、地域貢献などの活動がその代表例ですが、企業によってはPR的な意味合いで行われていることもあります。
これに対し、ESGはCSRよりも経営戦略や事業の中心に位置づけられる傾向があります。ESGは、企業の価値やリスク評価に直結する要素として扱われ、投資家や市場からの評価にも大きな影響を及ぼします。単なる社会貢献ではなく、ビジネスとしての持続可能性を高める取り組みがESGの特徴です。
ESGとCSVの違い
CSV(Creating Shared Value/共通価値の創造)は、企業が経済的価値と社会的価値の両方を同時に創出する考え方です。たとえば、環境負荷を低減する製品の開発や、地域社会の雇用を生む事業展開などがCSVの例として挙げられます。
ESGとの違いは、CSVがより積極的に社会課題をビジネスチャンスと捉えている点にあります。ESGはリスク管理や基準への対応という側面が強いのに対し、CSVは社会課題の解決を通じて新たな市場を開拓しようという攻めの姿勢を持っています。両者は補完関係にあり、企業が持続可能な成長を目指す上で、両方の視点をバランスよく取り入れることが求められます。
物流領域にとってESGが重要な理由
物流は、社会や経済の基盤を支える重要な存在であることは言うまでもありません。しかし、その反面、環境や労働の課題が表面化しやすい業種でもあります。ここでは、なぜ物流領域にとってESGが不可欠なのかを掘り下げてみましょう。
環境への影響が大きい業界であるため
物流領域は、トラック輸送や倉庫のエネルギー使用、輸送網の広がりなどにより、CO2排出量が多くなりがちです。温暖化対策や再生可能エネルギーの活用といった環境対応が社会全体で求められるなか、荷主企業や物流企業もその責任を果たすことが期待されています。環境負荷の少ない輸送手段への切り替えや、配送ルートの最適化、EVトラックの導入など、脱炭素に向けた取り組みがますます重要になっています。
人材確保・労働環境が経営課題になっているため
ドライバー不足や高齢化、長時間労働といった問題は、物流領域において深刻な経営課題です。さらに2024年から適用された時間外労働の上限規制により、働きやすい職場づくりや労働時間の適正化、多様な人材の受け入れといった「社会」への配慮は、ESGの視点からも重要なテーマです。人材の安定確保と定着を実現することは、長期的な事業継続にも直結します。
取引先・投資家がESGを重視しているため
大手企業やグローバル企業では、サプライチェーン全体におけるESG対応を重視する傾向が強まっています。そのため、取引先として選ばれるためには、荷主企業・物流企業もESGへの取り組み姿勢を明確に示す必要があります。また、金融機関や投資家もESG評価を投資判断の基準とするケースが増えており、資金調達や企業評価においても無視できない要素となっています。単にコストではなく、企業価値を高める投資として、ESG対応に取り組むことが求められています。
ESG対応が競争優位になる時代
ESGに積極的に取り組むことは、企業のブランド価値や信頼性の向上につながります。たとえば、環境に配慮した配送サービスや、地域社会と連携した雇用促進施策などは、顧客や地域住民からの共感を得やすく、ビジネスの拡大にも貢献します。競合との差別化要素としてESGを戦略的に活用することで、中長期的な成長を実現できる土台を築くことができます。持続可能な社会づくりに貢献しながら、企業としての存在意義も高めていくことが、これからの物流企業に求められる姿勢です。
物流領域におけるESGの課題
物流領域でESGの取り組みを進めるにあたり、向き合うべき課題は少なくありません。環境への負荷が大きく、労働問題も顕在化しているなかで、ESGの各観点におけるリスクやボトルネックを正しく理解し、対応していくことが不可欠です。以下では、「環境」「社会」「ガバナンス」の3つの視点から、物流領域に特有の課題を具体的に整理していきます。
環境(Environment)の課題
CO2排出量の多さ
物流領域は、輸送手段の多くをトラックに依存しており、これが温室効果ガス排出の大きな要因となっています。国内外の環境規制が強化されるなか、CO2削減は避けて通れない課題です。しかし、EVトラックの導入やモーダルシフト(鉄道・船舶への転換)にはコストやインフラ面でのハードルがあり、すぐには解決しづらいのが現状です。
再配達問題
ネット通販の拡大により、個人向け配送が増加し、再配達の件数も年々増えています。これは輸送効率を下げるだけでなく、無駄なエネルギー消費とCO2排出の原因にもなっています。置き配や宅配ボックスの導入など、受け取り側との協力体制も含めた解決策が求められています。
倉庫・施設のエネルギー効率
物流センターや倉庫は、24時間稼働する施設も多く、照明・空調・冷蔵設備などのエネルギー消費が非常に大きくなります。老朽化した施設では省エネ対策が進みにくいこともあり、設備投資や建て替えが喫緊の課題です。また、再生可能エネルギーの導入やZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)への取り組みも広がりつつありますが、導入コストの壁が依然として存在します。
社会(Social)の課題
労働環境の悪化・人手不足
物流領域は、長時間労働や休日の少なさといった厳しい労働環境が問題視されており、人材の確保と定着が難しい状況にあります。特に中小企業では、人手不足が日常的な問題となっており、ドライバーの過重労働や安全面への影響も懸念されています。労働時間の短縮と効率化、待遇改善が急務です。
高齢化と若手不足
業界全体でドライバーや倉庫作業員の高齢化が進んでおり、若年層の入職率が伸び悩んでいます。物流の将来を支える人材が不足するなか、教育・育成体制の整備や業界イメージの改善など、若手を呼び込むための環境づくりが求められています。
多様性・ダイバーシティの不足
女性や外国人、シニア層など多様な人材の活用が期待されているものの、設備や制度の面で受け入れが進んでいない現場も多く見られます。たとえば、女性が安心して働ける休憩スペースの不足や、外国人従業員への教育体制の不備などが挙げられます。ダイバーシティ推進には、物理的な環境整備とともに、企業文化の見直しも必要です。
ガバナンス(Governance)の課題
ESGに関する情報開示の遅れ
上場企業を中心にESG情報の開示が進むなかで、特に中小企業では対応が遅れているケースが少なくありません。自社の取り組みを見える化し、外部に説明できる体制を整えることが、取引先や投資家からの信頼を得るうえで重要です。
コンプライアンス体制の整備不足
法令順守や労務管理の体制が不十分な企業では、事故や不祥事のリスクが高まります。たとえば、安全管理に関する教育が徹底されていなかったり、過重労働によるトラブルが起きたりする例も見られます。ガバナンス強化には、社内ルールの整備や定期的な監査の仕組みが求められます。
サプライチェーンリスクへの備え
自然災害や感染症、国際情勢の変化など、物流を取り巻くリスクは多様化しています。こうしたリスクに対してどのように備えるかは、企業のガバナンス力を問われる部分でもあります。BCP(事業継続計画)の策定や見直しを通じて、レジリエンスの高い体制を構築することが重要です。
物流領域でESGに取り組む企業事例
ここでは、物流領域でESGに取り組む企業の事例を紹介します。(記事公開時点の情報です)
ネスレ日本株式会社
ネスレ日本は、物流の環境負荷低減と効率化を目的に、異業種の物流企業と連携した共同輸送スキームを構築しました。関東圏の工場から新潟県までトラックでペットボトル飲料を運ぶ一方、新潟県からは米などの農産物を鉄道で全国へ輸送していた他企業と連携し、帰りのコンテナを有効活用。これにより空回送のムダを削減し、トラック使用台数を減らすことでCO2排出量を88%削減する成果を上げました。
産業の垣根を越えた連携によって、環境負荷だけでなくコストやリソースの最適化にも貢献した本事例は、「グリーン物流優良事業者表彰(経済産業大臣表彰)」を受賞し、持続可能な物流の好例として注目されています。
武田薬品×三菱倉庫×JR貨物
武田薬品工業、三菱倉庫、JR貨物の3社は、医療用医薬品の輸送におけるCO2排出削減を目的に、トラック中心の従来型輸送から鉄道へのモーダルシフトを実施しました。医薬品は品質管理の難易度が高く、振動や温度管理の課題から鉄道輸送が進んでいませんでしたが、温度管理可能な鉄道コンテナの活用や各種セキュリティ対策を通じて、医薬品流通ガイドライン(GDP)に準拠した高品質な輸送を実現。
この取り組みにより、東京から北東北地区への輸送でCO₂排出量を約60%削減する見込みとなっており、物流の2024年問題への対応としても注目されています。さらに、輸送全体の可視化には「ML Chain」と呼ばれるデータプラットフォームを活用し、温度や位置情報をリアルタイムで把握。環境対応とサプライチェーン品質の両立に成功したこの事例は、製薬業界と物流業界の連携によるESG実践の好例として高く評価されています。
三菱倉庫「武田薬品、三菱倉庫、JR貨物が医療用医薬品輸送におけるCO2排出削減に向けて連携 - 国内特約店向け輸送でモーダルシフト -」
物流領域でESGを導入するためのステップ
物流領域でESGに取り組むには、単に理念を掲げるだけでなく、実効性のあるステップを段階的に進めていくことが重要です。ここでは、ESG導入を現場で実現するための基本的な5つのステップを紹介します。
① 現状把握と課題の洗い出し
まずは自社の物流業務が、環境・社会・ガバナンスの各分野においてどのような影響を与えているのかを把握するところから始まります。CO2排出量、労働環境、コンプライアンス体制などを定量的・定性的に可視化し、改善が必要な領域を明らかにします。この段階では、社内の現場ヒアリングや外部専門家による診断の活用も有効です。
② ESG方針の策定と目標設定
次に、自社の事業特性やリソースを踏まえたうえで、ESGに関する方針や中長期的な目標を策定します。「2030年までにCO2排出量を30%削減する」「女性従業員比率を20%に引き上げる」など、具体的かつ達成可能なKPIを設定することが、取り組みの推進力になります。経営陣のコミットメントも、この段階で明確にしておくことが重要です。
③ 具体的な施策の導入と業務への組み込み
方針と目標を定めたら、それを実現するための具体的な施策を導入します。たとえば、EVトラックの導入や再配達削減の取り組み、バース予約受付システムによる作業効率の向上、社内教育の強化などが挙げられます。単発のプロジェクトに終わらせず、業務フローに組み込んで運用できるようにすることで、継続的な改善につながります。
④ 進捗管理と定期的な見直し
施策を導入した後は、その効果を定期的に測定し、必要に応じて修正していくPDCAサイクルを回すことが欠かせません。KPIやESGスコアなどを活用しながら、数値や現場の声に基づいて評価を行い、改善ポイントを明確にしていきます。取り組みが形式化・形骸化しないよう、継続的なモニタリング体制が求められます。
⑤ 社内外への情報発信とステークホルダーとの連携
ESGの取り組みは、社内で完結するものではありません。社員への共有や社外への情報開示を通じて、企業としての姿勢を明確に発信することが、信頼や共感の醸成につながります。また、取引先や地域社会、行政、業界団体などとの連携を強化することで、自社だけでは実現できない領域にも対応しやすくなります。
ESGへの取り組みがもたらす物流領域の未来
ESGの取り組みは、単に社会貢献やイメージ向上を目的としたものではありません。むしろ、事業の継続性や競争力を高めるための戦略的な選択肢としての側面が大きくなっています。環境規制の強化や人材不足、社会的要請の変化など、物流領域を取り巻く外部環境は今後ますます厳しくなることが予想されます。
そのなかでESGに真摯に取り組む企業は、ステークホルダーからの信頼を得るとともに、リスクへの備えや市場の変化への柔軟な対応が可能になります。また、環境対応や労働環境の整備といった分野で先進的な取り組みを行うことは、結果的に新たなビジネスチャンスやイノベーションを生み出す契機にもなり得ます。
サステナブルな社会を実現するために、そして次世代の物流領域を形づくるために、ESGは今後ますます重要なテーマとなっていくでしょう。
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