更新日 2025.05.26

コストエンジニアリングとは?設計段階で利益を生み出すコスト管理の考え方を解説

コストエンジニアリングとは?設計段階で利益を生み出すコスト管理の考え方を解説

製品やサービスの開発において、コストは重要な判断軸のひとつです。近年では、コストを後から削減するのではなく、設計段階から最適化していく「コストエンジニアリング」という考え方が注目されています。本記事では、従来のコスト管理やVE(バリューエンジニアリング)との違いを整理しながら、その導入手法や運用上のポイントについて、物流DXパートナーのHacobuが解説します。

コストエンジニアリングとは

コストエンジニアリングとは、製品やプロジェクトにかかるコストを、企画や設計の初期段階から予測・最適化する手法のことです。従来、コスト管理は製造や調達の段階で行われることが一般的でしたが、コストエンジニアリングでは、あらかじめコスト構造を設計に組み込み、利益の最大化を目指します。これにより、後工程での無理なコスト削減や手戻りを防ぎ、品質を維持しながら収益性を高めることが可能になります。

この考え方は特に製造業や建設業、プラントエンジニアリングなど、複雑な要素が絡む産業において重要視されており、企業全体の収益構造の見直しや製品開発の効率化にもつながっています。

従来のコスト管理との違い

従来のコスト管理は、設計や製造が完了した後に原価を集計し、実績と予算を照らし合わせる「事後管理」が中心でした。そのため、目標を上回るコストが発生しても、後から対応策を講じるしかなく、抜本的な改善が難しいという課題がありました。

一方でコストエンジニアリングは、「事前管理」を重視します。設計の初期段階でコスト要因を洗い出し、使用する材料や製造プロセス、人件費までを視野に入れて設計を行うことで、コスト構造自体を最適化していきます。このように、コストを「管理する」だけでなく「設計する」ことで、より戦略的に収益性の高い製品開発が可能になります。

VE(バリューエンジニアリング)との違い

VE(バリューエンジニアリング)も、コストと価値の最適化を目指す手法として知られていますが、そのアプローチには違いがあります。VEは「機能に対する価値」を重視し、不要なコストを排除することで、同じ機能をより低コストで実現することを目的としています。既に設計された製品やプロセスに対して改善提案を行うことが多く、改善活動の一環として導入されることが一般的です。

それに対して、コストエンジニアリングはより上流の設計段階から介入し、そもそものコスト構造を戦略的に構築していく点が特徴です。VEが「今ある設計をどう改善するか」に焦点を当てるのに対し、コストエンジニアリングは「初めからどう設計すればコストを抑えられるか」を考えるアプローチです。両者は補完的に使われることもあり、適切に使い分けることでより効果的なコスト最適化が実現できます。

なぜコストエンジニアリングが重要なのか

現代の製造業や開発現場において、コストエンジニアリングが注目される背景には、単なるコスト削減を超えた「設計による利益創出」という考え方があります。製品やサービスの市場競争力を高めるためには、コスト構造そのものを初期段階から最適化しておくことが不可欠です。

設計・開発段階でのコスト決定率の高さ

製品のライフサイクルにおけるコストは、実際に資金が投入される前の段階、つまり設計や開発フェーズで大部分が決まってしまいます。一般的にはコストの80%は設計段階で決定されるといわれています。この段階で材料の選定や製造プロセス、外注の有無などが決まるため、後からの調整では大きな変化をもたらすのが難しいのです。だからこそ、コストエンジニアリングによって早期から最適なコスト構造を構築しておくことが、企業にとって極めて重要になります。

調達・生産段階でのコスト削減には限界がある

製造や調達の現場では、すでに決まった設計に従って作業を進めるため、できるコスト削減には限界があります。購買単価の交渉や作業効率の改善といった手法も有効ですが、設計そのものが非効率であれば根本的な解決には至りません。たとえば、過剰な機能や過剰品質によって生じるコストは、調達や製造段階では取り除けないため、設計段階で見直す必要があります。

グローバル競争や顧客ニーズの多様化によるコスト最適化の必要性

現在の市場はグローバル化が進み、同じ製品でも価格・性能・デザインに対する要求は地域によって大きく異なります。さらに、顧客のニーズも細分化・多様化しており、一律の仕様では競争に勝ち残るのが難しくなっています。こうした背景のもと、製品ごとに最適なコスト構造を設計することが求められており、その手段としてコストエンジニアリングは欠かせない存在となっています。

コストエンジニアリングの主な手法

コストエンジニアリングを実践するには、単に費用を抑えるのではなく、合理的かつ体系的な方法でコスト構造を分析・設計する必要があります。ここでは、代表的な手法をいくつか紹介します。

原価企画(Target Costing)

原価企画とは、あらかじめ「販売価格」や「目標利益」を設定し、その制約の中で実現可能な「目標原価」を逆算する考え方です。この目標原価を達成するために、設計や開発段階で仕様や材料、製造方法などを調整していきます。マーケットインの発想で製品を作るため、市場のニーズに合致した製品開発を進めやすいという特徴があります。

コストブレイクダウン(Cost Breakdown)

コストブレイクダウンは、製品の構成要素ごとにコストを細かく分解・分析する手法です。部品単位、工程単位、原材料単位などでコスト構成を明らかにし、どこに無駄が潜んでいるのか、改善の余地があるのかを把握します。この分析を通じて、適正なコスト水準や調達価格の根拠を明確にすることができ、サプライヤーとの価格交渉にも活用されます。

コストベンチマーキング

コストベンチマーキングは、自社のコスト構造を他社製品や業界標準と比較することで、過剰なコストや改善可能なポイントを発見する手法です。競合他社やベストプラクティスを参照することで、自社製品がどの部分で非効率かを客観的に把握でき、設計や開発における意思決定の質を高めることが可能になります。

機能分析・コスト評価(FMEA、ABCなど)

製品が持つ各機能とその重要度を評価し、コストとのバランスを検討するのが機能分析のアプローチです。FMEA(故障モード影響解析)は、故障や不具合のリスクを事前に評価し、それに対する対策を講じる手法で、品質とコストのバランスを設計段階で整えるのに有効です。また、ABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)は、間接費などの見えにくいコストを活動単位で可視化するため、工程全体の最適化に役立ちます。これらの手法を組み合わせることで、コストだけでなく機能や品質も含めた総合的な最適化を実現できます。

コストエンジニアリングの導入プロセスと進め方

コストエンジニアリングを効果的に機能させるには、単に手法を導入するだけでなく、プロセス全体を戦略的に設計し、社内の意識と仕組みを整える必要があります。ここでは、導入に向けた基本的なステップとそのポイントを解説します。

対象製品の明確化と目標コストの設定

まず重要なのは、どの製品に対してコストエンジニアリングを適用するかを明確にすることです。全製品を対象にするのではなく、市場競争が激しい、もしくはコスト構造に課題を抱えている製品から優先的に取り組むのが現実的です。対象製品が決まったら、市場価格や求められる利益率を踏まえて、目標コストを設定します。この「あるべき姿」を起点に設計方針を定めていくのが、コストエンジニアリングの第一歩です。

機能とコストの見える化(部品単位、工程単位)

次に行うのが、製品の構成要素を分解し、それぞれがどの程度のコストを要しているかを明確にする作業です。部品単位や工程単位でのコストの見える化を行うことで、コストのかかりすぎている部分や、機能に対して過剰な設計がされている部分を発見できます。これにより、重点的に改善すべき領域が浮かび上がり、取り組みの精度が高まります。

代替案の検討とコスト低減アイデアの評価

コスト構造が把握できたら、次は改善のための代替案を検討します。材料や部品の変更、設計の簡素化、モジュール化など、多角的な視点でアイデアを出し、それぞれのコスト削減効果や品質・納期への影響を評価します。重要なのは、単なる「安さ」ではなく、「機能を維持したままコストを下げる」こと。このプロセスには、設計者だけでなく、購買や製造現場の知見も不可欠です。

設計・調達・製造の連携体制づくり

コストエンジニアリングは、設計部門だけで完結する取り組みではありません。調達や製造の現場と情報を共有しながら、現実的かつ実行可能なコスト設計を進めていく必要があります。そのためには、部門をまたいだプロジェクト体制や、定例のレビュー会議、共通のコスト目標の設定など、組織横断的な連携の仕組みを整えることが求められます。

コストエンジニアリングの導入における課題と対策

コストエンジニアリングの有効性は認識されつつありますが、実際に導入・定着させるにはいくつかの壁があります。ここでは、よくある課題とその対策について紹介します。

設計部門への意識付けと教育

コストエンジニアリングを成功させるためには、設計者自身がコストに対する意識を持ち、自らコスト設計の主体となる必要があります。しかし多くの現場では、設計=機能や性能を追求するものという意識が根強く、コストは別部門の担当と捉えられがちです。そこで必要なのが、設計初期から「コストを意識する設計思想」を教育すること。設計者向けの原価企画研修や、成功事例の共有が有効です。

社内データの整備と活用体制

コストの見える化や代替案の検討には、正確な原価データや過去の設計情報が不可欠です。しかし、データが部門ごとに分断されていたり、更新されていなかったりすると、分析の精度が下がります。そのため、部品単価や作業工数などの基礎データを一元管理する仕組みを整備し、全社的に活用できるようにしておくことが重要です。

部門間連携の仕組み化

設計・調達・製造の連携は理想論で終わってしまうことも少なくありません。特に、部門ごとのKPIや評価指標が異なると、共通のゴールを見失いがちです。これを防ぐには、プロジェクト単位でのチーム編成や、部門横断での目標設定、共通のコスト評価指標の導入など、仕組みとしての連携を強化することが不可欠です。

まとめ

コストエンジニアリングは、コスト削減の手段というだけではなく、製品の競争力を設計段階から高めるための戦略的アプローチです。設計・調達・製造が連携し、市場ニーズに即した目標原価を実現することで、企業の利益体質を根本から強化できます。ただし、導入には部門間の意識差やデータの分断など、いくつかの課題が伴います。これらを乗り越えるためには、教育や仕組みづくりを通じて、組織全体が一体となって取り組む体制を整えることが鍵となります。

著者プロフィール / 菅原 利康
株式会社Hacobuが運営するハコブログの編集長。マーケティング支援会社にて従事していた際、自身の長時間労働と妊娠中の実姉の過労死を経験。非生産的で不毛な働き方を撲滅すべく、とあるフレキシブルオフィスに転職し、ワークプレイスやハイブリッドワークがもたらす労働生産性の向上を啓蒙。一部の業種・職種で労働生産性の向上に貢献するも、物流領域においてトラックドライバーの荷待ち問題や庫内作業者の生産性向上に課題があることを痛感し、物流領域における生産性向上に貢献すべく株式会社Hacobuに参画。

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