公開日 2025.03.03
更新日 2025.04.09

インダストリー4.0とは?定義や目的・日本の現状を解説

インダストリー4.0は、製造業のデジタル革新を推進する世界的な取り組みとして注目されています。2011年にドイツ政府が提唱したインダストリー4.0は、IoTやAI、ビッグデータを活用し、製造業のデジタル化を加速させる取り組みです。

工場内のあらゆる設備やデータをデジタルでつなぎ、生産性の向上や新たな価値創造を実現する「スマートファクトリー」の構築は、いまや製造業における重要な課題となっています。本記事では、インダストリー4.0の定義や目的、そして日本の製造業における取り組みの現状について、物流DXパートナーのHacobuが解説します。

インダストリー4.0とは?

インダストリー4.0は、IoTやAIを活用し、製造プロセスをデジタル化・自動化することで、生産性向上やコスト削減を目指す技術コンセプトです。

2011年にドイツ政府が発表した産業政策で、第4次産業革命とも呼ばれています。工場内のあらゆる設備やセンサーをインターネットでつなぎ、収集したデータを活用して生産性の向上や新たな価値創造を実現する取り組みです。従来の自動化された生産システムからさらに進化し、より柔軟で効率的な「スマートファクトリー」の実現を目指しています。

インダストリー4.0の目的

インダストリー4.0の目的は、生産効率の最大化を実現することであり、主に以下の4つです。

生産性と効率性の向上

IoTやAIなどの先端技術を製造現場に導入し、生産プロセス全体を最適化することで、より高い生産性を実現します。製造設備から収集したデータを分析し、無駄を排除するとともに、予防保全による設備の稼働率向上やエネルギー使用の効率化を図ることで、製造コストの削減を実現します。

柔軟性とカスタマイゼーションの実現

市場ニーズの多様化に対応するため、個々の顧客要望に応じた製品やサービスを、従来の大量生産と同等のコストで提供することを目指しています。生産ラインの柔軟な変更や、受注から納品までのリードタイムの短縮により、多品種少量生産を効率的に実現します。

新たなビジネスモデルの創出

デジタル技術を活用することで、従来の製品販売だけでなく、製品の使用状況に基づくメンテナンスサービスや、データ分析による最適化サービスなど、新しい付加価値を創造します。これにより、製造業のサービス化を促進し、国際競争力の強化につなげます。

リアルタイムな意思決定と透明性の向上

製造プロセス全体をデジタル化し、各工程のデータをリアルタイムで収集・分析することで、迅速かつ的確な意思決定を可能にします。さらに、サプライチェーン全体での情報共有により、在庫管理の最適化や品質管理の向上、市場変動への迅速な対応を実現します。

インダストリー4.0をドイツが推進する背景

ドイツがインダストリー4.0のプロジェクトを推進するのには、以下のような背景があります。ドイツ政府はインダストリー4.0を通じて、製造業が直面する様々な課題に包括的に対応し、持続可能な産業発展を実現することを目指しています。この取り組みは、単なる技術革新にとどまらず、社会システム全体の変革を視野に入れた戦略的なプロジェクトとして位置づけられています。

製造業の国際競争力強化

ドイツがインダストリー4.0を推進する最も重要な理由は、製造業の国際競争力強化にあります。近年、中国をはじめとするアジア諸国など、ドイツにとって競合となる国の台頭により、ものづくりにおける優位性が脅かされています。そのため、デジタル技術を活用した革新的な製造システムを構築することで、高品質な製品の生産とコスト競争力の両立を図り、グローバル市場でのリーダーシップを維持することを目指しています。

高齢化社会への対応

ドイツも他の先進国同様に高齢化社会に直面しており、製造業における労働力不足が深刻な課題となっています。インダストリー4.0の推進により、生産工程の自動化や効率化を進めることで、労働力不足を補うとともに、高齢者でも働きやすい製造環境の整備を目指しています。さらに、熟練技能者の持つノウハウをデジタル化して継承することで、技能伝承の課題にも対応しています。

エネルギー効率の向上

エネルギー効率の向上も重要な背景となっています。製造プロセスのデジタル化とスマート化により、エネルギー使用量の最適化や無駄の削減を実現し、環境負荷の低減と製造コストの削減を同時に達成することを目指しています。これは、環境保護に対する社会的要請にも応えるものとなっています。

産官学連携の促進

さらに、産官学連携の促進という側面も持っています。ドイツの強みである産業界、研究機関、政府機関の緊密な協力関係を活かし、技術革新と実用化の加速を図っています。この連携により、基礎研究から実用化までの一貫した取り組みが可能となり、効果的なイノベーションの創出を実現しています。

インダストリー4.0の設計原則

インダストリー4.0の設計原則は、スマートファクトリーを実現するための4つの重要な柱として位置づけられています。以下の設計原則は相互に関連しており、総合的に実現されることで、スマートファクトリーの構築が可能となります。インダストリー4.0の成功は、これらの原則をいかに効果的に実装できるかにかかっているといえます。

相互運用性(Interoperability)

相互運用性は、インダストリー4.0の基盤となる原則です。製造現場のあらゆる要素(モノ・人・システム)をシームレスにつなぎ、情報をリアルタイムに共有することを可能にします。異なるメーカーの機器や設備、システム間での通信を実現し、データの収集や分析、制御を統合的に行うことができます。これにより、工場全体の効率的な運用が可能となります。

情報の透明性(Information Transparency)

情報の透明性は、収集したデータを活用可能な形に変換し、可視化する原則です。センサーデータや生産情報をデジタルツインとして仮想空間に再現することで、製造プロセスの状況をリアルタイムに把握し、分析することができます。この透明性により、製品開発の効率化や需要予測の精度向上、品質管理の強化などが実現されます。

技術的アシスト(Technical Assistance)

技術的アシストは、システムによる人間の支援を重視する原則です。AIやデジタルツールを活用して、作業者の意思決定や問題解決をサポートします。複雑な生産プロセスの管理や異常検知、安全性の確保など、様々な場面で人間の作業を支援し、より効率的で安全な製造環境を実現します。

分散的意思決定(Decentralized Decision-making)

分散的意思決定は、システムの自律性を高める原則です。各設備や工程が状況に応じて自律的に判断を下し、迅速な対応を可能にします。中央集中型の制御から分散型の制御へと移行することで、生産システム全体の柔軟性と耐障害性が向上し、市場の変化や予期せぬ事態にも効果的に対応できるようになります。

日本版インダストリー4.0「Connected Industries」とは

Connected Industries は、2017年に経済産業省が提唱した、日本版インダストリー4.0の戦略です。

IoTやAIなどのデジタル技術の進化を背景に、製造現場とデジタル空間を融合させ、日本の産業が直面する課題解決と新たな価値創造を目指しています。

この取り組みの特徴は、日本の産業構造や社会課題に即した独自のアプローチにあります。具体的には自動走行・モビリティサービス、バイオ・素材、スマートライフ、ものづくり・ロボティクス、プラント・インフラ保安という5つの重点分野を設定し、各分野での技術革新と産業発展を推進しています。

Connected Industriesの中核を成す要素の1つにデータの共有と利活用が挙げられます。製造現場から得られるリアルデータを企業間で共有し、分析・活用することで、生産性の向上や新しいビジネスモデルの創出を実現します。この取り組みを支えるため、研究開発の促進、デジタル人材の育成、サイバーセキュリティの強化など、包括的な基盤整備を進めています。

さらに、Connected Industriesは国際展開、ベンチャー企業の育成、地域・中小企業への普及など、幅広い展開を目指しています。グローバルな視点を持ちながら、日本の産業界全体のデジタル化を推進し、持続可能な産業発展を実現することを目標としています。

【参考】経済産業省「第3節 価値創出に向けたConnected Industriesの推進」

日本におけるインダストリー4.0「Connected Industries」の課題

「Connected Industries」は、ドイツのインダストリー4.0とは異なる日本独自の特徴を持っており、人と技術の調和を重視する日本のものづくりの伝統を活かしながら、デジタル時代における新たな産業発展の道筋を示すものとなっています。一方で日本独自の課題も多く存在しており、以下で詳しく紹介します。

データ利活用に関する制度や法整備の不足

日本では、データの利活用に関する制度や法整備が十分に進んでいないことが課題となっています。これにより、企業間でのデータ共有や活用が制限され、Connected Industriesの推進に支障をきたす可能性があります。

人材不足と教育の課題

日本では少子高齢化により労働力不足が深刻化しています。これは産業においても人手不足を引き起こし、生産性の低下や生産量の減少が懸念されています。

また、インダストリー4.0の推進には、製造技術やデジタル技術、セキュリティリテラシーなどの専門知識を持つ人材が不可欠です。そのため、教育や研修を通じた人材育成が重要な課題となっています。

中小企業への普及の遅れ

インダストリー4.0の取り組みは現在、主に大企業を中心に行われています。中小企業への普及が遅れていることが課題であり、Connected Industriesの全面的な展開のためには、中小企業への支援や啓発が必要です。

まとめ

インダストリー4.0は、IoTやAIを活用し、製造業のデジタル化・自動化を推進する取り組みです。

2011年にドイツ政府によって提唱されたこの構想は、生産性と効率性の向上、柔軟な生産体制の構築、新たなビジネスモデルの創出など、多面的な目的を持っています。

インダストリー4.0は相互運用性、情報の透明性、技術的アシスト、分散的意思決定という4つの設計原則に基づいて推進されています。日本においても、2017年に「Connected Industries」という独自の構想を打ち出し、日本の産業構造や社会課題に即したアプローチで製造業のデジタル革新を進めています。データ利活用に関する制度整備の不足、人材不足、中小企業への普及の遅れなど、課題も存在していますが、これらを克服しながら、製造業のデジタル化とスマート化を進めることが、今後の産業発展において重要となっています。

AIを活用した物流DXについて、以下の記事もぜひ参考になさってください。

 参考:マテマ|物流はDXでどう変わるのか

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