INTERVIEW
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迫る2024年問題〜運べなくなるリスクを真剣に考えているか〜KIRINが物流パートナーにHacobuを選んだ理由〜

トラックドライバーと聞くと、多くの人は「宅配の配達員」を思い浮かべるだろう。しかし、物流業において宅配の割合はごくわずかだ。経営者が注目すべきは、企業間物流。ラストワンマイルの宅配便の市場規模が2兆9250億円であるのに対し、企業間物流は29兆2750億円に上る。

「物流クライシス」が社会課題とされる所以は、まさにこの点にある。単に自宅に荷物が届くのが遅くなる、配達料金が高くなるといった話にはとどまらない。工場に原材料が届かなければ、そもそも注文を受けた製品を作ることさえできない。イギリスやスペインでは、輸送の問題によりスーパーに商品が届かず、棚が空っぽになる事態も起こっている。30兆円に迫る企業間物流の危機は、ビジネスの根幹を揺さぶる問題なのだ。

野村総合研究所は、物流の「2024年問題」を加味すると2030年に日本全国で約35%の荷物が運べなくなるとの推計を発表している。一方で、物流スタートアップのHacobuの調査(2023年2月)では、3社に1社が「2024年問題」対策を行っていないと回答した。

運びたい100の荷物のうち、運べるのは65だけになってしまうかもしれない。それは企業経営に極めてネガティブな影響を与えることを意味する。間近に迫る2024年に向けて、対策を行わないままで本当に良いのだろうか――。

本編に登場するキリングループは、「2024年問題」対策をかねてより強力に推進している企業だ。運べなくなるリスクを経営上の優先課題と捉え、「運びきる」体制の整備を進めてきた。全国に物流拠点を構える同社は、物流DXパートナーのHacobuとともにどのような未来像を描いているのか。両社のキーマンに足元の取り組みや展望を語ってもらった。

課題解決の鍵① 物流を経営アジェンダ化せよ

「人手不足は全産業計より 20%深刻」
「貨物自動車の積載率は 40%に満たない」
「労働時間は全産業平均より 20%長い」

国内物流業の課題を示すデータは枚挙にいとまがない。上記はいずれも経済産業省・国土交通省・農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」に基づく。人手不足でありながらトラックの積載率は低く、労働時間が長い。今後、担い手の流出に拍車がかかり、トラックドライバーがいないために物が運べないリスクが顕在化することが懸念されている。

「課題解決の方向性は 3 つあると考えます」

こう切り出すのは、キリングループロジスティクス常務執行役員の小林信弥氏だ。

「1つ目は、運ぶ貨物自体を減らすこと。製造拠点の見直しを含め長距離輸送の削減などを通じて必要なトラック台数を減らします。2つ目は、トラックを過不足なく確保すること。物流拠点での設備やシステムを充実させ、荷待ちの時間を短くするなど、ドライバーの皆さんに選んでもらえる荷物にしていきます。3つ目は、限られたトラックを効率良く稼働させること。回転率を高めるための取り組みや、復路の貨物とのマッチングなどが挙げられます」(小林氏)

キリングループロジスティクス株式会社
常務執行役員 物流管理部長 兼 輸配送戦略部長 小林信弥氏
1992年キリンビール株式会社入社。SCM部門と営業企画部門のそれぞれ本社・現場を通算20年間従事した後、キリンホールディングスが資本参加したブラジルのビール・飲料会社のディレクター、日本酒・調味料の製造販売会社の現地社長を歴任。2017年に帰国して、国内酒類事業に従事後、2020年キリングループロジスティクス株式会社常務執行役員に就任し、現在に至る。

キリンホールディングスは、グループ全体の重要課題のひとつとして「持続可能な物流体制の構築」を掲げている。物流は企業内の一部門が担うものではなく、経営課題そのものと認識している表れと言えよう。Hacobu 代表取締役社長 CEO の佐々木太郎氏は、「これからの企業経営において、キリングループのように物流を経営アジェンダ化することは必須」と説く。

「物は届けたい人に届けてこそ価値を生みます。物流が極めて重要なビジネスプロセスであることに異論の余地はないでしょう。一方で、物流への投資は費用対効果が見えにくいと言われることがあります。例えばデジタル投資を行う際は、どれだけ効率化できるのか、どれだけ人件費を削れるのかといった発想になりがちです。しかし、それは物流 DX の本質ではありません。将来にわたりサステナブルなビジネスを構築することこそが目的であり、ESG やカーボンニュートラルに力を入れるのと同じ目線で物流への投資を捉えるべきです」(佐々木氏)

株式会社 Hacobu
代表取締役社長 CEO佐々木太郎氏
アクセンチュア、博報堂コンサルティングを経て、米国留学。ブーズアンドカンパニーのクリーブランドオフィス・東京オフィスで勤務後、ルイヴィトンジャパンの事業開発を経て、2011年にグロッシーボックスジャパンを創業。2013年、食のキュレーションEC&店舗「FRESCA」を創業した後、B to B物流の現状を目の当たりにする出来事があり、物流業界の変革を志して2015年Hacobuを創業。

課題解決の鍵② データを活用し、改善につなげよ

キリングループは、物流 DX の施策としてトラック予約受付サービス(バース予約システム)「MOVO Berth(ムーボ・バース)」を導入した。MOVO Berth は Hacobu が提供するクラウド型物流ソリューションであり、トラック受付のデジタル化によって待機時間削減や業務負担の軽減をもたらす。累計利用者ドライバー数(*1)は、2022年12月に42万人に到達。これは国内トラックドライバーの約半数(*2)に相当する数字だ。


(*1)累計利用ドライバー数とは、「MOVO Berth」を利用する際に登録するドライバー電話番号のID数(*2)国土交通省「物流生産性向上に資する幹線輸送の効率化方策の手引き」より2015年の従事者数 76.7万人を基に試算

キリングループでは、MOVO Berth に 2 つの効果を期待しているという。

「1つは効率化。物流施設運営のデジタル化を図ることで、配車や庫内の指示が簡便になり、業務生産性の向上を期待しています。もう1つは、MOVO Berthを通じて得られるデータの活用。課題を発見・分析し、改善を図ることを目指しています。MOVO Berthのおかげで『業務が効率化されました!』という声が私のもとにも届いていますが、それだけに留まらず、本当に大事なのはデータ活用による各種課題の解決にあると考えています」(小林氏)

トラックの待機時間が長いのは配車の時間設定が悪いのか、それとも庫内の配置が悪いのか。データを活用することで、こうした課題の解決に向けた施策が可能となる。とはいえ、それは誰にでもできるわけではなく、物流データに習熟する人材が欠かせない。

データの活用を後押しするべく、Hacobuは物流DXを主導する人材育成講座「Hacobu ACADEMY(ハコブ・アカデミー)」を提供している。物流企業のDX推進に不可欠な「課題抽出力」「企画立案力」「推進力」を身につけるための講座を計6回にわたり開催するもので、新規参加者は随時受け付けている。キリングループも受講に向けて検討を進めているところだ。

「データ分析を得意とするアナリストは物流データを扱うことができますが、そこで見つけた課題に対する答えを導くことはできません。 Hacobu ACADEMYは、データ分析力と物流のドメイン知識の双方を兼ね備える人材の育成を支援します」(Hacobu 執行役員 CSO佐藤健次氏)

株式会社 Hacobu
執行役員 CSO佐藤健次氏
2008年アクセンチュアにおいて、サプライチェーングループのマネージングディレクター就任。2012年よりウォルマートジャパン/⻄友にて、eCommerce SCM、補充事業、物流・輸送事業、BPR(全社構造 改革)の責任者を歴任。ウォルマートジャパン/⻄友の物流責任者として、各国のリーダーおよびパートナーと物流革新を推進。2019年株式会社Hacobuに参画。

課題解決の鍵③ ステークホルダーとの協働を加速せよ

ここまで物流課題の解決のカギは「物流の経営アジェンダ化」と「データ活用」にあると説明してきた。しかし、それだけでは真の課題解決には結びつかない。なぜなら、物流は自社完結の経済活動ではなく、様々なステークホルダーが存在するからだ。

「物流業界ではいまだに紙や FAX、電話でのアナログなやり取りが多く、『言った』『言わない』のトラブルが起こりがちです。重要なのは、データを通じて事実を共有し、現実を見つめなおし、建設的な解決策を考えること。それにより新しいロジスティクスの在り方を考えることができます」(佐々木氏)

この理念こそが、キリンビバレッジがHacobuを物流DXパートナーに選んだ理由だ。Hacobuは単なるソリューションベンダーではなく、MOVO Berthなどのサービスを通じてビッグデータを蓄積する物流情報のプラットフォーマーでもある。同社がステークホルダーをつなぐ役割を担い、データが分断された今の業界慣習をともに打破していくことを目指しているのだ。キリンビバレッジ執行役員SCM部長の掛林正人氏はこう語る。

「当社の製品をお客様にお届けするには、自社のみで完結できるビジネスモデルではなく、卸様や小売業の皆様と連携しなければ物流の最適化はなしえません。各社の個別最適が進んだ現状を変えていくには、皆が同じ志をもって協調することが大切です。それを主導できるのがHacobuさんだと思います。ステークホルダー間のデータを繋げることで、それぞれが必要な情報を共有することは非常に重要な一歩だと認識しています」(掛林氏)

具体的な取り組みとして、キリンビバレッジとHacobuは食品卸、小売とともにデータ連携の実証実験を行った。PSI(生産・販売・在庫)計画を共有し、共通の需要予測のもとで発注数量の平準化を図るものであり、プレイヤー間が協力することでメーカー・卸・小売の3方良しが実現することが分かった。

2022年9月には、こうしたステークホルダー間の相互理解と協力を一層推進するべく、「未来の物流共創会議」を開催。キリンビバレッジを含む十数社が参加し、メーカー・卸・小売の物流トップが意見交換を行った。参加者に共通するのは「物流を良くしたい」という思いだ。

「物流領域には自社だけでは解決できない数多くの課題があります。業界の垣根を越えて接点を持ち、オープンな議論を交わすことに大きな意義があると感じました」(掛林氏)

キリンビバレッジ株式会社
執行役員SCM部長掛林正人氏
1993年キリンビバレッジに入社。一貫してSCM部門で需給物流戦略の企画・実行やサプライチェーン領域全般のシステム開発に携わる。2018年にキリングループロジスティクス東日本支社物流管理部長、2019年には西日本支社長を歴任。2020年にキリンビバレッジにSCM部が新設されてSCM部長に就任し、現在に至る。

持続可能な物流インフラの創造に向けて

Hacobuは物流DXのリーディングカンパニーであり、その実績は導入企業一覧からも窺い知ることができる。同社は2023年5月22日、ブランドロゴを刷新するリブランディングを行った。MOVOのロゴはこれまでのイメージを一変する赤色だ。そこには、「現場の皆様を勇気づける心強いパートナーでありたい。物流の革新に貢献したい」(佐々木氏)という思いを込めている。

左:旧ロゴ 右:新ロゴ

とは言え、物流課題に対するHacobuの姿勢はこれまでもこれからも変わらない。取り組みの根幹に据えるのは、データの力で「運ぶを最適化する」というミッションだ。

キリングループとHacobuが共有するゴールは「持続可能な物流インフラを創る」こと。両社がタッグを組み、共創を加速させるのはこれからだ。

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