公開日 2025.04.24
更新日 2025.04.24

過剰在庫とは?原因やリスク、解消方法を解説

適切な在庫管理は、企業の収益性やキャッシュフローに大きな影響を与える重要な業務のひとつです。しかし、現場では「気づけば倉庫に在庫が溢れていた」「販売予測が外れて在庫を抱えてしまった」といった課題が起こりがちです。

本記事では、過剰在庫とは何か、よく混同されがちな不良在庫・不動在庫との違いを含めて、企業が抱えるリスクやその原因、解消のヒントについて、物流DXパートナーのHacobuが解説します。

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過剰在庫とは

過剰在庫とは、実際の需要に対して過剰に保有してしまっている在庫のことを指します。販売計画や調達計画とのズレによって発生することが多く、倉庫スペースを圧迫するだけでなく、在庫維持にかかるコストやキャッシュフローの悪化といった経営上のリスクを伴います。

一時的に在庫が多くなることは、セールやキャンペーンなどのイベントに備えた戦略的な判断である場合もありますが、需要の見込み違いや発注ミスによって意図せず在庫が積み上がってしまうケースも少なくありません。このような状態が続くと、在庫の劣化や陳腐化につながり、販売機会の損失や廃棄ロスに発展する恐れがあります。

特に成長段階の企業や、複数のチャネルで販売しているビジネスでは、在庫の最適化が難しく、結果として過剰在庫を抱えてしまうこともあります。売れ残った商品をどう処理するか、在庫資産の価値をどのように評価するかは、財務面でも重要な課題です。

不良在庫・不動在庫との違い

過剰在庫と混同されやすい言葉に「不良在庫」や「不動在庫」がありますが、それぞれ意味や状態が異なります。

不良在庫とは、破損や劣化などによって販売不可能になった在庫を指します。例えば、賞味期限を過ぎた食品や型落ちしてしまった電子機器などが該当します。これらは在庫として保有していても売上には結びつかず、廃棄の対象となるケースが多いです。

一方、不動在庫は一定期間まったく動きがない、つまり販売・出荷されていない在庫を意味します。在庫としては健全な状態であっても、顧客ニーズに合わない、または陳列されることなく眠っている商品がこれに当たります。

過剰在庫は必ずしも販売不可能ではなく、適切なタイミングや販促施策によって売り切ることが可能な状態である点が特徴です。とはいえ、放置すれば不動在庫を経て不良在庫へと移行してしまうため、早期の対応が求められます。

過剰在庫がもたらすリスク

過剰在庫は単に「売れ残り」ではなく、企業の経営に対して複数の側面から悪影響を与えます。ここでは、特に注意すべき4つのリスクについて解説します。

保管コストの増加

在庫が増えれば、それに伴って保管にかかるコストも上昇します。倉庫の賃料や在庫管理システムの利用料、棚卸しに必要な人件費、さらには温度や湿度などの管理が必要な商品の場合には設備維持費もかかってきます。これらのコストは目に見えにくいながらも、利益をじわじわと圧迫していくため、注意が必要です。

また、在庫が増えることで棚の入れ替えや動線の悪化が発生し、作業効率が落ちるケースもあります。結果的に、配送のリードタイムが長くなり、顧客満足度の低下にもつながりかねません。

キャッシュフローの悪化

商品が売れるまでの間、在庫は「現金がモノの形で眠っている」状態です。在庫として抱える資金が多ければ多いほど、他の事業投資や運転資金に回せるキャッシュが不足し、企業の資金繰りに影響を及ぼします。

特に中小企業やスタートアップにとっては、資金の流動性が経営の安定に直結するため、過剰在庫は見過ごせないリスクです。過去の販売実績や需要予測に基づかない発注は、キャッシュフローの滞りを招く要因となります。

商品価値の低下と廃棄リスク

過剰在庫を長期間保有すると、商品の鮮度や市場価値が徐々に低下していきます。アパレルや食品、ガジェットのように流行や賞味期限に左右されやすい商品では、この影響が顕著です。

市場ニーズから外れた商品は値引きや在庫処分セールで売り切る必要があり、粗利の圧縮を招きます。それでも売れ残った場合には、最終的に廃棄するしかなくなります。こうしたロスは、企業イメージの低下にもつながるため、環境面やサステナビリティの観点からも課題です。

倉庫スペースの圧迫

物理的に在庫が増えることで、倉庫内のスペースが圧迫され、本来必要な在庫を保管できなくなったり、物流作業の効率が落ちたりするケースがあります。スペースが不足すれば、追加で倉庫を借りる必要が出てきたり、一時的に別の場所に保管したりと、さらなるコストや業務負担を招くことになります。

また、スペースに余裕がない状況では、緊急の仕入れや新商品の取り扱いが難しくなり、ビジネスの柔軟性が損なわれる可能性もあります。販売機会を逃さないためにも、在庫量と倉庫キャパシティのバランス管理は欠かせません。

過剰在庫が発生する主な原因

過剰在庫は偶然起きるものではなく、業務プロセスのどこかに課題が潜んでいることがほとんどです。ここでは、企業がよく直面する過剰在庫の主な原因について解説します。

需要予測の誤り

最も一般的な原因のひとつが、需要予測の誤りです。過去の販売実績や季節性、キャンペーンの影響などをもとに予測を立てるのが一般的ですが、実際の需要が予測を下回った場合、仕入れた在庫が余ってしまいます。

特に新商品や過去に類似データがない商品の場合、予測精度が低下しやすく、過剰在庫のリスクが高まります。また、複数の販売チャネルを展開している企業では、チャネルごとの販売傾向を正確に把握できていないことで予測がずれ、結果として在庫が積み上がるケースも見られます。

発注・仕入れのミス

需要予測が正しくても、発注数の設定ミスや仕入れタイミングのズレによって過剰在庫が発生することがあります。たとえば、本来必要な数量よりも多く発注してしまったり、販売ペースに対して仕入れの頻度が多すぎたりといったケースです。

在庫管理システムや発注ワークフローが整備されていないと、人為的なミスが起こりやすくなります。特に成長期の企業では、業務が属人化していることで確認漏れや重複発注が発生し、気づかないうちに在庫が膨らんでいることも少なくありません。

販売戦略の失敗

値付けやプロモーション施策が市場ニーズに合っていない場合、商品が想定どおりに売れず、過剰在庫を生む要因となります。たとえば、高すぎる価格設定、訴求ポイントのずれ、顧客ターゲットとのミスマッチなどが挙げられます。

また、セールやキャンペーンを見越して多めに仕入れたものの、販促が思ったほどの効果を発揮しなかった場合も、結果として在庫が残ることになります。販売計画と在庫計画が連動していないと、こうしたズレが起こりやすくなります。

市場環境の変化(トレンドの変化、競合の影響)

消費者のニーズやトレンドは常に変化しています。その変化を捉えきれずに旧来の商品を多く抱えてしまうと、需要のない在庫が残ってしまうことになります。特にアパレルや家電、化粧品といった流行に敏感な業界では、こうした変化への対応力が重要です。

また、競合他社の新商品投入や価格戦略が影響して、想定していた自社商品の販売数が伸びず、結果として在庫が余ってしまうこともあります。市場の動向を定期的にモニタリングし、柔軟に対応していく姿勢が求められます。

製造・仕入れリードタイムの問題

製造や仕入れに時間がかかる場合、それに備えて多めに在庫を確保しておくことがあります。しかし、リードタイムに余裕を見すぎたり、調達のタイミングを誤ったりすると、その間に需要が変動し、結果的に在庫が過剰になるケースがあります。

特に海外からの輸入やOEM生産を行っている企業では、輸送期間や天候、為替の影響など、リードタイムに不確定要素が多く、柔軟な在庫調整が難しい場合もあるでしょう。このような場合には、リードタイムと需要予測のバランスをどう取るかが大きな課題となります。

過剰在庫を防ぐための対策

過剰在庫は、発生してから対処するよりも、日頃から予防策を講じておくことが重要です。在庫管理の精度を高め、経営におけるリスクを最小限に抑えるための具体的な対策を見ていきましょう。

需要予測の精度向上(データ活用・AIの活用)

まず第一に取り組むべきは、需要予測の精度を高めることです。従来のように勘や経験に頼った予測ではなく、販売実績や顧客の購買行動、季節性、外部要因などのデータをもとに分析することが求められます。

近年では、AIや機械学習を活用して需要予測を自動化・高度化するソリューションも登場しています。特に複数チャネルで販売を行っている企業では、リアルタイムでデータを連携し、変化に応じた柔軟な在庫対応が可能になります。SaaS型の需要予測ツールを導入することで、属人的な判断を減らし、仕入れや生産の精度向上につなげることができます。

適正在庫管理の徹底(在庫回転率の見直し)

在庫を「どれくらい、どのくらいの期間で売り切るか」を定量的に把握することも重要です。特に在庫回転率は、在庫管理の健全性を示す代表的な指標であり、定期的に確認・見直しを行うことで、過剰在庫の兆候を早期に察知できます。

商品ごとの売れ行きやライフサイクルに応じて、保有すべき在庫量を最適化していくことが理想です。例えば、販売頻度が高く回転率の良い商品には積極的に在庫を持ち、それ以外は最小限に抑えるといったメリハリのある管理が求められます。

在庫分析ツールやBIツールを活用すれば、日次・週次単位でのモニタリングも容易になります。

発注プロセスの最適化(JIT方式の導入など)

仕入れや発注のプロセスそのものを見直すことも、過剰在庫を未然に防ぐ上で有効です。たとえば、JIT(Just In Time)方式のように「必要な時に、必要な分だけ」を仕入れる仕組みを取り入れることで、在庫のムダを減らすことが可能になります。

JIT方式の導入には、サプライヤーとの連携強化や社内プロセスの整備が不可欠ですが、安定的な供給体制が築ければ大きな効果を発揮します。また、発注基準を明確にし、在庫状況や需要動向に応じて柔軟に対応できるフローを構築することも重要です。

クラウド型の在庫管理システムを活用することで、リアルタイムの在庫状況を把握しながら、過不足のない発注がしやすくなります。

販促施策の強化(セールやセット販売の活用)

一度発生した在庫を効率的に売り切るためには、販売戦略の工夫も不可欠です。特にセールやタイムセール、セット販売といった販促施策は、在庫を短期間で回収する有効な手段となります。

たとえば、売れ残りがちな商品を人気商品と組み合わせたセット商品にしたり、まとめ買い割引を提供したりすることで、購買意欲を刺激することが可能です。SNSやメールマーケティングを通じた情報発信と組み合わせることで、販促効果を最大化することができます。

在庫処分=値引きという印象を持たれがちですが、顧客にとって「お得感」を演出できれば、ブランド価値を損なわずに在庫を消化することも可能です。

アウトレット・B品販売の活用

過剰在庫やわずかなキズがある商品(B品)は、正規の販売チャネルとは異なる形で販売するという選択肢もあります。たとえば、自社サイト内にアウトレットコーナーを設けたり、専用のECモールやフリマアプリを活用したりすることで、在庫を収益化しやすくなります。

こうした施策は単なる在庫処分ではなく、価格に敏感な新たな顧客層へのアプローチとしても機能します。また、環境への配慮が求められる昨今、廃棄せずに販売するという姿勢が、企業のサステナビリティにもつながります。

ただし、ブランドイメージとのバランスを考慮し、販売チャネルや価格設定には十分な配慮が必要です。

過剰在庫の解消方法

過剰在庫は放置すればするほどコストやリスクが積み重なっていきます。できるだけ早い段階で在庫の適正化を進めることが重要です。ここでは、実際に企業が取り組める過剰在庫の具体的な解消方法についてご紹介します。

値引き・セールの実施

もっとも即効性のある手段が、値引きやセールによる販売促進です。期間限定で価格を下げることで、購買意欲を喚起し、在庫の回転を早めることができます。特に、シーズン品や流行性の高い商品は、鮮度が落ちる前に売り切ることが求められます。

ただし、頻繁な値引きは「このブランドはすぐ安くなる」という印象を与え、価格の信頼性を損ねる可能性があります。あくまで計画的に実施し、正規価格とのバランスを見極めることが重要です。

プロモーション施策と組み合わせて、期間限定感や数量限定感を演出することで、より効果的に在庫を動かすことができます。

BtoB販売・卸売の活用

過剰在庫を一括で処分したい場合、法人向けのBtoB販売や卸売を活用するのも有効な方法です。小売店やアウトレット業者、業務用市場などに向けて在庫をまとめて販売することで、在庫圧縮と資金回収を同時に実現できます。

通常の販売チャネルとは異なるため、価格調整や条件交渉が必要になる場合もありますが、販売リスクの低減や倉庫スペースの確保につながるというメリットがあります。中には、過剰在庫専門の仲介サービスを利用する企業も増えています。

販路を広げることで、これまで接点のなかった市場や顧客との新たな関係が生まれる可能性もあります。

寄付・リサイクルによる処分

販売が難しくなった在庫については、寄付やリサイクルによる社会貢献的な処分方法を検討するのもひとつの選択肢です。たとえば、食品や日用品を福祉施設やNPOに寄付することで、社会貢献と廃棄コストの削減を両立することができます。

また、製品の素材やパーツを再利用できるように分解・回収することで、リサイクル資源としての活用も可能です。環境配慮への関心が高まる中、こうした取り組みは企業のブランドイメージ向上にもつながります。

CSRやESG経営の観点からも、単なる在庫処分ではなく、持続可能な経営活動の一環として積極的に活用する企業が増えています。

まとめ

過剰在庫は、多くの企業にとって身近でありながら、見落とされがちな経営課題です。放置すればコストの増加やキャッシュフローの悪化、ブランド価値の低下など、さまざまなリスクにつながります。

本記事でご紹介したように、過剰在庫の発生には「需要予測の誤り」や「発注ミス」など複数の原因が存在し、企業の成長段階や業種によっても状況は異なります。重要なのは、問題が発生してから対応するのではなく、日頃からデータを活用した在庫管理や予測精度の向上に取り組み、柔軟に対策を講じる体制を整えておくことです。

また、万が一過剰在庫が発生した場合でも、値引き販売やBtoB販路の開拓、寄付・リサイクルなど多様な解消方法があります。自社に合った選択肢を見極め、戦略的に対応することが、持続可能な成長につながります。

在庫管理は経営の「見えないコスト」を左右する重要なテーマです。これを機に、自社の在庫運用を見直してみてはいかがでしょうか。

著者プロフィール / 菅原 利康
株式会社Hacobuが運営するハコブログの編集長。マーケティング支援会社にて従事していた際、自身の長時間労働と妊娠中の実姉の過労死を経験。非生産的で不毛な働き方を撲滅すべく、とあるフレキシブルオフィスに転職し、ワークプレイスやハイブリッドワークがもたらす労働生産性の向上を啓蒙。一部の業種・職種で労働生産性の向上に貢献するも、物流領域においてトラックドライバーの荷待ち問題や庫内作業者の生産性向上に課題があることを痛感し、物流領域における生産性向上に貢献すべく株式会社Hacobuに参画。

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