INTERVIEW
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執筆者:佐々木 太郎

【後編】レガシー産業でどうDXを進めるか〜Hacobuが挑む「物流DX」

Hacobuが活動する物流領域は、いわゆるレガシー産業の筆頭に数えられるような会社、業界です。これまで、様々なDXに取り組んできた経験を踏まえながら、物流領域におけるハードルや、それをどのように乗り越えていくのか、その可能性について、「レガシー産業でどうDXを進めるか」をテーマに、前編・後編に分けてお話しします。

レガシー産業におけるDXの壁

まず大前提として、「個社」のその「DXの壁」、それからステークホルダーが多い業界になると、「業界のDXの壁」、これらが複雑に絡み合います。

個社のDXの壁を突破しようとすると、業界が壁となって立ちはだかったり、業界の壁を取っ払おうとすると、今度は個社の壁が出てくるという、そんな構造となっています。

個社においては、「現状から変わりたくない現場とミドルマネジメント」が壁となります。どのような会社でも、変革しようとする時には必ずぶつかる壁と言えます。

現状から変わりたくない現場とマネジメントの壁に加えて、この「現状を把握していないトップマネジメント」によって、トップダウンで指示することもできない状況に陥ります。トップマネジメントからのアプローチも難しく、現場からのアプローチも困難となった時、次に「競争優位は業務プロセスであるという幻想」の壁が立ちはだかります。

現場やミドルマネジメントの方々は、現場の業務にプライドを持っており、これが我が社の競争優位の源泉であると考えがちです。

例えば、ERPという基幹システムパッケージで有名な「SAP」のサービスを導入するとします。

グローバルのベーシックな考え方でいけば、パッケージサービスに、ベストプラクティスが詰まっているのでそれを基本的にはカスタマイズで導入をしていくんだというのが世界の流れとなっています。一方で、日本では未だに、既存の業務、これに対応するために様々なカスタマイズをパッケージに加えていく結果として、コストが非常に膨れ上がり、その情報システムをメンテナンスしたり、変更したりするのが大変になって、この仕組みがレガシーになってさらにDXを阻んでいくということが起こっている現状があります。

そして、実際にDXを進めていく過程では、「急に完璧主義」という壁が存在します。例えば、今はFAXやメール、電話を使って業務をしていますが、これをデジタルに置き換えますと言ったときに、急に100点を取ろうとするということが発生します。これまで0点だったんです。0点だったのに急に100点を取ろうとする。完璧な仕組みを作ろう、全て基幹システムから末端の業務までデジタルに繋がるような、そんな仕組みを作ろうとしたがることがあります。

それではDXが進まないから、100点じゃなくてもいい、50点、80点を狙って取り組んでいこう!となり、稟議を上げるタイミングで出てくるが「ROIの壁」です。

2100年でもFAXで仕事するのか?

情報システムへの投資は、その情報システム、もしくはデジタルテクノロジーによってどれだけの工数が削減できるのかがポイントとなりがちです。リターンを計算するというのは非常に普遍的な方法論になっています。それに対してかかるデジタル投資でROIを出していくと、これがなかなか計算することが難しくて頓挫をするというケースが非常に多いです。

私が言いたいのは、2100年になっても、FAXで仕事してるんですか?ということです。皆さんは口を揃えて「いや、してないですよ」と答えます。では、2050年どうですしょうか?いや、さすがにしていない。じゃあ、2030年はどうでしょう?・・・してないかもしれない・・・。

と、いうことは、どこかで、このデジタルトランスフォーメーションをやらなければならないのです。それは、工数の削減ではないんじゃないんですか?という話をよくさせていただきます。

正当化するような社内のロジックもなかなか組みにくいというのがハードルとなっています。

レガシー産業は利害関係が絡み合い構造化が困難である

個社をまたいで、DXを進めていこうとなると、さらなる壁が出現します。まず、そもそもレガシー産業がずっと旧態依然である原因として、問題が複雑でステークホルダーたくさん存在するということがあります。その利害関係が絡み合っているため、「構造を読み解く、構造化をするということにまず非常に時間かかる」ことが壁のひとつです。

また、「業界全体を把握してる人がいない」ことも壁となります。例えば、物流の世界で言いますと、メーカー側のことは知っているけれども小売のことは知りません。小売の方は、小売はわかるけれど、卸のことはわからないというふうに、ステークホルダー全体の利害関係まで理解してる人が存在しません。

そして、「アプローチを間違えると無駄に時間を費やします」。利害関係者がたくさんいる中で、ここからこれはいい攻め口かもしれないと思ってアプローチをしていたところ、他の利害関係者の方がへそを曲げて、感情的にブロックをしてくるということも起こりがちです。

また、「カネもヒトも集まりにくい」ことは、レガシー産業の課題です。DXをしようと考えた時に、資金が必要となりますが、投資家の方々は、基本的に自分がわかること投資するものですから、資金調達をするのも簡単ではありません。それ故に、人も集まりにくいというのが、大きな壁として存在しています。

そして、「高度に政治的な立ち回り」をしなければ、この絡み合ったものを解決することは困難です。社会をより良くしていくために、これらの壁を壊していかなければいけないと考え、取り組んでいます。

社会をより良くするために物流DXを阻む壁を壊す

DXを推進するためには、デジタルテクノロジーの知見と、これを適用していくための経験、そして、両方を掛け合わせたチームが必要です。しかし、そういったチームは、ほとんどの場合、業界の中からまず出てきませんし、業界の外の人がこの業界の構造化をすることはできません。

これを実現するためには、強い意志と時間が必要です。1人の強い意志はもちろん重要ですが、チームとして、何とかしてこの業界を変えてやるという思いが必要です。

レガシー産業が、2、3年で変わるわけがありません。10年、20年というスパンで腰を据えて変えてやるんだというこの強い意志が不可欠です。

そしてそこに大義の旗を立てること、これが大切です。この社会課題を自分たちが解決していくこと、それは社会にとっても重要なことなのだという大義の旗を立てることによって、先ほど投資家の方々も、業界ことはわからなくても、その大義に投資をしたいという方は結構いらっしゃいます。Hacobuの株主の方々も、まさにそうです。

そして、Hacobuの場合、チームのメンバーもこの大義のもとに集まってきていると感じています。その大義の旗を立てることによって、壁がたくさんある中でも、乗り越えるための軍資金とチームを作ることができるということが、実現への大きな一歩となるのです。

レガシー産業のDXにデータ活用は不可欠

そして、レガシー産業のDXが非常に重要なのが「データ」であると考えています。よく、国が利害関係者を集めて、みんなで話して解決しよう!という協議会を開くことがありますが、そういった場では「あなたがこういうことするからうちは困ってるんです」、「いやお宅がこうやってるから、うちも困るんじゃないですか」というような定性的な掛け合いが中心で、建設的な議論になることはほとんどありません。

そこに、データというファクトを用いて議論することで、ようやく建設的な議論をすることができます。このデータのインパクトが、レガシー産業のDXには非常に大きいと感じています。

物流現場の方々に、現在紙でやりとりしている情報を、急に「表計算ソフトを使ってデータにして」とお願いしたとしても、うまく回るはずがありません。

そのための打ち手として、まず現場の課題を解決するツールを投入していくのです。それが現場の課題を解決しながら、活用が広がっていくことによって、データが生成されていきます。

これらのデータがプラットフォームに蓄積されていき、ビッグデータとなって個社だけではない複数の会社間での問題の解決に繋がっていくという世界観に価値を感じていただけることが重要なポイントです。

政府の取り組みにより社会課題解決に向けて大きく前進

レガシー産業を変えていく上で、国に大きな流れを作っていただくことは、非常にインパクトがあると考えています。Hacobuは、創業以来8年間、この物流産業のDXに取り組んでいますが、大きく加速をしたのは2019年以降です。

2019年にまず国交省でホワイト物流という政策が出されまして、これは国交省独自の政策でした。そこから、2023年6月2日に、岸田首相のもと物流革新のための閣僚会議が開かれ、「物流革新に向けた政策パッケージ」が出されました。

2024年に向けて、通常国会で法制化をしていくという流れになっており、業界の方々の意識が大きく変化しています。国の取り決めに対して、いろんな批判が出ることもありますが、やはり国が大きく動くと、そちらの方向に向かって、物事が動きやすいというところがありますので、この国に大きな変革の流れを作ってもらうことは、社会課題解決に向けて大きく前進します。

そして、我々のようなベンチャーが、外からその業界に入ってきて、様々なステークホルダーの方々と関わりながら変革していくというアプローチが、レガシー産業でのDXが非常に有効なアプローチなのではないかと考えています。

Hacobuが提供する物流DXツール「MOVO」のアプリケーションを紹介します。

▼トラック予約受付サービス「MOVO Berth

荷待ち・荷役作業時間を削減し、物流センター運営におけるコスト削減と生産性向上を支援する、シェアNo.1(※1)のツールです。

▼動態管理サービス「MOVO Fleet

自社はもちろん、協力会社も含めた車両の一括管理を実現、取得データの活用で輸配送の課題解決を支援します。

▼配送案件管理サービス「MOVO Vista

電話・FAXベースの配車手配やアナログな配車組みをデジタル化し、業務効率化やデータ活用による物流コスト削減を実現します。

(※1)出典:デロイト トーマツ ミック経済研究所,『スマートロジスティクス・ソリューション市場の実態と展望【2022年度版】

著者プロフィール / 佐々木 太郎

Hacobu代表取締役社長CEO。アクセンチュア株式会社、博報堂コンサルティングを経て、米国留学。卒業後、ブーズアンドカンパニーのクリーブランドオフィス・東京オフィスで勤務後、ルイヴィトンジャパンの事業開発を経てグロッシーボックスジャパンを創業。ローンチ後9ヶ月で単月黒字化、初年度通年黒字化(その後アイスタイルが買収)。食のキュレーションEC&店舗「FRESCA」を創業した後、B to B物流業界の現状を目の当たりにする出来事があり、物流業界の変革を志して株式会社Hacobuを創業。

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