INTERVIEW
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執筆者:佐々木 太郎

【前編】レガシー産業でどうDXを進めるか〜Hacobuが挑む「物流DX」

Hacobuが活動する物流領域は、いわゆるレガシー産業の筆頭に数えられるような会社、業界です。これまで、様々なDXに取り組んできた経験を踏まえながら、物流領域におけるハードルや、それをどのように乗り越えていくのか、その可能性について、「レガシー産業でどうDXを進めるか」をテーマに、前編・後編に分けてお話しします。

宅配の背後に広がる約30兆円の企業間物流が危機に瀕している

私たちHacobuは2015年に設立し、創業から8年が経ちました。2023年10月現在では、約130名の社員がおりまして、これまで約46円億円の資金を調達しながら事業の開発をしています。

通常のベンチャー企業は、ベンチャーキャピタルからの資金調達が多いのですが、Hacobuの場合、物流に関連する各事業領域を代表する企業の方々に、事業的な面でも、資金的にもバックアップをいただいているという点が一つの特徴です。

物流というと、一般的には生活に身近な「宅配」をイメージする方が多いと思います。ラストワンマイルの世界は、非常に注目が高く、メディアも「物流クライシスの危険性」について頻繁に報じています。

しかし、宅配の市場規模は2兆円程度と言われており、物流領域の全体から見ればほんのわずかです。実は、その背後に約30兆円ともいわれる巨大な企業間物流のマーケットが拡がっています。

日本には、これだけの大きな物流インフラがあるのですが、実は今、このインフラが危機に瀕しています。この現象は、日本だけではなく、世界各国で起こっています。企業間物流のインフラが滞ることによって、2021年にはイギリス、2022年にはスペインで、スーパーマーケットに物が届かないという事態が発生しました。

このまま企業間物流のインフラがうまくいかないと、日本でもスーパーの棚が空っぽになってしまう事態が発生してしまうかもしれないのです。

要因としては様々ですが、トラックドライバーの不足、そして様々なその物流に関わる業務が非効率に行われている、そしてトラックの積載率の問題があります。トラックの中は、実は4割程度しか荷物が積まれていないという現状があります。このような非効率が原因で、物流という重要なインフラが今、崩壊しようとしています。

アナログが蔓延り非効率だらけの物流業務

企業間物流の世界には、さまざまなステークホルダーが存在します。

こちらの図は、食品メーカーの物流サプライチェーンです。

メーカーの工場があり、そこからメーカーの倉庫に物が運ばれます。そしてメーカーの倉庫から食品卸の倉庫に運ばれ、更にそこから小売事業者へと、10t車や4t車など大きなトラックがどんどん運んでいきます。

このようにさまざまなステークホルダーがいる中で、情報のやり取りがなされてない、もしくはされていても電話とかFAXとか紙帳票などによって対応されていることこそが、この業界が非効率である原因といえます。

それにより結果として、それぞれのステークホルダーの中で情報が閉じてしまって、それぞれのステークホルダーの中での部分最適に陥ってしまい、全体の最適化が図られずにいる現状があります。

それぞれのステークホルダーが自分たちに良かれと思ってやってるのですが、全体にとっては非効率になってしまう。こういった現象を経済学では「合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)」と言いますが、正に合成の誤謬が多発しているのが物流というインフラなのです。

物流情報のプラットフォームを作り情報のデジタル化と共有する仕組みを提供

このような状態に対して、私たちHacobuが考える解決のアプローチが、情報を流通させることです。そのために、物流情報のプラットフォームを作り、その上でそれぞれのステークホルダーの方々が物に関する情報をやり取りできる仕組みを提供しています。

よくあるアプローチとして、情報交換できるインフラを作るために、まず器を作って、そこにいろんなステークホルダーの方々に情報をアップロードしてもらえば、このインフラができるのではないかと考えるケースがあります。

実は国としても、「戦略的イノベーション創造プログラム(通称SIP)」を内閣府主導で取り組んでいますが、この中でも、物流の合理化インフラを作ろうというのを過去5年、何十億かけてやってきました。この取り組みが、未だうまくいってない原因は、器だけ作ってしまった点にあると考えられます。

それに対して、私たちは、物流情報プラットフォーム上に、物流現場の課題を解決するためのアプリケーションを作っています。このアプリケーションがいろんな現場に入っていきながら、その物流現場の課題を解決するという仕組みを用いています。

現場の方は課題を解決するために、MOVOのアプリケーションをご利用いただきます。アプリケーションを使うとデータが生成されて、そのデータがこのプラットフォーム上に流れていくと、そういった形で現場の課題を解決するアプリケーションを上に載せていってそれがいろんな現場に浸透していくことによって、結果としてプラットフォームが広がっていき、このプラットフォームの上に様々な会社の情報が蓄積をされていきます。これらの情報を、Hacobuでは物流ビッグデータと呼んでいます。

物流ビッグデータで物流の全体最適を目指す

私たちは、サプライチェーンの中で個社を超えたさまざまな企業の物流情報を蓄積し、そのビッグデータを使って、物流の全体最適向けてこのデータを活用していくことを考えています。この「MOVO」というクラウドサービスにアクセスするためのIDを持っている、物流に関わる事業所が、現在13,000を超えてきています。(2023年10月現在)

物流領域は、非常にステークホルダーが多く、それぞれの企業で情報が閉じられているため、共通の仕組みにIDを持ってログインをするという世界は、これまでありませんでした。私たちのサービスは、13,000事業所の方々にIDを付与して、従業員の方々が毎日ログインをして何らかの物流に関する作業をしていただいています。その事業所の中には、各サプライチェーンを代表するような企業もいらっしゃいます。

累計ドライバー数は国内ドライバーの2人に1人に相当する46万超

物流の世界は、大きく分けると「運ぶ」ことと、物を保管する「倉庫」の二つに分けられます。私たちHacobuは、社名の通り、「運ぶ」世界を主戦場としています。「運ぶ」ためには、トラックドライバーの方々に、如何に使ってもらえる仕組みであるかという点が重要です。

日本には現在、約80万人(※1)のトラックドライバーが存在しますが、MOVOの累計ドライバー数は46万人(※2)に上り、国内のトラックドライバーの2人に1人にご利用いただくサービスに成長しています。

既に少なくとも、1回はMOVOを使っていただいたことがあり、さらにこのうち1割の方は週に1回はMOVOをご利用いただいているということがわかっており、ドライバーの方々に受けられる仕組みになってきていると実感しています。

「物流プラットフォームを作る」という抽象的なところから、現場で実際に使われるアプリケーションを提供するという点、そして、プラットフォームを広げることで社会課題を解決をしていくという点が重要なアプローチであると考えています。

Hacobuが提供する物流DXツール「MOVO」のアプリケーションを紹介します。

▼トラック予約受付サービス「MOVO Berth

荷待ち・荷役作業時間を削減し、物流センター運営におけるコスト削減と生産性向上を支援する、シェアNo.1(※3)のツールです。

▼動態管理サービス「MOVO Fleet

自社はもちろん、協力会社も含めた車両の一括管理を実現、取得データの活用で輸配送の課題解決を支援します。

▼配車受発注・管理サービス「MOVO Vista

電話・FAXベースの配車手配やアナログな配車組みをデジタル化し、業務効率化やデータ活用による物流コスト削減を実現します。

(※1)国土交通省「物流生産性向上に資する幹線輸送の効率化方策の手引き」より2015年の従事者数 76.7万人を基に試算

https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001415371.pdf)

(※2)累計利用ドライバー数とは、利用者が「MOVO Berth」を利用する際に登録するドライバー電話番号のID数

(※3)出典:デロイト トーマツ ミック経済研究所,『スマートロジスティクス・ソリューション市場の実態と展望【2022年度版】』https://mic-r.co.jp/mr/02560/

著者プロフィール / 佐々木 太郎

Hacobu代表取締役社長CEO。アクセンチュア株式会社、博報堂コンサルティングを経て、米国留学。卒業後、ブーズアンドカンパニーのクリーブランドオフィス・東京オフィスで勤務後、ルイヴィトンジャパンの事業開発を経てグロッシーボックスジャパンを創業。ローンチ後9ヶ月で単月黒字化、初年度通年黒字化(その後アイスタイルが買収)。食のキュレーションEC&店舗「FRESCA」を創業した後、B to B物流業界の現状を目の当たりにする出来事があり、物流業界の変革を志して株式会社Hacobuを創業。

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