アリババ、京東(JD)グループの物流への取り組み

グローバルなEC市場において、常にリーディングカンパニーであり続けてきたのがAmazonであることに異論を唱える人はいないでしょう。創業以来、書籍・メディアから始めた商品ジャンルをひたすら拡大し、Google、Apple、Facebook が有しえない、実消費のビッグデータを握り続けているという点でも、ECの世界においては、Amazonの優位性はゆるぎないように見えます。
一方、いまや急速な経済成長を遂げ、世界最大の消費市場となった中国においては、アリババと京東という二つの巨大ECサイトが2010年以降急速に勢力を拡大し、いまや、ECの代名詞であるAmazonをも凌ぐ勢いを見せています。
それでは、中国の二大ECサイトであるアリババと京東は、どのような物流の取り組みを進めているのでしょうか。
中国EC市場の概況
中国のEC市場は、アリババによって切り拓かれてきました。
アリババグループが運営する巨大ECサイトT-mallは、いまや、世界最大の流通総額を誇っています。
T-mallは、E-bayや楽天と同じ、モール型のECサイトです。アリババが担うのは、出店者と消費者を繋ぐ「場」のみであり、商品の調達やサイトの制作、カスタマーサポート、そして、物流を担うのは、出店者自身となります。T-mallの売上は、出店者が払う手数料収入であり、多くの貪欲な夢を追う出店者がT-mallという場で商売をすることで、膨大な商品数を短期間で集めることが可能となり、また、サイト制作・カスタマーサポート・物流、という実を伴う部分を出店者にゆだねることで、高い営業利益率を達成してきました。
一方、Amazonと同じく、直販型のECサイトとして、中国市場におけるNo.1の位置を占めるようになったのが京東(JD.com)です。京東は、創業期より直販モデルでの拡大を続けてきました。京東の創業は1998年。創業期に「偽物」が多く取引されていた中国の消費市場において、「絶対に偽物は売らない」という理念を掲げたことから、物流においても、一貫して自前主義を貫き通しています。
モール型と直販型
モール型ECサイトの利点は、大きく2つあります。一つは、幅広い品揃えを極めて短期間でサイト上に集めることができる点。商品を集めて販売するのはあくまで出店者自身。一方、サイトの運営者が注力するのは、サイトという場の魅力を高め、ユーザーのアクセスを集めることとなります。サイトの運営者と出店者が役割分担をして、ユーザーの「買い物」という満足度を高める形をとっています。そして今一つは、高い利益率。サイト運営者は、商品を仕入れ在庫する、というリスクを負わず、手数料収入を手にします。
もう一方の直販型ECサイトは、仕入と在庫を自ら行うため、大きなリスクを背負うこととなるため、非常に「手間がかかる」ビジネスといえます。商品のMD、商品情報のメンテナンス、顧客対応、そして物流。そのすべてを自らのリスクをとって行うこととなります。とりわけ最先端の物流システムを構築するためには、巨額の投資が必要となります。
儲かりやすいモール型と儲かりにくい直販型。この2つのECサイトのありようは、品揃えとサービスレベルを競いあい、また、同時に、相手の土俵にも侵食を続け、並行してリアルからネットへの流れを加速し、消費者にとって不可欠な巨大な流通インフラとなるまでに急速な成長をとげてきました。
そして、モール型と直販型、という二つの立場を、中国のEC市場において代表しているのが、T-mallとJD.comといえます。
それでは、モール型と直販型のビジネスモデルの違いに注目しつながら、彼らの物流への取り組みを見てみることにしましょう。
先行する京東、追うアリババ
さて、物流という観点においては、当然のことながら、直販型のECサイトの方が、モール型より優位にあります。自分たちが直接物流を担っているため、ベースカーゴを握っており、様々な物流上の要件を統一することも容易です。なにより、投資をして得られる改善という果実を、直接的に享受することができます。
この点で、中国において、物流への取り組みで先を走っているのは、なんといっても京東と言えます。
彼らの物流投資の概要を見てみましょう。物流センターの数はなんと、中国全土で550。そのうち、最先端の物流機器を備えた基幹物流センターが16あります。日本のEC企業も導入を進める立体自動倉庫(AS/AR: Automated Storage Retrieval System)や倉庫内で商品や荷物の搬送・仕分けを担う無人搬送機器(AGV: Automated Guided Vehicle)、日本のMUJIN社が導入をするピッキングロボなどを積極的に導入し、「無人倉庫」を実現しています。
また、未来のテクノロジーに向けた取り組みも積極的に行っており、ドローンによる遠隔地への配達やラストワンマイルにおける配達ロボットも大学構内や特区内で実用化に入っています。最先端の物流テクノロジー導入の規模とスピードにおいては、中国のみならずグローバルにおいて、最先端を走っているトップランナーが京東であると言えるでしょう。
一方のアリババ。モール型ECサイトは、物流においては直販型よりハンディを負っているとも言えますが、どのようにその差を埋めようとしているのでしょうか。
その中心的な役割を担うのが、傘下の物流会社である「菜鳥網絡(Cainiao Network)」です。京東の物流の取り組みが、オペレーションの機械化・自動化に強くフォーカスしていることと比較すると、菜鳥網絡の取り組みはビッグデータやソフトウェアの開発に重点が置かれています。そして、構築した物流システム・データ基盤を、クラウドを通じて物流パートナーに提供するのが、「中国智能物流骨幹網(中国スマート物流骨幹ネットワーク)」と呼ばれるオープンプラットフォームです。
例えば、独自の住所データベースの構築。これは、国に代わって精緻な住所データベースを構築し、これらを配送会社などの第三者にも提供して、効率的なデリバリーネットワーク構築の基盤とするものです。

これらを地域の物流パートナーに提供し、都市と地方を結ぶ広大なロジスティクス・デリバリーネットワークを構築するという取り組みも始めています。

自ら物流オペレーションを手掛けるがゆえに、オペレーションの効率化にフォーカスする京東。ECプラットフォーマーとしての自らの立ち位置がゆえに、物流の取り組みにおいてもビッグデータの収集とソフトウェアの開発を通して、多数のオペレーションプレーヤーを組織化する巨大な物流ネットワークシステムの構築を目指すアリババ。
直販型とモール型というビジネスのありようが、物流の取り組みの方向性にも大きく影響を及ぼしている様を見て取ることができるでしょう。
Amazonのその先へ
2000年代以降のグローバルECビジネスをけん引してきたのは、まぎれもなくAmazonでした。しかし、アリババと京東という中国の巨大ECサイトが進める物流の取り組みは、Amazonの先を走っていると感じさせる点があります。それは、リアルとネットの融合、という領域です。
アリババは、「盒馬鮮生(フーマー)」という生鮮食品スーパーの1号店を2016年に開店しており、現在では、北京市・上海市・深圳市・広州市などで100店舗超を展開しています。
フーマーでは、買った商品をそのまま店頭で調理してもらい食べることができるイートインレストランと最短で注文から30分以内にお届けというネットスーパーの2つのサービスが提供されています。これらに、リアルな生鮮スーパーの機能も当然に持ち合わせています。
フーマーの戦略には、「店倉合一(店舗と倉庫の一体化)」という言葉が使われることもあります。つまり、リアル店舗にネットスーパーの要素を融合したのではなく、ネットスーパーにおける物流機能の観点から商品の在庫場所(店舗兼倉庫)を決め、そこに、賑わいの要素としてイートインレストランの機能を付加し、最後に従来の実店舗生鮮スーパーの要素も、当然に兼ね備えている、という考え方がとられています。
つまり、リアルにネットを融合する、のではなく、むしろ、ネットの世界における物流機能から実店舗のありようを規定している、ということが言えます。
一方の京東は、フーマーと同様のサービスを備えた「7フレッシュ」の1号店を18年1月に開店し、今後5年で1000店舗に急拡大をする計画を発表しています。サービス面では、フーマーの二番煎じと言われることもあり、店舗数でもまだ10数店舗に過ぎない7フレッシュですが、買い物客のあとをついてきてくれるスマートカートや商品1点ずつのトレーサビリティーを閲覧することができる売り場上部の巨大ディスプレーなど、京東らしいサービスも付加されています。
最先端物流テクノロジーの導入では京東の後塵を拝したアリババが、ネットスーパーの領域では京東の先を走り、激しい切磋琢磨を演じていると言えるでしょう。
中国勢の生鮮スーパーへの参入に先立ち、Amazonは、2017年に生鮮食品チェーンのホールフーズを買収し、リアルとネットの融合に乗り出しています。しかしながら、既存のリアル店舗網にEC要素のサービスを付加しているAmazonと比べると、リアル店舗という制約にとらわれず、ECの世界にリアル店舗のサービスを取り込もうとしている中国勢のサービスの方が、「新しい顧客体験の未来」を提示するという点においては、一歩先を走っているようにも感じられます。
これまで、EC、スマートフォン、検索、SNS、とアメリカ発のITサービスの中国版を展開することで急成長を成し遂げてきた中国のIT企業が、真にオリジナルなサービスを展開していくとしたら、その端緒は、最新の物流テクノロジーや物流プラットフォームを絡めた、リアルとネットの融合領域から始まるのかもしれません。
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