【元安全責任者監修】倉庫の熱中症対策10選|義務化や事故実態まで徹底解説
「自社倉庫の熱中症対策を強化したい」「作業員を守るため、安全で働きやすい現場をつくりたい」
そうお考えの荷主企業や物流事業者も多いのではないでしょうか。
日本の夏の気温は年々上昇傾向にあり、気象庁の発表によると、2025年夏(6~8月)の日本の平均気温は基準値(1991〜2020年の30年平均値)を2.36℃も上回る猛暑となりました。
▼日本の夏(6~8月)の平均気温偏差

さらに物流倉庫においては、金属製屋根からの輻射熱(ふくしゃねつ)によって庫内に熱がこもり、サウナのようになるため過酷な労働環境です。
本記事では、物流倉庫で14年間現場作業に従事し、安全責任者も務めた筆者が、実体験を交えながら倉庫の熱中症対策を解説します。2025年6月の義務化による重要ポイントや、被災実態も詳しくまとめました。
ぜひ最後まで読み、労働災害リスクのない安全な現場づくりの参考にしてください。
目次
2025年6月より熱中症対策が義務化
2025年6月に施行された労働安全衛生規則の改正ポイントと、事業者に課せられる罰則や法的リスクについて解説します。
- 熱中症対策義務化の概要
- 違反時の罰則と法的リスク
熱中症対策義務化の概要
労働安全衛生規則の改正により、2025年6月1日から職場における熱中症対策が「義務化」されました。
熱中症対策の対象となる作業環境や、管理者がとるべき対応は以下の通りです。
対象となる作業環境
「暑さ指数(WBGT値)28℃以上、または気温31℃以上の環境で、連続1時間以上または1日あたり4時間を超えての作業」が対象となります。
【WBGT値とは】
WBGT(暑さ指数)は、熱中症予防のための指標です。単位は「℃」ですが気温とは異なり、人体の熱収支に影響を与える「①湿度、②日射・輻射熱、③気温」の3つを取り入れています。特に湿度の比重が大きく、汗の蒸発しにくさを反映しているのが特徴です。
管理者がとるべき対応
厚生労働省が発行した資料によると、現場の対応として以下の2つが義務付けられました。
1.「熱中症の自覚症状がある作業者」や「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」がその旨を報告するための体制整備及び関係作業者への周知
2.熱中症のおそれがある労働者を把握した場合に迅速かつ的確な判断が可能となるよう、
①事業所における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等
②作業離脱、身体冷却、医療機関への搬送等熱中症による重篤化を防止するために必要な措置の実施手順の作成及び関係作業者への周知
違反時の罰則と法的リスク
対策を怠り義務に違反した場合、「6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。
- 当該違反行為をした者は、六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。(第119条)
- 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第百十六条、第百十七条、第百十九条又は第百二十条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する(第122条)
引用元:e-Gov法令検索「労働安全衛生法 第119条、第122条」
また、万が一被災者が出た場合、多額の損害賠償を求められる民事上のリスクも否定できません。
次章では、倉庫における熱中症の実態がどうなのか詳しく解説します。
運送・倉庫業における熱中症の実態
厚生労働省のデータをもとに、運送・倉庫業で急増する熱中症死傷者数の実態と、発生しやすい時期・時間帯を解説します。
- 運送・倉庫業における熱中症による死傷者数
- 【知識】「7・8月」と「14時以降」は要注意
運送・倉庫業における熱中症による死傷者数
厚生労働省の統計によると、運送・倉庫業における熱中症の死傷者数は右肩上がりに増加しています。
▼運送・倉庫業における熱中症による死傷者数の推移
| 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 | |
| 死傷者数 (内死亡者週) | 59人 (1人) | 126人 (1人) | 137人 (1人) | 186人 (6人) | 201人 (1人) |
参照元:2025 年(令和7年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(厚生労働省)
気温の上昇に比例して死傷者数も増加していることから、今後も増加傾向になる可能性があります。
【知識】「7・8月」と「14時以降」は要注意
熱中症は、全体の約8割が7月と8月に集中しています。
▼熱中症による月別死傷者数(2021~2025年計)

出典:2025 年(令和7年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(厚生労働省)
真夏日が続くこの時期は、特に警戒が必要です。
また時間帯別に見ると、気温が上昇し疲労が蓄積する「15時台」に死亡者が増加する傾向があります。
▼熱中症による時間帯別死傷者数(2021~2025年計)

出典:2025 年(令和7年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(厚生労働省)
筆者の経験からも、真夏は他の時期よりも体力の消耗が激しく、朝から作業し15時台にもなると疲れがピークに達します。
管理者はこれらデータを踏まえ、時期や時間帯を意識した計画を立てるとよいでしょう。
次章では、「倉庫における熱中症での事故事例が見たい」という声にお答えします。
運送・倉庫業における熱中症の死亡事故事例
本章では、過去に倉庫内で実際に発生した熱中症の死亡事故事例を2つ紹介します。
- 倉庫でピッキング作業に従事していた作業員が死亡
- 倉庫で自動車部品の詰め替え作業に従事していた作業員が死亡
倉庫でピッキング作業に従事していた作業員が死亡
1つ目は、倉庫内で商品のピッキング作業を行っていた作業員の死亡事例です。
当時、倉庫内は気温31.5℃、WBGT値29.3℃という過酷な環境でした。作業員は朝から適宜休憩を取りつつ業務を行っていましたが、昼前の11時50分頃に倉庫内で倒れているのが発見され、搬送先の病院で死亡が確認されました。
参照元:2023年(令和5年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(厚生労働省)
この事例の恐ろしい点は、「適宜休憩を取っていた」にもかかわらず最悪の事態を招いたことです。WBGT値が28℃を超える環境では、通常の休憩ペースだけでは命を守りきれないこともあるということです。
倉庫で自動車部品の詰め替え作業に従事していた作業員が死亡
2つ目は、倉庫内で自動車部品の詰め替え作業に従事していた作業員の死亡事例です。
気温39.3℃、WBGT値33.5℃という過酷な環境下で作業を行っていたところ、午後3時頃に休憩所で手の震えなどの症状がみられました。その後、作業員は屋外へ走り出し、転倒。口から泡を吹き、いびきをかいて意識を失っている状態で救急搬送されましたが、後日死亡が確認されました。
参照元:令和6年(2024年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(厚生労働省)
基準値を大きく超える高温多湿の環境下では、重大事故のリスクが高まるため、日常的な管理が重要です。
次章からは、「具体的な熱中症対策が知りたい」という声にお答えし、ソフト面とハード面2つのカテゴリに分けて効果的な対策を解説します。
【ソフト面】倉庫の効果的な熱中症対策4選

現場ですぐに実践できる運用・体制面の対策を、14年間の現場経験に基づき4つご紹介します。
- 定期的な水分・塩分補給の強制
- 管理者による作業員の健康管理
- 計画的な暑熱順化
- 作業員自身の体調管理
定期的な水分・塩分補給の強制
水分・塩分補給は個人の判断に任せるのではなく、現場のルールとして「強制」することが重要です。
作業に夢中になり「キリがいいところまで」と水分補給を後回しにしたり、周りに気を使って補給できない人がいるからです。
私がいた現場では、30分ごとに全員一斉に給水させる時間を設けていました。個人の裁量に頼らず「全員で飲む」という仕組みにすることで、補給漏れを防ぎ、熱中症リスクを低減できます。
管理者による作業員の健康管理
〈熱中症対策義務化の概要〉で解説した通り、法改正により酷暑環境における管理者の対応が義務化されました。ただ、倉庫が過酷な環境になる夏場は、法改正に関わらず管理者による作業員の健康管理が欠かせません。
決定権のある管理者が作業員の異常にいち早く気付くことができれば、症状が軽度であるうちに対策がうてます。私がいた現場は、管理者が定期的に作業員の体調を細かくチェックし、必要に応じて作業の変更や休憩させる判断をしていました。
計画的な暑熱順化
人間は暑さに慣れていない状態で急激な気温上昇にさらされると、体温調節が追いつきません。そのため、熱中症リスクが高まります。GW明けや梅雨明け、急に真夏日になった日は特に注意が必要です。
そこで推奨されるのが、「暑熱順化」です。暑熱順化とは、体が暑さに慣れることです。無理のない範囲で数日から2週間程度暑い環境に身を置くことで、暑さに強くなります。
倉庫における暑熱順化の方法としては、以下が挙げられます。
- 酷暑での作業と比較的涼しい場所での作業をローテーションする
- 入社2週間程度はフルタイムで酷暑での作業をさせない
- 可能な限り涼しい時間帯に作業させる
- 作業員に日頃から汗をかく軽い運動や入浴をするよう促す
意図的なスケジュール管理で、気温が上がりはじめる時期の熱中症リスクを低減します。
作業員自身の体調管理
会社が環境を整えるだけでなく、作業員自身による日頃のセルフケアも必要です。
安全責任者として多くの作業員を見てきましたが、熱中症になりやすい人には日常的に「睡眠不足」「深酒」「朝食抜き」といった共通点がみられたからです。一方で、日頃から体力づくりをし、体調管理を徹底している人は、過酷な環境下でも安定して動けていました。
管理者は、作業員が過酷な環境で作業していることを自覚させ、日頃の健康管理に努めるよう促すことも重要です。
【ハード面】倉庫で効果的な熱中症対策6選
設備投資や装備の導入によって環境を改善する「ハード面」の対策として、6つのポイントを解説します。
- WBGT測定器による現場環境の客観的管理
- 空調服や保冷ベストの着用で体温を低下
- スポットクーラー×延長ダクトでトラック荷室や作業場の冷却
- 大型シーリングファン導入による体感温度の低減
- 遮熱シートの施工による屋根からの輻射熱対策
- トラックの入場時間をコントロールし、酷暑ピークの作業負荷を下げる
WBGT測定器による現場環境の客観的管理
現場環境を客観的に把握するため、WBGT値(暑さ指数)を測定する「WBGT測定器」の導入をおすすめします。
厚生労働省のガイドラインでは、以下のWBGT基準値を参考にした対策が推奨されています。
▼身体作業強度などに応じたWBGT基準値

ほとんどの倉庫作業は、区分2に該当するでしょう。WBGT値が28℃を超えた際は、冷却設備の設置や作業内容の変更、作業場所の変更など熱中症対策を施さなければなりません。
たとえ28℃を超えていなくても、「26℃で休憩を増やす」など、自社の環境に合わせた独自の熱中症対策の指標としてWBGT測定器を活用しましょう。
空調服や保冷ベストの着用で体温を低下
作業員が身につける装備の支給は、直接的で即効性のある熱中症対策の1つです。
代表的なものでは「空調服」「保冷ベスト」が挙げられます。どちらも効果的な装備ですが、現場環境によって適した装備は異なります。
実体験から言えば、熱気を帯びた倉庫内、さらにコンテナ内やトラック荷室では、温風を吸い込んで循環させてしまう空調服よりも、保冷剤を入れるタイプの「メッシュの保冷ベスト」がおすすめです。
まずは小さく試してみて、現場の特性に合うものを導入しましょう。
スポットクーラー×延長ダクトでトラック荷室や作業場の冷却
スポットクーラーとは、「1か所に集中的に冷風を送る移動式のクーラー」です。冷房機能を備えた機器からダクトを介して冷風を送ります。
エアコン並みの冷風を直接作業員に当てられるため、冷却効果が大きいのが特長です。一方で、以下のようなデメリットがあります。
- 排熱も同時に行うため周囲の温度が上がる
- 冷風が届く範囲が限定的
これらを解決するのが「延長ダクト」の活用です。例えば、三協エアテック株式会社の延長ダクト「エアホースワン」などを使えば、本体を屋外や離れた場所に置いたまま、冷風だけをコンテナの奥やトラックの荷室奥まで広い範囲に冷風だけを届けることができます。
大型シーリングファン導入による体感温度の低減
天井が高い倉庫では、大型シーリングファン(HVLSファン)の導入も効果的です。
大容量の空気を循環させることで、作業員の体感温度を低下させ、同時に庫内の温度ムラを解消します。
スポットクーラーのように一部を冷やすのではなく、現場全体の空気の流れを作るため、多くの作業員が動くピッキングエリアなどの環境改善に適しています。
遮熱シートの施工による屋根からの輻射熱対策
倉庫の暑さの原因である「屋根からの輻射熱(ふくしゃねつ)」を遮断することも重要です。
夏季、直射日光にさらされた金属製の折板(せっぱん)屋根は高温になり、そこから放射される熱が庫内の温度を押し上げます。
そこで屋根の裏側に「遮熱シート」を施工することで、熱の流入をカットできます。
トラックの入場時間をコントロールし、酷暑ピークの作業負荷を下げる
意外に思われるかもしれませんが、トラックの入場管理を仕組み化することも熱中症対策になります。
なぜなら、倉庫業務の中でも「トラック荷室」や「コンテナ内」での荷役は、密閉空間に輻射熱がこもるため、庫内作業よりもさらに過酷だからです。前章のデータの通り、熱中症による死亡者は15時台に集中しており、酷暑ピーク時間帯にトラック作業が重なると、重大事故のリスクが一気に高まります。
そこで有効なのが、MOVO Berthなどのトラック予約受付システムによる「入場時間のコントロール」です。本質は、時間帯と作業負荷をマッチさせるシフト設計にあります。
①酷暑ピーク時間帯(14〜16時)のトラック入場を意図的に減らす
ピーク時間帯のトラック入場を朝や夕方に分散させることで、最も危険な時間帯に「最も過酷な荷役作業」を組まずに済みます。その時間帯は、庫内ピッキングや検品など比較的負荷の軽い作業に振り替えることができ、作業員一人ひとりの熱中症リスクを下げられます。
②入場集中による「焦り」を抑制
トラックの集中で現場が忙しく、目の前の作業に追われて「焦り」が生じると、休憩を後回しにするなど安全意識が低下し、熱中症リスクが高まります。トラック予約受付システムで入場を分散させ作業量を平準化すれば、落ち着いて作業を進めることができます。
これにより、ルール通りの休憩や水分補給が徹底しやすくなり、結果として「熱中症が起きにくい現場環境」が実現します。
倉庫の熱中症対策に関するよくある質問(FAQ)
倉庫の熱中症対策でよくある質問として、以下の4つをご紹介します。
- 空調設備がない倉庫ですぐに取り組める熱中症対策は?
- スポットクーラー導入時に注意すべきポイントは?
- 空調服と保冷ベストはどちらが効果的?
- 設備投資にかかる初期費用はどれくらい必要?
空調設備がない倉庫ですぐに取り組める熱中症対策は?
「水分・塩分補給の強制ルール化」と「空調服または保冷ベストの支給」がおすすめです。
30分毎の一斉給水などのルール運用は今日から始められます。また、空調服や保冷ベストは大がかりな工事の費用や時間が不要で、直接的に熱中症リスクを低減できます。
スポットクーラー導入時に注意すべきポイントは?
「排熱の屋外排出」と「冷風が届く距離の確保」の2点に注意が必要です。
スポットクーラーの背面から出る排熱が庫内にこもると、逆に室温を上げてしまうからです。また、本体付近しか冷やせないという弱点があるため、必要に応じて延長ダクトなどを使用し補う必要があります。
空調服と保冷ベストはどちらが効果的?
筆者の経験から、倉庫内の過酷な環境では、「保冷ベスト」がより効果的です。
空調服は周囲の空気を吸い込むため、熱気がこもった倉庫やコンテナ、トラック荷室内では温風が循環し、冷却効果が薄れてしまうからです。
保冷剤の交換が可能であるという前提条件はありますが、風通しの悪いエリアでは保冷ベストの支給がより効果が高いでしょう。
設備投資にかかる初期費用はどれくらい必要?
導入する設備により数万円から数百万円までさまざまです。
保冷ベストなら1人あたり数千円ですみますが、大型シーリングファンなどの機器であれば工事費用も含めると1基数百万円以上かかる場合があります。
まとめ
物流倉庫で14年間現場作業に従事し、安全責任者も務めた筆者が厳選した効果的な熱中症対策は以下の通りです。
- 計画的な暑熱順化
- 定期的な水分・塩分補給の強制
- 管理者による作業員の健康管理
- 作業員自身の体調管理
- WBGT測定器による現場環境の客観的管理
- 空調服や保冷ベストの着用で体温を低下
- スポットクーラー×延長ダクトでトラック荷室や作業場の冷却
- 大型シーリングファン導入による体感温度の低減
- 遮熱シートの施工による屋根からの輻射熱対策
- トラックの入場時間をコントロールし、酷暑ピークの作業負荷を下げる
熱中症対策は、単なる体調管理ではなく、企業の存続に関わる重大なリスク管理です。
一度でも重大な事故が起きれば、大切な従業員を失うことはもちろんのこと、法的な責任を取らなければならない可能性もでてきます。
労働災害を防ぎ、働きやすい職場を構築するには、経営層や管理者が主導し早期に投資と体制づくりを進めることが重要です。自社の環境に則した対策で熱中症対策を進めてください。
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