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Hacobuが考える2030年 〜物流の未来〜
様々な社会課題が山積する中でその解決手段として、データ活用や先端技術の活用が期待されています。レガシー産業である物流領域も例外ではありません。
本記事は、物流の「2030年」について、「運ぶ」と「テクノロジー」の視点で、未来にどんなことがありうるのか、Hacobu代表取締役社長CEOの佐々木 太郎が2023年11月に講演した内容を再構成してお届けします。
物流領域における課題とHacobuの存在意義
Hacobuは、2015年6月に設立しました。現在8年目で、従業員数は約130名、これまでに約46億円の資金調達をして、「MOVO」のサービスの開発・運営を行っています。
ベンチャー企業が資金調達を行う際に、ベンチャーキャピタルから調達するのが一般的ですが、Hacobuの場合、各領域を代表するような事業会社の方々が株主であることが特徴の一つです。
株主になっていただいて、資金的にもまたビジネス的にもバックアップをいただいています。
「なぜ多くの資金を調達する必要があるのか?」とよく質問されますが、私たちは一般的なシステム開発の企業とは異なる仕組みで運用を行っています。
一般的なシステム構築の会社では、システム構築の依頼を受けた場合、オーダーのとおりにシステムを構築し、納品して構築費用をいただくという受注の請負開発型を採用しています。
私たちは、一般的なシステム構築の企業とは異なり、インターネット上にクラウドの仕組みを作成し、多くの方にご利用いただき、その利用料でビジネスを運用しています。これは、一般的にソフトウェアサービスと呼ばれるビジネスモデルであり、システム構築と異なり、先に仕組みを作るために先行投資として資金調達が必要です。
Hacobuでは様々な領域でサービスを展開していますが、これだけ多くの人員と資金を投下して物流領域を発展させたいと考えている会社は、私たち以外になかなかないと自負しています。
近年の物流の市場規模としては、企業間物流が29兆2750億円、宅配便ラストワンマイルが2兆9250億円とされています。
物流界隈には数多くのベンチャー企業が参入しています。特に、後者の宅配便ラストワンマイルの領域に参入するベンチャー企業が多い傾向にあります。近年、ラストワンマイル領域はマスコミなどで取り上げられることが多く、高い注目を集めていますが、私たちは企業間物流の方が非常に重要なインフラであると考えており、注力しています。
企業間物流領域は、約30兆円に及ぶ巨大なマーケットですが、実は現在、大きな課題を抱えています。
企業間物流が滞ってしまうと、例えばモノが生産されなかったり、身近なスーパーマーケットにも商品が届かなくなったりということも起こりかねません。
この課題は、日本だけでなく世界各国に共通しており、企業間物流のインフラが滞ることによって、スーパーマーケットではモノが並ばない状況が2021年にはイギリス、2022年にはスペインで発生しました。
日本の企業間物流のインフラが非効率なままでは、2028年にはイギリスやスペイン同様、日本でもスーパーの棚が空っぽになってしまう事象が起こりかねないと危惧されています。
企業間物流のインフラが非効率になっている要因として、私たちは以下の仮説を立てています。
例えば食品業界の物流サプライチェーンを挙げると、メーカー工場、メーカー倉庫、流通事業者、小売事業者といった様々なステークホルダーが存在しています。
企業間物流の世界では数多くのステークホルダーを介しながらが存在しながらモノが届く仕組みですが、基本的に、各ステークホルダー間の情報のやり取りは、電話やFAX、紙帳票といったアナログな手法だったり、もしくはそういったものさえなく情報の共有が行われていないのが現状です。
このように、各ステークホルダーの中で物流の情報がクローズされることによって部分最適に陥ってしまい、サプライチェーン全体でのデータがつながらないため、物流の最適化が図れずにいるという仮説です。と考えています。
私たちは、企業間物流における情報をデジタル化し、ステークホルダー間のやり取りを効率化できる情報プラットフォームを作ることを目指している会社です。
情報プラットフォームに情報が流れ、蓄積されていきます。この情報は、ひとつのステークホルダーだけではなく、複数のステークホルダーにまたがった情報であり、私たちは物流ビッグデータと呼んでいます。
私たちは、物流ビッグデータを蓄積していくことによって、ステークホルダー間の物流の問題の解決をしていくことができるのではないか、と考え、ユーザーの方々に対してデータの価値をお届けしたい、という思いのもとにサービスを提供しています。
プラットフォームを作るということにおいては、実は国としても、内閣府主導の「戦略的イノベーション創造プログラム(通称SIP)」というプロジェクトに取り組んでいますが、器だけを作り、そこに情報をあげてくださいといっても短期的なインセンティブがないため、なかなか情報が上がってきません。
その一方で、私たちはSIPのアプローチとは異なり、物流情報プラットフォーム上に、物流現場や物流マネジメントの課題を解決するためのアプリケーションを作っています。このアプリケーションがいろいろな現場に入っていきながら、その物流現場の課題を解決するという仕組みを用いています。アプリケーションが使われることによって、少しずつデータが生成され、結果として物流ビッグデータが作られるというアプローチです。
現在Hacobuが提供しているアプリケーションは、以下の4つが挙げられます。
- トラック受付予約サービス「MOVO Berth」
- 動態管理サービス「MOVO Fleet」
- 配車案件管理サービス「MOVO Vista」
- トラックドライバーの業務効率化アプリ「MOVO Driver」
この「MOVO」というクラウドサービスにアクセスするためのIDを持っているユーザーの方々の拠点数が、現在15,000件を超えています。(*1)
食品メーカーから自動車や化学メーカーなどといった幅広いお客様にご利用いただいています。
物流の世界は、大きく分けると「運ぶ」ことと、物を保管する「倉庫」の二つに分けられます。私たちHacobuは、社名の通り、「運ぶ」世界を主戦場としています。「運ぶ」ためには、トラックドライバーの方々にいかに使ってもらえる仕組みであるかという点が重要です。
日本には現在、約80万人のトラックドライバーが存在していますが、MOVOの累計ドライバー数は48万人 (*2)に上ります。
最近では、物流のDX推進において課題を抱えているお客様に対して、コンサルティングチームを編成し、物流DXの戦略を作ったり、データの活用についてのサポートも行っています。
2030年にありうる物流の未来、7つの可能性〜輸配送とテクノロジー〜
これから迎える2030年にありうる物流の未来、特に輸配送とテクノロジーにおける7つの可能性についてお話しします。
1.コネクテッドトラックの利活用
上記の図では、日本のトラックメーカーを4つ挙げていますが、すでに日野自動車株式会社では2017年以降のトラックはコネクテッド化されています。
今現在はコネクテッド化されていないトラックが数多く走っていますが、他のメーカーにおいても2017〜2018年あたりからコネクテッド化されているため、2030年には大半のトラックがコネクテッド化されている可能性があると考えています。トラックがコネクテッド化されていくと、各トラックメーカーがサーバーから情報を抽出できるためのAPIと呼ばれるプログラムを出していきます。
例えば、私たちが提供しているようなサービス、もしくはユーザーの方が、直接サーバーのAPIを叩きにいき、そのトラックの情報を取得していくということが可能になります。取得していく項目については、日本よりもコネクテッド化が進んでいる欧州の標準を参考にしながら、定められてます。
コネクテッドトラックによるデータの取得ができるようになる未来は近づいていますが、ひとつハードルがあります。日本では、車両の情報を取得するといったときに、デジタルタコグラフ(4t車以上のトラックには必ずつけなければならない端末)を用いています。
現在は、デジタコから情報を取得するという方法がメインであるため、コネクテッドトラックでの情報取得方法に移行していくことにおいてハードルになる可能性が懸念されます。
この点、2023年9月にデジタコの技術基準改正について経団連から規制改革要望が出され、その後の規制改革推進会議での議論を経て、2024年1月には技術基準が改正されました。 そのため、規制を簡便化していくというような流れが起こることも期待できます。2030年には、コネクテッドトラックの情報を活用し、安全を管理していく世界になる可能性が高いといえるでしょう。
2.自動運転サービスの本格化
普及が期待されている自動運転ですが、2020年ごろは私個人的には自動運転の導入は一時の盛り上がりにしかすぎず、継続するのは困難なのではないかと考えていました。
しかし、近年の技術革新を鑑みると、技術的な完成度はかなり高くなっています。
CNBCでのテキサスで自動運転のトラックの走行特集や、中国やアメリカでの自動運転の導入の様子などの世界の動きを見ていると、2030年にはトラックの自動運転の現実味は高まるのではないかと考えます。
トラックの自動運転が現実化されれば、従来とは全く異なるモデルになり、自動運転のオペレーションセンターを運営する会社が現れる可能性も高いでしょう。
ただし、既存にあるレガシーの仕組みに縛られているようでは、動けない可能性も生じます。
中国では、商社の方々が自動運転の領域に高い熱意を持っているように感じました。商社が自動運転のオペレーションセンターを作理、運営をしていく世界もあり得るのではないでしょうか。
3.物流コントロールタワーの実現
現在は、物流センター、倉庫、荷主の方々において、全体を俯瞰してデータで見ることができない会社が大半です。
海外では、全ての拠点の情報をヘッドクォーターで見ながら、ヘッドクォーターの方から現場に対して作業の効率化やネットワークの組み替えなどの指示を出していく「コントロールタワー」という方法が用いられています。
2030年にはコントロールタワー側が主導権を握る未来もありうるのではないかと考えています。
実際にコントロールタワーの実現を目指して私たちの仕組みを導入しているお客様もいらっしゃいます。
例えば、東北の業務用食品卸企業のサトー商会様が挙げられます。サトー商会様は、使用している100両を超える車両全てに、位置情報が分かる個人ベースの端末をつけることによって、全体を俯瞰して見ることが可能になり、別々のトラックが異なる物流センターから同じ場所に行っているということが明確になりました。
このような事象は納品先が原因で起きていたため、「適切なセンターが適切な場所にモノを出す」ことを行いました。これは当然のことのように思われるかもしれませんが、それぞれの物流センターの中での最適化を考えているため、全体で俯瞰して見るという方はおらず、全体を俯瞰して見ようとしても、データがないため見ることができません。
しかし、サトー商会様のようにコントロールタワー的な考えを持ち、本社の方で全体の可視化を意識することによって、社内での部分最適を解消していくアクションを取ることができるようになります。
また、ダッシュボードで全社での車両の動きや稼働時間の可視化も可能になります。
位置情報を使ったサービスだけでなく、バース予約受付サービスでは、本社が全部一括で入荷や待機に要している時間を可視化し、問題があるセンターに対しては指導し、マネジメントしている会社も出てきています。
従来の物流業界では、各現場で個別で蓄積してきたオペレーションのノウハウや、そういった知見のある方々と、データサイエンティストのような方々がコントロールタワーで様々なデータを分析しながら、物流の最適化を図る世界が2030年には確実に訪れるのではないかと考えています。
4.輸配送と倉庫が密に連携した世界
私たちの事例のひとつである、花王株式会社様の豊橋工場のプロジェクトを例に挙げてみましょう。
ここでは入荷予約の仕組みによって、事前に到着するトラックの予約が行われています。
予約に対して、カメラで読み取った倉庫に入ってきたトラックの車番をトリガーにしてWCSを動かし、さらに倉庫側の仕組みを動かしています。
従来は検品などがトリガーになる傾向にありましたが、車両と倉庫内の仕組みが連携していくことで、到着したトラックの情報をトリガーにして、AMRロボットを動かしていく世界が実現するのではないか、と考えています。
現在、このようなご要望は数多くのお客様から寄せられています。私たちは「運ぶ」というところに特化してきましたが、倉庫業務を行っている方々とも連携をし、「運ぶところと保管するところがシームレスにつながっていく世界」を目指しています。
5.物流サービスの新たな担い手の出現
これはあまりテクノロジー的な話ではありませんが、物流サービスの新しい担い手が出現する可能性も高いのではないか、と考えています。
例えば、物流会社F-LINEは味の素やカゴメなど加工食品大手6社とともに“呉越同舟”の共同配送を拡大しています。
物流会社F-LINEはもともと味の素の物流企業のため、複数の食品メーカーが集い、既存の枠をこえてひとつの物流会社で物流を担っていくという流れは、物流業界内においても大きな動きだと感じております。
また、日野自動車株式会社が、深刻化する物流を取り巻く問題を解決するために設立したNEXT Logistics Japan株式会社においても、株主として参画している企業は荷主企業から物流会社までと幅広く、立場を問わずみんなで新しい物流サービスを作ろうという動きがあります。
最近では、三菱食品株式会社が、三菱食品を中核としたトラック輸送ネットワークの空きスペースをシェアリングする物流サービス「trucXing(トラクシング)」をローンチしました。
「食品会社が行う」という点が、非常に面白く新しい動きだという印象を受けました。
また、アメリカではすでにAmazonが物流の大改革を行なっていますし、従来の物流を担ってきた物流会社とは違う視点で、これまでに存在していない新しい物流サービスを展開していく動きはこれから多く現れるのではないか、と感じています。
6.物流業界におけるシェアリングエコノミーの普及
シェアリングエコノミーとは、所有よりも共有を重視することが定義であり、未使用のリソースや資産を他者と共有して収益を上げるものを指します。
テクノロジーを活用し、アクセスが必要なときにアクセスできるということが特徴で、代表的なサービスとしては、住居リソースをシェアリングする「Airbnb」や移動リソースをシェアリングする「Uber」が挙げられ、2015年ごろから流行しました。
それ以外にもコンピューターリソースや情報システムのシェアリングも急速に普及しています。
私たちのサービスもクラウド上にあり、それをインターネット経由で利用していただいていますが、「ひとつの仕組みをみんなで使う」というのはまさに情報システムのシェアリングだといえます。
アメリカでは、ゼロからスクラッチで構築するシステムに対して、情報システムをシェアリングするサービスが非常に成長しており、いわゆる「SaaS」と呼ばれているサービスが多く活用されているのが現状です。
日本でもこのような動きが進んでいく可能性が高く、その際に物流リソースをシェアリングしていく未来もありうるのでしょうか?
2015年ごろに、物流版Uberである「Uber for Truck」という言葉を耳にした方も少なくないでしょう。
Uber for Truckの登場以前に、トラックと荷物をマッチングするサービスは存在していましたが、Uber for Truckは次世代のものとして出現しました。
当時実際にアメリカのプレイヤーの方々に多くのお話を伺いましたが、Uberのように、アプリを通じてユーザーとデマンドとサプライを完全にシステマチックにマッチングしていく世界の実現はアメリカでも困難だと感じました。
このような経緯からUber for Truckは完全に幻想だったと思っていましたが、もしかしたら2030年には異なるかもしれない、と考えています。
Uber for Truckの実現が難しかった要因として、オペレーターという人力が介在しないとマッチングができなかったことが挙げられます。
これは、トラックのリソースがデジタル化されておらず、空きリソースが明確にわからなかったためです。
しかし、トラックのリソースがデジタル化され、コネクテッドトラックが当たり前になり、トラックの庫内の情報も明確にできるようになれば、幻想だったUber for Truckのような「トラックのリソースをシェアする世界」も実現可能なのではないでしょうか。
7.物流DX投資の考え方の変化
現状、物流においてシステム投資やDX化をするとなると、「削減できる人件費に対してかかった開発費」をROIとして計算する傾向にあります。
まず、DX化をすることが本当に人件費の削減につながるのか?そう考えたときに、例えば、「Sansan」や「Slack」などの社内で使用しているツールや、近年高い注目を集めている「ChatGPT」のような便利なツールがない世界は、今では考えられません。
このような便利なツールを導入することは、「人件費の削減」という観点からではなく、「生産性の向上」という観点から重要なのではないでしょうか。
私は、人件費の削減のためにテクノロジーの活用やシステム投資をするという考え方は、テクノロジーの進歩から確実に取り残されていると考えています。
「情報システムを5年で償却したらその後はタダになる。だから自社開発を採用する」という意見をよく耳にしますが、システムがその5年という期間、急速に変化する環境についていける保証はあるのでしょうか?このような考え方がある限り、物流DXは進んでいかないのではないでしょうか?
さらに、現在は需給ギャップの拡大や非効率な業務という問題をも抱えており、そこから企業が崩壊をしていく可能性もあるとされています。その中で、物流DXに投資をしていかなければ、経済の持続性は担保できません。
これはサステナビリティの一種であり、これからの時代ではサステナビリティトランスフォーメーションをしている会社でなければ評価されないともいわれています。
海外からの影響もありますが、企業のサステナビリティへの向き合い方にも変化が起きていることも感じています。
これらを踏まえると、物流DX投資の考え方においては、人件費の削減という考え方から、サステナビリティ投資の考え方に大きく変わっていく可能性があるのではないでしょうか。
そして、SansanやSlack、ChatGPTなどの便利なツールが人件費の削減という観点からではなく、当たり前に存在し、生産性を向上していくことがサステナビリティにもつながっていくと私たちは考えています。
2030年にはそんな世界が広がっていることを楽しみに、Hacobuはこれからも、物流DXを加速させていきます。
また、メタバースの活用に関しては以下で発信されている情報もご参考になるかもしれません。
Hacobuが提供する物流DXツール「MOVO」
トラック予約受付サービス「MOVO Berth」
荷待ち・荷役作業時間を削減し、物流センター運営におけるコスト削減と生産性向上を支援する、シェアNo.1(*3)のツールです。
動態管理サービス「MOVO Fleet」
自社はもちろん、協力会社も含めた車両の一括管理を実現、取得データの活用で輸配送の課題解決を支援します。
配車受発注・管理サービス「MOVO Vista」
電話・FAXベースの配車手配やアナログな配車組みをデジタル化し、業務効率化やデータ活用による物流コスト削減を実現します。
*1 : 利⽤事業所数とは、MOVO導⼊拠点に加えてMOVOを利⽤する事業所数のアカウントを合計した数字
*2 : 累計利⽤ドライバー数とは、利⽤者が「MOVO Berth」を利⽤する際に登録するドライバー電話番号の累計ID数。
*3 : 出典:出典:デロイト トーマツ ミック経済研究所『スマートロジスティクス・ソリューション市場の実態と展望【2023年度版】』https://mic-r.co.jp/mr/02960/ バース管理システム市場の売上高および拠点数におけるシェア
物流DXとは?メリットや推進する上での課題、解決策、事例について解説
近年、さま…
2021.11.29
著者プロフィール / 菅原 利康
株式会社Hacobuのマーケティング担当
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