INTERVIEW
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業界を代表するトップマネジメントが語る。イノベーションを起こすために必要なマインドセットとは

 MOVO FORESIGHT2020のセッション2は、「個社最適から社会最適へ」と題したテーマのもと、これからの時代にイノベーションを起こすため、企業に何が求められるのかについて深掘りしていく内容となった。
 本稿で幾度となく伝えているが、デジタル・テクノロジーの発展は物流業界はおろか、様々な既存産業をも変えてしまうほどのインパクトがあり、何十年と築き上げてきたビジネススキームやビジネスモデルが、いとも簡単に立ちいかなくなってしまう可能性もありうる。
 既存のビジネスだけでなく、デジタルを駆使した新しい事業やサービスを展開し、リスクヘッジすることはどの企業も考えることかもしれないが、そう容易なことではない。
 イノベーションを生み出し、社会を変えるような仕組みを作るために何が必要なのか。本セッションは、時代を牽引してきた経営者らを招き、企業を超えたイノベーションやDXに対する取り組み、物流改革といったテーマについて経営視点から肩るトークセッションとなった。
 モデレーターには、元アスクル創業者であり、現在は株式会社フォース・マーケティングアンドマネージメント 代表取締役社長CEOを務める岩田 彰一郎氏。スピーカーには株式会社プラネット 代表取締役会長の玉生 弘昌氏、株式会社J-オイルミルズ 代表取締役社長執行役員の八馬 史尚氏が壇上に上がり、意見交換をした。

データの民主化こそ、これからのビジネスの鍵となる

 冒頭では岩田氏が現在の経済の市況感を踏まえ、今後のビジネスの潮流について概略を語った。
 「1989年にインターネットの商用化がスタートしてから30年経つが、今後も技術の進歩は二次曲線的に成長が見込まれている。2045年に到来するとされるシンギュラリティ、そして2050年には技術革新の転換点に立つと言われています。今年新卒で入社した社員は、激動のシンギュラリティ時代を生き抜かねばならないでしょう。未来学者のアレックス・ロス氏が説いた『生産の基』では、農業時代の『土地』を起点に、産業革命による工業化が進むと『鉄』が産業の基となり、デジタル・テクノロジーが発展した現代は『データ』が情報化社会の基であると説明しています。ビジネスをブレークスルーさせるためには、データ活用をいかに経営と結びつけるかが大切になってくるでしょう」
 イノベーションの源泉はアイディアである一方、高度情報化社会が当たり前となり、企業がビジネス活動をする中で得たデータに裏打ちされた「勝ち筋」や「競合優位性」は、貴重な資産であると言えよう。しかし、これを生かすも殺すもデータ活用の仕方次第であり、データドリブンな事業展開をしていくためには、「データの民主化」が必要不可欠だ。
 「データは個人のもの、社会に還元されるものであるという考え方があります。資本主義社会の変容が叫ばれる中、サスティナブルな事業を行うためには、データを一社が独占するモデルではなく、日本の近江商人の考え方である『三方良し』が重要となってくるでしょう。売り手よし、買い手よし、世間よしの考えに基づいた仕組みづくりは、国連が提唱するSDG’sに通ずるものがある。イノベーションを起こすのに限界を感じている企業は一度、三方良しの考え方に立ち返るのも良いのではないか」(岩田氏)

業界特化型のインフラ構築を手がけたプラネットの功績

 株式会社プラネットは、卸店とメーカーをつなぐ業界特化型のインフラを構築して35年になる。商取引をスムーズにするために、企業間の受発注の効率化を図るEDIサービスを手がける同社の玉生氏は、いち早くプラットフォーム構築をした理由について説明した。
 「1985年の通信自由化によって、流通業界全体の効率化や取引の標準化の仕組みづくりに奔走しました。当時はメーカーや卸業者が独自でシステム構築する機運が高まっており、データ交換が個社によって異なる仕組みになれば、業界全体の情報が錯綜し、複雑化するのは避けられない状況でした。そこで、流通業界の標準となるEDIシステムのプラットフォームを創るべく会社を設立し、ユースウェアとして流通業界に関わるユーザー企業ファーストの精神でサービスを作ってきたのが、業界のインフラとして信頼を得るまでに至ったと考えています」
 プラネットがやってきたことは、岩田氏が冒頭で語った「三方よし」の考え方そのものであり、データの民主化に成功した最たる例だろう。
 創業当時の業界にはコラボレーションの概念がなく、消費財メーカー同士がしのぎを削る時代に、インフラ構築できたのはデータの活用の仕方にある。
 「『受発注データや請求データなど企業機密に当たる情報が漏洩するのでは』と心配するメーカーに対して、プラネット側は取引データが見れない仕組みであると丁寧に説明していきました。他方、商品コードや事業所コードといったマスターデータを整備し、業界標準のデータベースを構築することで、取引先とのやり取りを効率化していったのです。業界標準のEDIサービスをやる以上、ユーザーファーストの視点で、安全性や中立性を訴求して、ユーザーの信頼を得ることに尽力しましたね。今では日用品や化粧品、ペットフードなど様々なものを扱い、国内1300社超が利用するまでの情報基盤に成長しています」(玉生氏)

イノベーションを生みやすい環境を創出するためにDXを推進する

「システムは共同で、競争は店頭で」をスローガンに、玉生氏が築いた業界特化型のインフラは、まさに流通業界のイノベーションを起こした事例だろう。一方で、15年前に業界再編でできたJ-オイルミルズの八馬氏は、イノベーションを起こすことの難しさに言及していた。
 「イノベーションを起こすためには、モチベーションを保つことが必然だが、いざアイディアを出したり実行したりするのは一筋縄ではいかない。タコつぼ化した縦割り組織での部門最適にならないよう、『たられば会議』を実施し、部門横断でディスカッションをするよう努めてはいるものの、まだ成果としては表れていない」
 労働分配率水準が低下する日本において、これからの時代は、個人が付加価値を高めるような働き方をしなくてはいけなくなるだろう。
 経済成長は「投資」と「イノベーション」でしか成し得ないことからも、経営側は単に人件費削減や安売り競争を行うのではなく、イノベーションを生みやすい環境を創出するためにDXを推進する必要性があるのかもしれない。
 「人が創造的に働ける環境を創ること。DX推進の裏には、社員がクリエイティブに、革新的なアイディアを生み出しやすくする目的があると考えています。アナログな作業で時間を割くよりも、デジタル・テクノロジーを駆使して業務効率化できるところは行い、企画やアイディアを考える時間を創出していく。このような体制づくりが企業には求められてくる」

 また、会場からの質問で「経営者として、失敗を恐れずチャレンジすることは大事だが、どう学び続けていけばいいのか」という問いかけに対し、玉生氏はイノベーションを生み出すために世の中を知り、様々な情報を得ることがとても重要であると強調した。
 「経営者たるもの、常に勉強は欠かせない。この精神を持ってこれまでやってきています。私は世の中の動きを知るために沢山の本を読んでいました。今の若手には『本を1000冊読め』と伝えています。幅広いジャンルの本を読めば、世の中がようやく掴めるようになり、ビジネスに活かせる知識が備わるでしょう。また、ビジネスの感性を養うためにアート観賞をするのもいいでしょう。アートとビジネスには通じるものがあり、損得ではなく、美しいか正しいかという判断軸を持つことで、アイディアを掻き立てるためのヒントが得られると思います」

 本セッションでは経営者視点でディスカッションが行われてきたが、次回は流通業界の現場プレーヤーが抱えるDXの課題について考えるセッションの模様をお伝えする。

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