COLUMN
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執筆者:菅原 利康

3年間の実証実験で見えてきた2024年問題の解決策

~収入を減らすことなくドライバー労働時間を削減できた理由とは~

ドライバーの時間外労働を規制する「2024年問題」が目前に迫り、すでに生活にも影響が出始めている。


例えば、セブン-イレブン・ジャパンは各店舗への弁当やパンの配送回数を一部の地域で1日に4回から3回に減らすことを決めた。
食品業界にとって2024年問題は重大なテーマといえる。なぜなら食品輸送の97%は、トラックによるものだからだ(※1)。足元のドライバー不足に2024年問題が重なることで、生産地から大量消費地に向けた食品の安定供給を持続できない可能性が現実味を帯びてきた。


そんな中、青果物の一大産地である秋田県は、官民を挙げてこの課題に向き合っている。持続可能な青果物輸送のあるべき姿を模索し、2021年に実証実験スタート。2024年問題の影響を軽減し得る成果を見出した。それが下記だ。(※2)

ドライバーの総労働時間:約20%削減
ドライバーの時間当たり売上額:約25%向上


地方から都市圏への輸送が課題なのは青果物に限ったことではない。ドライバーの待遇改善を実現した今回の実証結果は、あらゆる物流にとって課題解決のヒントになるはずだ。秋田県の実証実験とはどのようなものか。そして持続可能な青果物輸送を実現するための最適解とは――。Hacobuをはじめ実証実験に関わった当事者たちのコメントを交えながら紹介する。

2024年以降、農産物が食卓に届かない?

「人口減少率が10年連続で最も高い秋田県は、ドライバーの減少も他県より早く進むのではないかという懸念を長年、抱いていました。物流が滞ると県内の産業は危機的な状況に陥ります。この現実を産業界全体で共有し、持続可能な物流を構築するため2019年に『秋田の未来の物流を考える協議会』を立ち上げました。」こう振り返るのは、秋田県トラック協会会長の赤上信弥氏だ。

秋田県トラック協会会長 赤上 信弥 氏

この協議会を母体に個別課題を検討するワーキンググループが2つ発足し、そのうち1つが主体となって今回の「首都圏向けの青果物輸送に係る実証実験」は行われた。

実証実験を通じて検討すべき最大の課題は、ドライバーの拘束時間だ。複数のJA集荷所に立ち寄って青果物を集める「集荷機能」と首都圏の青果市場への「幹線輸送機能」の両方を一人のドライバーが担っていることで、1日の平均拘束時間が約15時間前後になるなど、長時間労働が常態化していた。2024年4月から適用される時間外労働の上限規制を目前に控え、ドライバーの負担軽減は待ったなしの状況だった。


実証実験には、秋田県トラック協会をはじめ、複数の荷主や運送事業者、東北運輸局や秋田労働局、さらにアドバイザリーボードとして国土交通省、オブザーバーとして秋田県産業労働部など、多様なステークホルダーが参加。Hacobuは実証実験コンサルタントとして本プロジェクトを主導した。

実証実験の内容

データに基づく4つの施策

秋田県南部で 2021 年から始まった実証実験は、2023 年で3年目を迎えた。この3年間でさまざまな項目に取り組み、絶対に解決しなければならない課題は、大きく次の4つに絞り込めた。

  • 集荷便と幹線便の分離
  • パレタイズ作業担当者の変更
  • 市場予約システムの導入
  • 幹線便の適正化

まず、これまで1台のトラックで行っていた集荷便と幹線便を分離し、別々のドライバーが担当することにし、これまでの幹線便の削減を行い、適正な本数に最適化した。さらに集荷した青果物ケースをパレットに積み上げるパレタイズ作業をドライバーが行うという商慣習を見直し、作業担当を変更した。目的地である首都圏の市場で荷降ろしする際には、市場予約システムを活用することで待機時間を減らし、ドライバーの拘束時間の適正化を図った。

具体的な取り組みの策定には、Hacobuが掲げる「データドリブン・ロジスティクス」のアプローチが活かされている。 ドライバーの運行時間や待機時間の把握にはHacobuの動態管理サービス MOVO Fleet を活用した。これはGPSを搭載したIoT端末を車両に搭載するだけで、リアルタイムの位置情報だけでなく、配送効率の最大化に必要なデータも蓄積できるシステム。配送時間の把握だけでなく、配送ルートの見直しなどにも効果を発揮した。

MOVO Fleetの資料を請求する

Hacobu Strategy ディレクターの重成学は「ドライバーは、朝6時台から積み地を移動しながら集荷し、パレタイズ作業も行っていました。首都の市場でも1~2時間待機し、業務終了が深夜になることも少なくありません。こうした作業区分ごとの細かい実績を数値データで示すことで、どこに改善の余地があるか関係者全員で共有化できました。」と話す。

Hacobu Strategy ディレクター 重成 学

さらに集荷便と幹線便の分離によって新たに作られたハブ拠点での作業は、トラック予約受付サービス MOVO Berth を使った。このシステムは、入場時間の事前予約システムと入退場受付システムによって、待機時間を解消し、物流拠点での作業の効率化を支援する。これにより集荷便がいつ到着するか事前に把握できるため、計画的な業務運営が可能になる。

MOVO Berthの資料を請求する

実証実験の内容

労働時間は20%削減、生産性は25%向上

実証実験の結果は、狙い通りだった。ドライバー総労働時間の約20%削減だけでなく、 ドライバーの時間当たりの売上額は約25%の向上を見込む。運ぶ荷物を減らしてドライバーの労働時間を減らすのではなく、同じ物量を運びながら生産性を向上させ、労働時間を削減することで待遇改善まで視野に入れる。

「労働時間の削減=収入の減少という誤った認識を持つドライバーもいました。今回の実証実験を通じ、ドライバーの本来業務を明確化し、それ以外を別の作業者に移管することで、収入を減らすことなく労働時間の削減を見出せたことは、極めて大きな成果だと思います」(重成)。 

実際にドライバーからは、「今までテコ入れされてこなかった付帯作業や拘束時間にメスが入って一歩ずつ前進している」「2024年問題に限らない取り組みになると期待が持てる」といった声が聞かれた。

成功の秘訣①

意思決定にデータ・数値を活用

赤上氏は、「ドライバーの長時間労働の現状や業務効率化の余地などについて具体的なデータとして示すことで課題を共有化できました。これが関係者全員による議論の前進に大きく貢献しました」と話す。 

勘と経験に頼った業務運営や、紙やFAXによる情報伝達がいまだ色濃く残る物流の現場は、DX化が遅れている業界といえよう。とはいえ、目の前の課題を把握することなくデジタルツールを導入しても抜本的な課題解決にはつながらない。現実を直視し、適切な意思決定するためにデータや数値を活用することが、データドリブン・ロジスティクスの出発点だ。

「秋田県では、さまざまな産業においてDX化を推進するため、各種取組を推進しています。 今回の実証実験は、課題を『見える化』する上でデジタル技術が役立った好例といえるでしょう。全ての産業を支える重要なインフラである物流において、今回の取り組みが青果物流だけでなく、他の産業に広がることで持続可能な物流が構築され、県全体の産業振興につながることを期待しています。」(秋田県産業労働部 商業貿易課 課長 安田路子氏)

秋田県 産業労働部 商業貿易課 課長 安田 路子 氏 

成功の秘訣②

現場や関係者の悩み・課題を明文化する

ステークホルダーが多い点が今回の実証実験の特徴であり、難しい点だ。生産者に始まり、全農物流、各JA、各運送事業者、首都圏市場、さらに公官庁なども含まれる。重成は各ステークホルダーに丁寧なヒアリングを実施しながら、プロジェクトを推進した。 

 「現状のままでは青果物物流の持続できないのは明らかでしたが、いざ対策を講じるとなるとやはり立場によってさまざまな意見があります。それを拾い上げつつ、優先順位を明確にしながら明文化することで初めて、共通の課題として全員が認識できます。データドリブン・ロジスティクスを実践する上でもこのプロセスが極めて重要だったと思います。」(重成)

全農物流 秋田支店 支店長の高橋敏幸氏はこう話す。「課題を明文化し全員で共有した結果、荷主であるJAさんからも理解を得られ、パレタイズの作業主体者をドライバーからJA側に変更できました。そのおかげでトラックが到着したらすぐに積み込みを開始できる体制を構築できたことが大きかったと思います。」 

全農物流株式会社 秋田支店 支店長 高橋 敏幸 氏

成功の秘訣③ 

コストの話に正面から向き合う 

「実際には現状からの変化を嫌う方もいました」と重成は打ち明ける。

新たな負担やコストが発生するからだ。しかしドライバーの待遇改善を実現するためには、発生コストをサプライチェーン全体で負担していくことが欠かせない。 

例えば、集荷便と幹線便を分離したことで、集荷した青果物を幹線便に積み直すハブ拠点の設置は、新たな発生コストだ。その一方で、目的地ごとに幹線便を運行させることで積載率を向上させ、トラックの運行本数の最適化を図ることでトータルのコストを下げることができた。こうしたコストに関する議論でもデータを活用しながら理解を得ていった。 

地方発、首都圏向け物流の最適解として ステークホルダーが多い点が今回の実証実験の特徴であり、難しい点だ。生産者に始まり、全農物流、各JA、各運送事業者、首都圏市場、さらに公官庁なども含まれる。重成は各ステークホルダーに丁寧なヒアリングを実施しながら、プロジェクトを推進した。

アドバイザリーボードとして参加した国土交通省 自動車局 貨物課 課長補佐の運崎彩香氏は、今回の実証実験について「青果物に限らず他の業種でも参考になる好事例」と評価しつつ「国土交通省としても関係省庁とも連携しながら、物流全体の課題解決を支援していきたい」と話す。 

国土交通省 自動車局貨物課 課長補佐 運崎 彩香 氏

天候や気温に左右されやすい農作物は、前日や当日にならないと正確な物量がわからないことも多く、物流計画が立てにくい運搬物といえる。また農業は関係者が多く、商慣習も独自性が強い。 

しかしこうした業種であってもHacobuのデータドリブン・ロジスティクスは十分に機能し、2024年度のドライバーの待遇改善を目指す。今回の実証実験は、農業版物流DXの最適解として、秋田県以外の自治体の農業物流にも応用できることはもちろん、異業種の物流課題を解決する可能性も秘めているといえよう。

※1 : 出所 農林水産省「青果物流通の標準化に向けて」

※2 : 通年化に向けた改善余地を見出せた数字

Hacobu Strategyの資料を請求する

著者プロフィール / 菅原 利康

株式会社Hacobuのマーケティング担当

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