デザイン・フォー・ロジスティクス(DFL)とは?物流起点の商品企画で全体最適へ
物流危機が叫ばれる中、注目を集める「デザイン・フォー・ロジスティクス(DFL)」。商品企画段階から物流を考慮することで、コスト削減だけでなく持続可能なサプライチェーンの構築が可能です。本記事では、DFLの基礎知識から実践事例、CLOの役割などについて、物流DXパートナーのHacobuが解説します。
目次
デザイン・フォー・ロジスティクス(DFL)とは
デザイン・フォー・ロジスティクス(DFL:Design for Logistics)とは、製品の企画・設計段階から物流の視点を取り入れ、輸送効率や保管効率を最適化する取り組みです。従来の「製品を作ってから運ぶ」というアプローチから、「運びやすく・保管しやすい製品を設計する」という発想への転換を意味します。
具体的には、製品の外装サイズをパレットサイズに合わせて設計したり、トラックの積載効率を考慮した梱包仕様にしたりすることで、コストの削減と効率化を実現します。
DFLが注目される背景には、物流の2024年問題によるドライバー不足、物流コストの高騰、そして持続可能な物流体制の構築が喫緊の課題となっていることがあります。製品設計の段階で物流を考慮することは、企業の競争力を左右する重要な経営戦略となっています。
なぜ今、DFLが重要なのか
物流領域は深刻な人手不足に直面しています。2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用され、輸送能力が制約された「物流の2024年問題」は、多くの企業のサプライチェーンに影響を与えました。また、物流効率化法の改正により荷主には積載効率の向上が努力義務として課せられています。
このような状況下では、限られた輸送キャパシティを最大限に活用することが求められます。DFLは、商品企画の段階から物流効率を考慮することで、同じトラック1台でより多くの商品を運べる仕組みを作り出します。
また、DFLの推進は単なるコスト削減にとどまりません。パレット積載効率の向上により荷役作業時間が短縮され、ドライバーや倉庫作業員の負担軽減にもつながります。さらに、輸送効率の改善はCO2排出量の削減にも寄与し、環境負荷の低減という社会的責任も果たすことができます。
持続可能な物流体制の構築が企業価値向上の鍵となる今、製造・販売部門と物流部門が連携してDFLに取り組むことは、企業の競争力を左右する重要な経営課題といえるでしょう。
DFLの具体的な取り組み領域
DFLは、製品企画から物流までの幅広い領域で実践されます。ここでは、主な4つの取り組み領域をご紹介します。
パッケージ・梱包設計の最適化
製品の外装サイズや形状を、輸送効率を考慮して設計します。包装のサイズは物流における空間利用効率を大きく左右します。パレットに隙間なく積めること、トラックに積む際には高さを余らせないことが求められます。
例えば、T11型パレット(1,100mm×1,100mm)に無駄なくきれいに積載できるよう、段ボール箱のサイズを調整します。サイズの合わない段ボールをパレットに積んで空きスペースが生じると、輸送時に荷崩れや荷擦れの原因になります。パレットからはみ出して積んだ場合、角が当たったりすると製品の損傷につながります。このように、サイズへの配慮は効率だけでなく、輸送や作業の品質のためにも重要です。
また、段積みが可能な構造にすることで、トラックの高さ方向も有効活用できます。パッケージのダウンサイジングも重要な取り組みです。過剰な緩衝材を見直し、製品保護に必要な最小限のサイズにすることで、1パレット当たりの積載数を増やすことができます。
パレット・物流資材の統一
業界標準パレットの採用により、異なる企業間でもパレットをそのまま受け渡しできるようになります。これにより、積み替え作業が不要になり、荷役時間とコストを大幅に削減できます。
また、リターナブル容器(繰り返し使える輸送容器)の活用も効果的です。使い捨ての段ボールではなく、耐久性のあるプラスチック容器などを循環利用することで、資材コストと廃棄物の削減が可能になります。
製品仕様の見直し
製品そのものの重量やサイズを最適化することも、DFLの重要な要素です。軽量化により、1台のトラックでより多くの製品を運べるようになります。
また、モジュール設計を採用し、製品を分解して輸送できるようにすることで、輸送効率を大幅に向上させることができます。現地での組み立てを前提とした設計は、特に大型製品において有効です。
生産・在庫計画との連動
物流効率を高めるには、生産計画と輸送計画を連動させることも重要です。生産ロットと輸送ロットを整合させることで、トラック1台分をまとめて出荷できるようになり、小口配送を減らすことができます。
また、需要予測の精度を高め、適切な在庫配置を行うことで、緊急輸送や長距離輸送の頻度を減らし、物流コストを抑制できます。

DFL導入の成功事例
実際にDFLに取り組み、成果を上げている企業の事例をご紹介します。
事例1:冷凍食品メーカーのパレット積載効率改善(日清製粉ウェルナ)
日清製粉ウェルナは、冷凍食品業界特有の物流課題に対応するため、計200品目の製品パッケージサイズを2023年8月から順次変更しました。
冷凍食品業界では段ボールサイズが不揃いなため、従来はバラ積みが基本でした。トラックへの積み下ろしは手作業で行われ、積むのに2時間、下ろすのに2時間と計4時間程度の作業時間がかかっていました。加えて、2024年問題によるドライバーの労働時間規制により、パレット活用による輸送効率化が急務となっていました。
このプロジェクトでは、製品のパッケージサイズを変更し、効率的にパレットへ積載できるよう設計を見直しました。製品仕様の確定にあたっては、内容量や調理時間を変えないことにこだわり、凍結用トレーから製品搬送設備、包装機までをミリ単位で試行錯誤しました。
効果:
- 1パレット当たりの積載数が約1.5倍に向上
- ドライバーの積み下ろし作業時間が半分以下に短縮(計4時間→2時間以下の見込み)
- 製造効率の向上と製造の安定化
- プラスチック使用量を約13%削減(外装包材の厚さを0.01mm薄くすることで実現)
この取り組みは、物流課題の解決だけでなく、製造設備の集約化や環境負荷低減など、サプライチェーン全体で多面的な効果を生み出しました。
出典:https://www.nisshin.com/company/stories/09.html
事例2:産業機器の包装最適化で2.7倍の効率向上(オムロン向け)
東京濃口容器株式会社(TSK)は、オムロン株式会社の太陽光発電システム用パワーコンディショナー(PCS)向けに、画期的な包装設計の見直しを行いました。
PCSは総重量20kgを超える重量物であり、パレットに積載して輸送・保管する際の総体積に制限がありました。この事例で特徴的だったのは、従来の「製品形状に合わせて包装材を設計する」という開発プロセスとは逆の手順を採用したことです。先に保管・輸送に最適な包装仕様を決定し、それに合わせて製品サイズを決定するという思い切ったアプローチを取りました。
具体的な改善内容として、包装材における天地方向の緩衝空間を従来の半分(70mm→33mm)に削減しました。PCS本体に加え、設置に必要な取付板を効率的に収納するため、段ボールの仕切り材から真空成形トレイ(PP製)に変更し、立体的に配置することで緩衝空間を大幅に削減しました。また、底面の緩衝材も段ボールから復元性のある発泡PPに変更し、緩衝区間を35mm→10mmまで削減しました。
効果:
- 1パレット当たりの箱数を6箱→16箱に増加(約2.7倍)
- 包装サイズを従来の容積から約40%削減
- 倉庫保管効率とトラック積載効率が約2.7倍に向上
- 包装作業の簡略化(ピッキング・配膳と包装の工程を統合し、詰め替え作業を不要化)
この取り組みは、包装材の無駄な空間を削減する部分最適にとどまらず、前後工程の効率化や物流エネルギーの削減といった全体最適へとつなげた好例です。
出典:https://tsk-corp.jp/journal/785/
DFL推進におけるCLOの5つの役割
これらのDFL施策を企業全体で推進するには、強力なリーダーシップが必要です。そこで重要な役割を果たすのが、CLO(Chief Logistics Officer:物流統括管理者)です。
CLOは、従来の物流部門の枠を超え、商品企画・製造・販売部門を巻き込んだ部門横断的な改革を推進する責任者です。特定荷主に対しては、2026年度からCLOの選任が義務化されることもあり、その重要性はますます高まっています。
1. 調達・生産・販売を含むサプライチェーン全体の最適化
DFLの実現には、商品企画の段階から物流視点を組み込む必要があります。CLOは、製品開発会議に参画し、パッケージサイズやパレット積載効率について提言する役割を担うべきでしょう。
2. 物流KPIの経営KPIへの翻訳
CLOは、「1パレット当たりの積載数」「荷役時間」といった物流指標を、「輸送コスト削減率」「CO2排出削減量」といった経営層が理解しやすい指標に翻訳し、投資判断を促すべきでしょう。
3. 既存商慣習の破壊と再構築
CLOは、「この商品はこのサイズの箱」という既存の常識にとらわれず、物流効率の観点から包装仕様を見直すべきでしょう。取引先との調整も含め、業界全体の標準化を推進する役割も重要です。
4. デジタル技術を活用した物流DXの推進
CLOは、データに基づく意思決定を行うため、物流データの可視化とシミュレーションツールの活用を推進すべきでしょう。パッケージ変更前後の効果を定量的に示すことで、社内の合意形成を円滑にします。
5. 個社最適から社会最適への物流変革
CLOは、パレット標準化や共同配送など、業界横断の取り組みを推進すべきでしょう。自社だけでなく、物流領域全体の生産性向上に貢献する視点が求められます。
DFL推進のための3つのポイント
DFLを成功させるには、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。
1. 経営層のコミットメント
DFLは、商品企画や製品設計といった企業の根幹に関わる変革です。そのため、CLOへの権限委譲と、必要な投資判断を行える体制を整えることが不可欠です。経営層が物流を「コスト部門」ではなく「競争力の源泉」として位置づけることが、成功の第一歩となります。
2. データドリブンな意思決定
「なんとなく効率が良さそう」ではなく、データに基づいて効果を定量化することが重要です。パレット積載シミュレーションツールなどを活用し、パッケージ変更前後の積載効率や輸送コストを数値で示すことで、関係部門の納得感を得られます。
3. 継続的な改善サイクル
DFLは一度実施して終わりではありません。新商品開発のたびに物流視点でのチェックを行い、PDCAサイクルを回し続けることで、物流効率化の文化を組織に定着させることができます。
まとめ
デザイン・フォー・ロジスティクス(DFL)は、製品の企画・設計段階から物流視点を取り入れ、輸送効率や保管効率を最適化する経営戦略です。
DFLを成功させる鍵は、、経営層のコミットメント、データドリブンな意思決定、継続的な改善サイクルという3つのポイントを押さえることです。物流起点の商品企画に取り組み、持続可能な物流体制を構築しましょう。
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