【経営×物流、CLOの挑戦。Case1.日本製紙】CLOと物流部長 二人三脚で挑む改革 ~データを武器に「強い物流」へ~
ドライバー不足による輸送力低下が社会課題となる昨今。国も物流改革に本気のメッセージを出す。改正物流効率化法により、2026年4月から、一定規模以上の荷主企業にCLO(物流統括管理者)の選任が求められるようになった。本シリーズでは、改革の最前線に立つ各社CLOの挑戦を追う。
このままではいけない――。
日本製紙執行役員営業企画本部長の掛橋裕哉氏が、危機感を口にする。案じるのは、「運べなくなるリスク」である。 同社の柱は紙・板紙事業。段ボールや包装材、印刷用途などに使われる紙・板紙を幅広い顧客企業に供給している。万一納品が滞れば、顧客の事業だけでなく、その先のサプライチェーン全体にも影響しかねない。必要なタイミングで安定供給を続けることは、事業の前提そのものだ。
そのリスクをより深刻にするのが、製紙業界特有の物流事情である。例えば段ボール原紙は、顧客企業の工場に在庫スペースが限られるため、必要な量を短いリードタイムで届けなければならない。加えて、巨大なロール紙の「俵二段積み」のように危険がともなう特殊な荷役作業もあり、トラックドライバーに負荷がかかりやすい。
こうした構造の中で、2019年頃からドライバー不足が社会課題として顕在化した。このままでは、安定輸送そのものが揺らぎかねない。日本製紙が早くから動いたのはそのためだ。2019年9月、国主導の「ホワイト物流」推進運動に賛同し、自主行動宣言を提出した。以降、物流改革を全社で進める体制を整え、物流データの可視化や他社との協業にも取り組んできた。
改革をけん引するのは、同社の企画系部署、秋田工場長を経て、この5月に物流統括管理者に就任した掛橋氏と、同氏の懐刀とも言える営業企画本部物流部長の安藤寿氏である。経営幹部から選任される物流統括管理者は、その役割上、「CLO(Chief Logistics Officer)」とも呼ばれる。その新たな任務に、二人三脚で挑む。
掛橋氏と安藤氏の二人三脚は、組織のガバナンスにも組み込まれている。一つはグループ物流改革推進会議。もう一つは工場物流会議だ。いずれも、CLOの掛橋氏をトップに据え物流部が実務運営を務める。

グループ物流改革推進会議には各本部・関連会社・物流子会社が参加し、工場物流会議には全国13工場の物流責任者や原材料・製品課長らが参加する。「組織横断の会議体を設置することで意思統一を図ることが狙いです」と掛橋氏は説明する。

執行役員 営業企画本部長
掛橋 裕哉 氏
こうした会議体の仕組みは、他社にも勧めているという。改正物流効率化法を受け、体制整備に悩む企業から相談を受けることもある。中にはこれまで本体に物流部門を持たず、法改正を機に対応を迫られた企業も少なくない。
「物流改革を進める上で重要なのは、関係部門が継続的に議論できる場を持つことです。ただ、正式な組織改編には時間がかかる。会議体であれば、まず柔軟に始められます。物流改革の出発点として有効だと思います」(安藤氏)
データで物流を「現場の問題」から「経営アジェンダ」へ
一方、CLOを置くだけで物流改革が進むわけではない。実務を担う物流部門の存在が不可欠だと、安藤氏は強調する。

営業企画本部 物流部長
安藤 寿 氏
「物流統括管理者(CLO)を経営畑から選任する企業もあります。しかし、役員は数年で代わります。持続可能性を考えれば、物流部門の下支えは必須です」
安藤氏はこれまで通算7年ほど物流部門に在籍し、現場の課題を見てきた。「物流には以前からトラックの待機など、さまざまな課題があると認識していました。ただ、それを経営層に適切に共有し、経営視点から改善につなげる仕組みが十分ではなかった。CLOの設置で、現場課題を経営課題として扱う『回路』ができたと感じています」(安藤氏)
課題の一つが、自社工場におけるドライバーの長時間待機だった。従来はトラックの入退場時間を手書きで記録し、担当者がExcelに転記して集計していたが「1カ月分ともなると作業量は膨大です。工場によっては、その数字さえありませんでした」(安藤氏)
どこで、どのくらい待機が発生しているのか。原因は何か。実態が分からない。よって改善の打ち手も見えない。
そこで日本製紙は、全国12工場に物流DXパートナーHacobuのトラック予約受付サービス「MOVO Berth(ムーボ・バース)」を導入し、車両の来場時間や滞在時間の可視化を進めた。こうして可視化されたデータは、現場改善だけでなく、経営との共通言語にもなった。今では「荷待ち時間」「荷役時間」などが物流関連のKPIとして取締役会に定期的に報告されている。物流は現場の問題ではなく、経営判断の対象となったのだ。
例えば、トラックバース(物流拠点でトラックが荷物の積み降ろしを行うための専用スペース)と予約台数の不釣り合いが原因なら、トラックバースの増設という選択肢が見えてくる。投資額が工場長権限内であればすぐに着手できる。そうでなくてもデータをもとに経営判断を仰ぎやすい。実際、複数の工場で改善につながっている。
荷待ち時間の削減に向けた取り組みは、積載効率の向上とともに、2025年4月の改正物流効率化法施行で荷主企業に求められるようになった。日本製紙は法律に先駆けて対応を進めてきた形だ。
また、工場内作業における熟練者への依存から脱却するため、属人的な作業を減らし、誰でも一定の水準で対応できる標準化や、省人化に向けたスマートファクトリー化も進めている。日本製紙の物流改革の裾野は、さらに広がろうとしている。
「物流ビッグデータラボ」参画 積極的に異業種との協業へ
さらに、12工場へのMOVO Berthの導入とデータ活用の取り組みは、思わぬ形で企業間協業の新たな可能性を見いだす端緒にもなった。日本製紙が見据えるのは、データを活用した企業間協業だ。
きっかけとなったのが、Hacobuが2024年8月に創設した「物流ビッグデータラボ」への参画だった。このラボは、企業間で物流データを共有し、個社や業界の垣根を越えて物流に関する社会課題の解決を目指すもの。発表時点では、日本製紙のほかにアスクル、キリンビバレッジ、スギ薬局、YKK APの4社が参画した。
この参画は、日本製紙に新たな気づきをもたらした。「参加してみると、異業種とも一緒にできる可能性があると分かりました」(安藤氏)
背景には、日本製紙がもともと持っていた「物流は協調領域」という考え方も大きい。「競争すべき領域は、メーカーにとってはものづくりです。差別化は、つくっているものの良さでこそ図るべきです。これに対して物流は、各社が個別最適を追うだけでは解決できない社会課題。他社とも協調して向き合うべきものです」と掛橋氏は強調する。
実際に、重量物を扱うため大型倉庫を各社単独で確保する必要があり、その負担が大きい製紙業界では、以前から企業の壁を越えた共同保管や共同配送にも取り組んできた。ただ、あくまで同業界内の取り組みだった。ラボへの参加を通じて、視野が異業種へも広がった形だ。
今では異業種へのアプローチにも積極的で、「協業件数」をKPIとして取締役会に報告するほど力を入れている。安藤氏は「2025年になると、法改正を背景に各社の関心も高まり、相手の反応が変わりました。相談を持ち掛けて、返事をもらえる割合は3割から10割まで上がりました。2025年度は新規20社、2026年度もさらに4社と、具体化に向けて話を進めています」と手応えを語る。
物流子会社を「支える存在」から「稼ぐ存在」へ
こうした協業を進める先に見据えるのが、物流子会社の「稼ぐ力」の強化だ。日本製紙にとって物流子会社は、単なる委託先ではない。グループの物流を支え、安定輸送を担う重要な存在だ。協業を通じて新たに生まれた共同輸配送のルートを子会社に任せられれば、新たな収益につながる。子会社が持つ輸送網や人員、拠点といったアセットを活用し、「稼ぐ力」に変えていくことも、日本製紙が見据える物流改革の一つだ。
「長らく物流は『コスト削減の対象』として語られがちでした。しかし、その発想だけでは持続可能な物流は築けません。これからは、協業を通じてグループ外からも収益を得る形で『外貨』を稼ぎ、コスト最適化中心の物流からプロフィットセンターへと転換していくことが大切です」と安藤氏は語る。その先に掛橋氏が見据えるのは、より大きな視点での物流のあり方だ。「企業は社会の一員。自社のためだけではなく、サプライチェーン全体を支えられる強い物流をつくっていきたい」
物流を「守る機能」から「価値を生む機能」へ。CLOの掛橋氏と物流部長の安藤氏による「強い物流」に向けた二人三脚の挑戦は続く。

取材を終えて
日本製紙様への取材では、物流改革を現場改善だけでなく、経営と現場をつなぐ「回路」として捉えている点が印象的でした。物流部門がデータを武器に経営へ投資判断を促し、さらに物流協業件数をKPIとして掲げている点に、本気度を感じます。会議体を軸に機動的な推進体制を築き、物流子会社も“稼ぐ力”へ転換していこうとする視点は、多くの企業の参考になるのではないでしょうか。
株式会社Hacobu 取締役執行役員COO 坂田 優
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