【経営×物流、CLOの挑戦。Case3.J-オイルミルズ】まるで「外交官」。改革に向けて業界団体、競合までも巻き込んだ ~長年の“当たり前”は変わる。変えられる~
ドライバー不足による輸送力低下が社会課題となる昨今。国も物流改革に本気のメッセージを出す。改正物流効率化法により、2026年4月から、一定規模以上の荷主企業にCLO(物流統括管理者)の選任が求められるようになった。本シリーズでは、改革の最前線に立つ各社CLOの挑戦を追う。
受注翌日納品や納品先で担うドライバーの高所作業―。長年“当たり前”とされてきた商慣行や暗黙の了解が、物流の持続性を脅かしている。その“当たり前”に真正面から切り込もうとしているのが、J-オイルミルズ 執行役員 SCM統括部長 畑谷一美氏だ。
象徴的なのが、自社工場で生じていた長時間待機の問題だ。
2024年6月、国土交通省が前年に発足させた「トラックGメン(現トラック・物流Gメン)」から貨物自動車運送事業法に基づく「働きかけ」の文書を受け取ったことが、畑谷氏が改革に踏み出す契機となった。
それまで目が行きがちだったのは、納品先で発生するドライバーの長時間待機や積み下ろしなどの作業負荷だった。しかし、見直すべきは足元の自社工場にあった。「長時間待機は荷主の課題だ」と、畑谷氏は語る。
同社では大豆や菜種を海外から輸入し、そこからしぼり、加工した食用油を業務用・家庭用として販売。一方で、搾油後に残るミール(油糧)は、主に養鶏場や養豚場の飼料として販売する。
ミールの半数以上は、間に立つ商社側で物流会社を手配し自社工場まで引き取りに来る。早朝からトラックが列をつくる光景が常態化していた。「飼料業界の商慣行では、一般的に時間指定を行いません。工場の開門前から並べば1日2回転できるため、順番を競うのです。結果長蛇の列となる」(畑谷氏)
畑谷氏は課題解決に向けた取り組みを本格化。飼料業界に時間指定の概念を取り入れようと、商慣行の見直しに切り込む。
「ところが、長年の商慣行を変えることに、社内外で強い戸惑いがありました」(畑谷氏)。相手は指示命令系統下にない物流会社。その協力を、どう取り付けたのか――。

取り組みの母体は、取締役副社長を委員長とするサステナビリティ委員会の6つの分科会の一つ、物流分科会。2023年4月、物流の持続性向上を目的に立ち上げた。分科会の座長はもちろん、畑谷氏が務める。
メンバーは、営業部門、生産部門、マーケティング部門。行政、業界、他社といった社外の動向や社内の物流トピックスを報告し、着荷主・発荷主としての業務改善を共有する。言わば、着荷主・発荷主の一元管理体制だ。
同委員会の上位には経営会議が、さらにその上位には取締役会が位置付けられる。「会社のガバナンス上、かなり高い位置に置かれています」(畑谷氏)。活動報告は、経営会議を経由して取締役会にまで上がる仕組みを取る。
物流分科会の立ち上げは、国の動きを見据えてのことだった。
国の動きについては、業界団体である日本植物油協会(JOPA)の委員会活動を通じ、継続的に情報収集していた。2023年2月には、我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議が将来の法制化までにらんで「物流革新に向けた政策パッケージ」を同年6月に公表するのをつかむ。そこで公表を前に、社内体制の確立に動いた。

物流分科会の座長として改善を指示 「待機1時間以内」9割近くに
物流分科会の役割の一つは、トラックGメン(当時)への対応だ。
国土交通省が管轄するGメンからの「働きかけ」とは、トラック事業者の法令違反の原因となる行為が疑われる際に、その荷主に対して行われる行政対応のこと。荷主に対し、コンプライアンス確保への配慮と改善を求めるものである。疑うに足りる相当な理由があれば、「要請」に発展し、それでも改善されない場合には、「勧告・公表」に至る。
この「働きかけ」を、畑谷氏は前向きに捉える。「物流改善のきっかけを提供してもらったと受け止めています。業界全体で当たり前とされていた慣習を、見直す時期に来ている、と感じています」
物流改善については、物流分科会の座長として指示を出す。SCM統括部長の管掌範囲ではない、例えば工場の設備投資を必要とする場合も、座長として指示が出せる立場にある。物流に加え生販需給管理部門を管掌していることも奏功した。「以前から在庫の適正化にも取り組んできました。生産部門からすれば、私からの指摘や提案に高い納得感を覚えてもらえていたのではないかと思います」。畑谷氏は社内力学を考察する。
また、法令上「働きかけ」には報告義務は課されていないが、改善対応方針は所管の運輸局にあえて報告するという。物流現場の実態や背景にある業界慣習を正しく伝える行政対話の機会と捉えているからだ。

自社工場で生じていた長時間待機への「働きかけ」に対しても、物流分科会の座長として畑谷氏が陣頭指揮を執った。トラックGメンからの「働きかけ」を契機に、制度趣旨に沿った形で商慣行を見直す取り組みを本格化させた。時間指定制の導入について、ミールを引き取りに来る物流会社に丁寧な説明を重ねた。
積み込み時間は車格によって異なるため、引き取り車両ごとに時間枠を設定。その上で物流DXパートナーのHacobuが開発・提供するトラック予約受付サービス「MOVO Berth(ムーボ・バース)」を導入し、時間指定制の運用を始めた。以降2カ月間の実績では、「待機1時間以内」を6割前後から9割近くにまで積み増した。

畑谷氏はもともと資本関係にある味の素社で、物流部門を長年経験してきた。同社では物流グループ長として、業界の共同輸配送の取り組みである「F-LINEプロジェクト」の立ち上げから携わっている。2019年7月にJ-オイルミルズへ出向し、EC(電子商取引)事業の立ち上げを担当した後、生販需給と物流業務の管理部門を受け持った。
その後、物流の持続性向上に必要な取り組みに挑んできた。まず行ったのは、物流環境に対する全社での認識合わせだ。
当時、物流部門と営業部門の間には、物流を巡る認識に隔たりがあった。製品がコモディティ化しやすい業界だけに、営業部門は、物流改善を取引先に提案することが取引関係に影響を及ぼしかねないと慎重にならざるを得なかった。一方で、物流部門も、従来の体制のもとでは現場の実態や業界全体の動向を十分に言語化しきれていなかった。
営業から「他社はどうしているのか」と問われても、明確な説明が難しい場面があり、結果として部門間の連携に課題が残っていたという。
「物流部門と営業部門が、それぞれの立場から課題を見ており、同じ方向を向けていなかった」と畑谷氏は振り返る。
そこで始めたのが「SCM全国会議」の活用だ。2021年度以降は「物流」を議題の中心に据えたのだ。代表取締役社長のほか、営業部門や生産部門を中心とする約200人に向けて、物流の現状や課題を継続的に共有していった。
全社の理解が進むのと同時に、物流部門自身も、物流会社任せだった状態から現場実態や競合動向を自分たちの言葉で捉え直し、説明できる材料を積み上げる。こうした変化を背景に、物流部門への社内の信頼は徐々に高まっていった。
これが、発荷主である物流部門が着荷主である生産部門を超えて全体を一元管理する、物流分科会の体制確立にも繋がった。
周囲を巻き込み、壁を突破する巻き込み力は、社外でも発揮される。
一つは、日本植物油協会(JOPA)の流通システム生産性向上検討委員会での活動だ。2022年2月、所管省庁である農林水産省に対して食用油ローリー輸送の実情を提起したのを皮切りに、持続性の向上に向けて行政との対話を続けてきた。
業界内での実効性を高める工夫 業界団体とYBM会議の「使い分け」
「特にこの業界は、納品先でドライバーが自ら荷下ろしや高所作業を担うことが多い。ドライバーが食用油以外の輸送に移ったり会社として事業から手を引いたりした結果、ただでさえ限られるローリー輸送会社の廃業が相次ぎました」と畑谷氏は明かす。

2025年4月、改正物流効率化法が一部施行されると、目の前の課題を解決する必要に迫られる。荷待ち・荷役等時間を1運行あたり2時間以内に収めるように、全ての荷主に対して努力義務が課されるようになるからだ。
ところが食用油は、粘度が高く、食品衛生上の検査も必要なため、荷役等時間の短縮を図りにくい。「ローリーは積み込みだけでも1時間近くかかるため、1運行を2時間以内に収めることは難しく、そのままでは法に抵触する恐れがありました」(畑谷氏)

そこで、適用除外を認める「業界特性等により荷役等時間の短縮が困難な場合」への該当を強く訴えた。パブリックコメントに意見を2度提出したことに加え、行政との対話を重ねた結果、適用除外への該当が認められた。
ただ、これだけでは課題の根本に変わりはない。ローリー輸送の働く環境を改善しこれ以上の廃業を食い止めなくては――。「次の段階は、高所作業の負担軽減。顧客に納品環境を見直してもらうほか、納品先の立ち会いなどルールを定めておきたい。検討委員会として引き続き取り組んでいく方針です」(畑谷氏)
もう一つは、油脂食品物流未来推進会議(通称YBM会議)の立ち上げである。同会議は、日本植物油協会(JOPA)の正副会長社であるJ-オイルミルズ、日清オイリオグループ、昭和産業の3社が、協会と連携し発足させることを、2025年7月に公表。2026年1月には不二製油も参画した。物流を取り巻く動向の把握や物流効率化施策の検討などに共同で取り組む。

発足のきっかけは、納品リードタイムの延長だ。納品日は受注日の翌日というのが、かつての“当たり前”だった。
「改正物流効率化法の施行を見据え、納品リードタイムを『受注翌日』から『翌々日』へ1日延ばす方針を立て、2023年度から準備を進めていました。ところが営業部門は、業界各社の出方を気にして慎重になり、踏み切りきれなかったのです」(畑谷氏)
そこで畑谷氏は、各社で物流を統括する責任者のもとへ足を運んだ。食品メーカーではすでに納品リードタイム延長の動きが進んでいる。より重量物を扱う製油業界はドライバーに敬遠されやすく、対応が遅れれば輸送力を確保できなくなる――。畑谷氏はそんな危機感を率直に伝えた。
すると各企業も、同じような施策を検討していたという。課題意識が重なったことで、「業界全体の持続性を一緒に高めていこう」と意気投合した。2024年4月のこの出来事がのちのYBM会議発足のきっかけとなった。
業界団体としての取り組みと異なるのは、個別企業同士の協議を通じ、具体策の実効性を担保できる点だ。一方、取り組みを業界団体内に水平展開することを視野に入れ、定期的な活動報告と共に具体策を提案する。「YBM会議としての方向性を示した上で、ほかの会員企業にも広く賛同を呼び掛けていきます」(畑谷氏)
目下、食用油を納める斗缶の外装出荷基準を、先行する飲料メーカーの例を手本に作成中。完成の暁には、YBM会議に参加する4社が個社で定めていた基準からの切り替えを目指す。畑谷氏は「個社で定めた基準は過剰になりがちです。食品ロスの削減が求められる中、斗缶などの外装の役割を適切に整理して、廃棄処分を少しでも減らせれば」と狙いを語る。
畑谷氏の目線は高く、業界はもとより、社会まで見据える。「物流は社会インフラを活用している立場。個社で解決可能な範囲は限られる」というのが、信条。だからこそ、社外にも率先して顔を出し、解決可能な範囲を広げるのに挑む。
2025年12月、物流統括管理者(CLO)に選任された畑谷氏。外交官のような振る舞いに、CLOと呼ぶにふさわしい姿が垣間見える。

取材を終えて
畑谷様のお話を通じて印象的だったのは、トラックGメンからの「働きかけ」というピンチを、単なる是正対応ではなく、物流改革を進める好機として捉え直していた点です。現場からの強い抵抗にも粘り強く向き合い、社内の理解を広げながら、今では業界や行政、競合他社まで巻き込み変革を推進されている姿に深く感銘を受けました。「物流は社会インフラであり、個社だけでは解決できない」という畑谷様の信念こそが、困難なCLO活動を支えているのだと感じます。
株式会社Hacobu 執行役員CSO 佐藤 健次
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