最大9トンの鋼材を17の出荷バースに保管する、特異な物流

取締役 営業部長 兼 物流統括管理者 横井氏
当社の出荷物流には、他社にはない2つの特異性があります。一つは、扱う商材が最大1枚9トンを超える「超重量物」であること。特殊車両の手配や厳格な積載上限管理が欠かせません。もう一つは、名古屋の都心に位置する都市型製鋼所という狭小な敷地であるがゆえに、鋼種やサイズごとに17もの出荷バースに分散保管せざるをえない状況にあることです。トラックは構内を移動しながら複数のバースを巡回して集荷する、極めて複雑な物流形態となっています。
荷待ち・荷役時間110分。監督官庁からの2度の働きかけ

経営企画部 内田氏
かつて当社は、出荷を完全な「トラック到着順運用」で行っていました。その結果、1日の車両の80.7%が午前中に集中し、狭い構内にトラックが溢れかえる。平均の荷待ち・荷役時間は110分、ピーク時には2時間を超えることが常態化し、監督官庁からも2度にわたり改善の働きかけを受けました。ドライバーの拘束時間規制が厳しくなるなか、110分も待たせる当社は運送会社から「選ばれない荷主」になりかけていました。製品を運んでもらえなくなれば、出荷は停滞し、事業が停止しかねません。安定供給網の崩壊という深刻な経営危機が目前に迫っていたのです。
物流を「現場の課題」から「全社最優先の経営課題」へ
こうした危機感から、私たちは物流を単なる「現場の課題」ではなく「全社最優先の経営課題」として捉え直しました。荷主である当社、元請けのシーケー物流(子会社)、そして日々ご協力いただく実運送会社ならびに約400名のドライバーという多層構造を束ね、17のバースに分散する出荷をどうコントロールするか。この難題に全社で挑むため、CLOの指揮のもと、役員直下のガバナンス体制として総勢21名の「物流改革プロジェクト」を発足させました。経営企画から営業、生産技術、製造所、設備、物流子会社であるシーケー物流までグループを横断したメンバーが集い、トップダウンでの徹底的な課題の洗い出しに着手しました。

3つの真因と、即効性で選んだ「MOVO」
改革プロジェクトでは、課題をソフト面・ハード面に分解し、3つの真因を特定しました。1つ目は、受注生産を基本としている一方で、顧客ニーズや商慣習等を起因とした滞留在庫の発生。2つ目は、トラックの構内接車時間が未把握であるため、多大な荷待ち時間の発生。3つ目は、置場容量の不足やレイアウト・クレーン能力を起因とした作業効率の低さです。
1つ目の顧客ニーズや商慣習、3つ目の置場の拡張やクレーン能力の増強は時間を要するため、まず経営リスク解消に最も即効性の高い一手として、トラックの接車を従来の到着順から「バース予約制」へ転換することを決断しました。
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また、数あるサービスのなかでMOVOを選んだ決め手は、①社内システムとの連携のしやすさ、②現場の自動化・省人化を見据えた設計であること、③各種物流関連規制への対応が網羅されており、これらを一体で進めていくことが可能なシステムであると判断しました。
人手を介さない、基幹システムとMOVOの完全自動連携
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具体的に構築したのは、基幹システムとMOVOとの完全自動API連携です。出荷案件・製品情報や「17のどこのバースに置かれているか(どこのバースを予約すべきか)」という情報を自動連携させました。逆に運送会社が入力した車両番号などは基幹システムへ自動反映。人手による入力を排除し、荷役担当者はタブレットで「どのバースに、どのトラックが、何を積みに来るか」を正確に把握でき、誤出荷も防げる一気通貫の仕組みを構築しました。ドライバーにとってのメリットも大きく、従来は当日に紙の伝票を受け取るまで積荷も行き先も分からないブラックボックスな状態でした。現在は、配車依頼時である出荷2営業日前には、積荷の規格・重量から持込先・軒先条件等を事前開示。前日から効率的な段取りが組めるようになり、単なる「予約の強制」ではないパートナーとしての関係を構築しました。
荷待ち・荷役時間73.6%削減。弱みだった17バースが強靭なインフラへ
デジタルとアナログの融合による成果は明確でした。完全移行後、午前に80.7%集中していた到着は午前57.2%・午後42.8%へと平準化でき、平均荷待ち・荷役時間は110分から29分へと73.6%短縮。当社では年間約2万5000台の車両が出入りするため、ドライバーの拘束時間を年間3万4000時間削減した計算になります。

これほど劇的に短縮できた最大の理由は「事前荷揃え」です。移行後は15分単位でどのバースに誰が来るかが可視化され、荷役及びクレーン担当者は到着前にその車両専用の製品を揃えて準備できるようになりました。MOVO Berthの管理画面では17バースの稼働状況が全て可視化され、荷役が長引けば空きバースへ臨機応変に誘導できます。弱みだった分散保管は、強靭な出荷インフラへと生まれ変わりました。ドライバーアンケート(n=102)でも「事前に段取りができている」94%、「荷待ち時間が短縮された」89%と高い実感が得られ、「時間が読めるから真っ先に行きたい現場だ」という声も。物効法・トラック法への対応も同時に実現し、この取り組みは日刊産業新聞などメディアにも取り上げられました。
混乱ゼロの完全移行へ。超高速PDCAと、400名のドライバーとの対話
成功の鍵は、システムの導入そのものではなく、荷主・元請け・運送会社が定例ミーティングで回した「超高速PDCA」と、現場を変えたいという思いを込めた、「ドライバーとの対話」の2つの推進力にありました。
1つ目の推進力である「超高速PDCA」は、荷主・元請け・運送会社が三位一体となり、定例ミーティングを開催しました。当初は予約枠を「各バース1時間に4台」としていましたが、テスト運行を重ね、議論の結果、車両が重複して荷待ちが発生すると判明。すぐに「30分に2台」、最終的には「15分単位で1台」という緻密な予約枠の設定へと調整を重ねました。こうした調整は約80項目にも及び、三位一体でひとつずつ潰していきました。

そして、現場に定着させたもう1つの推進力が「ドライバーとの対話」でした。当初、出荷で訪れるドライバーからは、スマートフォン操作や新システムへの移行に強い抵抗感や不安の声がありました。そこで、当社や子会社であるシーケー物流の配車担当者が毎朝受付に立ち、チラシを1枚ずつ手渡ししながら、約400名のドライバーへ「なぜこれを行うのか、皆様の荷待ち時間を解消したいんだ。」という思いを直接語りかけ、スマホ操作が苦手なシニア層にはマンツーマンでレクチャーしました。
「守り」から「攻め」の物流へ。出荷能力1.5倍と環境配慮型鋼材「すみれす」
荷待ち・荷役時間の削減という「守り」の物流は完成しました。私たちはこの盤石な基盤を、単なるリスク回避やコスト削減で終わらせるつもりはありません。今後は、中期経営計画を達成するための最大の「攻めの物流」へと昇華させていきます。現在、出荷能力を1.5倍に引き上げる「80万トン体制」の構築に向け、全社横断で3つの専門ワーキンググループを推進させています。6万トン超を収容する製品置場の拡張とクレーン能力の増強、リードタイム短縮と一部商慣習からの転換、そしてMOVO Berth・MOVO Vistaを活用した更なる現場の効率化・省人化。荷待ち時間29分という強靭な基盤があるからこそ、この攻めの経営判断が可能になりました。
そしてこのインフラで市場へ最速・大量供給していくのが、最重要環境戦略製品であるグリーンスチール「すみれす」です。もともとCO₂排出量が高炉法の約4分の1という電炉鋼材の環境性能に加え、2025年6月には製造プロセスの電力起因CO₂排出量を完全にゼロにした「すみれす」の供給を開始しました。CO₂排出量の少ない「すみれす」を、強化した物流で安定的に市場へ届けること。それは、お客様のサプライチェーンにおけるScope3排出量の削減、ひいては社会全体のカーボンニュートラルの実現に寄与します。これこそが、私たちの掲げる「攻めの物流」の真の価値です。


