バースの使用実態を定量的に捉えた改善活動ができなかった

Q.MOVO Berth導入の経緯を教えてください
東様:自動車メーカーは生産計画が平準化されているため、自動車部品業界では月次で輸送ダイヤを作成でき、各製作所や倉庫では輸送ダイヤに基づき「どの車両がどのバースを何時から使うか」のバース計画表を作成します。しかし、自動車部品業界の物流現場では、トラック到着管理板と呼ばれるボードで到着状況を把握することが一般的で、バース計画と実績の乖離や荷役時間を定量的に捉えて改善することが困難でした。
また、ドライバーの早着による荷待ち時間の長期化についても課題を感じていました。競争力の源泉であるJIT(ジャストインタイム)・小ロット多回生産の追求の影響により、ドライバーは「納入遅延をしてはいけない」という意識が高く、時間に追われないよう余裕を持って到着する傾向があります。加えて、バース計画表の精度に限界があり、計画と実態に乖離が生じていたことがドライバーの不安をあおり、必要以上の早着が発生していました。
弊社では、ドライバーに安心して乗務していただくことを目指し、バース使用の計画と実績の乖離をデータで把握し改善を加速させるため、2018年にバース管理システムの導入開始に至りました。

自社システムの構築よりも、変化に対応できるクラウドサービスを選択
Q.MOVO Berthを選択いただいた理由を教えてください
及川様:デンソーでは、以前は物流を「差別化領域」と捉え効率化活動を行っていました。しかし、2024年問題をはじめとした物流の社会課題を背景に、現在は「協調領域」であるとのマインドセットの転換を行い、活動を進めています。情報基盤においても、以前は自社でシステムを構築する方針を基本としていましたが、現在はそれに囚われることなく、物流を取り巻く環境変化やIT技術の進化のスピードに対応できるものを選択する方針に転換しました。
MOVO Berthはクラウドサービスであるため、リーズナブルで且つスピーディに導入でき、今後の変化にも対応できるものである点で方針に合致し採用を決定しました。
加えて、計画に対する実績を定量的に捉えたいとの当社の要望に真摯に向き合い機能開発に対応してくれたこともMOVO Berthを選択した理由のひとつです。
物流を効率化するためには、サプライチェーンの情報を繋ぎ、拠点・会社の枠を超えながら改善を進めていくことが必要です。このような観点からも、社外の仕組みを、会社を超えて使う事には意義があり、この点も導入メリットとして期待しています。
Q.導入前の課題について教えてください
伊藤様(D-Streamセンター長):JIT輸送は、月次で輸送ダイヤを決めて、製作所や倉庫に極力製品が滞留しないよう設計します。そのため、輸送ダイヤやバース計画表の精度を上げることが非常に重要です。
デンソーロジテム西尾直納物流センター(通称「D-Stream」)では、デンソーグループ各社47拠点から自動車製品に扱われる部品を集め、お客様単位で仕分けた上で出荷しています。30以上のバースを有し、1日700台もの車両が出入りしています。
毎月変更される輸送ダイヤをもとにバース計画表を作成します。実態把握は、トラック到着管理板のタイムカードやドライバーに直接聞き込みをするなどして、計画通りに荷役が行われているかを確認していました。
しかし、こうした調査や聞き取りには限界があり、定量的なデータによる実態把握ができずにいました。そのためバース計画表や輸送ダイヤの精度にも限界があり、ドライバーはその不安から「輸送ダイヤ通りの時間に到着してもバースが空いていない可能性があるので、少しでも早く到着しておこう」と必要以上の早着が発生していました。結果、もともと渋滞等による遅れを加味したバッファの30分の荷待ちは容認していましたが、追加で30分程度、計1時間の荷待ちが発生するケースもありました。
村上様:輸送ダイヤの見直しに工数と時間がかかるという課題がありました。
製造所〜D-Stream間の輸送を担当する車両は、複数の製作所で荷積みをした後にD-Streamで製品の荷降ろしを行います。そのため輸送ダイヤを見直す際は、複数の製作所にバースの空き状況等を確認する必要がありました。その回答入手に1〜2日かかり、工数と時間を要していました。

輸送ダイヤの精度が上がり、ドライバーが安心して乗務できるように
Q.導入効果について教えてください

伊藤様(D-Streamセンター長):荷役にかかる時間がデータで確認できるようになり、バース計画表の精度が格段に向上しました。 MOVO Berthの導入により、ヒアリングやタイムカードの集計などを行うことなく実態が把握できるので助かっています。計画の精度が上がったことで、ドライバーが必要以上に早着するケースが激減しました。荷待ち時間は、もともとバッファとして設定している30分未満にまで削減されています。
これまでは、バースの使用状況を確認するにはトラック到着管理板を見に行く必要がありました。現在は、オフィスなどの離れた場所からも即座にバースの使用状況が確認できるようになり、イレギュラーな事態が発生した際にも適切に対応できるようになりました。特車や交通混乱時には、 MOVO Berthでバースの使用状況を把握し、適切に車両誘導できるようになり、車両のバッティングなどのトラブルを未然に回避することができるようになりました。さらに、ドライバーから、荷役作業時のフォークリフトの動線が他の作業と交差して危ないので改善してほしいとの指摘があった場合などは、 MOVO Berthのデータで実態を確認し、バース位置を変更するなどの対応を即座に実施でき、安全管理の観点からも効果を発揮しています。ドライバーからは「ストレスが軽減された」と嬉しいお声をいただいています。
村上様:輸送ダイヤの見直しにおいてもメリットがありました。
MOVO Berthを積み地(各製作所)と降ろし地(D-Stream)両方に導入していることで、各製作所に確認することなくバースの使用状況が即座に把握できます。そのため、輸送ダイヤの見直しにかかるリードタイム・工数を大幅に削減することができました。
また今後は実績データをもとにした輸送効率の向上の取り組みも可能になると期待しています。現在2箇所の製作所(積み地)を経由してD-Streamに納入するルートが多いですが、実績データを分析することで、3箇所を周るルートを組むことができるのではないかと考えています。
Q.デンソーでのここまでの評価と今後の展望を教えて下さい。
東様:これまでデンソーでは、バース荷役時間における計画と実績の乖離解消に努めてきました。今後はこのデータを活用して、荷役時間短縮を目的とした改善活動につなげていきたいと考えています。そのために、荷量情報など物流に関わるさまざまなデータと連携していくことによって、より改善が進む環境や体制を整備していくことが必要だと考えています。
また、現在デンソー単体のみならず、グループ会社に対しても MOVO Berthの導入を推進しています。グループ会社向けの活動については、数年前よりデンソーグループと物流連携を強化し、共同輸送などによる改善に取り組んできました。また、2023年度に政府より物流政策パッケージにおけるガイドラインが発表されたことを受け、改善に加えて、コンプライアンス遵守徹底も目的として活動を進めています。
現在、デンソーグループでは10社に MOVO Berthを導入しています。今後さらに導入が拡大することにより、取得できるデータの範囲が広がり、個社だけでなくサプライチェーンの効率化につながっていくと考えています。引き続き更なるシステム活用と導入拡大を進め、物流改革の加速に取り組んでいきます。
