CLO 設置で物流を経営の中心へ

日野自動車株式会社 代表取締役社長CEO 小木曽聡氏
我々はトラックを作るメーカーであり、同時に大きな荷主でもあります。完成車も動かしますし、調達部品も動かす。つまり物流のプレイヤーでもあるわけです。だからこそ、物流を語らなければならない立場にあると思っています。
経営の話になると、どうしても製造や販売の数字に目が向きます。しかし、どれだけ物をつくっても、最後にお客様に渡り、代金をいただかなければ売上にはなりません。仕掛かっているものはすべてコストです。物流も含めたすべての工程を終えて初めて売上になり、収益に変わる。キャッシュコンバージョンサイクルを見ても、ボトルネックの多くは物流です。そこが詰まれば回転は止まる。逆にそこが改善すれば、収益性は確実に上がる。物流はコストセンターではなく、価値を創出する最終工程だと考えています。
その思想のもと、私たちは上場メーカーとして早い段階で CLO を設置しました。これは単なる肩書きではなく、経営の意思表示です。
現場を知る人材を CLO に 体制で示した経営の本気度
CLO を誰に担ってもらうかを考えたとき、私が重視したのは“現場感”でした。理論ではなく、実際に物流を動かしてきた経験です。グループ会社である日野グローバルロジスティクスの社長が最も現場を理解していると考え、頼み込んで本社 CLO を担ってもらいました。今は SCM 本部長と CLO を兼務しており、物流現場と経営をつなぐ役割を担ってくれています。
さらに経営会議もフラット化しました。副社長などのレイヤーを外し、ロジスティクスの話が真正面から議論できる場を整えました。物流を大事にするということを、組織体制そのもので示す。言葉だけでなく、構造で示すことが文化づくりの第一歩だと考えました。
トップ主導で進めた部門横断の物流改革
メーカーの場合、調達部門が扱う部品の流れと、営業部門が担う最前線の動きがしっかりと連携しなければ、全体最適は実現しません。そこで、CLO と営業のリーダー、調達のリーダー3 人を、半年間にわたる長期の教育イベント(夜の懇親会も複数回有)の受講メンバーに選任して一緒に活動してもらい、部門を越えて共に取り組む体制をつくりました。こうした動きを、CEO である私自身も含めて積極的に仕掛けています。とにかく「物流を大切にする」という姿勢を、CLO の存在を通じて社内外に明確に宣言することが、企業文化を作る上で非常に重要だと考えています。
物流というテーマを軸に横断的な議論をすることで、視界が広がり、「自分の部門」ではなく「全体最適」で考える空気が生まれます。今は CLO が現場の長も兼ねているので、問題があればすぐに声が上がり、具体的なアクションが決まる。こうした動きが全社に広がってきています。
物流にも活きる”ジャストインタイム”と”下流から考える”基本思想

我々の根底には「お客様が必要なときに、必要なものを、必要なだけ、できるだけ速やかにお届けする」というジャストインタイムの基本思想があります。そこでは、上流からお客様のいる下流まで、滞留を生まずにいかにスピーディに流せるかが問われます。
また、「下流から考える」とトヨタ生産方式の考え方があります。マーケット側に商品のニーズがあり、受注があり、荷主様や物流事業者が運ぶという一連の流れは、すべて下流側からスタートしています。本来の上流から押し出すのではなく、下流(後工程)から考えてスピードを上げていく考え方です。
ニーズを中心に仕事を整理整頓することが極めて重要だと捉えています。AI が進化すれば、仕事の最適解はより見つけやすくなるでしょう。しかし思想がなければ、ツールは活きません。
車両完成 3 日、架装 3 カ月。社外との物流連携が最大のカギに
日野自動車の現状として、お客様からトラックのご要望をいただいて車両工場でベースとなるシャシ(車台)を作るまでは、およそ 3 日程度で完了します。しかし、ラインオフした後の「架装(荷台などの装備を取り付ける工程)」に非常に時間がかかるのです。トラックの仕様は多種多様であり、架装には平均して 3 カ月ほどかかります。
この期間をいかにスムーズに繋ぎ、整理していくかが最大の課題です。「物流のキャパシティ」がボトルネックとなっているため、周到なスケジューリングが求められます。
また、ディーラーがお客様と商談している情報に不確かな部分があったり、架装メーカー様側のスケジュール管理状況にばらつきがあったりします。デジタル化が進んでいる大きな架装メーカー様もあれば、まだアナログな管理をされている企業様もある。そうしたすべての情報を見て、全体を整理し、制御していくことに現在向き合っています。
この物流と架装の連携改善は、メーカーとしての収益に非常に大きなインパクトを与えます。当社の CLO は現場のトップも兼任しているため、課題や問題点が見つかればすぐに声を上げ、「みんなで問題に向き合って、まずは何をすべきか」と活発な議論を喚起してくれます。これが全社に非常に良い効果をもたらしていると感じています。
トップを動かすのは“きっかけ”と“継続”

私自身が物流を強く意識するようになったのは、2018 年頃のことです。それまで乗用車や環境車を担当していましたが、トヨタの中で商用車部門のプレジデントに就任したことが大きな転機となりました。
当時の日野自動車から「商用車をやるなら、もっとお客様や物流のことを一緒に深くやりましょう」と声をかけられ、物流の現場に深く関わるようになりました。ちょうどその頃から Hacobu さんとも情報共有を始め、徐々に物流の奥深さと重要性を知るようになったのです。
どの会社でも同じだと思いますが、CEO や社長を動かすには何らかの「きっかけ作り」が必要です。きっかけさえあれば、物流がいかに重要であるか、経営層も必ず理解できるはずです。しかし、現場から単に「大変なんです」と訴えるだけでは、トップはなかなか動きません。
ですから、チームとして、何かしら「手触り感のある情報」を持って、経営陣にアプローチし続けることが大切です。ロジカルなデータを見せることもあれば、時として現場の熱量やエネルギーをぶつけることも必要でしょう。時代は猛スピードで変化していますから、様々な情報をセットにして、何度もぶつかっていく。上位層は忙しいので一度では聞いてくれないかもしれませんが、4 回、5 回とアプローチを重ねることが重要です。
物流は”自動車産業のアキレス腱” 自工会も最重要課題に
「2024 年問題」と言われて久しいですが、自動車工業会に加盟する各 OEM(自動車メーカー)も、乗用車・商用車を問わず大量の部品を取り扱う「巨大な荷主」です。完成車の輸送はもちろん、工場への部品納入など、極めて複雑なサプライチェーンを抱えています。
実は自動車産業のサプライチェーンには、大きなアキレス腱があります。通常の商品であれば、物流が滞っても店頭で「入荷待ちです」とお詫びすれば済むかもしれません。しかし自動車の場合、たった 1 品番の部品が入荷しないだけで、車そのものが完成しないのです。これは事業にとって致命的なダメージとなります。そのため、物流やサプライチェーンに対する危機感は非常に大きく、自動車工業会の中でも「7 つの課題」の筆頭に物流問題が挙げられています。
現在、調達物流の共同化というテーマが設定されています。特に日本国内において、自動車メーカーの仕入先様は共通しているケースが多く、工場拠点も各地に点在しています。これまで仕入先様任せになっていた部分を、どうやって OEM 間で連携していくかが問われています。
しかし、トップ同士の意識が合致していても、現場レベルで具体的に進めようとすると大きな壁にぶつかります。各社でバックデータの持ち方、伝票の書式、契約形態、データ形式がすべてバラバラなのです。今後は、標準化されたシステムなどを活用しながら、この壁を乗り越えて具体的にデータを繋いでいくプロセスが必要不可欠だと考えています。
AI と自動運転が切り拓く物流の未来
ここからは一人のエンジニアとしての見解になりますが、AI ドリブンのロジスティクスや、それに紐づく自動運転技術は、今後すさまじいスピードで進化していくと確信
しています。
これまでの物流改革は DX や IT 化が中心であったため、浸透に予想以上の時間がかかっていました。しかし、これからの 5 年ほどで、AI と組み合わさった自動運転技術は飛躍的に進歩するでしょう。歴史ある企業だけでなく、専業のスタートアップも多数登場しており、彼らとのパートナーシップも活発になると予想されます。
現在はハイエンドな最先端技術である自動運転 AI も、10 年ほど経てばハイエンドな技術ではなくミドル層へも普及し、ごく「当たり前」の技術になるはずです。当たり前の技術になったとき、「日本のチームとして、どの現場・プロセスを我々の強みとして押さえるか」が最大の勝負になります。
例えば、トラックが安全に走るための日常点検やメンテナンスは、決してなくなることはありません。AI が自動でブレーキパッドを交換してくれるわけではないからです。そうした物理的なケアやサービスと自動運転をどうセットで運用していくか。日本の物流には現場力という強力なアドバンテージがありますから、そこはしっかりと守り、視野を広げて取り組んでいきたいと考えています。

物流のハブ拠点の建設などにはまだ時間がかかりますが、幹線輸送の自動運転が実現するだけでも、ドライバー不足の緩和や、現場の皆様の過酷な負担を劇的に解放してあげることができます。究極的にドライバーレスにならなくても、ドライバーがシステムをケアする役割として同乗し、適宜休憩を取りながら安全に運行する形でも十分な恩恵があります。
最近のアメリカの動向などを見ていると、AI 自身がソフトウェアを開発できるようになってきており、高度なソフトウェアすらもコモディティ化(沈下)する可能性があります。技術的なハードルは今後ますます下がっていきます。だからこそ、「物流という物理的な仕事をいかに磨き上げるか」という根本的なベースを押さえることができれば、日本の物流産業はどんな技術変化にも対応し、未来を切り拓いていけると信じています。


